ヘテロ三量体Gタンパク質
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ヘテロ三量体Gタンパク質(ヘテロさんりょうたいGタンパクしつ、英: heterotrimeric G protein)は、ヘテロ三量体型複合体を形成する膜結合型Gタンパク質であり、単量体の低分子量GTPアーゼとの対比で"large G protein"と呼ばれることもある。ヘテロ三量体Gタンパク質と単量体Gタンパク質との最大の差異は、ヘテロ三量体タンパク質はGタンパク質共役受容体(GPCR)と呼ばれる細胞表面受容体に直接結合することである。これらのGタンパク質は、α、β、γのサブユニットから構成される[1]。αサブユニットはGTPとGDPのいずれかを結合しており、Gタンパク質の活性化のオン・オフのスイッチとして機能する。
リガンドがGPCRに結合すると、GPCRはグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)としての能力を獲得し、Gタンパク質αサブユニットに結合したGDPをGTPへ交換することでGタンパク質を活性化する。αサブユニットへのGTPの結合によって構造変化が引き起こされ、Gタンパク質の残りの部分からの解離が引き起こされる。一般的に、αサブユニットは下流のシグナル伝達カスケードの膜結合型エフェクタータンパク質に結合するが、βγ複合体もこうした機能を果たす。Gタンパク質はcAMP/PKA経路、イオンチャネルやMAPK、PI3Kを介した経路などに関与している。
1980年代初頭に行われた再構成実験では、精製されたGαサブユニットが直接エフェクター酵素を活性化することが示された。GTP結合型のトランスデューシン(Gt)αサブユニットは網膜の桿体の外節のcGMPホスホジエステラーゼを活性化し[3]、GTP結合型のGsタンパク質αサブユニットはホルモン感受性アデニル酸シクラーゼを活性化する[4][5]。同じ組織に複数のタイプのGタンパク質が共在することもあり、例えば脂肪組織では、アデニル酸シクラーゼを活性化または阻害するために、交換可能なβγ複合体を持つ2種類の異なるGタンパク質が利用される。刺激ホルモンの受容体によって活性化されたGsタンパク質のαサブユニットはアデニル酸シクラーゼを活性化し、アデニル酸シクラーゼによってcAMPが産生されて下流のシグナル伝達カスケードに利用される。一方、抑制ホルモンの受容体によって活性化されたGiタンパク質のαサブユニットはアデニル酸シクラーゼを阻害し、下流のシグナル伝達カスケードが遮断される。
Gαサブユニットは、GTPアーゼドメインとαヘリカルドメインの2つのドメインから構成される。
Gαサブユニットは少なくとも20種類存在し、配列相同性に基づいて4つの主要なグループへ分類される[6]。
ファミリー | αサブユニット | 遺伝子 | シグナル伝達 | 利用する受容体 (例) | 影響 (例) |
---|---|---|---|---|---|
Giファミリー (InterPro: IPR001408) | |||||
Gi/o | αi, αo | GNAO1, GNAI1, GNAI2, GNAI3 | アデニル酸シクラーゼの阻害、K+チャネルの開口(β/γサブユニットを介して)、Ca2+チャネルの閉口 | ムスカリン性アセチルコリン受容体 M2、M4[7]、 ケモカイン受容体、α2アドレナリン受容体、セロトニン受容体 5-HT1、 ヒスタミン受容体 H3、H4、D2様ドーパミン受容体、カンナビノイド受容体 CB2[8] | 平滑筋収縮、神経活動の抑制、白血球からのインターロイキンの分泌[8] |
Gt | αt (トランスデューシン) | GNAT1, GNAT2 | PDE6(ホスホジエステラーゼ6)の活性化 | ロドプシン | 視覚 |
Ggust | αgust (ガストデューシン) | GNAT3 | PDE6の活性化 | 味覚受容体 | 味覚 |
Gz | αz | GNAZ | アデニル酸シクラーゼの阻害 | 蝸牛内リンパ液と外リンパ液の電解質バランスの維持 | |
Gsファミリー (InterPro: IPR000367) | |||||
Gs | αs | GNAS | アデニル酸シクラーゼの活性化 | βアドレナリン受容体、セロトニン受容体 5-HT4、5-HT6、5-HT7、D1様ドーパミン受容体、ヒスタミン受容体 H2、 カンナビノイド受容体 CB2[8] | 心拍の増加、平滑筋の弛緩、神経活動の刺激、白血球からのインターロイキンの分泌[8] |
Golf | αolf | GNAL | アデニル酸シクラーゼの活性化 | 嗅覚受容体 | 嗅覚 |
Gqファミリー (InterPro: IPR000654) | |||||
Gq | αq, α11, α14, α15, α16 | GNAQ, GNA11, GNA14, GNA15 | ホスホリパーゼCの活性化 | α1アドレナリン受容体、ムスカリン性アセチルコリン受容体 M1、M3、M5[7]、ヒスタミン受容体 H1、セロトニン受容体 5-HT2 | 平滑筋収縮、Ca2+の流入 |
G12/13ファミリー (InterPro: IPR000469) | |||||
G12/13 | α12, α13 | GNA12, GNA13 | RhoファミリーGTPアーゼの活性化 | 細胞骨格機能、平滑筋収縮 | |
βサブユニットとγサブユニットは互いに密接に結合しており、Gβγ複合体と呼ばれる。βサブユニットとγサブユニットの双方にさまざまなアイソフォームが存在し、いくつかの組み合わせで二量体が形成されるが、他の組み合わせでは形成されない。例えば、β1はγ1、γ2の双方と結合するが、β3はどちらとも結合しない[9]。GPCRの活性化に伴って、Gβγ複合体はGαサブユニットのGDP-GTP交換後に放出される。
遊離したGβγ複合体はそれ自身がシグナル伝達分子として作用し、他のセカンドメッセンジャーを活性化したり、イオンチャネルを直接開閉したりする。
例えば、ヒスタミン受容体に結合していたGβγ複合体はホスホリパーゼA2を活性化する。一方、ムスカリン性アセチルコリン受容体に結合していたGβγ複合体はGタンパク質共役内向き整流カリウムチャネル(GIRK)を直接開口する[10]。アセチルコリンが細胞外リガンドである場合、心臓細胞は正常に過分極して心筋の収縮を低下させる。ムスカリンのような物質がリガンドとして作用すると、危険なレベルの過分極によって幻覚が引き起こされる。このよに、Gβγが正しく機能することは我々の生理的な健康に重要である。他の機能としては、H3受容体の薬理作用としてみられるように、L型カルシウムチャネルの活性化がある。
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