二次方程式の解の公式 (にじほうていしきのかいのこうしき)とは、未知数 が一つの二次方程式 の解を、式の係数 を代入することにより求めることができる公式 である。
二次方程式の解の公式
二次方程式
a
x
2
+
b
x
+
c
=
0
(
a
≠
0
)
{\displaystyle ax^{2}+bx+c=0\quad (a\neq 0)}
の解は
x
=
−
b
±
b
2
−
4
a
c
2
a
{\displaystyle x={\frac {-b\pm {\sqrt {b^{2}-4ac}}}{2a}}}
二次方程式の解の公式の導出には平方完成 が行われるが、他の方法として、因数分解 などがある。
逆に、因数分解が困難な二次式は、二次方程式の解の公式から因数定理 により因数分解することができる。
歴史的には、二次方程式の問題としての提起は紀元前300年 のユークリッド (古代ギリシア )やそれ以前にさかのぼるが、負の数 は17世紀まで認められなかったため、負の数を回避した形式であった。現在我々が知っている形の二次方程式の解の公式が書物に登場するのは、ルネ・デカルト の1637年 に出版された "La Géométrie (英語版 ) " である。
二次方程式
a
x
2
+
b
x
+
c
=
0
(
a
≠
0
)
{\displaystyle ax^{2}+bx+c=0\quad (a\neq 0)}
を解くのは、一次の項「
+
b
x
{\displaystyle +\;\!\;\!bx}
」があるのとないので難易度が大きく変わる。
一次の項「
+
b
x
{\displaystyle +\;\!\;\!bx}
」が無ければ、
a
x
2
+
c
=
0
(
a
≠
0
)
{\displaystyle ax^{2}+c=0\quad (a\neq 0)}
を
x
2
{\displaystyle x^{2}}
について解くことにより、
x
2
=
−
c
a
{\displaystyle x^{2}=-{\frac {c}{a}}}
解
x
{\displaystyle x}
は − c / a の平方根 であると分かる。
一次の項「
+
b
x
{\displaystyle +\;\!\;\!bx}
」がある場合、平方完成 により一次の項が無い形に帰着できる[1] (p. 291, Chapter 13 §4.4 ) [2] :56 [3] :178 [4] :81 。
a
x
2
+
b
x
+
c
=
0
(
a
≠
0
)
{\displaystyle ax^{2}+bx+c=0\quad (a\neq 0)}
の両辺を a で割る:
x
2
+
b
a
x
+
c
a
=
0
{\displaystyle x^{2}+{\frac {b}{a}}x+{\frac {c}{a}}=0}
+c / a を移項する:
x
2
+
b
a
x
=
−
c
a
{\displaystyle x^{2}+{\frac {b}{a}}x=-{\frac {c}{a}}}
左辺を平方完成するために、両辺に
(
b
2
a
)
2
{\displaystyle \left({\frac {b}{2a}}\right)^{2}}
を加える。
(
x
+
b
2
a
)
2
=
−
c
a
+
b
2
4
a
2
=
b
2
−
4
a
c
4
a
2
{\displaystyle {\begin{aligned}\left(x+{\frac {b}{2a}}\right)^{2}&=-{\frac {c}{a}}+{\frac {b^{2}}{4a^{2}}}\\&={\frac {b^{2}-4ac}{4a^{2}}}\end{aligned}}}
両辺の平方根をとる。ここで a の符号は正の場合と負の場合があるが、どちらでも次の等式が成り立つ:
x
+
b
2
a
=
±
b
2
−
4
a
c
2
a
{\displaystyle x+{\frac {b}{2a}}=\pm {\frac {\sqrt {b^{2}-4ac}}{2a}}}
+b / 2a を移項して解が得られる:
x
=
−
b
±
b
2
−
4
a
c
2
a
{\displaystyle x={\frac {-b\pm {\sqrt {b^{2}-4ac}}}{2a}}}
[5] :219
このプラスマイナス記号 "±" は次の2つを示している。
x
=
−
b
+
b
2
−
4
a
c
2
a
or
x
=
−
b
−
b
2
−
4
a
c
2
a
{\displaystyle x={\frac {-b+{\sqrt {b^{2}-4ac}}}{2a}}\quad {\text{or}}\quad x={\frac {-b-{\sqrt {b^{2}-4ac}}}{2a}}}
上以外の導出では、
a
{\displaystyle a}
の操作に多少の違いがある。
一次の係数の表示
一部の文献、特に古いものでは
a
x
2
−
2
b
x
+
c
=
0
{\displaystyle ax^{2}-2bx+c=0}
[6] や
a
x
2
+
2
b
x
+
c
=
0
{\displaystyle ax^{2}+2bx+c=0}
[7] といった異なる係数表示をしていることがある。この場合 b は一般的な表示の 1 / 2 である。
日本の高校数学の教科書では、一次の係数が偶数の場合の解の公式として、
x
=
−
b
′
±
b
′
2
−
a
c
a
(
b
=
2
b
′
)
{\displaystyle x={\frac {-b'\pm {\sqrt {b'^{2}-ac}}}{a}}\quad (b=2b')}
が紹介されている。
ラファエロ のアテナイの学堂 の中のユークリッド
二次方程式に解を与える最初期の方法は幾何学的であった。バビロニア の楔形文字 で書かれた文字板には二次方程式を解くことに単純化可能な問題が含まれていた[8] :34 。エジプト中王国 の時代(紀元前 2050年 - 紀元前1650年)にまで遡る、エジプトのベルリンパピルス (英語版 ) には二項の二次方程式の解が含まれていた[9] :530 。
古代ギリシア の数学者ユークリッド (およそ紀元前300年 )は原論 という自身の著作の中で二次方程式を解くのに幾何学的方法を使った。原論は非常に大きな影響を与えた数学の学術文献である。およそ紀元前200年 の中国の九章算術 には二次方程式に対する解法が登場する[11] [12] :380 。古代ギリシアの数学者ディオファントス (およそ紀元前250年 )は、自身の著作算術 において二次方程式を解いたが、彼の手法はユークリッドの幾何学的手法と比較してより代数学的であったとされる。ディオファントスの解は、たとえ2つの解が共に正であっても1つの解のみを与える。
インドの数学 者であるブラフマグプタ (597年 -668年 )は自身の学術文献 Brāhmasphuṭasiddhānta (英語版 ) の中で二次方程式の解の公式を明示した。Brāhmasphuṭasiddhāntaは628年 に出版されたが[14] :86 、記号ではなく言葉を使って書かれていた[15] :61 。ブラフマグプタによる二次方程式
a
x
2
+
b
x
=
c
{\displaystyle ax^{2}+bx=c}
の解法は「絶対数に平方[の係数]の四倍を掛け、中間項[の係数]の平方を加え、同平方根をとって中間項[の係数]を引いてから、平方[の係数]の二倍で割ったものが、その値である」[16] :87 というもので、これは式で書けば
x
=
4
a
c
+
b
2
−
b
2
a
{\displaystyle x={\frac {{\sqrt {4ac+b^{2}}}-b}{2a}}}
ということである。初期のギリシアおよびインドの数学者に影響を受けた9世紀のペルシア の数学者フワーリズミー は、二次方程式を代数的に解いた。全ての場合に対して有効な二次方程式の解の公式は1594年 にシモン・ステヴィン によって最初に得られた[18] :470 。1637年 にはルネ・デカルト によって "La Géométrie (英語版 ) " が出版されたが、この本には今日私たちが知っている形式で二次方程式の解の公式が収録されている。一般解が現代的な数学の学術文献に初めて登場したのは論文 Heaton (1896) の中で言及されたものである[19] 。
Li, Xuhui (2007), An Investigation of Secondary School Algebra Teachers' Mathematical Knowledge for Teaching Algebraic Equation Solving , ProQuest, "The quadratic formula is the most general method for solving quadratic equations and is derived from another general method: completing the square."
Rockswold, Gary (2002), College algebra and trigonometry and precalculus , Addison Wesley
Beckenbach, Edwin F.; Drooyan, Irving; Grady, Michael D. (1986), Modern college algebra and trigonometry , Wadsworth Pub.
Bradley, Michael (2006), The Birth of Mathematics: Ancient Times to 1300 , Infobase Publishing
Mackenzie, Dana (2012), The Universe in Zero Words: The Story of Mathematics as Told through Equations , Princeton University Press
Stillwell, John (2004). Mathematics and Its History (2nd ed.) . Springer. ISBN 0-387-95336-1 . "To the absolute number multiplied by four times the [coefficient of the] square, add the square of the [coefficient of the] middle term; the square root of the same, less the [coefficient of the] middle term, being divided by twice the [coefficient of the] square is the value."