アメリカ合衆国連邦最高裁判所陪席判事(アメリカがっしゅうこくれんぽうさいこうさいばんしょばいせきはんじ、英: Associate Justice of the Supreme Court of the United States)は、アメリカ合衆国最高裁判所長官を除く合衆国最高裁判所判事の呼称。陪席判事の人数は1869年の裁判所法 (Judiciary Act of 1869) によって8人と定められている[1]。
アメリカ合衆国憲法第2条の第2節2項は大統領に指名の全権を与えており、上院の助言と同意(追認)を得て最高裁判所の判事を任命する。同憲法第3条第1節は、陪席判事やそれ以外の連邦裁判官に終身任期を与えており、判事本人が死亡、退官、辞任するか弾劾で解任された場合にのみ職務を終えることになる[2]。
最高裁判事は各々が、これまで議論してきた事件を裁定する際の投票権を1票持っている。首席判事(通常は最高裁長官)の票が他の陪席判事の票より大きいという事はない。首席判事が多数派にいる場合は裁判所の見解を誰が書くかを首席が決定するが、そうではない場合は多数派になった中で(現職経歴を基準に)古株の判事が判決文を作成する。さらに、首席判事は判事達の中で事件の議論を主導する。首席判事には他の陪審判事にはない特定の管理責任があり、給与も少しだけ高い[3][注 1]。
陪席判事には任命順に基づく年功序列があるが、最高裁長官は常に最上位とみなされる。同じ日に2人の陪席判事が任命された場合、年長者が上席(シニア)の判事に指名される。2020年現在のシニア陪席判事はクラレンス・トーマスである。伝統的に、判事達が最高裁判所での事件判決を審議する会議に出席する場合、判事達はこの年功序列で自分達の見解を述べる。またシニア陪席判事は、首席判事が職務を遂行出来ない時やその職位が空席の時に、首席の職務を遂行する任務をも担う[4]。歴史的に、陪席判事は裁判所の意見書やその他の文書で「ミスター・ジャスティス」(Mr. Justice) の肩書がされていたが、サンドラ・デイ・オコナーが女性初の陪席判事になって翌1980年に肩書が「ジャスティス」へと短縮された[5]。
高齢でかつ連邦法合衆国法典第28編第371条 28 U.S.C. § 371に規定された役務要件を満たした後に最高裁判所を離れる陪席判事は、辞任 (resign) する代わりに退官 (retire) することが可能である。退官後も彼らは同判事という肩書を有しており、慣習で最高裁判所の建物内に職務室を残しておくことができ、法務書記を雇っても構わない。退官した陪席判事の名前は、最高裁判所の判例集に現職判事の名前と共に掲載され続ける。連邦法合衆国法典第28編第294条 28 U.S.C. § 294では、最高裁判所長官による指名および割り振りがされた場合、退官した最高裁判所判事が合衆国控訴裁判所や合衆国地方裁判所の陪審員を務めることもできる、と規定されている。ただし、退官した陪席判事が最高裁判所で行われる訴訟の検討や裁定に参加することは許可されておらず[注 2]、彼らが「シニア判事」として指名されることもない。退官後にウィリアム・O・ダグラスが慣例よりも積極的な役割を果たそうとして自分の上位役職を理由にそうする権利があると主張した際、彼は首席判事のウォーレン・バーガーによって掣肘され、司法界全体から訓戒された[14]。
退官陪席判事は2022年現在で4人おり、2006年1月31日に退官のサンドラ・デイ・オコナー、 2009年6月29日に退官のデイヴィッド・スーター、2018年7月31日に退官のアンソニー・ケネディ、2022年6月30日に退官のスティーブン・ブライヤーである。オコナーとスーターは様々な巡回区で控訴裁判所の陪審員をたまに務めているが、ケネディは司法職を務めていない。
1789年に連邦最高裁判所が設置されてから、これまでに115人が陪席判事を務めている[15][16]。
注釈
2018年時点で年額267,000ドル、陪席判事が年額255,300ドル。
自分のかつての裁判所でも許可される他の退任判事とは異なる点である。
出典
Hall, Kermit L. (2005). “Judiciary Act of 1869”. In Hall, Kermit L.; Ely, James W.; Grossman, Joel B. (英語). The Oxford Companion to the Supreme Court of the United States. Oxford University Press. p. 548
Biskupic, Joan (2005) (英語). Sandra Day O'Connor: How the First Woman on the Supreme Court Became Its Most Influential Justice. New York: HarperCollins. p. 101
“Justice Elena Kagan” (英語). Washington, D.C.: The Supreme Court Historical Society. 2019年6月22日閲覧。
- Abraham, Henry J. (1992) (英語). Justices and Presidents: A Political History of Appointments to the Supreme Court (3rd ed.). New York: Oxford University Press. ISBN 0-19-506557-3
- Christensen, George A. (1983). “Here Lies the Supreme Court: Gravesites of the Justices” (英語). Yearbook. Supreme Court Historical Society(英語版). オリジナルのNovember 20, 2008時点におけるアーカイブ。. http://www.supremecourthistory.org/04_library/subs_volumes/04_c20_e.html
- Christensen, George A. (February 19, 2008). “Here Lies the Supreme Court: Revisited” (英語). Journal of Supreme Court History (University of Alabama) 33 (1): 17– 41.
- Cushman, Clare (2001) (英語). The Supreme Court Justices: Illustrated Biographies, 1789–1995 (2nd ed.). (Supreme Court Historical Society(英語版), Congressional Quarterly Books). ISBN 1-56802-126-7
- Frank, John P. (1995). Friedman, Leon; Israel, Fred L.. eds (英語). The Justices of the United States Supreme Court: Their Lives and Major Opinions. Chelsea House Publishers. ISBN 0-7910-1377-4. https://archive.org/details/justicesofunited0000unse
- Hall, Kermit L., ed (1992) (英語). The Oxford Companion to the Supreme Court of the United States. New York: Oxford University Press. ISBN 0-19-505835-6. https://archive.org/details/oxfordcompaniont00hall
- Martin, Fenton S.; Goehlert, Robert U. (1990) (英語). The U.S. Supreme Court: A Bibliography. Washington, D.C.: Congressional Quarterly Books. ISBN 0-87187-554-3. https://archive.org/details/ussupremecourtbi0000mart
- Toobin, Jeffrey (2008) (英語). The Nine: Inside the Secret World of the Supreme Court (1st ed.). New York: Anchor Books. ISBN 978-1-4000-9679-4. https://archive.org/details/nineinsidesec00toob
- Urofsky, Melvin I. (1994) (英語). The Supreme Court Justices: A Biographical Dictionary. New York: Garland Publishing. pp. 590. ISBN 0-8153-1176-1. https://archive.org/details/supremecourtjust00melv/page/590