BTRC(β-transducin repeat containing)は、βTrCP1、FBXW1A(F-box/WD repeat-containing protein 1A)、FBXW1、pIκBα-E3 receptor subunitといった名称で知られるタンパク質をコードするヒトの遺伝子である[5][6]。
概要 PDBに登録されている構造, PDB ...
閉じる
この遺伝子はF-boxタンパク質ファミリーのメンバーをコードする。F-boxタンパク質はF-boxと呼ばれる約40残基の構造モチーフによって特徴づけられる。F-boxタンパク質はSCF複合体と呼ばれるユビキチンリガーゼ複合体の4つのサブユニットのうちの1つを構成し、常にではないものの多くの場合、リン酸化依存的に基質を認識する。F-boxタンパク質は3つのクラスに分類される。
この遺伝子にコードされるタンパク質はFbxwに属し、F-boxに加えて複数のWD40リピートを含む。このタンパク質はツメガエルのβTrCP、酵母のMet30、アカパンカビのScon2、ショウジョウバエのSlimbと相同である。哺乳類ではβTrCP1に加えて、βTrCP2またはFBXW11と呼ばれるパラログタンパク質が存在するが、これまでのところ両者の機能は冗長的であり区別できないようである。
ヒトのβTrCP(βTrCP1とβTrCP2の双方を指す)は、HIV-1のVpuタンパク質が細胞のCD4をタンパク質分解装置と結び付けて除去する際に結合するユビキチンリガーゼとして同定された[7]。その後、βTrCPはさまざまな標的の分解を媒介することで複数の細胞過程を調節することが示された[8]。細胞周期の調節因子はβTrCPの基質の主要なグループを構成している。S期の間、βTrCPはホスファターゼCDC25A(英語版)の分解を促進することでCDK1を抑制しているが[9]、G2期にはキナーゼWEE1(英語版)を分解の標的とすることでCDK1の活性化に寄与する[10]。有糸分裂の序盤には、βTrCPはAPC/Cユビキチンリガーゼ複合体の阻害因子であるEMI1(英語版)の分解を媒介する[11][12]。APC/Cは中期から後期への移行(セキュリンの分解の誘導によって)と有糸分裂の終結(CDK1を活性化するサイクリンサブユニットの分解の駆動によって)を担う。さらに、βTrCPはRESTを標的とし、MAD2の転写抑制を解除する。MAD2はすべての染色分体が紡錘体の微小管に接着するまでAPC/Cを不活性化状態に維持する、紡錘体チェックポイントの必須の構成要素であり、βTrCPはこのようにAPC/Cを制御する[13]。
βTrCPは細胞周期チェックポイントの調節に重要な役割を果たす。βTrCPは遺伝毒性ストレスに応答して、Chk1とともにCDC25Aの分解を媒介することでCDK1活性の低下に寄与し[9][14]、DNA修復が完了するまで細胞周期の進行を防ぐ。DNA複製やDNA損傷からの回復の間、βTrCPはPLK1依存的にクラスピン(英語版)を標的とする[15][16][17]。
βTrCPはタンパク質の翻訳、細胞成長や生存過程においてもにおける重要な因子であることが判明している。分裂促進因子に対する応答として、翻訳開始因子eIF4Aの阻害因子であるPDCD4(英語版)はβTrCPとS6K1(英語版)依存的に迅速に分解され、効率的な翻訳と細胞成長が行われる[18]。タンパク質の翻訳に関与する他の標的としてはeEF2Kがある。eEF2Kは翻訳伸長因子eEF2をリン酸化してリボソームへの親和性を低下させる[19]。また、βTrCPはmTORやCK1α(英語版)と協働してmTORの阻害因子であるDEPTORの分解を誘導し、mTORの完全な活性化を促進する自己増幅ループを作り出す[20][21][22]。同時に、βTrCPはアポトーシス促進タンパク質BimELの分解を媒介し、細胞生存を促進する[23]。
βTrCPはリン酸化されたIκBα(英語版)とβ-カテニンの分解モチーフと結合し、おそらくNF-κBとWnt経路を調節することで複数の転写プログラムで機能している[24][25]。βTrCPは中心小体のdisengagement(解離)とlicensing(複製ライセンス化)を調節することが示されている。βTrCPは前中期にintercentrosomal linker protein(中心体間リンカータンパク質)CEP68(英語版)を標的とし、中心小体のdisengagementとその後のseparation(分離)に寄与する[26]。
βTrCPは次に挙げる因子と相互作用することが示されている。
βTrCPは一部の組織ではがんタンパク質としてふるまう。βTrCPの発現レベルの上昇は、大腸がん[39]、膵臓がん[40]、肝芽腫[41]、そして乳がん[42]でみられる。
“A novel human WD protein, h-beta TrCp, that interacts with HIV-1 Vpu connects CD4 to the ER degradation pathway through an F-box motif”. Molecular Cell 1 (4): 565–74. (March 1998). doi:10.1016/S1097-2765(00)80056-8. PMID 9660940.
“Prophase destruction of Emi1 by the SCF(betaTrCP/Slimb) ubiquitin ligase activates the anaphase promoting complex to allow progression beyond prometaphase”. Developmental Cell 4 (6): 813–26. (June 2003). doi:10.1016/S1534-5807(03)00153-9. PMID 12791267.
“The human F box protein beta-Trcp associates with the Cul1/Skp1 complex and regulates the stability of beta-catenin”. Oncogene 18 (4): 849–54. (January 1999). doi:10.1038/sj.onc.1202653. PMID 10023660.
“CK2-dependent phosphorylation of the E2 ubiquitin conjugating enzyme UBC3B induces its interaction with beta-TrCP and enhances beta-catenin degradation”. Oncogene 21 (25): 3978–87. (June 2002). doi:10.1038/sj.onc.1205574. PMID 12037680.
“Homodimer of two F-box proteins betaTrCP1 or betaTrCP2 binds to IkappaBalpha for signal-dependent ubiquitination”. The Journal of Biological Chemistry 275 (4): 2877–84. (January 2000). doi:10.1074/jbc.275.4.2877. PMID 10644755.
“TIP120A associates with cullins and modulates ubiquitin ligase activity”. The Journal of Biological Chemistry 278 (18): 15905–10. (May 2003). doi:10.1074/jbc.M213070200. PMID 12609982.
“Regulation of the discs large tumor suppressor by a phosphorylation-dependent interaction with the beta-TrCP ubiquitin ligase receptor”. The Journal of Biological Chemistry 278 (43): 42477–86. (October 2003). doi:10.1074/jbc.M302799200. PMID 12902344.
“Genetic evidence for the essential role of beta-transducin repeat-containing protein in the inducible processing of NF-kappa B2/p100”. The Journal of Biological Chemistry 277 (25): 22111–4. (June 2002). doi:10.1074/jbc.C200151200. PMID 11994270.
“SCF(beta-TRCP) and phosphorylation dependent ubiquitinationof I kappa B alpha catalyzed by Ubc3 and Ubc4”. Oncogene 19 (31): 3529–36. (July 2000). doi:10.1038/sj.onc.1203647. PMID 10918611.
“Associations among beta-TrCP, an E3 ubiquitin ligase receptor, beta-catenin, and NF-kappaB in colorectal cancer”. Journal of the National Cancer Institute 96 (15): 1161–70. (August 2004). doi:10.1093/jnci/djh219. PMID 15292388.
“Increased expression of the E3-ubiquitin ligase receptor subunit betaTRCP1 relates to constitutive nuclear factor-kappaB activation and chemoresistance in pancreatic carcinoma cells”. Cancer Research 65 (4): 1316–24. (February 2005). doi:10.1158/0008-5472.CAN-04-1626. PMID 15735017.
“Induction of homologue of Slimb ubiquitin ligase receptor by mitogen signaling”. The Journal of Biological Chemistry 277 (39): 36624–30. (September 2002). doi:10.1074/jbc.M204524200. PMID 12151397.