ブドウ品種 ウィキペディアから
レフォスコ (Refosco) は、イタリア北東部からスロベニア、クロアチア (とくにヴェネト州、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州、イストリア半島、クラス (カルソ) 地方) を中心に古くから[1] 栽培され、土着品種と考えられてきた黒ブドウ品種群の総称である[2]。
長年イタリア、スロベニア、クロアチアでは「レフォスコ (refosco) 」や「レフォシュク (refošk) 」という名称が、実際には類縁関係にないさまざまな品種に用いられてきたため、「レフォスコ」の名をもつブドウ品種や、それらと同一品種とされるブドウ区別し、系統立てることは困難を極める。21世紀に入ってからDNA型鑑定を用いた研究が進められた結果、一部の品種および名称については以下のように峻別・分類されている。
レフォスコの系列品種の歴史は古く、その初期の状態については明らかになっていない。レフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソをDNA分析にかけてみたところ、同じくイタリア北部に古くから栽培されているマルツェミーノは親種にあたり、コルヴィーナは子種、ロンディネッラは孫種にあたることが判明した。また、レフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソはトレンティーノ=アルト・アディジェ州の土着品種、テロルデゴの孫種にあたることから、イタリア北東部の固有種の系統図において重要なピースのひとつと考えられる[12][13]。
かつては、フランス東部のサヴォア地方を中心に見かけられるモンデュース・ノワールが、ワインの特徴の類似性から、レフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソと同一種ではないかと唱える専門家もいた。DNA型鑑定によって、この説は否定され、両品種は類縁関係にないことが判明した[14]。
一部の専門家は、フリウリの土着品種であるピクリット・ネーリ (Piculit Neri) がレフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソもしくはレフォスコ・ノストラーノと同一品種であるという仮説を長年唱えていたが (興味深いことに、地元ブドウ農家にはピクリット・ネーリを「レフォスコ」と呼ぶ習慣はなかった) 、DNA型鑑定の結果、ピクリット・ネーリはいずれの品種とも異なることが判明した[15]。
ブドウ品種学者のなかには、古代ローマのプッキヌム (puccinum) がレフォスコから作られたワインであったと考える者もいる。古代においてこのブドウはよく知られており、1世紀にローマの博物学者大プリニウスは、レフォスコ系列種のどれかのワインのことを質が高いと賞賛している。著作『博物誌』において彼は、プッキウムがアドリア海沿岸北部、典型的なカルスト地形の河川であるティマヴォ川の湧泉付近で栽培されるブドウで作られている、と述べている。
俗説では、プッキヌムはアウグストゥスの妻リウィア・ドルシッラの好物であったという[17]。
プッキヌムはプロセッコ (グレラ) の甘口白ワインであったかもしれないという正反対の説も存在する。この説を唱えたのはイタリアのジャンニ・ダルマッソ (Gianni Dalmasso) 教授で、彼によると、リウィアがレフォスコのワインの苦味を好んでいたわけはなく、彼女が好んだ可能性のある唯一のワインはトリエステ地方で栽培されていた甘いプロセッコ種なのだという[18]。 また、中世の地図にグレゴリオ・アマーセオ (1464年-1541年) が記した注解文には "Prosecho ol:Pucinum, hinc vina a Plinio | tantopere laudata" (プロセコ、かつてプキヌムと呼ばれた。プリニウスによって高く評価されたワインはここのものである) とも述べられている[19]。
ジャコモ・カサノヴァもレフォスコのワインを好んだひとりであり、自伝『我が生涯の物語』 (『カサノヴァ回想録』) のなかで次のように評している。
20世紀の後半 (おそらく1966年より前) に、カリフォルニア大学デーヴィス校のオースティン・ゴヒーンがカリフォルニア州アマドール郡のジャクソン実験農園 (1880年代設立) 採取した「レフォスコ」とされるブドウ樹標本が、1990年代にヨーロッパのブドウ品種学者によるDNA型鑑定でモンデュース・ノワールと判明したことから、「レフォスコ=モンデュース・ノワール」という誤解と混乱が広まった (品種節およびワイン生産地域節参照) 。しかし21世紀初頭に、DNA型鑑定によってモンデュース・ノワールはいかなるレフォスコ系列種とも一致しないことが判明し、実験農園のブドウ樹が導入時から間違った名称をつけられていたことが原因であると結論づけられた。
イタリアにおいては、「レフォスコ」に含まれる各品種のほとんどがフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州東部に集中している。ただしレフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソは、同州の他の地域やヴェネト州東部でもワインに使用されている。また、エミリア=ロマーニャ州ではレフォスコ・ディストリア (テッラーノ) がカニーナ (Cagnina) という現地名で栽培されている。おもなD.O.C.認定地区は以下の通り:
ファエーディスおよびその近隣地区では、10前後のワイン生産者がAssociazione Volontaria Viticoltori del Refosco di Faedisという任意団体を設立し、みずからが生産したレフォスコ・ディ・ファエーディスのワインの品質管理およびマーケティング・販売を共同で行なっている。どの生産者のワインも白 (若飲み用のカジュアルなタイプ) および黒 (各生産者のフラグシップとなる熟成タイプ) 2種類の同一デザインのラベルに統一されている[27]。
スロベニアでは、イタリアのトリエステ県と隣接し、石灰岩のカルスト地形を赤い鉄分の多い土壌が覆うクラス地区で、レフォスコ・ディストリア (現地名テラン) が栽培されている。また、イストリア半島北側沿岸部のコペルでもテランが栽培されている[28]。
イストリア半島のクロアチア側 (フルバツカ・イストリア) でも「テラン」というブドウ品種が栽培されているが、その扱いをめぐっては意見の一致をみていない (品種節を参照) 。
アメリカ合衆国 (とくにカリフォルニア州) で「レフォスコ」として栽培されていたブドウ品種は、イタリアで栽培されるどの「レフォスコ」にもDNA型が一致せず、モンデュース・ノワールと同一であることが判明した[10]。1990年代後半からは、カリフォルニア州でもレフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソの苗が多数植えられ、単純に「レフォスコ」と呼ばれている。ニューメキシコ州でもレフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソの栽培が盛んである。南米ではアルゼンチンのメンドーサおよびチリのコルチャグアで栽培されている[29]。
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