全地球カタログ

アメリカ合衆国の雑誌 ウィキペディアから

全地球カタログ』(ぜんちきゅうかたろぐ)、英語でホール・アース・カタログ英語: Whole Earth Catalog)とは、アメリカ合衆国で発刊された、ヒッピー向けの雑誌[1]カタログ)。WECと略される[1]

概要

要約
視点

1968年に、スチュアート・ブランドによって創刊された。創刊号の冒頭にはバックミンスター・フラーの写真とともに次のような言葉が掲載されている[2]

このカタログはバックミンスター・フラーの思想に導かれて作られました。フラーの言葉はまるで、即興の音楽のような驚きに満ちています。フラーは今、最も独創的で実用的な知性の持ち主なのです。[2]

本カタログは、"最小のもので最大を成す" というバックミンスター・フラーが提唱した思想(ダイマクション )から生まれたものであった[2]

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創刊号の表紙に使われた地球の写真(en:ATS-3衛星で1967年に撮影されたもの)

(フラーは「宇宙船地球号」という考え方を提唱し広めた人物であり)当カタログの創刊号(1968年 FALL)の表紙を飾ったのは、1966年にブランドが起こした運動が功を奏してNASAから発表された、宇宙に浮かぶ地球の写真である[1]。 掲載される商品は、" 環境と調和した新たな生き方 " に役立ち、それでいてクールな道具だった[2]。つまりヒッピー・コミューンを支えるための情報や商品がカタログのように掲載されていた。

1968年から年2回のペースで発行され、ページ数が多い号では数百ページもの厚さにも及んだ分厚いカタログである[2]。ヒッピーたちにバイブルのように扱われ、発行部数250万部ものベストセラーとなった[2]

宝島』『』『POPEYE』など日本の主要なサブカルチャー雑誌にも大きな影響を与えたとされる。

だが、やがてヒッピー文化は次第に下火となり、1971年に当カタログの定期刊行は終わりを迎えた[2]。1974年10月に刊行された『Whole Earth Epilog』号の裏表紙[3]にバックミンスター・フラーの次の言葉が飾られた[2]

Stay hungry. Stay foolish.

この言葉が、その後も大きな影響を生むことになる[2]。→#Stay hungry. Stay foolish.

後日談

なお廃刊を記念して廃刊記念イベントが開催されヒッピーたちが集まったが、その場でヒッピーたちに驚きのアイディアが告げられた。カタログの売上金2万ドルを、ユニークな使い方を発表した者に譲るというアイディアだった[2]。さっそくヒッピーたちが競い合うようにしてアイディアを提案する中、フレッド・ムーア英語版が「お金(100ドル札)なんて燃やしてしまおう」とユニークな提案をし、ムーアに2万ドルが与えられた[2]。しかしムーアはその金を燃やさず、その金を使って4年後の1975年にホームブリュー・コンピュータ・クラブというコンピュータの愛好家がコンピュータの情報やアイディアを無償で交換するためのクラブを立ち上げた[2]。このクラブには、大学を中退したひとりの若者にすぎなかったスティーブ・ジョブズも参加しここでコンピュータに関する知識を深め、同じく会員だったエンジニアのスティーブ・ウォズニアックとともにApple起業した[2]。なお、このApple社の最初の顧客もやはりホームブリュー・コンピュータ・クラブの会員だった[2]。つまり当カタログのバタフライエフェクトは起き続けた。

スティーブ・ジョブズは全地球カタログについて、2005年6月に行われたスタンフォード大学の卒業式にゲストとして招かれ式辞を述べた際に、次のように言及した。

「若かった頃、すばらしい本に出会った。「ホールアースカタログ」。私たちの世代のバイブルだった。当時は1960年代後半で、まだDTP(パソコン編集)などできない時代だったので、このカタログは全てタイプライターとハサミとポラロイドカメラでつくられていて、いわば「紙でできたグーグル」だった。グーグルが誕生する35年前に作られたものだった。理想を掲げ、素晴らしいツールと気づきにあふれていた。[2]

Stay hungry. Stay foolish.

最終号の巻末に掲載されたStay hungry. Stay foolish.というバックミンスター・フラーの言葉は、今も世界中の若者の人生を変え続けている[2]

ヒッピー風の文化を身につけ、10代でホールアース・カタログに出会い持ち歩き愛読し、ホームブルー・コンピュータ・クラブに所属したスティーブ・ジョブスの人生にもこの言葉は大きな影響を与えた。 スティーブ・ジョブズは、2005年6月12日に行われたスタンフォード大学の卒業式の式辞の最後で卒業生に贈る言葉として"Stay hungry. Stay foolish."を紹介し[1]、この言葉を3度繰り返した。

(なおこのStay hungry. Stay foolishは、きわめて基礎的な英単語を使っているが、含意が非常に深く、適切な日本語訳は定まっていない。この言葉の深い意味をよく理解せず、表面的に直訳して「ハングリーであれ、愚かであれ」と訳されてしまうことも多いが、この訳で妥当なのかについてはかなり怪しい[4]。「ずっと無謀で[5]」という訳もある。また意訳して「満たされるな、分別くさくなるな」とか訳すほうが妥当かもしれず、さらに、ジョブズの式辞の内容の文脈も踏まえて、(式辞の中ではジョブズは、自分のやりたいことを貫け、人生の時間は限られている、誰かの言いなりになって人生を浪費してはいけない、他人の教えにとらわれるな、といったことを繰り返し述べたことを踏まえて)思い切って「自分の心に従って進め」と訳すほうが良いのかもしれない、とプロの翻訳家からは指摘されている[4]。)

大谷翔平も この"Stay hungry. Stay foolish." の影響を受け、それについて次のように語った。

「ジョブズの言葉は元気をくれます。そのとき自分が思い悩んでいることがすごく小さなことだと思えたりする。楽になれる、というか、自分が変わるためのいいきっかけになってくれる。人と違うことをやってきて、そこに至った時、どうなるのか。"できるか できないか"よりも、"誰もやらないことをやってみたい"。」[2]

各号

さらに見る No., 出版日 ...
No.出版日タイトル編集者ページ数価格注目に値する点ISBNなど
#1010Fall 1968Whole Earth CatalogStewart Brand[6]64$5WECの創刊号。表紙写真:宇宙から見た地球
#1020January 1969The Difficult But Possible Supplement to the Whole Earth CatalogStewart Brand32$1.65価格の変更
#1030March 1969The Difficult But Possible Supplement to the Whole Earth CatalogStewart Brand30$1.65全地球を国定公園とすることを要請する手紙をリチャード・ニクソン大統領宛で書くよう読者に呼びかけた。 コモドール製コンピュータの写真を掲載し、そのサポートを開始。
#1040Spring 1969Whole Earth CatalogStewart Brand (with Lloyd Kahn)132$4表紙写真:月から見た地球。ヒューレット・パッカードの$4,900のプログラム電卓を掲載。
#1050July 1969Difficult But Possible Supplement to the Whole Earth CatalogStewart Brand32$1
#1060September 1969Difficult But Possible Supplement to the Whole Earth CatalogStewart Brand34$1
#1070Fall 1969Whole Earth CatalogStewart Brand (with Lloyd Kahn)132$4表紙写真: 深宇宙から見た地球ASIN B000KVJ3ZC
#1080January 1970Whole Earth Catalog: The Outlaw AreaStewart Brand56$1
March 1970Whole Earth Catalog: The World GameGurney Norman (with Diana Shugart)56$1en:Gene Youngbloodによる「バックミンスター・フラーの世界ゲーム」
#1090Spring 1970Whole Earth CatalogStewart Brand (with Lloyd Kahn)148$3表紙写真: M-31アンドロメダ銀河ASIN B001B6L98O
#1110July 1970Whole Earth CatalogGordon Ashby (with Doyle Phillips)56$1"Find Your Place In Space"(曼荼羅シリーズ)ASIN B00139YNAA
#1120September 1970Whole Earth CatalogGurney Norman (with Diana Schugart)56$1ウェンデル・ベリーによる「小さく考えよう」。
#1130Fall 1970Whole Earth CatalogJ.D. Smith (with Hal Hershey)$3ASIN B001B6GKWO
#1140January 1971Whole Earth Catalog: Truth, Consequences[7]Stewart Brand48$1表紙はTruth, Consequences。裏表紙は砂漠での生産の促進。[8][9]
#1150March 1971The Last Supplement to The Whole Earth CatalogPaul Krassner and Ken Kesey132$1表紙 Robert Crumb。 J. Marks「夢は終わった」。 Ken Kesey「バイブル」。 カタログアイテム無し。エッセーとイラストのみ。ASIN B000GTN5BG
#1160June 1971The Last Whole Earth CatalogStewart Brand452$5en:Gurney Normanen:Divine Right's Trip」の連載。en:Wendy Carlosによるシンセサイザーのレビュー。表紙写真 : アポロ4号で撮影した地球。1972年全米図書賞 受賞。ISBN 0-394-70459-2
#1170May 1971Whole Earth Catalog
May 1974 The (Updated) Last Whole Earth Catalog 447 $5 “All listings accurate as of May 1974” ISBN 9780394709437
#1180October 1974Whole Earth Epilog320$4表紙写真: アポロ12号で撮影した「月から昇る地球」。Paul Krassner「Tongue Fu」連載開始。ISBN 0-14-003950-3
June 1975The (Updated) Last Whole Earth CatalogStewart Brand452$616th Edition, "How To Do a Whole Earth Catalog"[10]ISBN 0-14-003544-3
December 1977Space Colonies: Whole Earth CatalogStewart Brand160$5ISBN 0-14-004805-7
#1220September 1980The Next Whole Earth CatalogStewart Brand614$12.50表紙写真: アポロ17号から見たマダガスカル南アフリカ。宇宙旅行。ISBN 0-394-73951-5
March 1981The Next Whole Earth Catalog, revisedStewart Brand608$16Anne HerbertThe Rising Sun Neighborhood Newsletterの抜粋の連載開始。 Ron Jonesのサードウェイブ実験ISBN 0-394-70776-1
Spring 1984Whole Earth Software Review, No.1Stewart Brand
Summer 1984Whole Earth Software Review, No.2Stewart Brand
June 1984Whole Earth Software Catalog 1.0Stewart Brand208$17.50急成長するホームコンピュータ向けのソフトウェアのレビューISBN 0-385-19166-9
Fall 1984Whole Earth Software Review No.3Stewart Brand
Fall 1985Whole Earth Software Catalog 2.0 1986Stewart Brand224$17.50ISBN 0-385-23301-9
#1280September 1986The Essential Whole Earth CatalogJ. Baldwin416$24.99Published by DoubledayISBN 0-385-23641-7
1988Whole Earth Catalog: Signal Communication Tools for the Information AgeKevin KellyISBN 0-517-57083-1
1989The Fringes of Reason: Whole Earth CatalogTed Schultz with Stewart Brand223$14.95ISBN 0-517-57165-X
1989The Electronic Whole Earth CatalogStewart Brandn.a.初期のハイパーテキスト(CD-ROM版)
1990Whole Earth EcologJames Baldwin128$15.95エコロジー特集ISBN 0-517-57658-9
#1330December 1994The Millennium Whole Earth CatalogHoward Rheingold410$30白表紙。Wholeの「o」が地球。Jim Woodring, Frank's Real Pa 連載開始ISBN 0-06-251059-2
#1340December 1998Whole Earth Catalog: 30th Anniversary CelebrationPeter Warshall with Stewart Brand108$14.95WECの創刊号 + 新規コメント。ISBN 1-892907-05-4
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関連項目

  • サイバネティクス - 創刊号にノーバート・ウィーナーの同名書のレビューが掲載された[1]
  • DIY - 紹介されるツールの傾向のひとつ[1]
  • ジオデシック・ドーム - バックミンスター・フラーが広めた構築物で、少ない部材で大きな内部空間を得ることができ、ヒッピーのイベントでも建てられることが多く、「ジオデシックドームの建て方(HOW TO BUILD A GEODESIC SUN DOME)」という記事が当カタログに掲載されたこともある。

参考文献

関連文献

出典

外部リンク

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