『倫理学原理』(りんりがくげんり、Principia Ethica)は、1903年のジョージ・エドワード・ムーアの著書。「善」は定義不可能であると主張し、自然主義的誤謬の解説を提示する。ムーアの主張は倫理哲学の画期的な進歩として長く評価され、ムーアのほかの分野における業績と比べて見劣りするとされているものの、『倫理学原理』は大きな影響力を持つ。
『倫理学原理』は1903年10月にケンブリッジ大学出版局から出版された。1922年と1929年に増刷が出版された。ニコラ・アッバニャーノ(英語版)による序文を含むジャンニ・ヴァッティモのイタリア語版は1964年にボンピアーニ(英語版)から出版された。
ムーアは、倫理学とは次の3つの基本的な問いであると主張する。
- 善とは何か。
- それ自体で善いまたは悪いものとは何か。
- 手段として善いものとは何か。
『倫理学原理』は大きな影響力を持つ著作であり、多くの人に倫理学に関する主張を事実の言明から導出することはできないと納得させた。クライヴ・ベル(英語版)は、本書のスペンサーとミルへの反論を通じて、ムーアは彼の世代を功利主義から解放したと評した。『倫理学原理』はブルームズベリー・グループにとっての聖書であり、彼らの美的価値観の哲学的な根幹をなすものであった。レナード・ウルフ(英語版)は、本書が無意味な世界で生き続ける方法を示した一冊であると評した。ムーアが「有機的全体」(organic whole)と呼ぶ美学の思想は、ヴァージニア・ウルフを含むモダニストにとっての美学の指針となり、クライヴ・ベル(英語版)の美学に影響を与えた。
ムーアの倫理的直観主義(英語版)は、情緒主義などの非認知主義の倫理思想への道を開いたと考えられている。
『正義論』(1971)で、ジョン・ロールズは、ムーアの思想を『The Theory of Good and Evil(英語版)』(1907)におけるヘースティングス・ラシュドールの思想と比較した。ムーアの思想は、フランツ・ブレンターノ、マックス・シェーラー、ニコライ・ハルトマンの思想とも比較されている。
ジェフリー・ワーノック(英語版)は、『倫理学原理』を倫理学以外の分野におけるムーアの業績と比べて見劣りすると評した。『倫理学原理』を当初は高く評価したジョン・メイナード・ケインズは、1938年の論文『My Early Beliefs』で本書をユートピア主義者であるムーアの人間の理性と良識についての根本的な信念であるとして批判している。
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