この項目では、平行移動の概念によって特徴づけられる接続概念の一般論について説明しています。カルタン接続については「カルタン幾何学 」を、その他の用法については「接続 」をご覧ください。
微分幾何学 において接続 (せつぞく、英 : connection )とは、多様体 のファイバーバンドル 上に平行移動 の概念を定義する事ができる数学的構造である。ただし数学的な取り扱いを容易にするため、平行移動の概念で直接的に接続を定義するのではなく、実質的に等価な別概念を用いて接続を定義する。
接続概念はゲージ理論 やチャーン・ヴェイユ理論 で用いられる。特にチャーン・ヴェイユ理論の特殊ケースとして、曲面に関する古典的なガウス・ボンネの定理 を一般の偶数次元多様体に拡張 するのに役立つ。
接続は元々はクリストッフェル 並びにレヴィ-チヴィタ 、リッチ によって[1] リーマン多様体 上に導入された概念(レヴィ-チヴィタ接続 )であるが、一般のベクトルバンドル 上の接続(Koszul接続 [注 1] )や主バンドルの接続(主接続 )にも拡張され、さらに一般のファイバーバンドルの接続 へと拡張された。ただし実際に研究が進んでいるのは、ベクトルバンドルとその主バンドルに対する接続概念である。
以下、本項では特に断りがない限り、多様体、関数、バンドル等は全てC∞ 級の場合を考える。よって紛れがなければ「C∞ 級」を省略して単に多様体、関数、バンドル等という。また特に断りがない限りベクトル空間は実数体上のものを考える。
本節ではまずリーマン多様体の接続であるレヴィ-チヴィタ接続の定義を述べ、次により一般的なベクトルバンドルに対する接続の定義を述べる。
レヴィ-チヴィタ接続の定義
M を
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
の部分多様体とし、
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
をM 上の曲線とし、さらに
v
(
t
)
{\displaystyle v(t)}
を
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
上定義されたM のベクトル場とし(すなわち各時刻t に対し、
v
(
t
)
{\displaystyle v(t)}
は
v
(
t
)
∈
T
c
(
t
)
M
{\displaystyle v(t)\in T_{c(t)}M}
を満たすとし)、
∇
d
t
v
(
t
)
:=
P
r
c
(
t
)
(
d
d
t
v
c
(
t
)
)
{\displaystyle {\nabla \over dt}v(t):=\mathrm {Pr} _{c(t)}\left({d \over dt}v_{c(t)}\right)}
と定義する。ここでPr はM の点c (t ) における
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
内の接平面(と自然に同一視可能なT c (t )M )への射影である。またX 、Y をM 上のベクトル場とするとき、
∇
X
Y
|
P
:=
∇
d
t
Y
exp
(
t
X
)
(
P
)
{\displaystyle \nabla _{X}Y|_{P}:={\nabla \over dt}Y_{\exp(tX)(P)}}
と定義する。ここで
exp
(
t
X
)
(
P
)
{\displaystyle \exp(tX)(P)}
は時刻0 に点
P
∈
M
{\displaystyle P\in M}
を通るX の積分曲線 である。実はこれらの量はM の内在的な量である事、すなわち
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
からM に誘導されるリーマン計量 (とその偏微分)のみから計算できる事が知られている。
具体的にはM に局所座標
(
x
1
,
…
,
x
m
)
{\displaystyle (x^{1},\ldots ,x^{m})}
を取ると、以下のように書ける(アインシュタインの縮約 で表記):
∇
d
t
v
(
t
)
=
(
d
d
t
v
i
(
t
)
+
d
x
j
(
t
)
d
t
v
k
(
t
)
Γ
j
k
i
)
∂
∂
x
i
{\displaystyle {\nabla \over dt}v(t)=\left({d \over dt}v^{i}(t)+{dx^{j}(t) \over dt}v^{k}(t)\Gamma _{jk}^{i}\right){\partial \over \partial x^{i}}}
∇
X
Y
=
(
X
j
∂
Y
i
∂
x
j
+
X
j
Y
k
Γ
j
k
i
)
∂
∂
x
i
{\displaystyle \nabla _{X}Y=\left(X^{j}{\partial Y^{i} \over \partial x^{j}}+X^{j}Y^{k}\Gamma _{jk}^{i}\right){\partial \over \partial x^{i}}}
where
Γ
j
k
i
=
1
2
g
i
ℓ
(
∂
g
k
ℓ
∂
x
j
+
∂
g
ℓ
j
∂
x
k
−
∂
g
j
k
∂
x
ℓ
)
{\displaystyle \Gamma _{jk}^{i}={\frac {1}{2}}g^{i\ell }\left({\partial g_{k\ell } \over \partial x^{j}}+{\partial g_{\ell j} \over \partial x^{k}}-{\partial g_{jk} \over \partial x^{\ell }}\right)}
そこで
∇
d
t
v
(
t
)
{\displaystyle {\tfrac {\nabla }{dt}}v(t)}
や
∇
X
Y
{\displaystyle \nabla _{X}Y}
をリーマン多様体
(
M
,
g
)
{\displaystyle (M,g)}
に内在的な値とみなしたものを考える事ができる。
∇
X
Y
{\displaystyle \nabla _{X}Y}
は以下の公理で特徴づけられる事が知られている:
定理 (リーマン幾何学の基本定理 ) ― M 上のベクトル場の組にM 上のベクトル場を対応させる汎関数∇ で以下の5つの性質をすべて満たすものが唯一存在する[6] [7] 。このを
(
M
,
g
)
{\displaystyle (M,g)}
のレヴィ-チヴィタ接続 といい、
∇
X
Y
{\displaystyle \nabla _{X}Y}
をレヴィ-チヴィタ接続から定まるY のX による共変微分 という[8] [9] [10] :
∇
f
X
+
g
Y
Z
=
f
∇
X
Z
+
g
∇
Y
Z
{\displaystyle \nabla _{fX+gY}Z=f\nabla _{X}Z+g\nabla _{Y}Z}
(関数に関する左線形性)
∇
X
(
a
Y
+
b
Z
)
=
a
∇
X
Y
+
b
∇
X
Z
{\displaystyle \nabla _{X}(aY+bZ)=a\nabla _{X}Y+b\nabla _{X}Z}
(実数に関する右線形性)
∇
X
(
f
Y
)
=
X
(
f
)
Y
+
f
∇
X
Y
{\displaystyle \nabla _{X}(fY)=X(f)Y+f\nabla _{X}Y}
(ライプニッツ則)
∇
X
Y
−
∇
Y
X
=
[
X
,
Y
]
{\displaystyle \nabla _{X}Y-\nabla _{Y}X=[X,Y]}
(捻れなし)
Z
(
g
(
X
,
Y
)
)
=
g
(
∇
Z
X
,
Y
)
+
g
(
X
,
∇
Z
Y
)
{\displaystyle Z(g(X,Y))=g(\nabla _{Z}X,Y)+g(X,\nabla _{Z}Y)}
(計量との両立)
ここでX 、Y 、Z はM 上の任意の可微分なベクトル場であり、f 、g はM 上定義された任意の実数値C∞ 級関数であり、a 、b は任意の実数であり、
f
Y
{\displaystyle fY}
は点
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
において
f
(
u
)
Y
u
{\displaystyle f(u)Y_{u}}
となるベクトル場であり、
X
(
f
)
{\displaystyle X(f)}
はf のX 方向微分であり、
[
X
,
Y
]
{\displaystyle [X,Y]}
はリー括弧 (英語版 ) である。
∇
d
t
v
(
t
)
{\displaystyle {\tfrac {\nabla }{dt}}v(t)}
は
∇
X
Y
{\displaystyle \nabla _{X}Y}
を曲線上に制限したものとして定義できる。
ベクトルバンドルの接続の定義
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
を可微分多様体M 上のベクトルバンドルとし(E 、M のいずれにもリーマン計量が入っているとは限らない)、
Γ
(
E
)
{\displaystyle \Gamma (E)}
をE の切断全体の集合とし、
X
(
M
)
:=
Γ
(
T
M
)
{\displaystyle {\mathcal {X}}(M):=\Gamma (TM)}
をM 上のベクトル場全体の集合とする。
ベクトルバンドルの接続は前述したレヴィ-チヴィタ接続の公理的特徴づけ の5つの性質のうち3つを使って定義される。
ここでX 、Y はM 上の任意のベクトル場であり、s 、s1 、s2 はE の任意の切断であり、a 、b は実数であり、f 、f1 、f2 はM 上定義された任意の実数値可微分関数であり、
f
s
{\displaystyle fs}
は点u において
f
(
u
)
s
u
{\displaystyle f(u)s_{u}}
となるE の切断であり、
X
(
f
)
{\displaystyle X(f)}
はf のX 方向微分である。
上述の定義から、一般のベクトルバンドルの接続もレヴィ-チヴィタ接続と同様、
∇
X
s
=
(
X
j
∂
s
i
∂
x
j
+
X
j
s
k
Γ
j
k
i
)
e
i
{\displaystyle \nabla _{X}s=\left(X^{j}{\partial s^{i} \over \partial x^{j}}+X^{j}s^{k}\Gamma _{jk}^{i}\right)e_{i}}
という形で書ける。ここで
(
x
1
,
…
,
x
m
)
{\displaystyle (x^{1},\ldots ,x^{m})}
はM の局所座標であり、
(
e
1
,
…
,
e
n
)
{\displaystyle (e_{1},\ldots ,e_{n})}
はE の局所的な基底である[注 2] 。ただしもちろんレヴィ-チヴィタ接続と違い
Γ
i
j
k
{\displaystyle \Gamma ^{i}{}_{jk}}
は計量で書けるとは限らない。
さらに以下の定義をする:
リーマン幾何学の基本定理 から、レヴィ-チヴィタ接続とは、唯一の計量と両立する捻れなしのアフィン接続として特徴づけられる。
球面上の平行移動。大円で囲まれた三角形上でベクトルを一周平行移動すると、もとに戻ってきたときに元のベクトルには戻らない。
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
をベクトルバンドルとし、M の曲線
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
上定義されたM 上のベクトル場
v
(
t
)
{\displaystyle v(t)}
が
∇
d
t
v
(
t
)
=
0
{\displaystyle {\nabla \over dt}v(t)=0}
を恒等的に満たすとき、
v
(
t
)
{\displaystyle v(t)}
は
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
上平行 であるという[17] 。また、
c
(
t
0
)
{\displaystyle c(t_{0})}
上の接ベクトル
w
0
∈
T
c
(
t
0
)
M
{\displaystyle w_{0}\in T_{c(t_{0})}M}
と
c
(
t
1
)
{\displaystyle c(t_{1})}
上の接ベクトル
w
1
∈
T
c
(
t
1
)
M
{\displaystyle w_{1}\in T_{c(t_{1})}M}
に対し、
v
(
t
0
)
=
w
0
{\displaystyle v(t_{0})=w_{0}}
、
v
(
t
1
)
=
w
1
{\displaystyle v(t_{1})=w_{1}}
を満たす
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
上の平行なベクトル場
v
(
t
)
{\displaystyle v(t)}
が存在するとき、
w
1
{\displaystyle w_{1}}
は
w
0
{\displaystyle w_{0}}
を
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿って平行移動 (英 : parallel transportation along
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
)した接ベクトルであるという[17] 。
ユークリッド空間 の平行移動と異なる点として、どの経路
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿って平行移動したかによって結果が異なる事 があげられる。この現象をホロノミー (英語版 ) (英 : holonomy )という[18] 。
右図はホロノミーの具体例であり、接ベクトルを大円で囲まれた三角形に沿って一周したものを図示しているが、一周すると元のベクトルと90度ずれてしまっている事が分かる。
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿って
w
0
∈
T
c
(
0
)
M
{\displaystyle w_{0}\in T_{c(0)}M}
を
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
まで平行移動したベクトルを
φ
c
,
t
(
v
)
∈
T
c
(
t
)
M
{\displaystyle \varphi _{c,t}(v)\in T_{c(t)}M}
とすると
φ
c
,
t
:
T
c
(
0
)
M
→
T
c
(
t
)
M
{\displaystyle \varphi _{c,t}~:~T_{c(0)}M\to T_{c(t)}M}
は線形変換である[19] 。また共変微分は平行移動で特徴づけられる:
上述のように平行移動があれば共変微分が定義できるので、一般のファイバーバンドルではむしろ平行移動に基づいて接続概念を定義する。
E 上に計量g が定義されていてしかも∇ が計量と両立しているとすると、以下が成立する:
定理 ―
平行移動は計量を保つ。すなわちM 上の曲線
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿った平行移動を
φ
c
,
t
{\displaystyle \varphi _{c,t}}
とすると、任意の
v
,
w
∈
E
c
(
0
)
{\displaystyle v,w\in E_{c(0)}}
に対し、以下が成立する:
g
(
φ
c
,
t
(
v
)
,
φ
c
,
t
(
w
)
)
=
g
(
v
,
w
)
{\displaystyle g(\varphi _{c,t}(v),\varphi _{c,t}(w))=g(v,w)}
本章では接続∇ の「接続形式」という概念を述べる。本章で述べるように、むしろ接続形式から接続を定義したほうが数学的な構造を探る上で有利な点があり、このアイデアに沿って接続を定式化したのが後の章 で述べる主バンドルの接続概念である。
定義
(
e
1
,
…
,
e
m
)
{\displaystyle (e_{1},\ldots ,e_{m})}
を開集合
U
⊂
M
{\displaystyle U\subset M}
上で定義されたE の局所的な基底とするとき、接続形式を以下のように定義する:
定義 (接続形式) ― 行列
ω
(
X
)
{\displaystyle \omega (X)}
を
(
∇
X
e
1
,
…
,
∇
X
e
m
)
=
(
e
1
,
…
,
e
m
)
ω
(
X
)
{\displaystyle (\nabla _{X}e_{1},\ldots ,\nabla _{X}e_{m})=(e_{1},\ldots ,e_{m})\omega (X)}
により定義し、X に
ω
(
X
)
{\displaystyle \omega (X)}
を対応させる行列値の1-形式
ω
=
(
ω
i
j
)
i
j
{\displaystyle \omega =(\omega ^{i}{}_{j})_{ij}}
を局所的な基底
(
e
1
,
…
,
e
m
)
{\displaystyle (e_{1},\ldots ,e_{m})}
に関する接続∇ の接続形式 (英 : connection form )という[21] [注 3]
接続形式が与えられれば
∇
X
s
=
X
(
s
j
)
e
j
+
s
j
ω
i
j
(
X
)
e
i
{\displaystyle \nabla _{X}s=X(s^{j})e_{j}+s^{j}\omega ^{i}{}_{j}(X)e_{i}}
により接続を再現できるので、この意味において接続形式は接続∇ の情報をすべて含んでいる。
主バンドルの接続を定義する前準備として、一般のファイバーバンドルに対する接続を定義する。後述 するように、主バンドルの接続はファイバーバンドルに対する接続で群作用に対して普遍になるものである。
すでに述べたように研究が進んでいるのばベクトルバンドルの接続なので、そのような目的のためにはこの一般の接続概念は必要ない。しかしファイバーバンドルの接続により、ベクトルバンドルの接続と次章に述べる主バンドルの接続とを統一的な視点から語る事ができるようになり、主バンドルの接続に基づいてベクトルバンドルの接続の性質をそれに対応する主バンドルの接続と対応付けて調べる事ができる。
定義に至る背景
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
をベクトルバンドルとし、∇ をこのバンドルのKoszul接続とする。M 上の任意の曲線c (t ) とc (t ) 上の任意の切断s (t ) で平行なものに対し、s (t ) をE 上の曲線とみなしたときに
d
s
d
t
{\displaystyle {\tfrac {ds}{dt}}}
が入るTe E の部分空間を「水平部分空間 」と呼ぶ。
以上のように接続∇ から水平部分空間が定まるが、逆に水平部分空間の情報があれば接続を再現できる事も知られている[23] 。
このことからベクトルバンドルの場合は接続概念は水平部分空間の概念は等価なので、一般のファイバーバンドルに対する接続を水平部分空間の概念を用いて定義する事にする。
定義
以上の考察を元に、ファイバーバンドルの接続を定義する。そのためにまず「垂直部分空間」という概念を定義する。
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
をファイバーF を持つファイバーバンドルとし、e ∈E をE の元とするとしπ が誘導する写像を
π
∗
:
T
E
→
T
M
{\displaystyle \pi _{*}~:~TE\to TM}
とするとき、
V
e
:=
{
ξ
∈
T
e
E
∣
π
∗
(
ξ
)
=
0
}
=
T
e
(
E
π
(
e
)
)
{\displaystyle {\mathcal {V}}_{e}:=\{\xi \in T_{e}E\mid \pi _{*}(\xi )=0\}=T_{e}(E_{\pi (e)})}
を、e におけるTe E の垂直部分空間 (英 : vertical subspace )という[24] [25] [注 5] 。そしてファイバーバンドルの接続を以下のように定義する:
名称に関して
ファイバーバンドルの接続のことをエーレスマン接続 [27] (英 : Ehresmann conection )と呼ぶ場合があるが[28] 、主バンドルに対する接続 の事を「エーレスマン接続」と読んでいる書籍[29] もあるので注意が必要である[30] 。なお主バンドル 上においても両者の概念は同値ではなく 、ファイバーバンドルの接続のうち構造群の作用に関して不変なものを主バンドルの接続と呼ぶ。
両者の区別のため、一般のファイバーバンドルの接続を一般の接続 (英 : general connection [31] )、主バンドルの接続を主接続 (英 : principal connection [32] )と呼ぶ場合がある。
またファイバーバンドルの接続のうち、完備 なもののみを「エーレスマン接続」と呼ぶ場合もある[33] 。なおエーレスマン自身による定義では完備性を仮定していた[34] 。
一般の接続からベクトルバンドルの接続へ
ベクトルバンドルのKoszul接続から一般の接続概念が得られる事をすでに見たが、逆にベクトルバンドル上の(一般の)接続が定める共変微分がKoszul接続の公理を満たす条件は以下の通りである:
Koszul接続から一般の接続概念を誘導する方法と(上記の定理の条件を満たす)一般の接続概念からKoszul接続を誘導する方法は「逆写像」の関係にあり、上記の定理の条件を満たす一般の接続概念とKoszul接続は1:1に対応する[38] 。
本節では接続形式の章 で述べたアイデアに基づいて、ベクトルバンドルの接続(Koszul接続)と主バンドルの接続(主接続)の関係を述べる。
接続形式の章で見た
S
O
(
n
)
{\displaystyle \mathrm {SO} (n)}
のケースだけでなく
G
L
n
(
R
)
{\displaystyle \mathrm {GL} _{n}(\mathbb {R} )}
の部分リー群G に対して両者の関係性を示すため、本章ではまず「G -フレーム」、および「G -フレームバンドル (英語版 ) 」という概念を導入する。「G -フレーム」はG が
S
O
(
n
)
{\displaystyle \mathrm {SO} (n)}
の場合は正規直交基底 に相当するものであり、G -フレームバンドルはG -フレームを束ねてできるバンドルであり、自然にG -主バンドルとみなせる。
次に本章ではE のフレームバンドル上の接続からE のKoszul接続が定まる事を見る。そして構造群G を持つベクトルバンドルの接続がG と「両立する」事を定義し、最後にG -フレームバンドルの接続の接続形式とベクトルバンドルのG と両立する接続の接続形式が1対1の関係にある事を見る。
フレームバンドル
定義
「G -フレーム」とは正規直交基底 の概念を一般化したもので、G が
S
O
(
n
)
{\displaystyle \mathrm {SO} (n)}
の場合、G -フレームが正規直交基底に相当する。
定義 ― G を
G
L
n
(
R
)
{\displaystyle \mathrm {GL} _{n}(\mathbb {R} )}
の部分リー群とし、
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
を構造群G を持つベクトルバンドルとし、u をM の点とし、
e
1
,
…
,
e
n
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{n}}
をEu の基底とする。
e
1
,
…
,
e
n
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{n}}
がE のu におけるG -フレーム (英 : G -flame )であるとは、E のu におけるバンドルチャート
U
×
R
n
{\displaystyle U\times \mathbb {R} ^{n}}
と
g
∈
G
{\displaystyle g\in G}
が存在し、このバンドルチャート上で
(
e
1
,
…
,
e
n
)
=
(
g
e
1
′
,
…
,
g
e
n
′
)
{\displaystyle (e_{1},\ldots ,e_{n})=(ge'_{1},\ldots ,ge'_{n})}
が成立する事を言う。
ここで
e
1
′
,
…
,
e
n
′
{\displaystyle e'_{1},\ldots ,e'_{n}}
は
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
の標準的な基底であり、
g
e
i
{\displaystyle ge_{i}}
は線形変換
g
∈
G
⊂
G
L
n
(
R
)
{\displaystyle g\in G\subset \mathrm {GL} _{n}(\mathbb {R} )}
をei に作用させたものである。
構造群G を持つベクトルバンドルの定義から、G -フレームの定義はバンドルチャートの取り方によらずwell-definedである。
F
G
(
E
)
u
{\displaystyle F^{G}(E)_{u}}
を
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
上のG -フレーム全体の集合とすると、
F
G
(
E
)
:=
⋃
u
∈
M
F
G
(
E
)
u
{\displaystyle F^{G}(E):=\bigcup _{u\in M}F^{G}(E)_{u}}
は自然にM 上のG -主バンドル をなし、
F
G
(
E
)
{\displaystyle F^{G}(E)}
を構造群G に関するフレームバンドル という[47] [注 8] 。
主接続からKoszul接続の誘導
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
をG を構造群を持つベクトルバンドルとし、
F
G
(
E
)
{\displaystyle F_{G}(E)}
をそのフレームバンドルとする。さらにG -主バンドル
F
G
(
E
)
{\displaystyle F^{G}(E)}
に接続形式が
ω
=
(
ω
i
j
)
i
j
{\displaystyle \omega =(\omega ^{i}{}_{j})_{ij}}
の接続が入っているとする。開集合
U
⊂
M
{\displaystyle U\subset M}
上定義されたE の局所的な基底
e
=
(
e
1
,
…
,
e
n
)
{\displaystyle e=(e_{1},\ldots ,e_{n})}
に対し、
ω
^
:=
e
∗
(
ω
)
{\displaystyle {\hat {\omega }}:=e^{*}(\omega )}
を、e をU からF G (E ) への写像と見たときの接続形式ω のU への引き戻しとし、
ω
^
{\displaystyle {\hat {\omega }}}
を
ω
^
=
(
ω
^
i
j
)
i
,
j
{\displaystyle {\hat {\omega }}=({\hat {\omega }}^{i}{}_{j})_{i,j}}
と成分表示する。
定理・定理 ―
記号を上述のように取る。E の切断s とM 上のベクトル場X に対し、
∇
X
s
:=
X
(
s
j
)
e
j
+
s
j
ω
^
i
j
(
X
)
e
i
{\displaystyle \nabla _{X}s:=X(s^{j})e_{j}+s^{j}{\hat {\omega }}^{i}{}_{j}(X)e_{i}}
と微分演算子∇ を定義すると、∇ は局所的な基底
e
=
(
e
1
,
…
,
e
n
)
{\displaystyle e=(e_{1},\ldots ,e_{n})}
の取り方によらずwell-defined で、しかも∇ はKoszul接続の公理を満たす。∇ を
ω
{\displaystyle \omega }
から誘導される接続 という。
構造群と接続の両立
G を
G
L
n
(
R
)
{\displaystyle \mathrm {GL} _{n}(\mathbb {R} )}
の部分リー群とする。構造群G を持つベクトルバンドルの接続(Koszul接続)がG と両立する事を以下のように定義する。直観的には平行移動がG の元で書ける事を意味する:
定義より明らかに以下が従う:
定義 ―
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
を構造群G を持つベクトルバンドルとする。このとき、G -フレームバンドル
F
G
(
E
)
{\displaystyle F_{G}(E)}
上の接続形式から誘導されたE の接続はG と両立する。
接続がG と両立する事は、接続形式がG のリー代数に入っている事と同値である:
定義 (G と両立するKoszul接続 ) ― ∇ をE 上定義されたKoszul接続とし、
ω
e
{\displaystyle \omega _{e}}
をその接続形式とする。∇ がG と両立する必要十分条件は、任意の局所的な基底
e
=
(
e
1
,
…
,
e
n
)
{\displaystyle e=(e_{1},\ldots ,e_{n})}
に対し、
ω
e
∈
g
{\displaystyle \omega _{e}\in {\mathfrak {g}}}
が成立する事を言う。
接続形式の章 では平行移動が常に
S
O
(
n
)
{\displaystyle \mathrm {SO} (n)}
の元で表せるときに接続形式が
S
O
(
n
)
{\displaystyle \mathrm {SO} (n)}
のリー代数に入っている事を示したが、上記の定理はこの事実を
G
L
n
(
R
)
{\displaystyle \mathrm {GL} _{n}(\mathbb {R} )}
の任意の部分リー群に対して示したものである。
ベクトルバンドルの接続から主接続の接続へ
G と両立する接続はフレームバンドルの接続に対応している:
定理 ― G を構造群として持つベクトルバンドル
E
→
M
{\displaystyle E\to M}
のKoszul接続∇ がG と両立するとき、フレームバンドルF G (E ) のある接続形式ω が存在し、∇ はω からE に誘導される接続と一致する。
本章の成果をまとめると、以下の結論が得られる:
主接続の曲率
本節では、主接続の場合に対し、上記で定義した曲率形式をリー代数の言葉で書き換える。G をリー群とし、
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
をG のリー代数とし、さらに
π
:
P
→
M
{\displaystyle \pi ~:~P\to M}
をG -主バンドルとし、ω をP の主接続とする。リー代数
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
におけるリー括弧を使って
[
ω
,
ω
]
g
(
X
,
Y
)
:=
[
ω
(
X
)
,
ω
(
Y
)
]
g
{\displaystyle [\omega ,\omega ]_{\mathfrak {g}}(X,Y):=[\omega (X),\omega (Y)]_{\mathfrak {g}}}
と定義し[56] 、さらに前の章 と同様、リー代数の元に基本ベクトル場を対応させる写像
ζ
p
:
A
∈
g
↦
A
_
p
∈
V
p
{\displaystyle \zeta _{p}~:~A\in {\mathfrak {g}}\mapsto {\underline {A}}_{p}\in {\mathcal {V}}_{p}}
を考える。紛れがなければ添字p を省略し単にζ と書く。
定理 (主バンドルの接続の曲率) ― 曲率形式Ω は以下を満たす[57] [58] [56] [注 12] :
(構造方程式 [58] )
ζ
−
1
(
Ω
)
=
d
ω
+
1
2
[
ω
,
ω
]
g
∈
g
{\displaystyle \zeta {}^{-1}(\Omega )=d\omega +{1 \over 2}[\omega ,\omega ]_{\mathfrak {g}}\in {\mathfrak {g}}}
紛れがなければ
ζ
−
1
(
Ω
)
{\displaystyle \zeta {}^{-1}(\Omega )}
を単にΩ と書き、接続形式ω の曲率形式 という。
ベクトルバンドルの接続の曲率
定義
Koszul接続が定義されたベクトルバンドルの曲率を以下のように定義する:
R はX 、Y 、s に関して
C
∞
(
M
)
{\displaystyle C^{\infty }(M)}
-線形であり[60] 、よってR は各点
P
∈
M
{\displaystyle P\in M}
に対し、
R
P
∈
T
∗
M
⊗
T
∗
M
⊗
E
∗
⊗
E
{\displaystyle R_{P}\in T^{*}M\otimes T^{*}M\otimes E^{*}\otimes E}
を対応させるテンソル場とみなせる。
さらにKoszul接続の曲率形式を以下のように定義する:
一般の接続の曲率形式との関係
すでに述べたように ベクトルバンドル
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
上のKoszul接続∇ には、それと対応するファイバーバンドルとしての接続
{
V
e
}
e
∈
E
{\displaystyle \{V_{e}\}_{e\in E}}
が定義可能であるが、上述したKoszul接続の曲率は前述した 一般のファイバーバンドルの曲率形式
Ω
(
ξ
,
η
)
=
−
V
(
[
H
(
ξ
)
,
H
(
η
)
]
)
{\displaystyle \Omega (\xi ,\eta )=-V([H(\xi ),H(\eta )])}
と以下の関係を満たす。ここでH は水平部分空間への射影である。
よって特にKoszul接続の曲率形式
Ω
^
e
{\displaystyle {\hat {\Omega }}_{e}}
とは以下の関係を満たす:
Ω
i
j
(
X
,
Y
)
=
−
⟨
e
i
,
V
(
L
i
f
t
e
j
(
X
)
,
L
i
f
t
e
j
(
Y
)
)
⟩
{\displaystyle \Omega ^{i}{}_{j}(X,Y)=-\langle e^{i},V(\mathrm {Lift} _{e_{j}}(X),\mathrm {Lift} _{e_{j}}(Y))\rangle }
ここで
e
=
(
e
1
,
…
,
e
n
)
{\displaystyle e=(e_{1},\ldots ,e_{n})}
であり、
(
e
1
,
…
,
e
n
)
{\displaystyle (e^{1},\ldots ,e^{n})}
はその双対基底である。
主接続の曲率との関係
E
→
M
{\displaystyle E\to M}
のフレームバンドル
F
G
(
M
)
{\displaystyle F_{G}(M)}
の曲率形式とKoszul接続の曲率形式は以下の関係を満たす:
本節では特に断りのない限り、
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
を完備な 接続
H
=
{
H
e
}
e
∈
E
{\displaystyle {\mathcal {H}}=\{{\mathcal {H}}_{e}\}_{e\in E}}
が定義されたファイバーバンドルでM が連結 なものとする。ここで接続が完備であるとは、M 上の任意の曲線
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
上に
c
(
0
)
{\displaystyle c(0)}
から
c
(
1
)
{\displaystyle c(1)}
までの平行移動を常に定義可能な事を指す。
ホロノミーリー代数
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
における接ベクトル
v
∈
T
u
M
{\displaystyle v\in T_{u}M}
に対し、
e
∈
E
u
{\displaystyle e\in E_{u}}
に
v
{\displaystyle v}
のe での水平リフトを対応させる
e
∈
E
u
↦
L
i
f
t
e
(
v
)
∈
H
e
⊂
T
e
E
{\displaystyle e\in E_{u}\mapsto \mathrm {Lift} _{e}(v)\in {\mathcal {H}}_{e}\subset T_{e}E}
をファイバー
E
u
{\displaystyle E_{u}}
上の切断とみなしたものを
L
i
f
t
(
v
u
)
{\displaystyle \mathrm {Lift} (v_{u})}
と書く。
2つのベクトル
v
u
,
w
u
∈
T
u
M
{\displaystyle v_{u},w_{u}\in T_{u}M}
に対し、
L
i
f
t
(
v
u
)
{\displaystyle \mathrm {Lift} (v_{u})}
、
L
i
f
t
(
w
u
)
{\displaystyle \mathrm {Lift} (w_{u})}
はいずれも
E
u
{\displaystyle E_{u}}
上のベクトル場なので、曲率形式Ω に対して、
Ω
(
L
i
f
t
(
v
u
)
,
L
i
f
t
(
w
u
)
)
∈
V
E
=
T
E
u
{\displaystyle \Omega (\mathrm {Lift} (v_{u}),\mathrm {Lift} (w_{u}))\in VE=TE_{u}}
を定義でき、これは
E
u
{\displaystyle E_{u}}
上のベクトル場とみなせる[64] 。さらに
u
0
∈
M
{\displaystyle u_{0}\in M}
をfixし、u から
u
0
{\displaystyle u_{0}}
までつなぐ曲線
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿って
Ω
(
L
i
f
t
(
v
u
)
,
L
i
f
t
(
w
u
)
)
{\displaystyle \Omega (\mathrm {Lift} (v_{u}),\mathrm {Lift} (w_{u}))}
を平行移動したものを
Ω
c
(
L
i
f
t
(
v
u
)
,
L
i
f
t
(
w
u
)
)
{\displaystyle \Omega _{c}(\mathrm {Lift} (v_{u}),\mathrm {Lift} (w_{u}))}
と書く。
定理・定義 ―
E
u
0
{\displaystyle E_{u_{0}}}
上のベクトル場全体の集合
X
(
E
u
0
)
{\displaystyle {\mathfrak {X}}(E_{u_{0}})}
をリー括弧 (英語版 ) に関する「無限次元リー代数」とみなしたとき、
{
Ω
c
(
L
i
f
t
(
v
u
)
,
L
i
f
t
(
w
u
)
)
|
x
∈
M
,
v
,
w
∈
T
u
M
,
c
{\displaystyle \{\Omega _{c}(\mathrm {Lift} (v_{u}),\mathrm {Lift} (w_{u}))|x\in M,v,w\in T_{u}M,c}
はx からx0 までつなぐM 上の曲線
}
{\displaystyle \}}
を含む最小の(C∞ -位相に関する)閉部分線形空間
を
h
o
l
(
E
,
H
,
x
0
)
{\displaystyle \mathrm {hol} (E,{\mathcal {H}},x_{0})}
と書くとき、
h
o
l
(
E
,
H
,
x
0
)
{\displaystyle \mathrm {hol} (E,{\mathcal {H}},x_{0})}
は
X
(
E
x
0
)
{\displaystyle {\mathfrak {X}}(E_{x_{0}})}
の部分リー代数になっている。
h
o
l
(
E
,
H
,
x
0
)
{\displaystyle \mathrm {hol} (E,{\mathcal {H}},x_{0})}
をホロノミーリー代数 (英 : holonomy Lie algebra )という[64] 。
実は以下の定理が成立する。なお、以下の定理は主バンドルに対するAmbrose–Singerの定理 を任意のファイバーバンドルに一般化したものである:
定理 (Ambrose-Singerの定理の一般化 ) ― ホロノミーリー代数
h
o
l
(
E
,
H
,
x
0
)
{\displaystyle \mathrm {hol} (E,{\mathcal {H}},x_{0})}
が有限次元であれば、以下が成立する:
ホロノミー群
G
:=
H
o
l
(
E
,
H
,
x
0
)
{\displaystyle G:=\mathrm {Hol} (E,{\mathcal {H}},x_{0})}
は
h
o
l
(
E
,
H
,
x
0
)
{\displaystyle \mathrm {hol} (E,{\mathcal {H}},x_{0})}
をリー代数として持つリー群である[64] 。
あるG -主バンドル
π
′
:
P
→
M
{\displaystyle \pi '~:~P\to M}
、およびG のファイバー
E
x
0
{\displaystyle E_{x_{0}}}
への作用が一意に存在し、
π
′
:
P
→
M
{\displaystyle \pi '~:~P\to M}
と
E
x
0
{\displaystyle E_{x_{0}}}
へのG 作用を使って作った
E
x
0
{\displaystyle E_{x_{0}}}
バンドルは
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
と同型である[64] 。
主バンドル
π
′
:
P
→
M
{\displaystyle \pi '~:~P\to M}
には主バンドルとしての接続(詳細次章 )が一意に存在し、この接続が上述の
E
x
0
{\displaystyle E_{x_{0}}}
バンドルに誘導する接続 は
π
:
E
→
M
{\displaystyle \pi ~:~E\to M}
との接続と同一である[64] 。
接続は、歴史的にはまずリーマン幾何学 において見出された。接続の概念のはじまりをどこに置くかについては諸説あるが、クリストッフェル の研究をその淵源とする見方がある[注 13] 。クリストッフェルは1869年の論文で、座標変換の導関数が満たす関係式の研究を通じ、現在クリストッフェル記号 とよばれる量を発見した。これを用いて、リッチ はその学生であるレヴィ=チヴィタ とともに、彼らが絶対微分学 (英語版 ) とよんだ、共変微分 を用いる今でいうテンソル解析 の計算の手法をつくりあげた。
レヴィ=チヴィタはまた、1916年に、リーマン幾何学における接ベクトル の平行移動 の概念を発見し、これが共変微分によって記述されることをみつけた(レヴィ-チヴィタ接続 の名前はこのことによる)。1918年にワイル はそれを一般化して、アフィン接続 の概念に到達した[注 14] 。ここで「接続」にあたる語(独 : Zusammenhang )がはじめて使用された[ 要出典 ] 。
それからすぐに、エリ・カルタン によって、さらなる一般化が行われた。カルタンはクライン のエルランゲン・プログラム の局所化を試みていたのである。1920年代にカルタンは、微分形式 を用いた記述によって、現在カルタン接続 と呼ばれるものを発見していった。カルタンのこの仕事により、リーマン幾何学だけでなく、共形幾何学 (英語版 ) 、射影幾何学 などのさまざまな幾何学を研究するための基礎が築かれた。
しかしカルタンの記述は、微分幾何学の他の基本的概念の整備が進んでいない当時、理解されづらいものだった。その仕事をよりわかりやすいものにして発展させるために、カルタンの学生にあたるCharles Ehresmann は、1940年代から主バンドル やファイバーバンドル を研究した。1951年の論文でEhresmannは、主バンドルの接続を、接分布 (英語版 ) を用いる方法と微分形式による方法の両方で定義した(ファイバーバンドルの接続 )。
その一方で、1950年にJean-Louis Koszul は、ベクトル束の接続の代数的定式化を与えた(ベクトルバンドルの接続 )。Koszulの定式化によると、クリストッフェル記号を明示的に用いる必要は必ずしもなくなり、接続の取り扱いは容易になった[ 要出典 ] 。
出典
C.G. Ricci, T. Levi=Civita (1901), Méthodes de calcul differéntiel absolu et leurs applications (絶対微分学の方法とその応用)矢野(1971) 和訳pp.17-95
#Spivak p.251. 「this possibility of comparing, or "connecting", tangent spaces at different points gives rise to the term "connection".」
#Andrews Lecture 8 p.74, Lecture 10 p.98.
「エーレスマン接続」という訳語は#佐古 を参考にした。#佐古 に目次にこの名称が確認できる。
#Wendl3 p.90.なお本文献のみ「
(
R
g
)
∗
ω
p
{\displaystyle (R_{g})^{*}\omega _{p}}
」ではなく「
(
R
g
)
∗
ω
p
{\displaystyle (R_{g})_{*}\omega _{p}}
」になっているが、前後関係から「
(
R
g
)
∗
ω
p
{\displaystyle (R_{g})^{*}\omega _{p}}
」の誤記と判断。
#Pasquotto p.84.にこの定理のアフィン接続が述べられており、Koszul接続の場合も同様である旨が書いてある。このKoszul接続の場合は他の文献の記述からも従う。実際、
G
=
G
L
n
(
R
)
{\displaystyle G=\mathrm {GL} _{n}(\mathbb {R} )}
の場合に1:1対応する事は#森田 pp.319-321従い、この場合に
ω
^
e
=
e
∗
(
ω
)
{\displaystyle {\hat {\omega }}_{e}=e^{*}(\omega )}
となる事は#Tu p.268から従う。そしてG が
G
L
n
(
R
)
{\displaystyle \mathrm {GL} _{n}(\mathbb {R} )}
の部分リー群である場合に関しては#Kobayashi-Nomizu1 p.83のRemarkより
G
L
n
(
R
)
{\displaystyle \mathrm {GL} _{n}(\mathbb {R} )}
-主バンドル
F
G
L
n
(
R
)
(
E
)
{\displaystyle F_{\mathrm {GL} _{n}(\mathbb {R} )}(E)}
上の接続形式がG -主バンドル
F
G
(
E
)
{\displaystyle F_{G}(E)}
にreduceする必要十分条件はω がG のリー代数に値を取る事であるので、上記の事実から従う。
注釈
人名「Koszul」を「コシュール」と訳している文献[2] [3] [4] があるため、「コシュール接続」と読むと思われるが、「コシュール接続」と訳した文献を発見できなかったので本項では「Koszul接続」と表記した。なお、Wikipediaの英語版には「フランス語: [kɔsyl] 」とある。
接続∇ はM の全域 で定義されたベクトル場と切断に関するものなので、このような局所的に定義された座標で表示できるか否かは非自明である。しかし∇ が「局所演算子」という性質を満たすことにより、局所的な座標で表示可能な事を示すことができる。詳細は接続 (ベクトル束) の項目を参照されたい。
成分
ω
i
j
{\displaystyle \omega ^{i}{}_{j}}
接続形式といい、ω を接続行列 (英 : connection matrix )と呼ぶ場合もある[22] 。
厳密には以下の通りである。M の曲線
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿って定義された局所的な基底
e
(
t
)
=
(
e
1
(
t
)
,
…
,
e
n
(
t
)
)
{\displaystyle e(t)=(e_{1}(t),\ldots ,e_{n}(t))}
を考え、
e
(
0
)
{\displaystyle e(0)}
を
c
(
t
)
{\displaystyle c(t)}
に沿って平行移動したものを
e
¯
(
t
)
=
(
e
¯
1
(
t
)
,
…
,
e
¯
n
(
t
)
)
{\displaystyle {\bar {e}}(t)=({\bar {e}}_{1}(t),\ldots ,{\bar {e}}_{n}(t))}
として行列
A
(
t
)
{\displaystyle A(t)}
を
e
(
t
)
=
e
¯
(
t
)
A
(
t
)
{\displaystyle e(t)={\bar {e}}(t)A(t)}
により定義すると、接続形式の定義より、
e
(
0
)
ω
(
d
c
d
t
(
0
)
)
{\displaystyle e(0)\omega \left({dc \over dt}(0)\right)}
=
∇
d
t
e
(
t
)
|
t
=
0
{\displaystyle =\left.{\nabla \over dt}e(t)\right|_{t=0}}
=
∇
d
t
e
¯
(
t
)
A
(
t
)
|
t
=
0
{\displaystyle =\left.{\nabla \over dt}{\bar {e}}(t)A(t)\right|_{t=0}}
=
e
¯
(
0
)
d
A
d
t
(
0
)
{\displaystyle ={\bar {e}}(0){dA \over dt}(0)}
=
e
(
0
)
d
A
d
t
(
0
)
{\displaystyle =e(0){dA \over dt}(0)}
が成立する。ここで
∇
d
t
e
(
t
)
{\displaystyle {\nabla \over dt}e(t)}
は成分ごとの微分
(
∇
d
t
e
1
(
t
)
,
…
,
∇
d
t
e
n
(
t
)
)
{\displaystyle \left({\nabla \over dt}e_{1}(t),\ldots ,{\nabla \over dt}e_{n}(t)\right)}
の事である。 ∇ が計量と両立すれば、
e
¯
(
t
)
{\displaystyle {\bar {e}}(t)}
は正規直交基底である。よって
e
(
t
)
{\displaystyle e(t)}
が正規直交基底であれば、
e
(
t
)
=
e
¯
(
t
)
A
(
t
)
{\displaystyle e(t)={\bar {e}}(t)A(t)}
より
A
(
t
)
{\displaystyle A(t)}
は回転変換であり、
A
(
t
)
{\displaystyle A(t)}
の微分は歪対称行列である。
ここで
T
e
(
E
π
(
e
)
)
{\displaystyle T_{e}(E_{\pi (e)})}
はπ (e ) のファイバー
E
π
(
e
)
{\displaystyle E_{\pi (e)}}
の点e における接空間であり、包含写像
E
π
(
e
)
⊂
E
{\displaystyle E_{\pi (e)}\subset E}
が誘導する写像
T
e
E
π
(
e
)
↪
T
e
E
{\displaystyle T_{e}E_{\pi (e)}\hookrightarrow T_{e}E}
により
T
e
E
π
(
e
)
{\displaystyle T_{e}E_{\pi (e)}}
をTe E の部分空間とみなしている。
この「
H
e
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{e}}
はe に関してC∞ 級である」というのを厳密に定式化する方法は(同値な方法が)いくつかあるが、一つの方法は
H
=
∪
e
∈
E
H
e
{\displaystyle {\mathcal {H}}=\cup _{e\in E}{\mathcal {H}}_{e}}
を
H
e
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{e}}
を
e
∈
E
{\displaystyle e\in E}
上のファイバーとするTE の部分ベクトルバンドルとみなし、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
がTE のC∞ 級の部分ベクトルバンドルである事を要請するというものである。
垂直部分空間の定義より
V
e
=
T
e
E
π
(
e
)
{\displaystyle {\mathcal {V}}_{e}=T_{e}E_{\pi (e)}}
であるが、
E
π
(
e
)
{\displaystyle E_{\pi (e)}}
はベクトル空間なので、
E
π
(
e
)
{\displaystyle E_{\pi (e)}}
と接空間
T
e
E
π
(
e
)
{\displaystyle T_{e}E_{\pi (e)}}
と
E
π
(
e
)
{\displaystyle E_{\pi (e)}}
は自然に同一視できる。
なお 、#Salamon では
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
の(標準的とは限らない)基底
(
f
1
,
…
,
f
n
)
{\displaystyle (f_{1},\ldots ,f_{n})}
を
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
から
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
への線形写像f と自然に同一視し、各
u
∈
M
{\displaystyle u\in M}
に対し、
R
n
→
f
E
x
→
φ
α
{
u
}
×
R
n
≈
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}{\overset {f}{\to }}E_{x}{\overset {\varphi _{\alpha }}{\to }}\{u\}\times \mathbb {R} ^{n}\approx \mathbb {R} ^{n}}
がG に属する事を持ってG -フレームを定義しているが、この定義は本項で述べたものと同値である。
#Wendl3 の定義は若干曖昧で単に「十分短い曲線」(sufficiently short path)に沿った平行移動がG と両立する自明化(G -compatible connection)
v
→
g
(
t
)
v
{\displaystyle v\to g(t)v}
for
g
(
t
)
∈
G
{\displaystyle g(t)\in G}
を持つとしか言っていないが、局所自明化可能な領域内の曲線がこのように書ければ十分なので、ここではそのように定義した。
ここで
Ω
(
ξ
,
η
)
{\displaystyle \Omega (\xi ,\eta )}
が
C
∞
(
E
)
{\displaystyle C^{\infty }(E)}
-線形であるとは、通常の線形性を満たすのみならず関数f に対して
f
⋅
Ω
(
ξ
,
η
)
{\displaystyle f\cdot \Omega (\xi ,\eta )}
=
Ω
(
f
⋅
ξ
,
η
)
{\displaystyle =\Omega (f\cdot \xi ,\eta )}
=
Ω
(
ξ
,
f
⋅
η
)
{\displaystyle =\Omega (\xi ,f\cdot \eta )}
を満たす事を指す[53] 。
C
∞
(
E
)
{\displaystyle C^{\infty }(E)}
-線形である事は、
Ω
(
ξ
,
η
)
{\displaystyle \Omega (\xi ,\eta )}
の各点
e
∈
E
{\displaystyle e\in E}
における値がξ 、η の点e における値ξe 、ηe のみで決まること、すなわちΩ が各点における双線形写像のテンソル場とみなせる事と同値である事が知られている[54] 。
#Kolar p.100-101.のみ右辺第二項は
1
2
[
ω
,
ω
]
∧
=
[
ω
,
ω
]
{\displaystyle {\tfrac {1}{2}}[\omega ,\omega ]_{\wedge }=[\omega ,\omega ]}
となっているが、これは#Kolar の間違いであると判断した。実際#Kolar p.100の一番下にある
[
⋅
,
⋅
]
∧
{\displaystyle [\cdot ,\cdot ]_{\wedge }}
の定義式に
p
=
q
=
1
{\displaystyle p=q=1}
を代入すると
[
ω
,
ω
]
∧
=
[
ω
,
ω
]
{\displaystyle [\omega ,\omega ]_{\wedge }=[\omega ,\omega ]}
となり、
1
2
[
ω
,
ω
]
∧
=
[
ω
,
ω
]
{\displaystyle {\tfrac {1}{2}}[\omega ,\omega ]_{\wedge }=[\omega ,\omega ]}
とはならない。またこの#Kolar p.100の一番下の係数
1
p
!
q
!
{\displaystyle {\tfrac {1}{p!q!}}}
は#森田 の1巻のp.95.では
1
(
p
+
q
)
!
{\displaystyle {\tfrac {1}{(p+q)!}}}
になっているため、#Kolar が
[
⋅
,
⋅
]
∧
{\displaystyle [\cdot ,\cdot ]_{\wedge }}
の定義式を間違えた可能性が高い。#Tu p.285も参照。
これはFreemanの立場。ほかには、たとえば岩波数学辞典は後出のレヴィ=チヴィタによる平行移動の発見を接続の概念のはじまりとしている。
正確には、現在の言葉でいう捩れのないアフィン接続。
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森田茂之『微分形式の幾何学2 』 14[26]、岩波書店 〈岩波講座 現代数学の基礎〉、2001年5月23日。ISBN 978-4000110143 。https://www.iwanami.co.jp/book/b480194.html 。
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