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電磁力学の非可換的な一般化 ウィキペディアから
ヤン=ミルズ理論(ヤン=ミルズりろん、英: Yang-Mills theory)は、1954年に楊振寧とロバート・ミルズによって提唱された非可換ゲージ場の理論のことである[1]。
なお、その少し前にヴォルフガング・パウリ[2][3]と内山龍雄も同理論を完成していたと言われているが、様々な事情により発表が遅れ、先取権はヤン=ミルズにあるとされる。
この理論は元々、ワイルらによって研究が進められていた可換対称性に基づくゲージ理論を、非可換対称性にまで発展させた理論である。 非可換ゲージ理論の代表的なものであり、他の非可換ゲージ理論としてはチャーン=サイモンズ理論などがある。
この理論は最初、陽子と中性子のアイソスピンSU(2)対称性に着目して構築された模型である[1]。これ自体は実験と合わなかったが、現在でも自発的に破れた弱アイソスピンとハイパーチャージのSU(2)×U(1)対称性に受け継がれているといえる(ワインバーグ=サラム理論)。 このように対称性が破れる模型もヤン=ミルズ理論に含む場合もある。
現在の典型的なヤン=ミルズ理論はカラーSU(3)対称性に基づく量子色力学である。 また、検証されていない理論として、SU(5)やSO(10)対称性に基づく大統一理論などがある。 超対称性を持つように拡張される場合もあり、超対称ヤン=ミルズ理論(super Yang-Mills theory、SYM)と呼ばれる。各種超対称性理論の基礎として、また超弦理論との関係などから、現在盛んに研究されている。 理論模型としては、ゲージ場だけで物質場を含まない模型は純粋なヤン=ミルズ理論(pure Yang-Mills theory)と呼ばれる。
また、現実に(仮に近似的だとしても)ヤン=ミルズ理論が存在する以上、現実を説明する素粒子仮説は、適当な状況設定の下でヤン=ミルズ理論を再現するように作られる事が多い。ヤン=ミルズ理論を内包している理論に、カルツァ=クライン理論や超弦理論がある。
ヤン=ミルズ理論は、非可換リー群をゲージ対称性に持つゲージ理論である。
パラメータ で特徴付けられるリー群
を考える。 ここで、T はリー群の生成子である。 群の非可換性を反映して生成子のリー代数は
となる。f は群の構造定数である。
局所化されたパラメータ で特徴付けられるゲージ変換の下で、リー群の表現の添え字 i をもつ場 は
と変換される。 パラメータの一次を考えると
となる。 ここで生成子 は、ゲージ変換の下での場 の属する表現での行列表現である。ゲージ変換の下での場の変換性を決める生成子の表現はチャージと呼ばれる。
gは理論の結合定数で、ゲージ結合定数と呼ばれる。この理論の大きな特徴として、共変微分やヤン=ミルズ項に含まれる全ての結合定数が等しい事が挙げられる(結合定数の普遍性)。この普遍性は標準模型においても検証されており、素粒子物理がゲージ理論で記述される事の強い傍証となっている。
ヤン=ミルズ理論において、ラグランジアンに含まれる場の微分 は共変微分
へと置き換えられる。ここで はゲージ場である。 ゲージ場はゲージ変換の下でパラメータの一次で
と変換される。 従って共変微分は
と変換し、場と同じ変換性をもつ。 これにより、様々な場からゲージ対称性を満足する項を作る事が出来る[4]。 種々の場はゲージ場と共変微分を通してのみ相互作用をする。相互作用の形はゲージ変換の下での変換性で決まり、このような相互作用の形は最小結合(minimal coupling)の理論と呼ばれる。
ヤン=ミルズ理論では、ラグランジアンにヤン=ミルズ項
(各添え字について和を取る)を持つ。 F はゲージ場の強度(field-strength)
である。 非自明な交換関係に伴って、構造定数に関係する項が現れるのが特徴である。
繰り込み群の考え方から、着目するエネルギースケールによって結合定数が変化するという描像を得る事が出来る。 個のフレーバーを持つゲージ群の表現 に属するフェルミオンを含むヤン=ミルズ理論の1ループベータ関数は、
となる。ただし、 は によって定義される随伴表現における2次のカシミア演算子、 は表現 における生成子の行列表現の規格化定数 である。
量子色力学においては、 で、である。 これは、フェルミオンのフレーバーが少ない場合のヤン=ミルズ理論が、高エネルギーでは相互作用が弱くなる(漸近的自由性)、と読むことが出来る。
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