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歌舞伎舞踊の演目のひとつ ウィキペディアから
『娘道成寺』(むすめどうじょうじ)とは、歌舞伎舞踊の演目のひとつ。またその伴奏音楽である長唄の曲のひとつ。今日では、『京鹿子娘道成寺』(きょうがのこむすめどうじょうじ)が正式な外題である。
古くは道成寺伝説を題材にした「道成寺もの」と呼ばれる演目や踊りが複数あり、それぞれお家芸である独特の所作や振付けなどを盛り込んだものだった。初代富十郎はそうした「道成寺もの」の中から、初代瀬川菊之丞が踊った『百千鳥娘道成寺』(ももちどりむすめどうじょうじ)を構成の土台とし、自らの当り芸である『娘道成寺』を作り上げた。そして現在まで曲と振付けが揃って伝わるのは初代富十郎の『娘道成寺』のみとなってしまったので、歌舞伎や日本舞踊で『娘道成寺』といえば通常初代富十郎が演じたものを指す。
なお派生形として二人の白拍子が踊りを競う『二人道成寺』(ににんどうじょうじ)や、立役が主役の『奴道成寺』(やっこどうじょうじ)、また男と女二人で踊る『男女道成寺』(めおとどうじょうじ)があるが、いずれも曲や構成は『娘道成寺』のものを基本として使っている。
全体は道行、問答、踊りに大きく分けられる。
幕が開くと「聞いたか、聞いたか」、「聞いたぞ、聞いたぞ」の科白を言いながら大勢の所化が花道より登場(俗にこれを「聞いたか坊主」と呼ぶ)、本舞台に来る[4]。所化たちが舞尽くしの科白をいうくだりなどあり、それを終えると舞台に並んで座る。下手には後見が寺の入口をあらわす小さな木戸を持ってきて舞台に据える。上手からは竹本連中の乗った山台を引出して第一段の道行が始まる。
桜満開の道成寺。清姫の化身だった大蛇に鐘を焼かれた道成寺は長らく女人禁制となっていた。以来鐘がなかったが、ようやく鐘が奉納されることとなり、その供養が行われることになった。
そこに、花子という美しい女がやってきた。聞けば白拍子だという。鐘の供養があると聞いたので拝ませてほしいという。所化(修行中の若い僧)たちは白拍子の美しさに、舞を舞うことを条件として烏帽子を渡し入山を許してしまう。
花子は舞いながら次第に鐘に近づく。所化たちは花子が実は清姫の化身だったことに気づくが時遅く、とうとう清姫は鐘の中に飛び込む。と、鐘の上に大蛇が現れる。
…と、一応上のような「あらすじ」ではあるが、実際にはその内容のほとんどが、構成の項で解説した主役による娘踊りで占められている。つまり、本作のあらすじは舞踊を展開するための動機と舞台を用意するための設定で、劇的な展開を期待すると作品の方向性を見失ってしまう。まずは演者の踊りそのものを鑑賞するのが、この作品の要点である。
『娘道成寺』は、舞に華麗さ、品格の高さが要求されるのみならず、1時間以上をほとんど一人で踊りきるので、芸の力と高度な技術に加え、相当の体力が必要となる。
歌舞伎舞踊の頂点をなす作品で、過去に多くの名優がこれをつとめてきた。初演以後は、三代目坂東三津五郎、四代目中村芝翫、九代目市川團十郎、五代目中村歌右衛門、六代目尾上菊五郎、七代目坂東三津五郎、六代目中村歌右衛門、七代目尾上梅幸などの名優がつとめ、現在では七代目尾上菊五郎、十八代目中村勘三郎、四代目坂田藤十郎、五代目坂東玉三郎が得意としている。
成駒屋では五代目中村歌右衛門がこれを当り役として以来、一門の歌右衛門・芝翫・福助の襲名披露興行で必ず出す演目となっている。
「劇聖」と呼ばれた九代目團十郎は、立役でありながら十代の頃は『娘道成寺』を毎日踊ることを日課としていた。後に本人は、この踊りには踊りの要素のすべてが入っており、所作の基礎訓練には格好の教材だったからだと述懐している[10]。また、六代目菊五郎も『娘道成寺』で多く評価を得たが、本人はまだまだ不本意だという感が常にあったらしく、死去するさいの辞世の句「まだ足らぬ おどりおどりて あの世まで」の「おどり」は、この『娘道成寺』を指している。
現在では『娘道成寺』を上演する際、その役名を「白拍子花子」とするが、江戸時代にはこの役名は一定していなかった[11]。たとえば宝暦3年の時に演じた富十郎の役名は花子ではなく横笛であった。横笛という娘が殺される場面がこの舞踊の前の幕にあり、その亡霊が白拍子となって鐘供養の場にあらわれる…という筋書きが、この時演じられた娘道成寺にあったという[12]。そして富十郎以降においても、『娘道成寺』は違う芝居の一部に加えられ、白拍子もその芝居の中の人物に名を変えて当てはめられた(ちなみに鐘の供養をする寺の名も、当然道成寺に限らなかった)。もっとも江戸時代においても、その時の芝居の内容とは関係なく独立した所作事として上演される例はあったが、それでも役名は「白拍子桜木」や「白拍子桜子」、または単に「白拍子」としていた。「白拍子花子」というのは明治以降定着したものである。
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