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臨床試験の一つ ウィキペディアから
治験(ちけん)とは、臨床試験(英: Clinical trial)のうち未承認や適応外の医薬品もしくは医療機器の製造販売[注 1]に関して、医薬品医療機器等法上の承認を得るために行われる試験である[1][2]。臨床試験は、ヒトを対象とした医学系研究(臨床研究)のうち、医薬品や治療などにより人体に変化を伴う研究(介入研究)を行うものを指す[3][4]。治験以外の臨床試験は、医薬品や医療機器、外科的手技などの治療を試験的に行い、有効性や安全性を調べることを目的とする[4][5]。ヒトを対象にする前に細胞や実験動物を用いた非臨床試験で検討し、有効性が期待でき、安全性にも問題がないと考えられた場合に行われる[6]。
治験は薬事承認を取得することが目的であるため、製薬企業が医師に依頼をする「企業治験」が行われてきた[3][4]。2003年に薬事法が改正され、「医師主導治験」として医師が主体となって治験を行えるようになった[7][8]。それにより医師自らが国内未承認薬や適応外処方薬の薬事承認を取得して、臨床の場で使うことが可能となった[3][8]。
治験には3つの段階があり、各段階で安全性や有効性を確認しながら進めていく[3][9]。この3段階を、第Ⅰ相(フェーズ1)、第Ⅱ相(フェーズ2)、第Ⅲ相(フェーズ3)と呼ぶ[3][9]。第Ⅰ相よりも第Ⅱ相、第Ⅱ相よりも第Ⅲ相のほうが治療法の開発が進んだ段階にあり、より承認に近い状況にある[3][9]。
治験は第I相から第Ⅲ相までの3段階で行われることが多い[10]。 ただし、抗がん剤(特に細胞傷害性の抗がん剤)に関しては、第I相臨床試験は既知の予想される大きな不利益があるために通常がん患者を対象に行われ、 第II相臨床試験に関しても国際規準RECIST(レシスト)による腫瘍縮小効果(奏効率)が検討されたり、強い副作用や、生命倫理問題[11]の大きさから、一般薬に比べてランダム化比較試験が簡単に行いづらいなど、デザインや方法を異にする場合が多い。
自由意思に基づき志願した健常成人を対象とし、被験薬を少量から段階的に増量し、被験薬の薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)や安全性(有害事象、副作用)について検討することを主な目的とした探索的試験である。動物実験の結果をうけてヒトに適用する最初のステップであり、安全性を検討する上で重要なプロセスである。しかし、手術や長期間の経過観察が必要な場合や、抗がん剤などの投与のようにそれ自体に事前に副作用が予想されるものは、外科的に治療の終わった患者(表面的には健常者)に対して、補助化学療法としての試験を行うことがある。また、抗がん剤の試験の場合は、次相で用いる用法・用量の限界を検討することも重要な目的となる。
第II相試験は第I相の結果をうけて、比較的軽度な少数例の患者を対象に、有効性・安全性・薬物動態などの検討を行う試験である。多くは、次相の試験で用いる用法・用量を検討するのが主な目的であるが、有効性・安全性を確認しながら徐々に投与量を増量させたり、プラセボ群を含む3群以上の用量群を設定して用量反応性を検討したり、その試験の目的に応じて様々な試験デザインが採用される。探索・検証の両方の目的を併せ持つことが少なくないため、探索的な前期第II相と検証的な後期第II相に分割することもある。その他にも、第I/II相として第I相と連続した試験デザインや、第II/III相として第III相に続けて移行する試験デザインもある。毒性の強い抗がん剤に関しては、この第II相で腫瘍縮小効果などの短期間に評価可能な指標を用いて有効性を検証し、承認申請を行うことがある。
上市後に実際にその化合物を使用するであろう患者を対象に、有効性の検証や安全性の検討を主な目的として、より大きな規模で行われるのが第III相である。それまでに検討された有効性を証明するのが主な目的であるため、ランダム化や盲検化などの試験デザインが採用されることがほとんどである。数百例以上の規模になることもあるため、多施設共同で行う場合が多い。抗がん剤の場合は、製造販売後に実施されることが多い。
治験実施者は、治験参加者に対して治験参加に先立ち、実施する試験の目的や内容について説明する義務がある。参加者が患者であるならば、その治療法などについて予測される利点と不利益、ほか治療法の提示および比較、予測される最悪の帰結などを詳説して合意が必須となる。十分に理解した参加者本人の自由意思に限り、治験参加は決断される。参加者はいつでも自由に治験から離脱でき、治験からの離脱で今後の治療や経済的制裁など不利益は一切生じないことが保証され、間接的な強制も許されない。
治験責任医師、治験分担医師、治験協力者などの種類があり、これらの業務を行うためには、治験毎にあらかじめ治験審査委員会の承認を得なければならない。
治験では、被験薬の効果を検討するために、偽薬(プラセボ)やすでに効果が確認された薬剤などと比較する。被検者が、被験薬あるいは対照薬の何れが投与されているかを事前に認知すると、試験成績に影響する場合がある。これを防ぐために、何れが投与されているかを被験者に告知しない手法を単盲検試験と称する。
投与医師による先入観などを排除する目的で、被験者と投与医師ともに、被験薬と対照薬を認識させない手法を二重盲検(ダブルブラインド)と称する。
二重盲検試験を実施する場合、被験薬と対照薬は製造後(医療機関に納入される前)、治験依頼者から独立した第三者機関(割付責任者)にて、1名分(または1回分)ずつ、全く同じ外観のパッケージに入れられ、1個1個にそれぞれ固有の番号がつけられる。この作業が薬剤割付(わりつけ)である。薬剤番号と実際の中身との対応表は、割付の際に割付責任者が作成し、厳重に封を施した上で保管する。その後、この作業によって識別不能となった被験薬と対照薬が医療機関に納入され、ランダムに治験参加者に処方される。治験終了後、データがすべて集まり、データベースの変更ができないようにした状態(データ固定)で、はじめて治験依頼者が割付表を入手し、割付情報を開封(キーオープン)して結果の解析が行われる。
近年は盲検(ブラインド)の語を避ける事例も見られ、「二重マスク法」など称する。
連邦食品・医薬品・化粧品法は、1962年から薬剤の有効性の概念を設け、2回の適切な対照を置いた臨床試験によって有効性が示されれば承認される[12]。医薬品による利益が危険性を上回ることを証明する証拠が必要とされる[12]。
アメリカ食品医薬品局 (FDA) は2回の試験が有効性を示せばその医薬品を承認するが、統計法の開発者のロナルド・フィッシャーは20回中19回において結果が再現された場合に偶然性は低いと考える。FDAの基準は100回中98回有効性の提示に失敗しても2回は有効性を示し、フィッシャーが偶然とする結果を有効と判定する[13]。申請者らは、有効性を示すために臨床試験の例数を重ねるが、否定的な結果が出た試験成績は提出せずに未公開である。情報公開法に基づいてこれらの監督庁に提出された全データを結合してメタアナリシスを行うと否定的な結果が示される場合がある[14]。試験参加数が多い場合に有効性の提示に有利となる[13]事例も見られる。
抗うつ薬ではうつ病の適応があるが、医師が知覚した変化の印象を検出するための全般印象評価尺度-改善度(CGI-I)にて違いを検出できず、統計的に有意な差があるだけでなく、その差に臨床的に意味があるかどうかを医薬品の承認の際に検討すべきだとする指摘がある[15]。
不正や副作用の隠蔽も問題となっている。2013年には高血圧の治療薬におけるディオバン事件が問題となった。ランダムではなく効果の出そうな患者を選択して薬剤を投与する事例がのちに発覚することがある[16]。
従来の臨床試験はその実施中に詳細を公表されることなく、結果報告の時点でその実施要領と合わせて明らかにされることが多かったため、「都合の良い結果が出たものだけが論文発表され、そうでないものが表に出てこない」(出版バイアス)可能性が指摘されてきた。そのため、試験実施者にとって都合の悪そうな情報が最終段階まで研究されない、あるいは研究されても報告されない、と倫理的問題を指摘されてきた。
参加施設も事前に計画に参加した医療機関に限られたため、広く治験への参加を呼びかける広報活動が困難であった。
これらの背景を受けて、医学雑誌編集者国際委員会 (ICMJE) は2004年9月に「生医学雑誌への投稿のための統一規定 (Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals: Writing and Editing for Biomedical Publication)」を提唱し、医学雑誌に投稿される臨床試験について事前にプロトコル(手順書)の登録・公開を義務付けるように各誌に呼びかけた。これを受けて北米・欧州・日本に複数の臨床試験登録機関が発足し、日本国内でも2005年より大学病院医療情報ネットワーク (UMIN) や(財)日本医薬情報センター (JAPIC) による運用が始まり、翌2006年には日本医師会も同様の取り組みを行っている。
登録に際して必要な情報は各登録機関の間で大きな差異はないが、登録する研究の対象範囲や情報公開に用いられる言語の種類などにそれぞれ特徴がある。
GCP省令
局長通知
課長通知
運用GCP(薬食審査発第0921001号)に参照されている通知等
省令
局長通知
その他
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