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試し斬り(ためしぎり)とは、刀剣を用いて巻藁、畳表、青竹等の物体を切り抜くこと。試斬(しざん)、据物斬り(すえものぎり)とも呼ばれる。江戸時代には様斬(ためしぎり)とも書かれた[1]。
日本刀は1本1本が手作りの鍛造品であり、名手とよばれる刀工の手によるものであっても品質や性格には違いがあり、実用に堪えるものか装飾的美麗さにとどまるものかは実際に試してみなければ分からない。日本刀の切れ味や耐久性を試すために、藁、畳、竹、兜、豚肉、新聞紙、段ボール等の物体を、木製ないしは金属製の台や土(土段)の上に乗せ、袈裟あるいは真向あるいは真横(胴斬り)に切り抜く。江戸時代には罪人の死体を使用していた。
純粋に刀の切れ味を確かめる性能検査としての技術は試刀術と呼ばれ、抜刀道や居合道[注釈 1]の稽古として行われる試し斬りとは区別される。試刀術は敵を想定していないため、地面を踏み締め、背中に刀が着くほど大きく振りかぶって斬り込むが、抜刀道や居合道における試し斬りは対敵を想定しているため、動作に隙を生じさせないように斬り込む。
ほかには、巻藁数本を縦に並べ、真上から切り下ろす方法や、ぴったりと横や縦一列に並べ、それらをまとめて斬るというものもあるが、それらの多くは見物者にインパクトを与えるために行う場合がほとんどである。
演武として公開で行われることもある。
明治時代以前には人体が試し斬りの対象として用いられた。戦国時代のルイス・フロイスの報告書においても、ヨーロッパにおいては動物を使って試し斬りを行うが、日本人はそういうやり方を信用せず、必ず人体を用いて試し斬りを行っているという記述がある。
江戸時代初期は殺伐とした戦国の遺風が残り、武士が刀剣の切れ味を試すために生きたままの人間を用いて試し斬りを行うことがあった。死体を用いる場合と区別して「生き試し」と呼ばれた。生き試しは死罪を申しつけられた罪人がしばしば用いられた[2]。
江戸幕府の命により刀剣の試し斬りする御用を勤めて、その際に罪人の死体を用いていた山田浅右衛門家等の例がある。また大坂町奉行所などには「様者」(ためしのもの)という試し斬りを任される役職があったことが知られている。その試し斬りの技術は「据物」(すえもの)と呼ばれ、俗には確かに忌み嫌われていた面もあるが、武士として名誉のあることであった。試し斬りの際には、一度に胴体をいくつ斬り落とせるかが争われたりもした。例えば3体の死体なら「三ツ胴」と称した。記録としては「七ツ胴」程度までは史実として残っている。
据物斬りは将軍の佩刀などのために、腰物奉行らの立会いの元、特に厳粛な儀式として執り行われた。本来、こうした御用は、本来は斬首と同様に町奉行所同心の役目とされていたが、実際には江戸時代中期以後、斬首・据物斬りを特定の者が行う慣例が成立し、徳川吉宗の時代以後、山田浅右衛門家の役目とされた。なお、山田浅右衛門家が斬首を行う際に、大名・旗本などから試し斬りの依頼を受け、その刀を用いて斬首することがあったという[3]。その方法は、地面に竹の杭を数本打ち立て、その間に死体をはさんで動かないようにする。僧侶、婦女、賎民、廃疾者などの死体は用いない。死体を置き据えるときは、死体の右の方を上に、左の方を下にして、また、背中は斬る人のほうに向ける。刀には堅木の柄をはめ、重い鉛の鍔を加える。斬る箇所は、第1に摺付(肩の辺)、第2に毛無(脇毛の上の方)、第3に脇毛の生えた箇所、第4に一の胴、第5に二の胴、第6に八枚目、第7に両車(腰部)である。以上の箇所を斬って刀の利鈍を試みた。二つ胴、三つ胴などというのは、死体を2箇以上重ねて、竹杭の間にはさんでおいて試みるのである。
抜刀道や居合道といった武道における試し斬りでは、主に畳表を巻いたものを使用する。一畳分または半畳分の使用済み畳表を巻き、紐で縛ったり、輪ゴムで止めたりしたものを、一昼夜あるいは数日水につけておき、台上の杭に突き刺す。その畳表に対して、日本刀を使用して斬撃を行う。
一番有名な斬り方は、対象に対して、40 - 45度ほどの角度で斜めに斬りつける「袈裟斬り」と呼ばれる斬り方であり、畳表を人間と考えた場合、肩口・脇下より斬りつける技法である。他にも流派や団体によって様々な斬り方がある。水平に切る横一文字が一番難しい。習熟すれば地面に直に置いた畳表も斬ることができる。
日中戦争時に軍刀や古刀を用いて捕虜に対する試し斬りが行われたという証言がある。日本軍中島今朝吾第16師団師団長の日記によれば「本日正午高山剣士来着す。捕虜七名あり。直に試斬を為さしむ。時恰も小生の刀も亦此時彼をして試斬せしめ頚二つを見込斬りたり」と捕虜を使って試し斬りを行ったと記している [6]。岡田酉次が著した日中戦争裏方記によれば、とある一戦の後、捕虜を得たと裏方に情報が伝わると、試し斬りのために刀剣を持った日本兵が我先に集まったという[7]。
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