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セーリング(英: sailing)/セイリングあるいは帆走(はんそう)とは、帆(セイル)を利用して進むこと。主に水上の乗り物に関して使われており、セイルの操作術、帆船の操船術、帆船による航海や航海術も指す。だが陸上の乗り物に関しても、セイルを使い進むことやその技術などはセーリングと言う。
陸上での馬車の運転という伝統的な行為があるように、水上で行うセーリングという行為があり、セーリングは伝統的に様々な目的で行われており、航海のため、貿易のため、漁のため、戦争のため、レジャーのため、競技のためなどに行われている。[注釈 1]
陸上交通での「安全運転」と同様に、海事でも「安全航行」が最重要事項であり、セーリングでは安全が最優先である。
帆(sail)を用いる乗り物は全て、セーリングを行っている。大型の帆船、セーリングボート(ディンギー、セーリングクルーザーなど)だけでなく、ウインドサーフィンなどもそうである。そして、スケートやそりとセイルを組み合わせて進むスケートセーリング(en:Skate sailing)も、車輪で陸を走るセーリング・スケートボードも同じである。
本記事では、まず長い長い歴史を持つセーリングの基本技術について解説する。基本技術や原理というのは、セーリングのごく一部にすぎず、足りないので、次に(まだスタブであるが)セーリングボートでの実際のセーリング(つまりセールボートの出港準備の内容、天候に応じたセールの(多数の選択肢の中からの)選定方法、港に停泊中の状態から「もやい」を解いて岸壁から離岸する方法、セールを広げる方法段取り、天候などに応じたセールのタイプの変更、荒天時のセーリング、帰港時の(セーリングボート独特の、モーターボートなどとは大きく異なる)着岸の方法、などを解説することで「セーリング」と呼ばれる一連の行為の全体像を解説する(予定である)。また水上交通上のルール(海上交通安全法など)とセーリングの関係(同法規での、セーリングの扱いや、セーリングボートでの航行の扱い、他の種類の船舶との優先順位関係、その理由になっているセーリングによる船の動きの違い(他の種類の船との動きの違い)、航路とセーリングの関係等)、また世界の様々な海・海域で行われているセーリングという行為の状況、等々についても解説する予定である。
(特定の大会で登場した競技の説明は、あくまで軽く触れるにとどめ、基本的に別記事に譲る。)
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セーリングには数千年以上の歴史がある。(別記事の帆#歴史も参照) セーリングは水運や航海や漁や戦争や探検のために行われてきた。
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セーリングは奥深い技術である。書籍でじっくりと解説する場合は数冊程度以上の内容、ページ数にして数百ページ程度以上の内容になる。 だが、その基本中の基本ならば、数ページ程度で一応解説できるので、この記事では基本中の基本を解説する。
ほとんどのセーリングの教科書では、まず第一歩として、(西欧風で、現代風の)セーリング・ボート(たとえばディンギーやセーリング・クルーザー)の図解と各部分の名称の解説(まずこれを提示し、各部位の名前を読者に覚えてもらわないと、全然説明の言葉が通じなくなってしまうため、大抵最初に提示される)、そして次に風の向きとセイルの間の角度と推力の関係を説明している。よって、この記事でもそれを採用する。
そしてもし可能であれば、その後に(大きな)帆船でのセーリングの技術の体系についても解説する。 以下、まずは比較的簡単な(西欧の)小型~中型のセーリングボートでのセーリングについて解説してゆく。
セール各部名称
ピーク又はヘッド(peak,head)上端部、ラフ(luff)前縁部、リーチ(leach)後縁部、タック(tack)下隅部、クルー(clew)後隅部、ローチ(roach)リーチの辺より円弧状にはみ出た部分、フット(foot)下辺部、バテン・ポケット(batten poket)、テルテール (tell-tale) 風見
セーリングの入門書では、まず「風の向き」の概念や、「風と船体とセイルの向きの関係」についての説明から初めている本が多い。第一歩の知識なので、この記事でもそこから解説する。→#風と船体とセイルの向きと推力などの関係
入門書では、その次の段階として「CEとCLR」についても解説されていることが多いので、この記事でも2番目に解説する[注釈 2]。→#CEとCLR
なお、セイルが風によって生み出す力について物理学的な知識も得ること、たとえばセイル面を流れる「空気の流れ(air flow)」「揚力(lift)」「空気の剥離(stall 失速)」、「渦(vortex)」の発生、といったことを理知的に理解することは、中級以上のセイリングでは大いに役に立つ。(ただし、古代~中世のセイラーたち(船乗りたち)はそういった理論を理解していなかったが上手くセイリングをしたし、現代でも入門者はそこまで完全に理解する必要はなく、とりあえず実際のセイリングを始めることができる [注釈 3]。)
「真の風(true wind)」とは、風の海面(や地表)に対する風向や風速のことであり、これは「海面の風紋(wind ripple)」を見れば分かる。「見かけの風(apparent wind)」とは、船に乗っている者から観測される、移動している最中の船の船体に対する風の風向や風速のことであり、いわば相対速度であり、これはマストの頂点や下部にとりつけられている「風見(wind vane)」を見て判断することができる。
上記の角度は、「真の風」に対する角度である。船に乗っている者には、「見かけの風」が感じられその角度は真の風の角度とは異なる。
船の底のキール(竜骨)が水中深くに入り込んでいて、しっかりと水をとらえて抗力を発生させることで、セイルが作り出す力のベクトルと抗力のベクトルが合成されて、はじめてセーリングは可能になる、つまり様々な方向へ進むことが可能になる。キールの抗力が無いと(たとえば、船底がまっ平らで滑らかだと)おおむね船はただ単純に風下へ流されてゆくだけになってしまう。
方向変換(ラフィングとベアリング・アウェイについて) セーリング中に風上方向に艇首(bow)を向けることをラフィング(luffing up)と言う。逆に風下方向に艇首(バウ)を向けることをベアリング・アウェイ(bearing away、略してベアー)と言う。
方向転換(タッキングとジャイビング)
セイルボートの方向転換は基本的にはラダーを左右どちらかに操作することで行う。ただし、それと同時に(方向転換後の途中で)風に対して進む角度に応じてセイルの向きも調整したり、大きく変更しなければならない。 風上に向かいながら方向転換してブームを入れ替えることをタッキングという。また風下に向かいながら方向転換してブームを入れ替えることをジャイビングという。
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「タック」とは風を受けている「舷」(げん。つまり船の風を受けている横側)を指すが、ラフィングして、[船首](バウ)を 風上に向け、風軸を越えて方向転換し、風を受ける舷を反対側にすることでブームを入れ替えることを「タッキング」と言う。
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ジャイビングとは風下に向けてセーリング中、ランニングを越えて方向転換して、ブーム(の船体中心に対する左右)を入れ替えること。風を受ける舷は反対側になる。弱風~中風下でジャイビングを行うことは可能である。ただし、タッキングと異なって、ジャイビングには多かれ少なかれ危険が伴う。
ブームは左右が変化する時に、ある段階になると、風をはらんだセイルの力を受けて、猛烈な速度で動きがちであり(おまけに風には常に「ゆらぎ」があり、船から見ると風向や風速が絶えずユラユラ、コロコロと変化しているので、予想よりも早く突発的にブームが動くこともしばしばで)、不意をつかれた乗組員の頭部をブームが直撃して負傷させることがある、ということはセイリングの教科書でもしばしば、取扱説明書の「警告文」のように、(太字などで強調して)解説されている。(ジャイビングではブームの頭部直撃による乗組員の死亡事故が起きることもある、ということを警告している教科書もある。) ジャイビングは、ラダーを切るだけでも(一応)ブームは左右反対に勝手に動きはするが、乗組員の頭を直撃したりしないように、「ジャイビングを行う時は、念のために必ず誰かがブームを手で持ちつつ(ささえつつ)移動させよ」と解説している解説書もある。
特に強風化でのジャイビングは非常に危険で、風によって猛烈な力がブームに対して働き、人の腕では抑えようとしても抑えきれないほどの大きな力になり、ブームを抑えようとした人が「吹き飛ばされて」しまったり、ブームが左右入れ替わり反対側でシート(=ロープ)の長さの限界点に到達し「バンっ」と急停止する瞬間に、物理的に非常に大きな力がマストとブームの接合(ジョイント)部分に加わり、ジョイントの金具が破損してしまう事故が起きがちである、といったことも(そうなると大切なメインセイルがほぼ使えなくなり、おまけにこの破損は洋上では修理不能なレベルの深刻なものなので、航海は中断してやむなくジブセイルだけで最寄りの港などに退避せざるを得なくなることや、この事故を大洋(大海原)を航海中に起こしてしまうと命にもかかわる、などのことも)セイリングの教科書には書かれている。そうした事故が起きないように、強風下では、(一種の「遠回り」になりがちだが)あえてタッキングで方向転換するということも行われている。クルーザーでは、メインシートにテンションをかけたままジャイビングを完了させるコントロールジャイブが通常である。又クオーターからランニングを帆走中は、安全のためバウからブームにロープを張りブームを固定したりしている。
なおセーリング時は、セールのCE(center of effort)と艇体のCLR(center of lateral resistance)の位置関係も考慮しなければならない。 CEがCLRより後ろにあれば、風上に向かおうとする性質(ウエザー・ヘルム weather hellm)が生じ、CEが前にあれば、風下に向かおうとする性質(リー・ヘルム lee helm)が生じてしまう。またオーバー・ヒール(over heel)によってもウエザー・ヘルムは生じる。
CEとCLRがぴったり垂直関係(ぴったり上下)にあれば、風上に向かおうとする性質も風上に向かおうとする性質も持たず、理論上は「理想的」ではあるが、実際のセーリングの時にCEとCLRがぴったりと上下になることはまず無い。つまり、ラダーを正確に真っすぐに保つと、針路がわずかづつ風上へとズレていったり、風下へとズレていったりする。よって通常、セーリングをしている最中は、ヘルムという性質を打ち消すようにわずかにラダー(舵)を切る(当て舵)。ラダーを当てた分は、抗力(drag 抵抗)となる。その程度はラダーを切る角度による。わずかな角度であれば抗力はほとんど無い。大きな角度では抗力が大きくなる。
(通常、セーリングをしている時のほとんどの時間、ほとんどのセイラーは、ヘルムを打ち消すために、多かれ少なかれ、いくらか「舵を当てた」状態にしている。通常の実用のセーリングの時(たとえば、欧米のセイラーが家族・友人とセイリングをレジャーとして楽しんでいる時や、たとえばアフリカやアラブの三角帆の漁船が近くの漁場に向かう時など)はこうしたセイリングのしかたで十分である。通常、CEとCLの微妙な位置のズレは常にある。几帳面に調整するとなると「セイルの面積をいじってCEを調整→ラダーのところに戻る→ラダーの当て具合の確認→ズレが少し残っていることに気付く→またセイルのところへ移動し、前後のバランスをいじる→...」といった作業を行ったり繰り返したりせざるを得なくなり、セイル面積をあれこれ修正している最中は、(「安全航行」をする上で重要な)自船の周囲の海面・海域をしっかりウォッチすることがおろそかになり、他の船舶との衝突などの事故が起きがちであるし、通常の航行では「安全航行」が一番大切なので、(CEとCLRの微妙なズレの問題は、相対的に優先順序が低いので)舵を当てることで解決し、航行を続行する。
ただし、これも程度(量)の問題ではあるので、もしもCEとCLRの間に極端なズレがありあまりにヘルムが極端に大きすぎて、「ラダーの抵抗が原因で、極端に効率が落ちすぎていて(実用上も)困る。」などと判断される場合は、ジブセイルかメインセイルのどちらかの面積を変更して(つまり、前後のセイルの面積バランスを調整して)CEの前後位置を修正する。
競技セイリングの時は、話が異なり、ものごとの優先順序が変わり、「安全運航」よりもしばしば「(危険を冒しても、事故のリスクを負ってでも)少しでも上位でゴールする」の優先順位が上がりがちなので、ヒール角度、操船技術、チューニング等を駆使して「ノー・ヘルムを目指す」ことになる。ヘルムの微調整は競技セイラーにとっては「腕のみせどころ」のひとつである。(ただし、競技参加者はしばしば「自分が上位になること」で頭が一杯になってしまうが、本当は競技の最中でも人命が最重要であり、たとえ調整するとしても「安全航行」の妨げにならない程度にしたほうがよい。(たとえ競技でも)水上、海上は常に危険がある。競技セイリング中に艇と艇が衝突して、その衝撃で乗組員が気絶し落水、水死する事故が起きたこともある。)
風のエネルギーを効率よく推進力に変えるには、セールの表面で空気をなめらかに流してやる必要がある。 これを俗に「セールに風を流す」と言い、上手くセールに風を流すと、より大きな揚力を得ることができる。
セール・ラフ部には「テルテール (Telltale)(「語りべ」という意味)」という、数cm程度の毛糸とシールが一体化したものなど、を多数張り付けておいて、それのセール風下側での動き(風に流されて水平になる様子や、垂れ下がってしまっている様子、揺らぎ方、揃い方など)を見て、セイルの表面をどのように風が流れているか判断することができる。
艇長(skipper)やメインセールを操作するクルー(crew)は、メインシート(=メインセイルを調整するためのロープ)をコントロールすることによって、風がセール面を綺麗に流れるようにする。風下側テルテールの乱れはメインシートの「引込みすぎ」を意味し、セールが失速しているので、メインシートを緩めるか、艇をラフィング(luffing)すべきことを示す。またセール・ラフ部が「シバー(shiver、身震い)」する(「バタバタ」と「はためく」)場合は、メインシートが緩みすぎであることを意味するので、その場合は、メインシートを引き込むか、艇をベアリング(bearing away)すればよい。
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タッキングを繰り返すことで、風上の位置に達することができる。その為には、よい上り角度とよいスピードというベクトル(vector)を目指さなければならない。また、船が風上に向かって右(左)に走っているときに風が右(左)側に振れた場合は、タッキングすることでより良い角度で上ることができる。レースでは上マークに向かう際に多用することになる。
風下に進むことはランニング(英: running)と言う。
特に真の風下(真下方向)へ進む場合が、やや特殊なセイル操作となる。
通常のセイルだけで行う方法と、エキストラセイル(追加、補助的セイル)のスピンネーカーを使う方法がある。
1本マストのディンギーやセーリングクルーザーでランニングを行うひとつの方法は、メインセイルを艇の中心線と直交する方向に開いて(艇の進行方向に対して真横に開いて)、追い風を受けることである。
この際、ジブセイルはメインセイルと反対側に開くと、より多くの風をとらえることができる。メインセイルを右側に開いたらジブセイルを左側に、反対にメインセイルを左側に開いたらジブセイルを右側にするというやり方であり、このやり方は日本では仏具の扉に喩えて「観音開き」などと呼ばれることがある。
(ジブセイルを使っていない状態の場合)メインセイルだけでランニングを行うこともできる。逆に(嵐ぎみの時など)強風下では、メインセイルを収納して、面積の小さいジブセイルだけを、いわば凧のように使いランニングが行われることもある。
このランニングは艇体が左右に揺れるローリングが発生しがちで、舵さばきが難しくなる。風に後ろから押される力しか使っておらず、揚力は利用していないので、スピードはあまり出ない。[1]
メインセイルを使っている状態で、スピンネーカーを使う方法がある。メインセイルよりもさらに大きなスピンネーカーを足すことでより多くの風をとらえる分、いくらか艇速が増す。[注釈 4] スピンネーカーを使用する場合は、ジブセイルは邪魔になるので収納する。
セーリングをヨットと同義とする記述が一般的であったが、国際セーリング競技規則の名称に"セーリング"との呼称が採用されたことを契機として、セーリングとの呼称が定着しつつある。ヨットという呼称は、セーリングに用いる艇種の一形態として用いる傾向が顕著である(2006年現在)。
オリンピックの競技種目としてのセーリング競技以外にも、アメリカスカップに代表されるように、多様なセーリング種目及び艇種が存する。競技に適する地理的条件及び気象的条件がオリンピックの開催地及び時期に適合させることに困難を伴う競技形態もあることを要因とするものとされる。このように個別の競技種目としては、4年毎の開催が不安定要因となり、選手を養成する基盤にも影響している。競技支援の公平性の観点から、非オリンピック種目について厚い選手強化の基盤整備の必要性が指摘されている。
1896年のアテネオリンピックで実施される予定であったが、天候不良により中止となった経緯がある。1900年のパリオリンピックから実施された。1904年のセントルイスオリンピックでは実施されなかったが、以降の大会では実施されている。
現在のヨット界で世界的に最も有名なレースは、このアメリカスカップである。
アメリカスカップは、1844年に設立されたニューヨーク・ヨット・クラブが建造したアメリカ号が、1851年に開催されたロンドン万国博覧会の記念行事として行われたワイト島一周レースにおいて、並み居るイギリス艇に圧倒的な差をつけ大勝し、観戦していたヴィクトリア王女はニューヨーク・ヨット・クラブにカップを与えたことから始まった。 アメリカがこのカップを得てから132年の間、アメリカ以外の国にカップが渡ったことは無かったが、1983年にオーストラリア、1995年にニュージーランドへとカップが渡った。2003年大会ではスイスが優勝し、152年の大会史において初めてヨーロッパ、そして海の無い国へとカップが渡った。
日本は、1992年にニッポンチャレンジとして正式に参加を果たし、以後2000年までの3大会に出場したが、資金難などにより2003年のアメリカスカップには参加していない。最高位は準決勝進出。2017年にはソフトバンクが「ソフトバンク・チーム・ジャパン」として挑戦した。
参加するチームは、最初にルイ・ヴィトンカップと呼ばれる予選を総当りで戦い、勝った1チームだけが、カップを保有するクラブチームと戦うアメリカスカップに進むことができる。
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