クリダステス
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クリダステス(学名: Clidastes)は、モササウルス科に属する絶滅した海生トカゲの属。モササウルスやプログナトドンといった属とともにモササウルス亜科に分類される。本属はアメリカ合衆国の後期白亜紀コニアシアンからカンパニアンにかけての堆積層から知られている。
クリダステス | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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![]() かつて C. liodontus とされた骨格 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
地質時代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
後期白亜紀コニアシアン - カンパニアン, 85–80 Ma ↓ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Clidastes Cope, 1868 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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属名は「閉じた脊椎」を意味し、ギリシャ語で「鍵」を意味するκλειδί(ラテン語で「閉じた」を意味する claudere の類義語) に由来する。これは、脊椎の突起が頭骨の近位部を固定して遊泳時の安定性と強度を増していたことを反映している。
本属は最初期の hydropedal[注 1]なモササウルス科爬虫類であり、ティロサウルスやプラテカルプスといった他の初期の hydropedal な属と共に、初期の海洋捕食動物の形態を代表する[1]。本属は浅海に生息する頭足類や魚類その他小型脊椎動物を捕食した、機敏な遊泳動物であった可能性が高い。
形態
要約
視点

クリダステスは最小のモササウルス科爬虫類の1つ(既知のもので最小のものはダラサウルス)であり、平均的な全長は2 - 4メートル、最大で全長6.2メートルである[2]。属名は、遊泳時の安定性と強度のため、椎骨の突起により軸骨格の近位部が固定されていることを反映している。椎骨は互いに固定されているが、生きていた頃には水平の可動域は広く、浅海域で高度な遊泳を可能にしていたと推測されている[3]。さらに尾椎と背骨全体の強化は、遊泳に役立つ筋肉の附随を可能とした。体は繊細かつスリムで、尾の先端近くでは神経棘が発達し、素早い獲物の追跡も可能になっていた。

標本が十分な代表権をもち、研究も進んだため、Russell (1967)[4]では、本属の明確な特徴が幅広く列挙されている。
- 前上顎骨歯の前方には小さな吻が突出するか、存在しない。
- 上顎骨歯は14 - 18本である。
- 前前頭骨は外鼻孔の後外側境界の一部を形成するし、幅広な三角筋稜が上眼窩翼から側方へ突出する。
- 前前頭骨と後眼窩前頭骨が眼窩の上で広く分かれる。
- 前頭骨の側方縁が直線に近く、前方で収束し、中央の背側隆起が弱い。
- 後眼窩前頭骨の頬骨への腹側突起が、後眼窩前頭骨の広く露出した背側表面と合流する。
- 頬骨には腹後側突起が存在しない。
- 頭頂孔が小さく、完全に頭頂骨の中に位置する。
- 背側頭頂骨表面の縁が互いに平行で、分岐した懸垂状の枝の後側基部へ頭蓋の正中線が伸びる。
- 方形骨の翼状突起が縮んで内側へ向かい、頭頂骨の枝に触れる。
- Otosphenoidal の突起が前耳骨に覆われ、第VII脳神経の外側へ存在する。
- 翼状骨歯は14 - 16本である。
- 方形骨の上あぶみ骨突起がやや大く、鼓膜弓が非常に厚い。
- あぶみ骨の窪みが楕円形をなす。
- 歯骨歯は16 - 18本である。
- 第1歯骨歯の前方に歯骨の小さな突起が存在する。
- 内側翼が角骨もしくは冠顎骨に触れる。
- 上角骨の背側縁の非常に薄い薄層。冠顎骨の後側表面の高い位置に前方へ生じる骨に存在する。
- 関節後突起が三角形で、重厚な背側突起が備わる。
- 下顎の歯の多くが縮んでおり、二股に分かれ、表面は滑らかなエナメル質である。
ラッセルは C. propython と C. liodontusに基づいて特徴を記述し、C. sternbergii(後にエオナタトルとして独立)や C. iguanavus には必ずしも当てはまらない[4]。
歯とその生え変わり

モササウルス科の歯はグロビデンスなど例外はあれど統一された形態を示しており、尖って湾曲した歯冠は骨を含む肉茎の上にある[5]。エナメル質の表面は滑らかで、歯冠は舌側表面と唇側表面に細分される。歯冠の外側表面はエナメル質からなり、内側の層は象牙質からなる[5]。化石標本からは垂直に歯が生え変わる派生的なシステムの根拠が見受けられる。水平面が後側へ傾斜した配置で歯が生え変わる有鱗目はヘビだけであると考えられている。ヘビは通常のオオトカゲ上科の生え変わりパターンから逸脱しており、 傾斜した位置で歯が発達して回転するが、モササウルス科に見られる歯の収容のための窪みを持たない[5]。
クリダステスを含むモササウルス科およびヘビは、いずれも槽生歯の特徴を共有し、生え変わり歯が横に位置する点も共通する。しかし、モササウルス科の生え変わり歯は窪みの中で回転することで生え変わっており、この溝は機能的な歯の基部に位置する。ヘビの持つ生え変わり歯は水平に横たわっていて、必要とされた際に機能的な位置へ回転するため、ここがヘビとモササウルス科の歯の生え変わりの相違点である。クリダステスなどのモササウルス科爬虫類では、機能的な歯が失われると、新しい歯の肉茎が成長して置き換わる。モササウルス科は通常哺乳類や主竜類に見られる歯周靭帯による繊維質の歯の接触ではなく、真に歯が固着しているため、彼らの槽生歯の歯列パターンとは異なる[6]。
クリダステスといったモササウルス上科の辺縁歯は前上顎骨・上顎骨・歯骨に見られる。歯骨の背側表面には歯骨間の隆起が存在し、これにより歯が唇側へ分けられる。これらの隆起は既に存在する歯の間に次の歯が成長する助けとなる[5]。
産出
クリダステスは現在アメリカ合衆国の海成層から産出する。しかし、過去にはスウェーデン[7]やドイツ[8]、ロシア、メキシコ[9]、ヨルダンのマーストリヒチアン[10]から本属に割り当てられた標本が発見されている。とはいえ、Lively (2019) では、これらの標本は断片的であり、モササウルス科の他の属種から独立しうる子孫形質を欠いているため、クリダステスに割り当てることに疑問が呈されている[11]。
発見
エドワード・ドリンカー・コープが Clidastes propython の最初の標本を1869年にアラバマ州ラウンズ郡の Mooreville Chalk で発見した。この発掘された化石は幼体のものであったが、同州から収集されたモササウルス科の中では最も完全で最高の保存状態であり、クリダステス属のホロタイプ標本とされた[2]。1918年にチャールズ・H・スタンバーグと彼の息子はカンザス州で追加の化石を発見した。これは上腕骨・大腿骨・丸い頭部をもち、哺乳類のものに似ていたため、彼らは驚嘆することとなった。保存状態が良好であったことも幸いし、尾椎の chevron が椎体と固着していることをスタンバーグは記載した。これは他のモササウルス科では見られない特徴である。この共有派生形質は、軸骨格の頭部を窪みに合わせることに役立っていたと考えられている[12]。
分類と種
要約
視点
クリダステスの歯骨と椎骨の形態は、モササウルス科の中でもモササウルス亜科に分類されるモササウルスのものに最も近い。大きさは異なるものの、モササウルスのカンパニアンの時期の種(モササウルス・ミズーリエンシスとモササウルス・コノドン)の歯はクリダステスの歯と違って大量の小面を持ち、それらもクリダステスのものよりも明確である。また、クリダステスの頸椎はモササウルスのものよりも長い[7]。
クリダステスは最も基盤的なモササウルス亜科および最も基盤的な hydropedal なモササウルス亜科の属の中では最も頻繁に発見されている。plesiopedal なダラサウルスよりも派生的であるが、プログナトドンやグロビデンスといった後の属ほどではない。以下のクラドグラムは2012年の Aaron R. H. Leblanc、Michael W. Caldwell、ナタリー・バーデットの研究に基づく[13]。

モササウルス亜科 |
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クリダステス属で命名された種のうち有効なものは C. propython のみである。エドワード・ドリンカー・コープが1868年に元々のタイプ種 Clidastes iguanavus を記載したが、標徴的な化石に基づいて C. propython を新たなタイプ種にするよう国際動物命名規約は1993年に嘆願を受けた[14][15]。
無効な種
アラバマ州 Mooreville Chalk 累層から産出した中には記載されてないものもおり、独立した分類群を代表する可能性が高いものもある。"Clidastes moorevillensis" は歯の特徴に基づいて C. propython および C. liodontus から区別される[7]。
Clidastes liodontus は後期コニアシアンからカンパニアンにあたるカンザス州ニオブララ累層のスモーキーヒルチョーク部層から記載された[9]。また、この種はコニアシアンにあたるさらに早期の化石記録もあり、後の C. propython の祖先である可能性もある[1]。C. liodontus は全長3 - 4メートルで、全長 4 - 5メートル以上に及ぶこともある C. propython と比較すると小型である[1]。C. liodontus のタイプ標本はカンザス州ニオブララ累層から産出した上顎骨・前上顎骨・歯骨からなり、Bayerische Staatssammlung für Paläontologie に所蔵されたが、第二次世界大戦で紛失した[4]。Russell (1967)[4]では以下のように本種の形態が記載されている。
- 水平な断面において前上顎骨がV字型をなし、前上顎骨歯の前方に小さな吻が存在する。
- 第2前上顎骨歯の根元の後腹側部位が上顎骨との縫合表面に露出しない。
- 前上顎骨 - 上顎骨の縫合線が後側で第4上顎骨歯から第6上顎骨歯にかけて連続的に上昇し、頭蓋骨の経線方向軸に平行する。
- 上顎骨歯は14 - 15本である。
- 頭頂骨の中央背側表面が狭い。
- 頭頂孔が小さく、前頭骨との縫合線から明確に離れている。
- 頭頂孔が頭蓋腔に向かって腹側に開くが、広い入り口に向かって幅が広がらない。
- 前耳骨の前側境界が棚状構造をなすことなく前耳骨切痕の下に下る。
- 第VII脳神経のための孔が前耳骨の内壁を通って頭蓋腔に存在する。
- 方形骨に上あぶみ骨突起が存在しない。
- 歯骨歯は16本である。
Lively (2019) では Clidastes liodontus は "C. moorevillensis" ともども疑問名であると主張され、クリダステス属は C. propython だけになることが提唱された[11]。
Clidastes propython
C. propython は本属で最も研究が進んだ種であり、それゆえに C. iguanavus に代わって国際動物命名規約からタイプ種に指定された。
C. propython はアメリカ合衆国(アラバマ州・コロラド州・テキサス州・カンザス州・サウスダコタ州)とスウェーデンのカンパニアンから知られている。[7][9]。最古の標本はカンザス州ニオブララ累層から産出した中期サントニアンのものであり、最も新しい時代のものは中期 - 後期カンパニアンに由来する。これは研究の進んでいない中期カンパニアンの大陸間モササウルス科絶滅事変の時期が一致しており、クリダステスなどの属に重大な影響を与えたと見られる[7]。
Russell (1967)[4]は本種について以下の明瞭な特徴を列挙している。
- 前上顎骨が水平断面においてV字型をなし、小型である。
- 前上顎骨の前方に吻が存在する。
- 第2前上顎骨歯の根元の後腹側部位が上顎骨との縫合表面に露出する。
- 前上顎骨 - 上顎骨の縫合線が穏やかなカーブを描いて後側に上昇し、第7上顎骨歯の上で末端を迎える。
- 上顎骨 - 前上顎骨の縫合線が滑らかにキール状をなし、上顎骨の経線方向軸に平行する。
- 上顎骨歯は16 - 18本である。
- 頭頂骨の中央背側表面がやや広い。
- 頭頂孔が小さく、前頭骨との縫合線に近い。
- 頭頂孔が楕円形をなして腹側へ開き、腹側の径が背側の約5倍である。
- 前耳骨の前側境界が前耳骨切痕の下で棚状構造をなし、蝶形骨底部で急激に下る。
- 第VII脳神経のための孔が前耳骨の内壁を通って頭蓋腔に存在する。
- 上あぶみ骨突起が方形骨に存在する。
- 歯骨歯は17本である。
また、Russell (1967)[4]では、良好な頭骨要素を持つ標本が C. propython のタイプ標本から形態学的に識別できないとして、多数の断片的なクリダステスの種が C. propython に割り当てられた。現在 C. propython のシノニムとされるかつての種には、C. "cineriarum"、C. "dispar"、C. "velox"、C. "wymani"、C. "pumilus"、C. "tortor"、C. "vymanii、C. "stenops"、C. "rex"、C. "medius"、C. "westi"がいる。
Clidastes iguanavus
カンパニアンの C. iguanavus はクリダステス属の元々のタイプ種で、C. propython と C. liodontus に比較して研究が進んでいない。胸部前方に由来する単一の椎骨からなるタイプ標本 YPM 1601 は、ニュージャージー州 Swedesboro 付近の泥灰土ピットで収集された。椎骨は同属他種のプロモーションに類似し、椎弓突起 - 椎弓窩の関節は強固であった。C. iguanavus は腎臓型の概形をなした椎体の関節で識別可能であり、強い凹状部位が脊髄の背側に存在し、椎体のプロモーションは比較的丈夫である[4]。
脚注
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