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主として口腔から肛門までの全消化管に、非連続性の慢性肉芽腫性炎症を生じる原因不明の炎症性疾患 ウィキペディアから
クローン病(クローンびょう、英: Crohn's disease、略: CD)は、主として口腔から肛門までの全消化管に、非連続性の慢性肉芽腫性炎症を生じる原因不明の炎症性疾患で[1]、厚生労働省より特定疾患に指定されている[2]。
潰瘍性大腸炎(英語: Ulcerative colitis、略: UC)とともに炎症性腸疾患(英語: Inflammatory bowel disease、略: IBD)に分類される。クローン病は致死率は必ずしも高くはないが、潰瘍性大腸炎が大腸のみに炎症が発生するのに対し、クローン病ではすべての消化管に炎症が発生し得る上に合併症の頻度も潰瘍性大腸炎に比べ高い傾向にある。また、クローン病の治療では厳格な食事制限が要求されることが少なくない[3]。
1932年にニューヨーク大学のマウントサイナイ病院の内科医ブリル・バーナード・クローンらによって限局性回腸炎として報告される[4]。後に病名は改められたが回腸、特に回腸末端から盲腸にかけての回盲部に好発する点は確かである。
10代から20代に多く見られ、日本での罹患者数は約4万人以上で、潰瘍性大腸炎よりは罹患者数は少なく、中高年での発症はほとんど無い。発症年齢は女性で15〜19歳、男性で20〜24歳が最も多くみられる[2]。
現在でも、クローン病を発症する正確なしくみはわかっていない。遺伝的な素因を持ち、免疫系の異常[注 1]がおこり、その上で食事因子などの環境的な因子が関係しているのではないかと考えられている。若年層での発症が顕著であり欧米先進国での患者数が圧倒的に多いため、食生活の欧米化、即ち動物性蛋白質や脂質の摂取が関係しているともいわれる。
欧米では、クローン病のかかりやすさは特にNod2 (IBD1) の機能欠損多型やHLAの多型により強く影響を受けるが、日本人ではNod2との関わりは明確ではない。近年、日本人クローン病とTNFSF15 (TL1A) というサイトカインの遺伝子との関連が報告された。TL1Aは腸管の炎症に関連しているサイトカインで、クローン病の病変部での発現が増加していることがわかっているが、これと遺伝子多型との関連についてはいまだ不明である。
2005年、R Balfour Sartor らが、畜牛にヨーネ病と呼ばれる下痢を伴う消耗性疾患を引き起こす細菌であるMycobacterium avium subsp. paratuberculosisが、牛乳やその他の乳製品を経由してヒトの体内に侵入し、クローン病を引きおこしている可能性を報告していた[5]。また、Mycobacterium の関与を否定する報告もある[6][7][8]が、2015年時点ではクローン病の発症と何らかの細菌が直接関与している証拠は得られていない[8]。
皮膚合併症として脚に紅斑が発生するなどの症状が見られる。本疾患の病変は消化管全域に起こりうるため、その症状は多岐にわたり、それらが断続的にみられることがある。口腔から肛門までの全消化管を侵すが[4]、多くは小腸・回盲部・肛門周囲に好発する。病変部位別に小腸のみに病変のある「小腸型」、大腸のみに病変のある「大腸型」、どちらにも病変のある「小腸・大腸型」に分けられ、小腸・大腸型が多くを占めている。
自覚症状としては、多くの場合「腹痛(約80%)」「下痢(約80%)」が主な症状である。その他高率に見られる症状として「発熱」「体重減少」「肛門病変(痔瘻・裂肛・肛門潰瘍等)」「嘔吐」等があり、潰瘍性大腸炎で多く見られる「血便・粘血便・下血」はそれほど高頻度ではない。
クローン病は消化管粘膜の全層性の炎症性疾患のため、炎症が激しい状態では消化管の「潰瘍」「狭窄」「瘻孔」(ろうこう)「穿孔」といった変化を生じてくること多く、腸閉塞や消化管穿孔を生じてくる場合は、消化管腸切除等の外科的処置を必要とする場合も多い。
クローン病は消化管以外にも、以下のような多彩な臨床像を伴うことが多い。
CRP・赤沈が活動性に相関する検査として用いられる。また炎症反応のバイオマーカーとして「便中カルプロテクチン(FC)」・「便中ラクトフェリン(FL)」・TCP-353抗体測定評価を行うこともある[15]。
クローン病では以下の内視鏡所見が特徴とされる。基本的に大腸内視鏡の他に上部消化管内視鏡検査も含めた全消化管検査が行われる。小腸の病変精査に対して小腸内視鏡検査や、またカプセル内視鏡検査も行われるが、狭窄病変があった場合にカプセル停滞となる場合もあるため注意して施行される。
X線検査による消化管造影検査においても、上記の内視鏡所見が認められる。小腸の病変が多いため、小腸の病変検索においては内視鏡検査ではなく、消化管造影検査が多用され有用である。
簡便に行われることで粗大変化等のスクリーニングに多用されている。また、近年は3D再構築による「CT MRI-Colonography(疑似内視鏡検査)」検査も行われる。
クローン病の病理所見としては以下が特徴とされる。
基本的に臨床像・消化管像(内視鏡所見・消化管造影所見)・病理所見によって診断される。
特定疾患であり申請により公費助成適応のため、一般的に旧厚生省クローン病診断基準が広く用いられている。
2019年までに完治させる治療法はないため、病気の活動性を管理して寛解(症状がないかごく弱い)の状態に導入し、維持していくことが治療目標である。治療は、内科的治療としては栄養療法(食事療法)や薬物療法が行われ、併用も可能であり、腫瘍、狭窄といった強い症状を起こしている場合には外科治療も検討される。小児では、薬物の成長への悪影響などへの配慮が必要となり原則的に栄養療法となる[16]。
栄養療法では薬物療法よりも副作用が少ない[16]。腸管を安静におくことで寛解状態に導入し、炎症が抑えられて症状の改善がみられる。
経腸栄養療法では、栄養剤を鼻チューブを使い腸へ投与するか、または口から摂取してもよいとされる[16]。栄養剤は炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルが入った栄養剤。重症で、消化管からの栄養摂取が行えない場合は、絶食し完全静脈栄養療法となる[16]。高カロリー輸液による栄養補給である。
重症例では絶食が続くこともあり、寛解維持のために食事制限を継続的に行いつつ、成分栄養剤を摂取する必要もある。具体的には栄養剤を併用しながら脂質の摂取制限に始まり、肉類の制限や繊維質の食品を避けるように指導される。つまり、抗原性を示さないアミノ酸を主体とする食物と、脂肪量を減らした食物などが中心となる。炎症を起こしにくい食事として一般的には、「低脂肪」、「低残渣」の食事が推奨される。しかし近年では狭窄のない場合に限っては繊維質の制限を行わないこともある。
クローン病患者は血液中のエルゴチオネインの濃度が低いことが報告されており、腸の炎症抑制とエルゴチオネインの関係性が示唆されている[17]。
非常に低い質の研究から、成人では経腸栄養療法よりコルチコステロイドのほうが寛解導入に優れ、小児ではその逆であり、さらなる研究による確認が必要である(2017年、27件)[18]。経腸栄養療法による維持に対しては、ランダム化比較試験 (RCT) 4件から確固とした結論を下せず、さらに進行中の4試験が存在しこれが終了すれば再びレビューされる(2018年)[19]。
オメガ3脂肪酸サプリメントでは結果が一貫してない(2013年)[20]。プロバイオティクスでは1研究しかなく適切なRCTが必要(2008年)[21]。グルタミンでは小規模なRCT2件で不十分だが、この結果からは有益でないことが示される[22]。
活動期には下記に記すように使い分けられる。寛解維持にはメサラジンやサラゾスルファピリジンを用い、生物学的製剤(分子標的治療薬)を使った場合にはこれらが寛解維持に用いられる[16]。
中等症までの寛解導入のためのアミノサリチル酸製剤では、サラゾスルファピリジンはステロイドよりは効果が低いが偽薬よりやや効果的で、メサラジンは偽薬と効果は変わらず、メサラジンとブデソニドの併用では結果が一貫してないという、中程度の品質の証拠がある(2016年、20研究)[27]。メサラジンには、導入された寛解維持に対して偽薬を超える効果はなく追加の研究も推奨できない(2016年、偽薬対照試験12件)[28]。抗生物質は、活動期には臨床的な効果をもたらさないという中から高品質の証拠があり、また寛解維持期についての効果は不明確である(2019年、様々な抗生物質のRCT13件)[29]。免疫抑制剤のアザチオプリンとメルカプトプリンは活動期の寛解導入や臨床的な改善について偽薬を上回る効果はないが、アザチオプリン単体よりもインフリキシマブ(分子標的治療薬)との併用の方が寛解導入に優れる(2016年、RCT13件)[30]。
ステロイドのブデソニドは、寛解導入に偽薬よりも有効である(2015年、14研究)[31]。導入後では、3か月以上のブデゾニドの使用は、副腎皮質ホルモンの抑制による副作用が増えるため効果的ではない(2014年、12研究)[32]。コルチコステロイドは非常に低い質の研究から、成人では経腸栄養療法より寛解導入に優れ、小児ではその逆であり、さらなる研究による確認が必要である(2017年、27件)[18]。
生物学的製剤では、ウステキヌマブは9週間までの使用で、中等症から重症の寛解導入に有効だという質の高い証拠があり、長期的な使用についての試験が必要である(2016年、RCT6件)[33]。インフリキシマブ、アダリムマブのそれぞれの薬剤による寛解導入からの維持に有効であり、副作用は類似し、これらの相対的な有効性を比較した試験はない(2008年、インフリ3件・アダリム2件)[34]。4研究計342人からインフリキシマブ単独より、経口栄養療法を併用した方が寛解導入と維持ができた割合が多かった[35]。抗TNF薬の使用は、特に感染症による術後合併症の危険性を高める(2016年、14研究)[36]。
新しく利用できる生物学的製剤のウステキヌマブ、ベドリズマブ(抗α4β7薬)、ナタリズマブは、寛解導入に対し偽薬より優れているが、いずれかが優越していることはなかった(2018年、9研究)[37]。ナタリズマブではまれに進行性多巣性白質脳症 (PML) を発症して死亡するリスクがあり、これを起こさない他の薬物がある(2018年)[38]。
基本的に外科的治療は行わないが、内科的治療が有効でない強度の狭窄や腸閉塞を起こした場合、同じく穿孔、瘻孔や膿瘍を伴う場合は手術適応となる。その場合においても可能な限り短腸症候群を避けるために切除は最小限に抑えられ、狭窄形成術などが行われる。手術によって病変は取り除かれても再発率は極めて高く、特に術後の再接合部に再発することが多い。
潰瘍性大腸炎と共に炎症発生機序の要点となる白血球または白血球の内の顆粒球を取り除く治療法。
本疾患は寛解期と活動期を繰り返す慢性的疾患であり、現在では完治させることは不可能であるが、直接的に生命にかかわることは少ない。しかし、手術率は発症後5年で33.3%、10年で70.8%と高く、さらに手術後の再手術率も5年で28%と高率であることから、再燃・再発予防が重要である。診断後10年の累積生存率は96.9%である。
慢性疾患のため、日常生活を送りながらの闘病となる。また、一般には認知度が高くないため、病気の啓発や理解を進める活動が求められてきた。近年では、患者当事者、支援者が集まりクローン病や大腸性疾患に関して情報交換を行う団体TOKYO IBDや難病支援NPOなど精神的支援が次第に増えてきている。
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