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日本の小説、メディアミックス作品 ウィキペディアから
『ドグラ・マグラ』は、探偵小説家夢野久作の代表作とされる小説で、構想・執筆に10年以上の歳月をかけて、1935年に刊行された。小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、中井英夫『虚無への供物』と並んで、日本探偵小説三大奇書に数えられている。
作中、「ドグラ・マグラ」の原義は、作中では切支丹バテレンの呪術を指す長崎地方の方言とされたり「戸惑う、面食らう」や「堂廻り、目くらみ」がなまったものとも説明されているが、詳しくは明らかになっていない[1][2]。
1935年(昭和10年)1月、松柏館書店より書き下ろし作品として刊行され、「幻魔怪奇探偵小説」という惹句が付されていた。夢野久作は、作家デビューした1926年に、精神病者に関する小説「狂人の解放治療」を書き始めた。これがのちの『ドグラ・マグラ』であり、10年近くの間、徹底的に推敲をおこなった。この作品を発表した翌年、夢野は死去している。
1926年(大正15年)、九州帝国大学医学部精神病科の独房に閉じ込められた、記憶喪失中の若き精神病患者の物語(と思われる)で、彼の一人称「わたし」で語られていく。彼は過去に発生した複数の事件と何らかの関わりがあり、物語が進むにつれて、謎に包まれた一連の事件の真犯人や動機、犯行手口などが次第に明かされていく。
と、一見、既存の探偵小説の定石に沿っているかのように見えるため、便宜上「探偵小説」に分類されることがほとんどだが、探偵小説の型をあきらかに逸脱していて、「アンチミステリー」の一つと見做されることも多い[3]。
殺人事件そのものはむしろシンプルだが、冒頭に記された巻頭歌のほか、胎内で胎児が育つ10か月のうちに閲する、数十億年の万有進化の大悪夢の内にあるという壮大な論文「胎児の夢」(エルンスト・ヘッケルの反復説を下敷きにしている)や、「脳髄は物を考える処に非ず」と主張する「脳髄論」、入れられたら死ぬまで出られない精神病院の恐ろしさを歌った「キチガイ地獄外道祭文」など、学術論文的なものが入れ子構造で肉付けされていて、構成は複雑である。
作中に「内容が複雑なため、読者は最低二度以上の再読を余儀なくされる」「ドグラ・マグラ」なる書物が登場するなどメタフィクション的な部分もあり、また、犯人も真相、真実も明言はされておらず、探偵小説、ミステリーに当然そなわっている論理的解決は見送られている。
一度の読了で、作品の真相、内容を理解することは困難とされる一方、その複雑、狂気的、難解な内容、構成のために、途中で挫折する読者が多いといわれている。また「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」と謳われることも多い[4]。
見知らぬコンクリートの一室に目覚めたわたしは、自分が誰でなぜここにいるのか分からない。そこに現れた若林という法医学者の説明によれば、ここは九州帝国大学の医学部精神病科の病棟で、今は大正15年11月20日、ひと月前に自殺した正木博士なる奇人天才型の精神医学者が、わたしが生まれたときからわたしをある実験台にしているのだという。わたしは、隣室にいるわたしの従妹にして婚約者だという美少女と会わされるが(その娘を半年前の式の前日にわたしは絞殺したのだという)、それでも何も思い出せない。正木博士の遺志を継いでいると自ら語る若林教授は、わたしが何者か思い出させるためだといって、正木博士の部屋で、正木博士の残した文書をわたしに読ませる。
1つめは、博士が諸国放浪時に木魚を叩き唄いながら、現代のおそろしい精神病者の扱いと文明を批判した「キチガイ地獄外道祭文」。2つめは、精神病者の新しい治療場を構想した「地球表面は狂人の一大解放治療場」。3つめは、脳髄は全身全細胞の情報交換所にすぎないとし、近代の脳髄崇拝を批判した「絶対探偵小説 脳髄は物を考える処に非ず」。4つめは、胎児は体内にいる10か月のあいだに生物進化を反復しその夢を見ていると述べる「胎児の夢」。そして5つめは、「空前絶後の遺言書」で、それによれば、従妹にして許嫁の呉モヨ子を絞殺したと疑われる若者呉一郎は、その2年前にも実母を絞殺した容疑があった。解剖を担当した若林医師は、別の少女の遺体をモヨ子に仕立て、本当のモヨ子を蘇生させていたが、一郎が犯人だとは思えず、真犯人は、「ちょっとした刺激で人間は祖先にあったものがよみがえる」という正木博士の「心理遺伝」の説と同じ方法で、ある刺激を一郎に与えることによって、一郎の中にひそむ祖先の記憶をよみがえらせ、そうして一郎をして殺人に走らせたのではないか、だからその刺激を与えた人物を一郎が思い出せば真犯人がつきとめられるのではないか、そのために正木博士に一郎の精神鑑定を頼みにきたとあった。事実、一郎は一度絞殺したモヨ子の姿を写生していたというのだが、呉家には大昔、死んだ美しい愛妻の姿を巻物に写しとっておこうとしたものの、写し終わらぬうちに死体が腐乱しだしたため狂死した当主がいたとの言い伝えがあった。
……わたしがそれらを夢中になって読み終わると、目の前に座っていたのは死んだはずの正木博士であった。聞けば今日は10月20日なのだという。窓外の解放治療場を見ると、自分にそっくりな呉一郎と思しき青年の姿が見える。
正木博士によれば、かつて玄宗皇帝に召し抱えられていた呉青秀という名画工が、失政はなはだしき皇帝をいさめるために、美貌の愛妻を同意の上に絞殺してその腐り行く姿を巻物に写し、人と栄華のはかなさを皇帝に訴えようとしたものの、皇帝が死んだために無駄になったので発狂、のち亡き妻の妹とそのあいだに生まれた男の子とその絵巻物とを北九州に伝え残したという。わたしがその絵巻物を見せられると、そこに描かれた死体の女は先ほどの隣室の美少女にそっくりであった。
わたしは、呉一郎にこの絵巻物を見せた者をつきとめると博士に宣言する。しかし博士はそれを制止する。押し問答の末。博士は自分が犯人であると告白する。
博士はこう語る。WとMは学生時代からのライバルで、ふたりとも20年前、呉家のこの巻物に学問的な関心を寄せていた。そのために一郎の母呉千世子に言いよったのも同じで、やがてどちらの子か分からないが、千世子に一郎が生まれた。これにより呉家の男子が発狂するかが実験できるということになったのだった。2年前、千世子が殺されたのは、彼女の姉呉八千子が一郎をひきとれば、おそらく八千子の娘呉モヨ子と結婚することが見込まれ、いよいよ実験のお膳立てができるからだった。
それを聞いたわたしは泣いて正木博士をなじり、博士も涙して部屋を出ていってしまう。そして一人部屋に残ったわたしも、先の絵巻物の長い白紙の続く最後に、「正木一郎母千世子」との署名のついた歌を発見し、平静を失い、街へ飛び出してしまう。しかし、やがてまた教授室に戻ってくると、そこにあったのは、10月20日づけの号外で、正木博士の自殺と、その前日にここで起こった入院患者呉一郎の狂乱発作による惨殺事件が報道されていた。
わたしは1か月前に正木博士に聞いた話と、今日とをごちゃまぜにしているのだろうか? いまだ自分が呉一郎とは思い出せぬわたしが駆けだしたとき、闇の中に見えたのは笑う呉青秀の姿だった。
この項目「ドグラ・マグラ」は加筆依頼に出されており、内容をより充実させるために次の点に関する加筆が求められています。 加筆の要点 - 評価点 (貼付後はWikipedia:加筆依頼のページに依頼内容を記述してください。記述が無いとタグは除去されます) (2021年8月) |
江戸川乱歩は、この作品に対し「わけのわからぬ小説」と評した。鶴見俊輔[5]は「作者の親子関係が集約されているもの」と分析している(作者の父杉山茂丸は政界の黒幕といわれた玄洋社の傑物)。
1988年10月15日公開。松田洋治が若き精神病患者の役を、桂枝雀が正木博士役を、室田日出男が若林博士役をそれぞれ演じた。無謀な映画化とも言われたが、長大で複雑な物語を上手く整理しまとめ上げており、おおむね評価は高く、この映画版を見て初めてそういう話だったのかと理解したという人も多かったという。[誰によって?]
ただし、一面的な解釈にすぎない、枝葉の部分を整理してわかりやすくまとめたため(上映時間の兼ね合いもあったと言われている)、原作の持っている混沌とした独特の空気感というようなものをうまく捉えられていないという批判もあった。[誰によって?]
出演者の演技については複雑な背景を上手く演じているとして評価する声が多く、特に、桂枝雀の怪演を賞賛する人々は多い。
DVDは2004年発売の『松本俊夫全劇映画DVD-BOX』に収録されたあと、単品でも発売されている。
奇志戒聖を脚本、監督に迎え、ティー・オーエンタテインメントによって舞台を未来の宇宙に置き換えてCGアニメーション化された。ドグラ・マグラは舞台となる宇宙船の名前となっていて、多義的解釈可能な結論の解釈のうちの一つを拡張した案を基にSFパニックものとして再構築し、ストーリー展開は「胎児の夢」のSF要素的な解釈となっている。
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