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野球における反則行為 ウィキペディアから
ボーク(英: Balk)とは、野球において投手の投球や塁への送球における反則行為である。このルールの目的は、投手が打者や走者を欺いて不利になるような行為(他競技でフェイントと言われる行為)をすることにより盗塁やヒットエンドラン、単純なヒットなどを阻もうとするのを防ぐことにある。
1840年代半ばに最初の野球のルールを書いたアレクサンダー・カートライトがボークに該当する行為を取り上げ、この時から既に違反とされていた[1]。1899年にボークの明確なルールが作られ、走者の進塁が明記された[1]。1989年にはさらに厳しい規則が作られたが、それによってボークが急増したためにシーズン途中に元に戻される混乱があった[1]。
ボークとなる場合は、公認野球規則6.02(a)項「ボーク」の13項目(以下に挙げる項目の冒頭にある文字(1)〜(13)は、公認野球規則の項目に対応するものである。いずれも走者がいる場合、という前提条件が付いている。)とその他の規定によりボークとして扱われるものがある。
二段モーション(にだんモーション)とは、投球時に足をいったん上げてから下げ、また上げて投球動作を行うことを指す。このとき投球動作中にわずかでも全身が静止すると、公認野球規則5.07(a)(1)~(2)項で規定する正規の投球動作[5]に違反するため、反則投球と判定されていたが、2018年の規則改定によって反則投球とはならなくなった。
二段モーションは小林繁が80年代に取り入れ、90年代に三浦大輔、山崎慎太郎、赤堀元之が使うことで広まり多くの選手に取り入れられてきた。
規則に投球動作の「反則」の規定はあったものの、日本では反則となる境界線が不明瞭な状態が長きにわたって続いており、二段モーションは暗黙のうちに認められてきたとされる。例外的に、1995年の開幕戦で日本ハム上田利治監督が近鉄山崎慎太郎の二段モーションに対し、「完全にルール違反や」と2度抗議に出ている[6]。
2005年、野球の国際化を目指すという方針が打ち出され、規則の条文を日本独自に解釈するのでなく、条文の通りに厳格に適用することが国際化であるとし、これを理由に二段モーションの規制が強化された[7]。
しかし、審判員によって二段モーションを宣告する基準がまだまだあいまいである点などいくつかの問題点を残していた。また、規制強化に伴い投球フォームの変更を強いられた投手が多数発生した。
なお日本で二段モーションとして指摘された投手がMLBの審判に問題ないとされたり、日本で問題なかった投手がMLBで注意を受けるケースがあった。これは、ルールに則るなら二段モーションではなくストップモーション(投球動作途中静止)として線引きの議論する所を、二段モーション規制にしてしまったせいで本質のルールが無視されてしまったことに原因がある。アテネ五輪では二段モーションは反則にはならなかった。
上記の通りプロでは長らく黙認されていた二段モーションであるが、アマチュアにおいては公認野球規則を順守する形で、プロで規制強化される以前から全面的に禁止となっていた。しかし、プロで二段モーションが普及するに伴い、アマチュア選手や特に子供達がこれを真似るようになった為、アマチュアでも問題視されるようになりプロアマ合同の規則委員会で二段モーション規制を厳格化するよう申し入れが行われた[8]。
だが、実際には「そのモーションが二段モーションであるかどうか」も含め、規則の運用は個々の審判員に委ねられているので、ストライクゾーンのように審判員によって判断が微妙に異なる。その審判員が止まっていると判断し、相手を欺いているとみなしたら、それは反則投球である[9]。この事例は特に高校野球の地方大会と全国大会などで発生することが多く、千葉ロッテマリーンズに2015年のドラフト5位で入団した専大松戸・原嵩の第97回全国高等学校野球選手権大会時のように、判断の差異が問題になることがあった。
2017年8月17日の西武対楽天戦(メットライフ)にて、西武の先発菊池雄星が試合中に2度も反則投球を取られたことが物議を醸した。菊池の投球フォームはこのシーズンの序盤では二段モーションではなかったものの、シーズンが進むにつれて徐々に右脚を一度下ろして再び右脚を上げる完全な二段モーションへと変化していった。この試合以前でも菊池は度々審判から投球フォーム上の注意を複数回受けていたが改善されず、反則投球と取られるに到った。しかしそれまで事実上黙認されていた投球フォームがこの試合で急に反則投球とみなされるというタイミングと、試合後の西武球団がNPBに出した意見書の返答が「審判の判断に委ねる」という曖昧な内容に不可解さが残った。菊池はこの次の試合となるソフトバンク戦(ヤフオク)の投球第1球目から再び反則投球を取られ、試合後西武球団がNPBに対して二段モーションに関する質問状を提出することとなった。菊池以外にも日本ハムの井口和朋投手が同年8月19日の試合で、それまで問題無かった投球フォームが二段モーションによる反則投球を取られるという事が起こり、二段モーションの是非が再び論議されるようになった。
2018年1月29日、NPBは2018年度の野球規則改正を発表[11]。この改正によって二段モーションを反則投球と定める項目が削除され、二段モーションが解禁となった。
ボークがあった場合、審判員は、投手を指差し「ボーク」、または「ザッツアボーク」(That's a balk!)と宣告する。ただし、すでに投球動作が行われている場合は、球審は発声のみ行い、投手を指差すジェスチャーはしない。
プレイが一段落したら「タイム」を宣告してボールデッドにした後、塁上の走者に進塁の指示をする。プレイが一段落するまでは直ちにボールデッドとならない場合がある(詳しくは後述)ので、審判員は、ボーク宣告後もプレイに注意しておかなければならない。
原則としてボールデッドとなり(その時点のボールカウントの状況に関係なく次の処置が執られる)、塁上の走者に安全進塁権が1個与えられる。三塁に走者がいれば得点となる。ストライクまたはボールは宣告されない。
打者に対しては特別な処置は設けられておらず、原則としてボールカウントはそのままで打ち直しとなる。
三塁走者によるホームスチールやスクイズプレイの際に、捕手やその他の野手が、本塁上やフェアグラウンドに飛び出してきて投球を捕球したり、打者や打者が所持するバットに触れたりする行為があった場合には、投手にボークが課される上に打撃妨害もあわせて宣告され、打者にも一塁が与えられる。この際はボールデッドになる[16]。この場合、他の走者にもボークによって安全進塁権が1つ与えられるが、打者が出塁することによって押し出される走者が2つ先の塁まで進めるということにはならない。
走者がいない場合はボークにはならないが、ボークと同じような動作を行った場合には、それが反則投球とみなされる場合に限り「ボール」を宣告する[18]。ただし、打者が反則投球を打って安打にしたり、失策や四死球その他により一塁に到達した場合は、そのプレイが生かされる。
投球動作中にボールが手から飛び出した場合は、ボールがファウルラインを超えた場合は「ボール」を宣告するが、ファウルラインを越えなかった場合は投球とみなされず、何も宣告されない[20]。
走者一・三塁の状況では意図的に投手のボークを誘うフォースボーク(force balk)というトリック・プレーが用いられる場合がある。これは二人の走者が連携して動くことでボークを誘発し、安全進塁権を与えられた三塁走者が生還するというものである[21]。具体的には、一塁走者は大きくリードをとることで投手に牽制球を投げさせ、三塁走者は投手が牽制動作に入ったところで本塁へスタートを切る。これにより、慌てた投手がプレートを外さずに一塁への牽制を止めて本塁へ送球してしまうことで、一塁への偽投によりボークとなることを狙う。三塁走者に背を向ける形になる左投手に対して用いられる場合が多いが、右投手の場合でも一塁走者がわざと一二塁間に飛び出して守備側の関心を惹き、その隙に三塁走者が本塁を陥れる形で実行される場合がある[22]。
1962年6月11日、MLBのクリーブランド・インディアンス対ボストン・レッドソックスの試合。満塁の場面でインディアンスの走者チノ・フランコーナがワインドアップの動作に入っていたレッドソックスの投手アール・ウィルソンに「待ってくれ」と声をかけた。その声を聞いたウィルソンはすぐに動作を止めたが、審判員はフランコーナの声は聞こえなかったとしてウィルソンにボークを宣告し、走者の進塁を認めた。ウィルソンは気落ちしてその後に3点本塁打を浴び、4-0で試合に負けた[1]。
2020年9月23日の福岡ソフトバンクホークス対オリックス・バファローズの5回裏、走者一・二塁でオリックスの投手田嶋大樹がセットポジションをとってからソフトバンクの打者グラシアルがタイムを要求して打撃姿勢を解き、投手は投球動作を中止した。打者は投手がセットポジションをとるかまたはワインドアップを始めた場合に打撃姿勢をやめることは許されていないため(公認野球規則5・04(b))、審判団協議の結果、打者と投手の双方が違反を犯したとしてボークを認めず、元のボールカウントから試合を再開した[23]。なお、公認野球規則5・04(b)では、打者が打撃姿勢をやめても投手が投球すれば、球審はその投球によってボールまたはストライクを宣告することとされている。
ボークによる得点によってサヨナラゲームになることを「サヨナラボーク」と表現される[24]。プロ野球でサヨナラボークが発生した事例は未だない。
1998年8月16日の第80回全国高等学校野球選手権大会2回戦の豊田大谷対宇部商戦で、2-2の同点で迎えた延長15回裏無死満塁からの4球目、宇部商の藤田修平投手が投球動作を止めたことがボークと判定され三塁走者が生還、豊田大谷がサヨナラ勝ち。高校野球全国大会で初のサヨナラボークとなった。
2017年の全国高等学校野球選手権徳島大会では1回戦の城東高対阿波高戦の9回裏一死三塁の場面で、阿波の捕手が最初からキャッチャーボックスから出た状態で故意四球の投球を受けたためにボークを宣告され、三塁走者が進塁し城東のサヨナラ勝ちとなった[25]。公認野球規則に定められた「故意四球において、キャッチャーズボックスに両足が入っていない捕手に投球した。」が適用された。捕手のミスにも見えるためこのプレーを「捕手ボーク」と呼ぶ者もいたが、前述の公認野球規則通り誤りである。
大学野球では2017年の第66回全日本大学野球選手権大会2回戦、九州産業大学対四国学院大学戦で、1-1の同点で迎えた9回裏一死満塁の場面で四国学院大学の投手が初球に捕手のサインを見て投球動作に入ろうとしながら、動きを止めて再度サインを見る動作がボークと判定され走者が進塁し、九州産業大学のサヨナラ勝ちとなった[26][27]。
1998年のパ・リーグペナントレースにおいて、西武ライオンズの松井稼頭央と千葉ロッテマリーンズの小坂誠が盗塁王争いをしていた。10月12日、ペナント最終戦に西武とロッテの直接対決があった。この試合までに西武とロッテの順位は確定しており、タイトル争いが注目されるだけの消化試合になっていた。最終戦前、小坂は松井よりも盗塁数で1個上回っていた。
この試合の7回表にロッテの小坂がレフト前にヒットを放ち出塁。この後、盗塁王を狙う小坂に対し西武投手の芝﨑和広は一塁に牽制悪送球をした。だが、牽制悪送球では二塁に進塁しても盗塁にならないため、小坂は一塁コーチの指示に従い二塁に進塁しなかった。すると、次の投球で芝﨑はセットポジションで静止せずに投球したためボークとなった。ボークなので小坂は自分の意志に関わらず、盗塁にならないまま二塁に進まなければならなかった。ロッテ監督の近藤昭仁は「故意のボークであり、野球協約が禁止する敗退行為にあたらないか?」と抗議するも認められず、小坂は二塁へ進塁。この後、ショートの松井(盗塁王争いの相手)が二塁ベース上に立つなどして西武守備陣のきついマークの中で、小坂は三塁盗塁を試みるも失敗した。そして、7回裏一・二塁において松井は盗塁に成功し小坂と並び、盗塁王を分け合う形となった。
選手名 | 所属球団 | ボーク | 記録日 | 対戦相手 |
---|---|---|---|---|
ドミンゴ・グスマン | 東北楽天ゴールデンイーグルス | 4 | 2007年9月1日 | 西武ライオンズ |
選手名 | 所属球団 | ボーク | 記録日 | 対戦相手 | イニング |
---|---|---|---|---|---|
テリー・レイ | 日本ハムファイターズ | 3 | 1974年7月17日 | 近鉄バファローズ | 1回裏 |
ドミンゴ・グスマン | 東北楽天ゴールデンイーグルス | 2007年9月1日 | 西武ライオンズ | 4回表 |
順位 | 選手名 | ボーク |
---|---|---|
1 | スティーブ・カールトン | 90 |
2 | ボブ・ウェルチ | 45 |
3 | バド・ブラック | 43 |
4 | チャーリー・ハフ | 42 |
フィル・ニークロ |
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