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減価償却(げんかしょうきゃく、英: depreciation)とは、企業会計における購入費用の認識と計算の方法。長期間にわたって使用される固定資産の取得(設備投資)に要した支出を、その資産が使用できる期間にわたって費用配分する手続きである。
英語では、有形固定資産にかかるものを depreciation、無形固定資産にかかるものを amortization という。
減価償却とは、一般に有形固定資産(固定資本)の価値の減価を測定し、その減価を帳簿から差し引くことをいう[1]。
これらの減価原因には次のようなものがある。
一部、特許権、商標権や漁業権、ソフトウェアなど各種権利の無形固定資産についても、減価償却を行うことがある。
なお、「償却」には、資産の原価を将来に渡って費用配分する、という意味がある。会計用語では、特に有形固定資産(Tangible assets)を償却することを「減価償却」(Depreciation)と呼び、無形固定資産(Intangible assets)を償却することを単に「償却」(Amortization)と呼んで区別している。
一方、貸倒損失を「貸倒償却」と呼ぶことがあり、減価償却や償却、貸倒償却を含めた広義の「償却」(Amortization)もあるので注意が必要である。
固定資産であっても減価償却しないものがある。減価償却しないものは非減価償却資産と呼ばれ、非減価償却資産は以下の様な時間によっても価値が減少するとは限らないものが該当する。
また、株式などの有価証券も、減価償却資産とされない。
減価償却の計算の3要素として、取得価額、耐用年数、残存価額の3つがある[4]。
減価償却は、定額法、定率法、級数法(年数総和法)、生産高比例法の4つの方法がある。
いずれの方法も対象資産の取得価額から残存価額を引いた要償却額に対して、それぞれの方式ごとに異なった割合での比率によって、償却期間に配分される。減価償却は対象資産の取得月に起算され、月割りでの計算が行なわれる。
取得原価(Cost)にはその資産の代金だけでなく、運賃、手数料、保険料、登録料などの付随する全ての費用が含まれる。
多くの資産は耐用年数の期間だけ使用した後でも、まだ便益に供することが可能な状態であるために、そういった資産を耐用年数分の使用後に売却処分した場合に得られると予想される金額を残存価額(Salvage value)として設定している。取得原価から残存価額を差し引いた要償却額に対してだけ償却期間を通じた費用配分が行なわれる。
「企業会計原則注解」[注20]では固定資産の減価償却の方法として、
が例示されている。前者の3つは時間に基づいて減価償却するのに対して、生産高比例法は活動量に基づいて減価償却する方法である。また、定率法と級数法は加速度的償却法である。なお、日本では、無形固定資産の減価償却については定額法だけが認められている。
以下では、取得額をA0、耐用年数をu、残存価額をAu、償却率r とする。
定額法(Straight-Line method, SL)は、毎年一定の額を償却してゆく償却法。毎年の減価償却費を平準化できるという特徴がある一方、使用により、維持修繕費が逓増する場合には、耐用年数後半において費用負担が増大するという欠点がある。年間の減価償却費は、取得原価と残存価額との差額を耐用年数で除して求める。
償却率r を求める場合、原理的には、Au = (1-u r )A0 より、
で求められる。日本では残存価額Au = 0 として各耐用年数における法定償却率が定められている。
定率法は、毎年その期首の未償却残高に対して一定の率を償却してゆく償却法であり、加速度的減価償却法の一つである。投下資本の早期回収が可能であるが、取得原価の期間配分という点では非合理的である。年間の減価償却費は、取得原価と減価償却累計額との差額に償却率を乗じて求める。
償却率r を求める場合、原理的には、Au = (1 - r )u A0 から、
で求められる。残存価額Au = 0 のとき、定率法は適用できない。
定率法には、二倍定率法(Double-Declining Balance method, DDB)がある。償却期間の早い時期に大きく償却することで利益を圧縮できるという特徴がある。これは上記算式によらずに、定額法の償却率として定額法の償却率の二倍を用いる方法である。日本では上記算式によりAu = A0×10%として各耐用年数における法定償却率が定められていたが、平成19年(2007年)4月1日より250%定率法が採用され、平成24年(2012年)4月1日より200%定率法が採用された。
級数法(Sum of the Years' Digits method, SYD)は、耐用年数から経過年数を差し引いた残存耐用年数を分子とし、その期までの残存耐用年数の合計(初項を1、項数と末項を残存耐用年数とした等差数列の総和のこと)を分母とした数値に、取得原価(Cost)から残存価額(Salvage value)を引いた要償却額を乗じて、その期の減価償却費を算出する償却法であり、加速度的減価償却法の一つである。
償却期間の早い時期に大きく償却することで利益を圧縮できるという特徴がある。 年間の減価償却費は、取得原価と減価償却累計額との差額に償却率を乗じて求める。
経過年数をn とすれば、減価償却費は以下の数式で求められる。
生産高比例法(Productive output method)は、資産を使用して生産活動などを行なう場合に、予想される総活動量に対するその期の活動量の割合に応じて減価償却費を算出する方法である。予想される総活動量を分母に、当期の活動量を分子とした数値に、取得原価(Cost)から残存価額(Salvage value)を引いた要償却額を乗じて、その期の減価償却費を算出する。収益と費用の対応が合理的であるが、適用資産が鉱業用設備、航空機、自動車等に限られている。
減価償却費は以下の数式で求められる。
各期に計上される費用を減価償却費(英: Depreciation Expense)という。全体の支出額(取得原価)を各年度の費用として配分することにより、各年度における損益とキャッシュ・フローとの差異が生じることになる。
取得した資産の実際の使用可能な寿命をあらかじめ知ることは困難で、たとえば建物のように使用の限界時期が明確でない物もある。本来ならば、減価償却における耐用年数(英: the Estimated useful life)は、なんらかの科学的統計的な手法により見積られるべきであるが、実務上は、法人税法において資産の種類ごとに定められた耐用年数を用いられており、これを法定耐用年数という。
減価償却の会計処理にあたっては、各期の減価償却費に相当する額だけ、固定資産を減額する必要がある。そのため、貸借対照表の「固定資産の部」において、各資産は取得原価から減価償却累計額(英: Accumulated Depreciation)を控除する形で表示される。
減価償却は、あらかじめ定められた償却法と耐用年数により、各資産毎の年間の償却額を算出する。ただし、その会計期間の期中に取得(または使用を中断)した資産の場合は、年間償却額を月割計算した額となる。
なお、法人税法の規定によれば、耐用年数を超えて使用する場合でも償却可能限度額(日本の場合、有形固定資産では取得額の95%)を超えて償却することはできない。会計基準においては、この点について特別な規定はない。
平成19年度税制改正により、平成19年4月1日以降の新規取得に関しては備忘価額の1円まで償却が可能となった。また、平成19年3月31日以前取得の資産に関しても、平成19年4月1日以降に開始する事業年度から1円まで償却が可能となった。なお無形固定資産については、償却方法は定額法限定で、残存価額がゼロとなるまで償却する。
この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
日本では、平成19年税制改正において制度改正がされたため、取得日が平成19年3月31日以前、平成19年4月1日以後とで方法が異なる。そのため税法上では6種類の償却方法が存在する。
なお、法人税法における建物の償却法については、平成10年4月より、新築・増築については旧定率法並びに定率法を用いることは認められなくなっている。
1. 次の計算式で求められる金額を償却限度額とする。
償却限度額=(取得価額 − 残存価額)×旧定額法の償却率
ここで、残存価額については
残存価額=取得価額×減価償却資産の耐用年数等に関する省令(耐用年数省令)別表第十一に規定されている残存割合[5]
上記計算式で求められる金額を用い、旧定額法の償却率は耐用年数省令別表第七で規定された値を用いる[6]。
2. 償却累積額が、取得価額の95%相当額に到達する事業年度の償却限度額は、取得価額の95%相当額を越えた部分を控除した額とする。
3. 2.の事業年度の翌年度以後は、次の計算式で求められる金額を償却限度額として、残存簿価1円まで償却することができる。
償却限度額=(取得価額 − 取得価額の95%相当額 − 1円)×各事業年度の月数/60
1. 次の計算式で求められる金額を償却限度額とする。
償却限度額=期首帳簿価額×旧定率法の償却率
ここで、旧定率法の償却率は耐用年数省令別表第七で規定された値を用いる[6]。
2. 償却累積額が、取得価額の95%相当額に到達する事業年度の償却限度額は、取得価額の95%相当額を越えた部分を控除した額とする。
3. 2.の事業年度の翌年度以後は、次の計算式で求められる金額を償却限度額として、残存簿価1円まで償却することができる。
償却限度額=(取得価額 − 取得価額の95%相当額 − 1円)×各事業年度の月数/60
1. 次の計算式で求められる金額を償却限度額とする。
償却限度額={(鉱業用減価償却資産の取得価額 − 残存価額)/その資産の耐用年数(注)の期間内におけるその資産の属する鉱区の採掘予定数量}×その事業年度におけるその鉱区の採掘数量
(注)その資産の属する鉱区の採掘予定年数がその資産の耐用年数より短い場合には、その採掘予定年数。
ここで、残存価額については
残存価額=取得価額×耐用年数省令別表第十一に規定されている残存割合[5]
上記計算式で求められる金額を用いる。
2. 償却累積額が、取得価額の95%相当額に到達する事業年度の償却限度額は、取得価額の95%相当額を越えた部分を控除した額とする。
3. 2.の事業年度の翌年度以後は、次の計算式で求められる金額を償却限度額として、残存簿価1円まで償却することができる。
償却限度額=(取得価額 − 取得価額の95%相当額 − 1円)×各事業年度の月数/60
次の計算式で求められる金額を償却限度額とし、残存価額が1円になるまで償却を行なう。
償却限度額=取得価額×定額法の償却率
ここで、定額法の償却率は耐用年数省令別表第十で規定された値を用いる[7]。
1. まず、次の2つの式で調整前償却額と償却保証額の金額を求める。
調整前償却額=期首帳簿価額×定率法の償却率 償却保証額=取得価額×耐用年数に応じた保証率
ここで、定率法の償却率、耐用年数に応じた保証率はそれぞれ耐用年数省令別表第十で規定された値を用いる[7]。
2. 調整前償却額と償却保証額の金額を比較し、当期の償却限度額を求める。
償却限度額=調整前償却額
償却限度額=改定取得価額×改定償却率
ここで改定取得価額には期首簿価を用い、改定償却率には耐用年数省令別表第十で規定された値を用いる[7]。また、残存簿価1円まで償却できる。
次の計算式で求められる金額を償却限度額とする。
償却限度額=(鉱業用減価償却資産の取得価額/その資産の耐用年数(注)の期間内におけるその資産の属する鉱区の採掘予定数量)×その事業年度におけるその鉱区の採掘数量 (注)その資産の属する鉱区の採掘予定年数がその資産の耐用年数より短い場合には、その採掘予定年数。
米国では1980年代からのレーガン税制により従来の減価償却(Depreciation)の概念を放棄して、加速原価回収制度(Accelerated Cost Recovery System…ACRS)という新制度が導入された[8]。この制度で従来の減価償却制度における固定資産のもつ有用期間である耐用年数とは直接的な関係のない、人為的・政策的にこれよりも短く改められた償却期間が用いられることになった[8]。具体的には1981年の改正で償却資産を4つに区分し、その償却期間を3年から最高18年までの期間に大幅に短縮した[8]。
ACRSは1986年の公平・簡素・経済成長のための税制改革法(Tax Reform Act for Fairness, Simplicity and Economic Growth)で「修正加速原価回収制度」(Modified Accelerated Cost Recovery System…MACRS)として一部緩和されたが、加速原価回収制度は基本的に残されている[8]。
政策面では、機械設備の有用期間としての耐用年数よりも人為的に短い償却期間を用いる耐用年数の政策的短縮(特別償却)を行ったり、償却計算方法として通常の償却方法よりも多額の減価償却を計上する加速効果をもつ計算方法を用いる加速償却などがとられることがある(両者を含めて広義の加速償却と称することがある)[8]。
特別償却や加速償却は会計原則の取得原価主義による制約を受ける[8]。第2次大戦後には先進工業国を中心に加速償却政策がとられたが、1960年代以降、より投資刺激の効果が強い投資引当金や投資税額控除による政策に転換した[8]。
減価償却は、一企業的には合理的な手法であるが、マクロ経済には思わぬ影響を及ぼす。
上述のように、10億円のビルが建設されたとする。ビル建設を発注した企業の収益は、それまで1億円だったものが3億円になるとする。また、建設を発注した企業は、10年定額法で毎年1億円ずつ償却していくとする。
建設を発注した企業は、ビルが建設された年に、10億円の建設投資をして収益が3億円であるから、この年は差し引き現金7億円の出超となる。ところが、会計上は、1億円だけを費用として計上するため、会計上の利益は3 - 1 = 2億円である。また、発注企業により支出された10億円は、建設会社や家計に入り、乗数効果をもたらす。この10億円のうち1億円だけが経費なので、経済全体では9億円の会計上の利益がもたらされる。
しかし、翌年はもうビルを建設しないとすると、建設を発注した企業は、収益3億円に対し減価償却費1億円を計上する。減価償却は会計上の費用であるため、実際は3億円の入超でありながら会計上の利益は2億円となる。この企業の収益は3億円であるから、その他の会社・家計は、その収益に対応して合計で3億円の出費を計上することになる。結果として、経済全体では、2 - 3 = -1億円の会計上の損失がもたらされる。
このような歪みが生まれるのは、投資をする側にとっては、単年度の投資費用すべてが経費にはならないのにたいして、投資を受注する側にとっては、単年度の利益がすべて収益となるためである。
ケインズ経済学では、これを基に設備投資が景気に与える影響を説明している。設備投資が活発な時期は、会計上の利益が増大し、社会全体がすべて利益を上げられているような錯覚が生まれ好景気となる。逆に、設備投資が低調な時期は会計上の出費が増大し、社会全体が損失を出しているような錯覚が生まれ不景気となる。
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