Lab色空間

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Lab色空間

Lab色空間(エル・エー・ビーいろくうかん、: Lab color space)は補色空間の一種で、明度を意味する次元 L と補色次元の a および b を持ち、CIE XYZ 色空間の座標を非線形に圧縮したものに基づいている。

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CIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間 (CIELAB) を上から見た図
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CIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間 (CIELAB) を正面から見た図
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CIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間 (CIELAB) のうち、sRGBの色域に収まる範囲(当時の一般的なコンピュータのディスプレイに表示できる範囲)だけを示した図。それぞれの軸は -128 から 128 の範囲である。

Hunter 1948 L, a, b 色空間の座標軸は Lab である[1][2]。しかし最近では CIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間の非公式な略称としても Lab が使われている(こちらは CIELABとも呼ばれ、座標軸は実際には L*a*b* である)。このため、単に Lab と記述すると若干あいまいとなる。これらの色空間は用途は相互に関連しているが、実装は異なる。

どちらの色空間もマスターの色空間である CIE 1931 XYZ 色空間から派生したもので、CIE 1931 XYZ 色空間はどの分光強度分布英語版が同じ色として知覚されるかを予測できるが、知覚的均等性はなかった[3]マンセル表色系に強く影響され、どちらの"Lab"色空間もXYZ空間から単純な式で変換できるが、XYZよりも知覚的に均等になっている[4]。「知覚的に均等」とは、色の値が同じだけ変化したとき、人間がそれを見たときに感じられる変化も等しいことを意味する。色を有限精度の値で表すとき、これによって色合いの再現性が向上する。どちらのLab色空間も、ホワイトポイントの変換前のXYZデータについて相対的である。Lab値は絶対的な色を定義するものではなく、あくまでもホワイトポイントを指定した上での相対的値である。実際にはホワイトポイントには何らかの標準を仮定し、明確に示さないことが多い。例えば、絶対的値を示すレンダリングインテントである ICC L*a*b*標準の光D50をホワイトポイントとした相対値であり、他のレンダリングインテントとは相対的関係にある[5]

CIELABにおける明度は相対輝度の立方根を使って計算され、Hunter Lab では平方根を使う(近似方法がやや古い)[6]。既存の Hunter Lab 値と比較するなどの用途以外では、一般にCIELABの使用が推奨されている[6]

Labの利点

RGBCMYKとは異なり、Lab色空間は人間の視覚を近似するよう設計されている。知覚的均等性を重視しており、L成分値は人間の明度の知覚と極めて近い。したがって、カラーバランス調整を正確に行うために出力曲線を a および b の成分で表現したり、コントラストの調整のためにL成分を使ったりといった利用が可能である。RGBやCMYKは人間の知覚よりも出力機器の都合が優先されており、これらの変換は編集ソフトの適切なブレンドモードの補助が必須である。

Lab色空間はコンピュータディスプレイやプリンタや人間の知覚よりも色域が広く、Lab色空間で表現したビットマップ画像は同等精度のRGBやCMYKのビットマップ画像よりもピクセル当たりのデータ量が多くなる。1990年代、コンピュータのハードウェアやソフトウェアはチャネル当たり8ビットのビットマップ画像しか格納・操作できず、RGB画像とLabの相互変換は損失の多い操作だった。現在ではチャネル当たり16ビットが当たり前となり、そのような問題は生じない。

さらに、Lab色空間内の「色」の大部分は人間の視覚の色域外であり、純粋に架空の存在である。それらの「色」は実世界では再現することができない。しかし画像編集ソフトなどに組み込まれているカラーマネジメントソフトは、そのような色であっても色域内の最も近い色に近似したり、明度・彩度・色相を変えたりできる。Dan Margulis は、このような架空の色へのアクセスは画像の操作の途中段階で必要になると主張している[7]

様々な "Lab"

"Lab"という略称を使っているソフトウェアなどの例を以下に示す。

  • Adobe Photoshop での "Labモード" は CIELAB D50 を意味している[7][8]
  • ICCプロファイルにおいて、プロファイル接続空間として使われる "Lab色空間" は CIELAB D50 を意味している[5]
  • TIFFフォーマットでは、CIELAB色空間が使われていると思われる[9]
  • PDF文書では、"Lab色空間" は CIELAB を意味する[10][11]

CIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間 (CIELAB)

要約
視点
sRGBの色域 () とD65光源下で観測可能な色域 () がCIELAB色空間上にプロットされている。a および b は水平方向軸、L 垂直方向軸。

CIE L*a*b* (CIELAB) はほぼ完全な色空間であり、国際照明委員会 (CIE) が策定した。人間の目で見える全ての色を記述でき、機器固有モデルの基準として利用できるように意図したものである。

CIELABの3つの座標は、色の明度(L* = 0 は黒、L* = 100 は白の拡散色で、白の反射色はさらに高い)、赤/マゼンタと緑の間の位置(a*、負の値は緑寄りで、正の値はマゼンタ寄り)、黄色と青の間の位置(b*、負の値は青寄り、正の値は黄色寄り)に対応している。後述する Hunter Lab との違いを明確化するため、各座標にはアスタリスク (*) が付いている。

L*a*b*モデルは3次元モデルであり、3次元空間でないと正しく表現できない[12]。2次元で描いたものは、色立体を特定の明度で輪切りにした色度図である。このモデルでの完全な色域を視覚的に表現したものは決して正確とは言えないということを認識することが重要である。それは単に概念を理解する補助でしかない。

赤/緑と黄/青の補色チャネルは錐体細胞の反応(の推定値)の差異として計算されるため、CIELABは Chromatic Value 色空間である。

関連する色空間として CIE 1976 (L*, u*, v*) 色空間がある。これは L*L*a*b* と同じで、Chromatic Value 成分は別の表現を使っている。CIELUVを円筒状に表現する場合もあり(CIELCH)、その場合は Chromatic Value 成分が彩度色相に分けられる。

CIELABやCIELUV以降も、CIEは様々な色に関する現象をモデルに採り入れ、カラーモデルを改良し発展させている。CIELABは色の見えモデルとして設計されたわけではないが[13]、結果的に単純な色の見えモデルの例となり、[14]その延長線上でCIECAM02がつくられた。

色の違いの測定

L*a*b* の非線形な関係は人間の目の非線形な反応を擬似しようとしたものである。さらにL*a*b*色空間における成分の一様な変化は、知覚される色の一様な変化に対応させられている。したがって2つの色の相対的知覚差異は、その2つの色をL*a*b*の3次元空間内の点とし、それらのユークリッド距離を測ることで近似できる[15]

RGBやCMYKとの変換

RGBCMYKの色モデルはデバイス依存であるため、それらの値をL*a*b*に変換する単純な式は存在しない。RGB値やCMYK値はまず特定の絶対色空間sRGBAdobe RGB など)に変換する必要がある。この補正はデバイス依存だが、それによってデータはデバイス依存でなくなり、CIE 1931 色空間に変換可能となり、そこからL*a*b*に変換できる。

L*a*b* 座標の範囲

前述したように L* 座標の範囲は0から100である。a* と b* 座標の範囲は変換元の色空間によって異なる。例えば、sRGBから変換した場合、a* 座標の範囲は [-0.86, 0.98]、b* 座標の範囲は [-1.07, 0.94] となる。

CIE XYZ との変換

CIE XYZ からの変換

ここで

また、 は基準となっているホワイトポイントの CIE XYZ での三刺激値である(添え字の n は "normalized" の意)。

の式が定義域によって2つに分かれているのは、 のときに勾配が無限大になるのを防ぐためである。 はある の点より下では線形(1次)とみなされ、 の点で の曲線と滑らかに繋がるよう設計されている。言い換えれば、

(値が一致する)
(勾配が一致する)

の値として16/116を選ぶ。上の2つの式を について解くと次のようになる。

ここで である[16]

CIE XYZ への変換

逆の変換は次のようになる(なお上述の通り )。

  1. 定義
  2. 定義
  3. 定義
  4. なら    さもなくば
  5. なら    さもなくば
  6. なら    さもなくば

Hunter Lab 色空間

要約
視点

L明度であり、マンセル値にPriestの近似を使い、Y三刺激値から計算する。

ここで は基準となるホワイトポイント(白い物体)のY三刺激値である。物体表面の色の場合、基準となる白い物体は通常(常にそうとは限らない)、ランベルトの余弦則に従い、完全な反射率を持つ仮説的な材質である。このLは0(黒)から100(白)までの範囲になる。これはマンセル値の約10倍である。 であるため、中間の明度である50は輝度25に相当する。

abは、補色軸である。aは大まかに言うと赤(正)と緑(負)に対応している。計算は次の通り。

ここで は光源によって決まる係数であり(D65なら Ka は172.30。後述の近似式を参照)、 は基準となる白い物体のX三刺激値である。

もう1つの補色軸bは黄色(正)と青(負)に対応している。計算は次の通り。

ここで は光源によって決まる係数であり(D65なら は67.20。後述の近似式を参照)、 は基準となる白い物体のZ三刺激値である[17]

abもゼロとなる物体は、基準となる白い物体と色度が同じである(つまり、灰色の物体)。

KaKb の近似式

Hunter Lab 色空間の以前の版では、 は175、 は70だった。Hunter Associates Lab は、CIELABなどの他のモデルとの整合を取るには、光源によってこれらの係数を変えたほうがよいということをみいだした。近似式は次の通り。

元の版では光源としてCIE標準の光Cを使っており、この式をそれにあてはめると元の値が得られる。

アダムス色価色空間としての Hunter Lab 色空間

アダムス色価色空間は2つの要素に基づいている。(相対的に)均等な明度の尺度と(相対的に)均等な色度の尺度である[18]。マンセル値尺度へのPriest近似を均等な明度尺度とすると、

であり、均等な色度座標は次のようになる。

ここで は調整用係数である。2つの色度軸は次のようになる。

これらは上述した Hunter Lab の式と同じ形であり、 と置けば全く同じになる。したがって Hunter Lab 色空間はアダムス色価色空間の一種である。

関連項目

脚注・出典

外部リンク

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