割り箸、割箸(わりばし)とは、割れ目を入れてあり、使うときに二つに割る日本の箸。
材質は木もしくは竹が多く、紙袋に封入されていることも多い[1][2][3]。
日本の木の文化と共に開発された箸であり、来客用、営業用として使われるハレとケの兼用の箸である。祝い事や神事は「ハレ(晴れ)の箸」、家庭用や普段使うのは「ケの箸」、この両方を兼ね備えているのが割り箸である。割り箸を割ることには祝事や神事などにおいて「事を始める」という意味があり、その際には真新しい割り箸が用意されてきた[1]。
かつて割り箸は「一度の使用で使い捨てられるから森林を破壊する」と批判されたが、「木材を無駄なく使う木工品だから環境負荷が少ない」と評価が変わった。2023年時点ではプラスチック製よりも環境的なカトラリーであることから、日本国外の割り箸市場が成長している。需要が右肩上がりであり、欧米人でもスプーンやフォークなど共に使うカトラリーになっている。2022年時点で世界の割り箸の市場規模は181億ドル(約2兆4000億円)に達し、2023年から2028年までに5.30%の成長率が見込まれており、268億5000万ドル(約3兆000億円)に達すると予測されている[3]。
特徴
割り箸には次のような特徴がある。
- 割裂性
- 割り箸は竹や杉の割裂性を利用して作られてきた[2]。
- 清潔性
- 割られる前の割り箸はまだ使われていないことを示しており安心感を与える[2]。
- 機能性
- 割り箸は使い捨てで飲食店での時間と労力の節約となる[2]。ただし廃棄物の増加などの問題がある。
- 鑑賞性
- 割り箸は木の柾目など自然の素材を生かしたもので鑑賞性を持つ[2]。
実用的な理由では、素麺、ひやむぎ、うどんなどの 麺類を食べるとき、塗り箸などよりも滑りにくく、食べ物を保持しやすくなる。りんご飴や綿菓子に使用する場合、串よりも丈夫である事から保持しやすいなどの理由がある。
種類
形状
割り箸の形状は明治から大正期にかけて「丁六」「小判」「元禄」「利久」「天削」の5種類が考案された[2]。
- 丁六
- 頭部は長方形で中溝も四方の面取りもされていない最も基本的な割り箸[2]。明治10年に奈良県吉野郡の寺子屋教師であった島本忠雄によって考案された[2]。大衆に親しまれるようにと江戸時代に一般庶民が使用した丁銀(丁六)に因んで名づけられた[2]。
- 小判
- 四方の角を落した形状の割り箸[2]。中溝は彫られておらず、丁六と元禄の中間に位置するような形状をしている。
- 元禄
- 四方の角を切り落とし割れ目にも溝を入れた割り箸[2]。明治30年代に大和下市(奈良県下市町)で考案された[2]。箸の先の断面を見ると、八角形が 2つ並んでいるように見える。
- 利久
- 千利休が考案したとされる利休箸の小割の工程をもとに、これに割れ目、中溝を付け、さらに両端を削った割り箸[2]。明治末期に大和下市の小間治三郎が考案した[2]。二本合わせると真中が最も太く両端になるに従って細くなる。この形式の割り箸は二本がくっつくと一対の形になることから「夫婦利休」ともいう[2]。箸業界では縁起を担いで「利久箸」とあてた[2]。
- 天削(てんそげ)
- 天部分を鋭角に削ぎ落した形状をした割り箸[2]。大正5年に考案された[2]。わずかに先細、角取、溝付などの加工を施す[2]。
素材
そもそもは杉や竹を用いて作られていたが、檜やエゾ松なども多く利用される。普及品には白樺やアスペン(ホワイトポプラ)など材が用いられることもあるが、素材ごとに独特の匂いがある。素材の違いにより、杉箸、竹箸、白樺箸などと呼ばれる。
- 檜
- 木の肌が滑らかで香りがよく、耐久性が強い特徴がある。香りには天然の殺虫、防カビ抗菌効果の強い物質が多く含まれる。資材利用の板にする工程が断裁であるため、端材を利用する割り箸としての歩留まりがよい。
- 白樺
- 木質がねばり強く、安値である。白樺は樹液が多く木材としての利用は僅かで、利用されないまま倒木して朽ち果てている状況である。国内の割箸製造業者では、白樺の樹液を煮沸する事により取り去り、有効活用している。
製造方法
スギを用いた割り箸では原料として製材時に出る端材を原料とする。丸太を製材すると断面が円弧状の背板と呼ばれる端材が生じる。これを用いて割り箸に加工する。家内制手工業的な小規模の工場で製造される。また、背板を輸出し、輸出した先で加工し輸入するという方法も行われている。一方でシラカバ等を原料として製造する場合は端材ではなく丸太が用いられる。丸太を合板の単板(ベニヤ)を製造する要領でロータリーレースで板状にし、それから箸に加工する。
長さ
寸を用いて基本的に4種類。割り箸の独特の慣習で実際は1寸(約3cm)短い寸法となる。
- 6寸(約16.5cm)、7寸(約18cm)、8寸(約21cm)、9寸(約24cm)
6寸には「丁度六寸」の丁六箸の意味もある。8寸は末広がりの縁起「八」を兼ねて祝い事(ハレの箸)に多く使用される。
箸袋・箸帯・箸飾り
割り箸は紙でできた袋(箸袋、箸包)に入っていることが多い。1916年(大正5年)に大阪の藤村という職工が駅弁用に袋に入れた箸を衛生割箸として意匠登録したことに始まる[2]。
コンビニエンスストアで弁当などの付属品として提供されるものはポリエチレン製になっている。紙袋に入ったものは割り箸の一部が袋から露出しているものと袋に完全に封入されているもの(完封)がある。ポリエチレン袋に入ったものは全て密封されている。箸袋の中に爪楊枝が同封されていることがある。その際には爪楊枝で怪我をしないようにとの注意書きがある。
箸袋に「おてもと」と書いてあることがあるが、これは「手もとに置く箸」という意味の「お手もと箸」が省略されたものである[5]。また、箸袋にはその提供元の店名やその連絡先(住所及び電話番号)が書かれていることもある。
日本料理店等では通常の箸袋ではなく箸帯(割り箸の中央部を巻きつけるもの)や箸飾り(割り箸の先端を通しておくもの)を用いているところもある。
歴史
割り箸は江戸時代の「割りかけ箸」や「引き裂き箸」と呼ばれる竹製の箸を起源にしている[2][1]。1709年(宝永六年)に書かれた出納簿のなかに「杦(すぎ)はし」「はし」と並んで「わりばし」が記載されている[6]。1800年(寛政12年)頃とする説もある[1]。江戸時代後半の記録としてはこのほか、十返舎一九『青楼松之裡』で割箸を知らない「田舎者」が一本では箸の用をなさないと文句を言う場面があるほか、『守貞謾稿』で文政期の習慣として鰻飯には「引裂箸」を添えると記している[4]。
ただし箸の生産が生業として始められたのは大和下市(奈良県下市町)でのことである[2]。奈良県下市町は江戸時代の寛政年間以来、吉野杉で作られる樽の余材を利用した割り箸を産物としており「わりばしの発祥の地」を標榜している[7]。その製法を提案したのは、1862年に訪れた巡礼僧の杉原宗庵であると伝わっている[4](ただし同年は既に幕末であり、上記の割り箸について記した諸書よりも後代である)。下市には吉野杉箸神社があり、箸の日(8月4日)に規格外の割り箸を焚き上げて山や木に感謝する神事「箸祭り」を行なっている[4]。
諸問題
日本での割り箸の消費量は年間およそ250億膳で、その9割以上が輸入である[8]。2006年、日本で使用された割り箸の98%は輸入品であり、その内99%は中華人民共和国からの輸入品であった[9]。なお、中国国内では年間300億膳の割り箸が消費されている[10]
割り箸は、使い捨ての象徴としてしばしば批判の対象とされていた[3]
輸入品の多くは、割り箸などを安価に製造するために間伐材ではなく皆伐方式(丸太ごと利用)で伐採されているため、森林の破壊や減少、使用後の箸の焼却による二酸化炭素(CO2)の排出など、環境問題への影響があると主張された[11]。ただし、中国は世界第二位の合板輸出国であるが、割り箸の木材消費量は全体の約0.16%で[10]、さらに、日本に輸出され使われる割り箸はその半分以下であることから[10]、伐採による森林減少の元凶は他の木材製品であるとする指摘もある[10]。
国内産の割り箸については、割り箸製造のために伐採されたものではなく、建築用材の端材や残材あるいは間伐材から製造されたものである[1]。日本での割り箸生産は明治時代に樽を製造する際にスギの端材を有効利用して製造されたことに始まっている[1]。林野庁は2005年度から「木づかい運動」をスタートさせており、森林の放置による木々の密集によって森林環境が悪化するのを防ぐ間伐などを行い、CO2を十分に吸収できる森林の形成と国産材の積極的利用を通じた山村活性化を進めている[12]。
割り箸に限らず、間伐材を有効利用することは、資金を山に還元することにつながることから、山村の活性化や森林整備の促進というメリットも挙げられている[1]。コンビニエンスストアや外食チェーン店では、日本産の端材や間伐材への転換を進めている企業もある[1]。奈良県吉野地方の割り箸業界では、数百年にわたり森を育て、材木に使わない残りを割り箸に加工し、削り屑を燃やして乾燥に使う割り箸生産は持続可能な開発目標(SDGs)の趣旨に合うと主張している[4]。
林野庁のウェブページ「こども森林館」では「割り箸を使用する私たちも、大量生産・大量消費を見直し、バランスのとれた循環型社会に向けて取り組む必要があるのではないでしょうか」としている[8]。
2023年にはプラスチックより環境的なカトラリーとして欧米人に評価されている[3]。
代替品への転換
中国では2006年11月より資源保護政策の一環として輸出関税10%が付加されるようになった。このため、割り箸を大量に使用する飲食業界では、値上がりや輸入中止などのリスクが危惧されている。松屋フーズ、吉野家、ワタミフードサービス、ゼンショーなどのような大手・中堅飲食チェーンでは、割り箸を取りやめ樹脂製の箸(従来学生食堂や社内食堂などで使われていたもの)に切り替えた飲食チェーンが多いが、これは一般に向けてのエコアピールによる企業イメージ向上の目的も強い。
一方で、以下の事情から、割り箸の使用を継続、または樹脂製箸と併置して、客の選択肢に任せる事業者も、ある程度存在する。
- 樹脂製の箸は再利用できるものの、費用が割高な上に、劣化による定期的な更新が必要なこと。
- 洗浄で大量の上水道の使用と、洗剤を含んだ排水が発生すること。
- 樹脂製箸は材料に石油系資源を使うことによる資源の浪費。
- 医療現場などでの衛生上の観点から進んでいるディスポーザブル(使い切り)の流れに反すること。
- 他者が口に入れた用具を再利用することへの嫌悪感。
- 麺類・揚げ物が食べにくいといった顧客側の要望から。
日本では、外食時にも割り箸を使わず、自前の「マイ箸」を使う運動を進めている団体もある。また、韓国では自国の文化の保護とCO2排出量の抑制を目的として、割り箸に多額の税金を課しているため、ほとんどの飲食店では鉄箸を洗って繰り返し使用している。
近年、木製の割箸から竹製の割り箸への転換も進んでいる。竹は3年余で成長し再生が早く、また、竹製の割り箸には折れにくく美しく割れるといった利点もある[13]。竹製割箸の欠点はカビや虫食いが生じやすい点である。輸入割りばし特に中国産竹製割箸での二酸化硫黄及び亜硫酸塩類・防かび剤の使用が問題となり、日本でも亜硫酸塩類は漂白剤や保存料、酸化防止剤として様々な食品に使用されている食品添加物である。厚生労働省はこの問題を受けて2003年以降、二酸化硫黄及び亜硫酸塩類の溶出限度値の引き下げと試験方法の見直しを行った[14]。
リサイクル
輸入材の安全性の問題
中国から輸入された割り箸に二酸化硫黄などの漂白剤、防カビ剤、防腐剤が多く残留しているものがあり、人体への影響も懸念されるため、 厚生労働省が策定した「 割箸に係る監視指導について」に基づいた検査を行い、残留していないことが証明されたもののみ使用するようになっている。
割り方
主に次の3種類がよく見掛けられる。
- 体の前で割り箸を横方向に保持し、両手で上下に広げて割る
- 体の前で割り箸を縦方向に保持し、両手で左右に広げて割る
- 片手で割り箸を横方向に保持し、歯で片側を噛んで、片側を手で下に引っ張る
3.は、立ち食い蕎麦を食べる場合など、片手がふさがっている場合などのやむを得ない場合によく行われるが、下品とされる。割った後で他人に手が当たったり、料理をこぼしたりする可能性が低い1.が最もマナーがよいとも言われる。 なお、割り口にささくれ立った部分が残り、指や唇を傷つけないようにするために、両端をこする人もいるが、これを嫌う人もいる。
食べ物を保持する以外の使い方
安価で手頃な木材として、様々に利用される機会もあるが、前述の環境問題などから使用済みの割り箸の再利用が望ましいともされるが、実現されていない。
脚注
関連項目
外部リンク
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