シクロオキシゲナーゼ2: cyclooxygenase-2、略称: COX-2)またはプロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ2: prostaglandin-endoperoxide synthase 2、略称: PTGS2)は、ヒトではPTGS2遺伝子にコードされる酵素である[5]。COX-2はヒトに2種類存在するシクロオキシゲナーゼのうちの1つである。COX-2はアラキドン酸からプロスタグランジンH2英語版への変換に関与しており、炎症時に発現する。プロスタグランジンH2プロスタサイクリンの重要な前駆体である。

概要 PTGS2, PDBに登録されている構造 ...
PTGS2
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

5F1A, 5F19, 5IKQ, 5IKT, 5IKV, 5IKR

識別子
記号PTGS2, COX-2, COX2, GRIPGHS, PGG/HS, PGHS-2, PHS-2, hCox-2, prostaglandin-endoperoxide synthase 2
外部IDOMIM: 600262 MGI: 97798 HomoloGene: 31000 GeneCards: PTGS2
EC番号1.14.99.1
遺伝子の位置 (ヒト)
1番染色体 (ヒト)
染色体1番染色体 (ヒト)[1]
1番染色体 (ヒト)
PTGS2遺伝子の位置
PTGS2遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点186,671,791 bp[1]
終点186,680,922 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
1番染色体 (マウス)
染色体1番染色体 (マウス)[2]
1番染色体 (マウス)
PTGS2遺伝子の位置
PTGS2遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点149,975,782 bp[2]
終点149,983,978 bp[2]
RNA発現パターン
さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 arachidonate 15-lipoxygenase activity
金属イオン結合
ヘム結合
酵素結合
酸化還元酵素活性
protein homodimerization activity
dioxygenase activity
血漿タンパク結合
peroxidase activity
prostaglandin-endoperoxide synthase activity
oxidoreductase activity, acting on single donors with incorporation of molecular oxygen, incorporation of two atoms of oxygen
トランスフェラーゼ活性
細胞の構成要素 細胞質
endoplasmic reticulum lumen

カベオラ
neuron projection
オルガネラ膜
小胞体
intracellular membrane-bounded organelle
endoplasmic reticulum membrane
高分子複合体
生物学的プロセス response to fructose
学習
有機物への反応
lipoxygenase pathway
cellular response to mechanical stimulus
response to manganese ion
血管新生
cellular response to hypoxia
embryo implantation
negative regulation of cell population proliferation
response to cytokine
negative regulation of smooth muscle contraction
記憶
酸化ストレスへの反応
maintenance of blood-brain barrier
response to lithium ion
response to tumor necrosis factor
fatty acid biosynthetic process
positive regulation of synaptic transmission, glutamatergic
positive regulation of vasoconstriction
有機窒素化合物への反応
炎症反応
positive regulation of smooth muscle contraction
bone mineralization
response to fatty acid
response to vitamin D
cellular response to UV
positive regulation of fever generation
cellular response to fluid shear stress
positive regulation of synaptic plasticity
regulation of blood pressure
リポ多糖への反応
positive regulation of platelet-derived growth factor production
regulation of inflammatory response
褐色脂肪細胞の分化
侵害受容
response to radiation
prostaglandin biosynthetic process
cellular response to ATP
排卵
positive regulation of smooth muscle cell proliferation
hair cycle
エストラジオールへの反応
positive regulation of cell death
positive regulation of cell migration involved in sprouting angiogenesis
有機環状化合物への反応
脂質代謝
positive regulation of nitric oxide biosynthetic process
糖質コルチコイドへの反応
cyclooxygenase pathway
脂肪酸代謝
positive regulation of fibroblast growth factor production
脱落膜化
regulation of cell population proliferation
positive regulation of cell population proliferation
negative regulation of calcium ion transport
positive regulation of apoptotic process
positive regulation of transforming growth factor beta production
positive regulation of vascular endothelial growth factor production
positive regulation of brown fat cell differentiation
negative regulation of synaptic transmission, dopaminergic
cellular oxidant detoxification
老化
NAD biosynthesis via nicotinamide riboside salvage pathway
cellular response to heat
positive regulation of prostaglandin biosynthetic process
positive regulation of peptidyl-serine phosphorylation
negative regulation of apoptotic process
negative regulation of cysteine-type endopeptidase activity involved in apoptotic process
cellular response to non-ionic osmotic stress
negative regulation of intrinsic apoptotic signaling pathway in response to osmotic stress
cellular response to lead ion
response to angiotensin
prostaglandin metabolic process
positive regulation of protein import into nucleus
サイトカイン媒介シグナル伝達経路
long-chain fatty acid biosynthetic process
negative regulation of cell cycle
regulation of neuroinflammatory response
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_000963

NM_011198

RefSeq
(タンパク質)

NP_000954

NP_035328

場所
(UCSC)
Chr 1: 186.67 – 186.68 MbChr 1: 149.98 – 149.98 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
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機能

COX-2(PTGS2)は、アラキドン酸をプロスタグランジンH2(PGH2)に変換する。COXはNSAIDの標的であり、COX-2特異的阻害薬はコキシブ(coxib)と呼ばれる。COX-2は二量体を形成し、各単量体にはペルオキシダーゼとシクロオキシゲナーゼの活性部位が存在する。COXはアラキドン酸からプロスタグランジンへの変換を2段階で触媒する。まず、アラキドン酸の13位の炭素から水素が引き抜かれ、その後2分子の酸素が付加されてプロスタグランジンG2英語版(PGG2)が形成される。続いて、PGG2はペルオキシダーゼ活性部位でPGH2に還元される。合成されたPGH2は組織特異的イソメラーゼによって、プロスタグランジン(PGD2英語版PGE2PGF)、プロスタサイクリン(PGI2)またはトロンボキサンA2英語版へ変換される[6]

COX-2はアラキドン酸を主にPGG2へ代謝するが、少量は15-ヒドロキシエイコサテトラエン酸英語版(15-HETE)のラセミ混合物へも変換される。この混合物は、約22%が15(R)-HETE、約78%が15(S)-HETEであり、11(R)-HETEも少量含まれる[7]。2つの15-HETE立体異性体自体にも生物学的活性は存在するが、リポキシン英語版への代謝がおそらくより重要性が高いものである。アスピリン処理されたCOX-2はアラキドン酸をほぼ15(R)-HETEのみに代謝し、代謝産物はさらにエピリポキシン(epi-lipoxin)へと代謝される[8]

COX-2はカルシトリオール(活性型ビタミンD)によって阻害される[9][10]

機構

Thumb
COX-2に結合したアラキドン酸。アラキドン酸(シアン)とSer530、Tyr385残基の間の極性相互作用が黄色の破線で示されている。基質は疎水的相互作用によって安定化される。PDB: 3OLT
Thumb
COXの活性化と触媒の機構。過酸化水素がヘムをferryl-oxo誘導体へ酸化し、ペルオキシダーゼサイクルの第一段階で還元されるか、Tyr385のチロシルラジカルへの酸化が行われる。チロシルラジカルはその後、アラキドン酸の13-pro(S)水素を酸化してCOXサイクルを開始する。

触媒過程では、ペルオキシダーゼ活性とシクロオキシゲナーゼ活性の双方がmechanism-based inhibitionによって不活性化される。このことは、基質が十分に存在する場合でも、ペルオキシダーゼ活性とシクロオキシゲナーゼ活性の双方が1–2分以内に0にまで低下することを意味する[11][12][13]

アラキドン酸からPGG2への変換は、多価不飽和脂肪酸自動酸化に類似した一連のラジカル反応であることが示されている[14]。13-pro(S)水素が引き抜かれ、二原子酸素が11位の炭素のペンタジエニル英語版ラジカルを捕捉する。11-ペルオキシラジカルは9位の炭素と環化し、8位の炭素で形成された炭素中心ラジカルが12位の炭素と環化し、エンドペルオキシドが形成される。形成されたアリルラジカルは15位の炭素で二原子酸素に捕捉されて15-(S)-ペルオキシルラジカルとなり、その後このラジカルはPGG2に還元される。この反応は以下の証拠によって裏付けられている。(1) 13-pro(S)-水素の引き抜きには大きな速度論的同位体効果が観察される。(2) 触媒の際に炭素中心ラジカルが捕捉される[15]。(3) 13位と15位のアリルラジカル中間体が酸素に捕捉されることで少量の酸化生成物が形成される[16][17]

13-pro(S)水素が脱プロトン化され、カルバニオンが酸化されてラジカルになるという別の機構も理論的には可能である。しかし、10,10-ジフルオロアラキドン酸の酸素化による11-(S)-ヒドロキシエイコサ-5,8,12,14-テトラエン酸の生成は、フッ素が脱離して共役ジエンが形成されるカルバニオン中間体の生成とは一致しない[18]。また、10,10-ジフルオロアラキドン酸に由来するエンドペルオキシドを含む生成物が存在しないことから、PGG2の合成におけるC-10カルボカチオンの重要性が示唆されていると考えられている[19]。しかし、カチオン性機構では、エンドペルオキシドの生成が13-pro(S)水素の脱離よりも先に起こることが必要である。このことは、アラキドン酸の酸素化の同位体実験の結果と一致しない[20]

構造

Thumb
さまざまなリガンドはEcatとEalloのいずれかに結合する。Ealloは基質以外の活性化FA(パルミチン酸など)を結合する。FAと結合したEalloはAAに対するKmを低下させることでEcatを活性化する[21]

COX-2はホモ二量体として存在し、各単量体は約70 kDaである。COX-1英語版(PTGS1)とCOX-2(PTGS2)の三次四次構造はほぼ同一である。各サブユニットには、N末端の短いEGFドメインαヘリカル膜結合領域、C末端の触媒ドメインという3つの構造ドメインが存在する。COXはモノトピック膜タンパク質英語版である。膜結合ドメインは両親媒性のαヘリックスからなり、いくつかの疎水性アミノ酸が膜の単分子層へ露出している。COX-1とCOX-2は二機能酵素であり、空間的には異なる位置にあるが機械的に共役した2つの活性部位で2つの化学反応を連続的に行う。触媒ドメインにはシクロオキシゲナーゼ(COX)活性部位とペルオキシダーゼ活性部位の双方が位置し、タンパク質の約80%を占める。触媒ドメインは、ミエロペルオキシダーゼなどの哺乳類のペルオキシダーゼと相同である[22][23]

ヒトのCOX-2は触媒単量体(Ecat)とアロステリック単量体(Eallo)という、コンフォメーションの異なる単量体からなる二量体として機能することが判明している。ヘムはEcatのペルオキシダーゼ部位にのみ結合し、EcatのCOX部位は基質や特定の阻害剤(セレコキシブなど)が結合する。EalloのCOX部位には基質と基質以外の脂肪酸(FA)と一部の阻害剤(ナプロキセンなど)が選択的に結合する。アラキドン酸(AA)はEcatとEalloに結合することができるが、Ealloに対するAAの親和性はEcatよりも25倍高い。COX-2の効果的な促進因子であるパルミチン酸はEalloにのみ結合することがマウスのCOX-2とパルミチン酸の共結晶構造から示されている。基質以外の脂肪酸は、脂肪酸の種類や、阻害剤がEcatとEalloのどちらに結合するかに依存して、COX阻害剤の効果は増強されたり減弱されたりする。COX-2が機能する細胞内環境の遊離脂肪酸プールの濃度と組成(FA toneとも呼ばれる)が、COX-2の活性とCOX阻害剤への応答を調節する重要な因子であることが示唆されている[21]

臨床的意義

Thumb
NSAID(COX-2非特異的阻害薬)であるフルルビプロフェン(緑)が結合したCOX-2。フルルビプロフェンは疎水的相互作用と極性相互作用(Tyr355とArg120)によって安定化されている。PDB: 3PGH

COX-2は正常条件下では大部分の細胞では発現しておらず、炎症時に発現が上昇することが知られている。COX-1は多くの組織で構成的に発現しており、胃粘膜と腎臓における主要なCOXである。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、COX-1とCOX-2によるプロスタグランジンの産生を阻害する。COX-1の阻害は胃で細胞保護作用を有するPGE2やPGI2の基底レベルの産生を低下させ、胃潰瘍に寄与している可能性がある。COX-2は一般的にプロスタグランジンがアップレギュレーションされている細胞(炎症時など)でのみ発現するため、COX-2を選択的に阻害する薬剤候補ではこうした副作用は少ないと考えられているが[23]、一方で心不全心筋梗塞、脳卒中などの心血管イベントを引き起こす可能性がある[24]

低用量のアスピリンはCOX-1を遮断してトロンボキサンA2と呼ばれるプロスタグランジンの形成を防ぐことで、心臓発作や脳卒中から保護する。トロンボキサンA2血小板を凝集させ、血液凝固を促進する。一方、COX-2選択的阻害薬(コキシブ)は心血管イベントを引き起こす可能性がある。ヒトの薬理学遺伝学、遺伝子操作された齧歯類や他の動物モデル、ランダム化試験での研究からは、COX-2選択的阻害薬によって引き起こされる心血管イベントは、COX-2依存的に心臓を保護するプロスタグランジン、特にプロスタサイクリンの抑制によるものであることが示唆されている。COX-2は血管内壁に存在するプロスタサイクリンのより重要な産生源であり、プロスタサイクリンは血小板の凝集を防ぐため、血液凝固による心血管イベントのリスクが増加する[24][25]

COX-2の発現は多くのがんでアップレギュレーションされている。COX-2の過剰発現は、血管新生やSLC2A1(GLUT1英語版)の発現の増加とともに、胆嚢がんと強く関係している[26]。さらに、COX-2の産物であるPGH2プロスタグランジンEシンターゼ英語版によってPGE2に変換され、がんの進行を促進する。したがって、COX-2の阻害はこれらのタイプのがんの予防と治療に有効である可能性がある[27]

COX-2の発現はヒトの特発性網膜前膜英語版でもみられる[28]。炎症の急性期にロルノキシカムによってCOXを阻害することで、増殖性硝子体網膜症英語版(PVR)のジスパーゼ英語版モデルでは膜形成の頻度が43%、コンカナバリン英語版モデルでは31%低下する。ロルノキシカムは、いずれのPVRモデルにおいてもCOXの発現を正常化しただけでなく、炎症促進因子の注入による網膜脈絡膜の厚さの変化を抑制した。これらの事実は、PVRの発症におけるCOXとプロスタグランジンの重要性を強調するものである[29]

PTGS2遺伝子のアップレギュレーションは、ヒトの生殖の複数の段階と関係している。PTGS2遺伝子は、羊膜上皮英語版絨毛膜板英語版合胞体性栄養膜、絨毛線維芽細胞、chorionic trophoblast、amniotic trophoblast、胎盤基底板、脱落膜細胞英語版、絨毛外細胞性栄養膜英語版で発現している。絨毛膜羊膜炎/脱落膜炎の過程における羊膜、絨毛脱落膜におけるPTGS2のアップレギュレーションは、子宮内での炎症の3つの限定的な効果の1つである。卵膜英語版におけるPTGS2遺伝子の発現上昇は炎症の存在と関連しており、子宮でのプロスタグランジン遺伝子の発現や、chorionic trophoblast cellや隣接する絨毛膜または絨毛脱落膜へのプロスタグランジン経路タンパク質の免疫局在化を引き起こす。PTGS2(COX-2)は免疫系と関係しており、炎症性白血球で観察される。羊膜でのPTGS2の発現と自然分娩の過程には正の相関が存在し、分娩によって妊娠期間に応じて発現が増加することが発見されているが、胎盤や絨毛脱落膜では早産・正期産に関わらず変化はみられない。また、オキシトシン子宮筋層英語版細胞でPTGS2の発現を刺激する[30]

漢族では、PTGS2 5939C変異アレルの保有者は胃がんのリスクが高いことが示されている。また、ピロリ菌Helicobacter pyloriの感染と5939Cアレルの存在との間に関連性が認められている[31]

相互作用

COX-2はカベオリン1と相互作用することが示されている[32]

歴史

COX-2は1991年にブリガム・ヤング大学Daniel Simmonsの研究室によって発見された[33]

出典

関連文献

関連項目

外部リンク

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