囲碁において捨て石(すていし、捨石)とは、意図的に相手に取らせることで利益を得るために打たれる石のことである。序盤からヨセの段階まで、ゲームの進行の各段階においてしばしば用いられる手筋であり手段である。

捨て石

  1. の状態や用途で、次のものをいう。
    • 道端や山野に転がっている石。
    • 日本庭園などで、おもむきを出すために置かれる石。
    • 堤防護岸橋脚の工事で、水の勢いを弱めるために水中に投入している石。
    • 鉱山で、採掘などの際に捨てられる無価値な石。ずり。ぼた。廃石。
  2. 囲碁用語のひとつ。本項で解説する。
  3. 上記の囲碁用語から転じて、今は無駄あるいは損に見える、将来の利益を期待して行う投資や行為のこと。

定石における捨て石

図の左上は、ツケギリ定石の進行例である。黒は2子を捨て石にすることで、白を凝り形にしている。黒は9といったん下がって捨て石を増やし、手数が延びたのを利用して11のアテ、13のオサエ、15のアテまでを先手で決めることができる。「2子にして捨てよ」という格言はこうしたケースを指す。

右上もほぼ同様で、隅の黒5・7を捨て石に外勢を固める定石。

右下はハメ手の一種で、黒1以下と打ち込んだ石を捨て石に、外回りを塗り固める手段。

中盤における捨て石

中盤における捨石には、およそ2種類がある。

軽く打っている場合の捨石

主に敵陣においてサバキの手として打たれる。切った石のうちどちらかが助かればよいという打ち方、もしくは2ヶ所に打ち込んでどちらかが助かればよいという打ち方など、見合いの構想によって打たれる。この場合、片方の石は生き、片方は捨石になったとされる。

厚く打っている場合の捨石

取らせる石があらかじめはっきりしているような場合もある。石を取らせることによって相手を強化してしまう反面、自分も強くさせようという打ち方。「2子にして捨てよ」という格言があり、相手がわずかな石を取ることにもたついている間に、自分はもっと効果的な着手をしようという発想である。

囲碁の対局では、布石の段階が終わった時点からは、「自身のもつ模様を広げる」「相手の弱い石を攻める」などの構想を持って打ち進める。相手の弱い石を攻める場合は、キリを入れるなどして、相手の石をとことん弱くしていく方法がよく取られる。この際、「キリを入れた石」など、相手の石を攻める際に重要だ、とされる石を特にカナメ石と呼び、双方の攻防の争点となりやすい。また、対局が進むにつれて「さほど重要ではない点に自分の石が残っている」ケースがあり、この「邪魔な石」を利用しながら攻めるぞ、と相手を脅しながら打つ手段が成立する。この際の「邪魔な石」を、特にカス石と呼び、このような打ち方を俗に「カス石を取らせて打つ」などと表現する。

ヨセにおける捨て石

ヨセにおいては、「先手を保持して打ち進めること」が重要視される。そのために捨て石が利用されることがある。このような捨て石を「おまじない」と表現することもある。たとえば下図では、黒1のキリコミが手筋。白2のカカエなら、黒3を先手で利かせることができる。

これを拒否しようとして白が2にツグと、黒に3とツケられて大損害となる。白aならば黒bにワタって白地が大破するし、白bなら黒aで丸取られとなる。

死活における捨て石

上図の場合、黒が1の点に一子を捨て石として打つことにより、この部分を欠け眼にして全体の白を殺すことができる。こうした眼を奪う捨て石の手を「ウチカキ」あるいは「ホウリコミ」と称する。

珍瓏における捨て石

名人因碩こと井上道節因碩が著した『囲碁発陽論』(1713年)の香餌懸魚勢(こうじけんぎょのせい)は15子捨てから始めて計72子を捨てる全局詰碁(珍瓏)である。それを改良したのが赤星因徹で、その著の『玄覧』(1846年)の垂棘屈産失国之形(すいきょくくっさんしっこくのかた)は、16子捨ての場所で一眼しかできず、他の抜き跡ではことごとく眼がつくれない形で、計84子を打ち上げたにもかかわらず全滅するという全局詰碁である。石の下も参照。

参考図書

  • 加納嘉徳『捨て石の百科―初段の心得 (1977年) (現代囲碁文庫)』1977年
  • 梅沢由香里の石の捨て方入門 (マイコミ囲碁ブックス) 』2007年

関連項目

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