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時枝文法(ときえだぶんぽう)は、時枝誠記による日本語の文法である。
単 語 | 詞 | 体言 | |
用 言 | 動詞 | ||
形容詞 | |||
代 名 詞 | 名詞的代名詞 | ||
連体詞的代名詞 | |||
副詞的代名詞 | |||
連体詞 | |||
副詞 | |||
辞 | 接続詞 | ||
感動詞 | |||
陳述副詞 | |||
助動詞 | |||
助詞 |
ソシュールによる(と時枝に規定された)「言語構成観」に対立する「言語過程観」に立脚する理論であるため言語過程説とも呼ばれる。
「言語構成観」とは、例えば「文という統一体はその部分を集めただけのもの」とする言語観である[要出典]。これに対し時枝の「言語過程観」はこのような考えを否定し、「「文」という統一体はその構成要素である語を単に集めたものとは質的に異なるものである」とする。ここでいう「語の寄せ集め」とは、質的に異なる「文」という統一体を成立させる契機となるのが主体による陳述である[要出典]。
ソシュール言語学における言語過程を「循行の過程だ」と難じつつ、時枝が主張する「言語過程」とは、発話主体が、表現の素材となる客体世界の断片を、言語表現へと転換する主体的過程を指す[要出典]。例えば「山」「桜」という単純語は、素材となる客体世界から一回の過程で得られるものであるために単純語であるが、「山桜(やまざくら)」はそのようにして得られた単純語にさらにもう一回の過程を経て語としての統一体にしている、すなわち二回の過程で語としている複合語である。また別の側面では、空気の振動やインクのしみという物理的なものを、それとは無関係な客体世界の断片に結びつける。「陳述」とは言語過程の中の、特に文成立の契機となる過程である[要出典]。
言語過程説による構文論では、文の構成要素を陳述の有無によって「詞」と「辞」に二分した。「詞」は文の素材となるもので、陳述を含まない。これに対して「辞」は素材的なものを含まない純粋に陳述だけを含むものである。この点で辞は純粋な主体的作用の反映であり、形容動詞の否定や敬語の二大別などは、すべてこの「詞」と「辞」の別に基礎を置く。時枝によると、「このような構文論は国学における日本語の研究の流れを汲むものであり、基本的な思想において通じる」という。このような構文論は理論的に一貫しており、また詞と辞の定義も明確であるが、その後、このような詞辞非連続説と、金田一春彦などの詞辞連続説との間の論争を引き起こすこととなる。また、ある意味、時枝の理論構成によって「陳述」というものに明確な定義と、その構文論への反映が行われたことによって、「陳述」という概念そのものに対する反省ももたらすことになる[注 1]。
文の構造としては「詞を辞がくるんでいる、ちょうど引き出し(取っ手が「辞」)のような構造が基本であり、さらにそれがより大きな構造に埋め込まれる」という階層構造を仮定した。これを「入れ子構造」と呼び、日本語の文の基本的な型式としている。橋本文法における、文節を基本としたリニアな構造に対して、入れ子構造の階層構造は文の分析の妥当性において大きな優位性がある[注 2]。例えば「桜の花が」という構造は橋本文法では
[桜の][花が]
と分析され、文節間の関係については別に様々なものを規定しなければならなかった。これに対し時枝文法の入れ子構造(引き出しの取ってのように書き表されていた辞を、タイプの便宜上「>」で代理させる)では
[[桜]の> 花]が>
として、特別な関係の規定なしに構造表示できる。入れ子構造は現代言語学で用いられる括弧付けとほぼ等価なものであるが、これは「主体による言語過程が再帰的に働く」という言語過程説の帰結である[要出典]。
伝統的な分類で助詞、助動詞とされていたものは「辞」に属し、名詞、動詞、形容詞は「詞」に属する。ただし受動、使役の助動詞は「詞」に属し、否定の助動詞には「詞」に属するものと「辞」に属するものがある。このような構文論への理論適用においては、原則として品詞はすべて詞か辞に属し、また陳述はすべて何らかの品詞に対応するのが理想的であるが、そのようにはなっていない。副詞は詞と辞が合わさったものと考えられ、詞である動詞で文が終わっている構造については形態をもたない「零」の辞が仮定された。
演繹法による理論構築を帰納法(不完全帰納法)によるものより方法論的に優位とする点、一言語を深く探求すると言語の普遍性に到達できるとする点は、発表当時は受け入れられない考え方であったが、現代的観点からは科学的方法として優れていた、と見ることができる[注 3]。
言語過程説は様々な批判、論争を引き起こした[注 4]。それは「言語構成観」がソシュールに対する誤解に基づくものであることからもたらされたものなど、様々なものがある。原田信一は一定の評価はしながらも、「絵画などのほかの表現との区別ができない」という批判を行っている[要出典]。
言語過程説はまた、三浦つとむを経由して吉本隆明に影響を与えた。
時枝の説を継承・発展した国語学者としては、高知女子大学教授であった山崎良幸がいる[注 5]。この山崎が高知女子大学で教鞭をとっていた時の教え子に和田明美がいる[注 6]。
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