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サンポーニャ(西: zampoña)は、南米アンデス地方の民族音楽フォルクローレに使われる笛の一種。旧インカ帝国の文化圏内で用いられる、閉塞した葦の管を吹いて音を出すパンパイプと呼ばれる管楽器の一種である。先住民の言葉アイマラ語ではシーク(sicu, "音を出す管"の意)と呼び、またこの楽器を使用した合奏をシクリアーダ (sicuriada) と呼ぶ。
サンポーニャは、一つの管が一つの高さの音しか出せないため、長さの異なる管を束ねて一つの楽器とする。この種の楽器は、ルーマニアのナイを初めとして世界各国に広く見られるが、サンポーニャが他のパンパイプと大きく異なっているのは、元々は2人が1組になって、一方がドミソ...と束ねた楽器、他方がレファラ...と束ねた楽器を持ち、各人が自分の担当する音階を交互に吹鳴させて、あたかも一つの楽器で一曲を奏でているかのように旋律を織り成すという「コンテスタード(西: contestado / 応えるの意、日本ではドブレ〈西: doble / 二倍の意〉と呼ばれることもある)」という奏法で演奏されていたことである。ただし、このような奏法がいつごろから行われているのかはわかっていない。現在のフォルクローレの中では、この2つの楽器を重ねて持って1人で演奏する奏法の方が一般的である。
また伝統楽器としてのシーク(サンポーニャ)は、イタラケ、アヤタ、そしてチャラサニ地方のカントゥなど、ボリビア一国の中でも地域によりかなり違いが見られる。
現代的な楽器としてのサンポーニャは、調律はケーナと同様にG/Em(ト長調/ホ短調)のキーに合うようにソラシドレミファ♯ソという音階で調律されている。基本形はレからその上のオクターブのシまでの13音を
と振り分けたものだが、現在はこれに更に管を付け足して音域を広げた楽器が一般的である。また、半音(ド♯・レ♯・ファ・ソ♯・ラ♯)だけを束ねた3段目の列を付け足したクロマチック音階サンポーニャも登場している。音域別に4つの名前に細分化され、最低音用からトヨ(全長1m以上)、サンカ(全長60cm弱)、マルタ(30cm前後)、最高音のものがチュリ(全長15cm程度)と呼ばれる。もっとも一般的に使われるサンポーニャはマルタであり、これは一般的なケーナとほぼ同じ音域、リコーダーで言うとアルトリコーダーに近い音域を受け持つ。
サンポーニャの起源は前インカ帝国の時代にまで遡る。例として、現在のペルー南海岸のイロで発展したチリバヤ文明(紀元900年 - 1440年)の墓から、1列6管の植物製のサンポーニャがミイラの副葬品として出土している[1]他、ペルー中部のナスカ文明の遺跡からは、陶器や動物・人の骨で作られたサンポーニャが出土している。また、ペルー北海岸のモチェ文明の遺跡からはサンポーニャの絵が描かれた陶器が出土している。
サンポーニャは閉管構造の筒を束ねただけの単純な構造のエアリード楽器であるため、筒状のもので適切な寸法さえ設計できれば材料としては「なんでも」使用可能な楽器である。
葦および竹が一般的だが、アクリル、プラスチックといった樹脂系の材質も使用される。その他にはステンレスやアルミ等の金属、木、動物の骨、石、ストローなど[2]も使用される。
上記のように材料に関しては制限がない一方で、実際に演奏する際の音の明瞭さ、安定性などを考慮すると下記のような特性が材料に求められる。
葦、竹は上記特性において総じて優秀だが、唯一耐久性に劣る。特に耐久性が低い葦性のサンポーニャは、年間の気温や湿度の変動が激しい日本においては不利な素材であり、冬季期間中に低温・乾燥環境に耐えられずひび割れが発生し、発音が困難になるといったトラブルが生じやすいため保管には注意を要する。アクリル、プラスチックなどの樹脂性のサンポーニャは耐久性が格段に高い他、サンポーニャ生産国であるボリビアにおける葦の供給不足といった問題を受けて徐々に普及が進んできている。一方で、アクリルやプラスチック素材は重量が葦に比べ重い(葦の1.5倍程度)、見た目や質感が見劣りするといった欠点があり、このような理由から、現在でも葦製サンポーニャの人気は高い。
サンポーニャは閉管構造の筒を束ねた楽器であり、音程の高低は管長(筒の開口部から管底部までの距離)の短長と相関する。
低音用の「トヨス」、中低音用の「サンカ」、中高音用の「マルタ」の管長と各音程の実測結果を下表に示す。この関係をグラフ化すると、図のような自然対数に従う[4][5]。
音程 (オクターヴ表記) |
管長(実測値) | 管内径 | 対応するサンポーニャの種類 |
---|---|---|---|
(単位 cm) | (単位 mm) | ||
D2 | 121 | 16 | トヨス |
E2 | 106 | ||
F#2 | 96 | ||
G2 | 90 | ||
A2 | 79 | ||
B2 | 72 | ||
C3 | 66 | 13 | |
D3 | 59 | トヨス、サンカ | |
E3 | 52 | ||
F#3 | 47 | ||
G3 | 44 | ||
A3 | 37.5 | ||
B3 | 34.5 | トヨス、サンカ、マルタ | |
C4 | 33 | ||
D4 | 29 | 12 | |
E4 | 25.1 | サンカ、マルタ | |
F4 | 23.4 | ||
F#4 | 22.4 | ||
G4 | 21.1 | ||
G#4 | 19.8 | ||
A4 | 18.8 | ||
A#4 | 17.5 | ||
B4 | 16.6 | ||
C5 | 15.5 | ||
C#5 | 14.6 | 11 | |
D5 | 13.6 | ||
D#5 | 13 | マルタ | |
E5 | 12.2 | ||
F5 | 11.5 | ||
F#5 | 10.75 | 9 | |
G5 | 10.1 | ||
G#5 | 9.6 | ||
A5 | 8.85 | ||
A#5 | 8.3 | ||
B5 | 7.9 | ||
C6 | 7.4 | 8 | |
C#6 | 7 | ||
D6 | 6.4 | ||
E6 | 5.6 |
サンポーニャの調律には、管長を調整する方法と奏法による調律の2通りがある。
事前に管長の調整にて調律しておき、演奏中に他の楽器の音を注意深く聴きながら他の楽器との微妙なピッチのズレを奏法によって都度修正する技量が演奏者には求められる。
#音程と管の長さの関係で述べたとおり、サンポーニャの各管の音程は管長(歌口から管底までの距離)と相関する。以下の2通りの方法のいずれかで管長を調整することで調律を行う。
サンポーニャは円筒管の開口部に唇を当てて息を吹き当てることで管を共鳴させて音を発するという単純な構造のエアリード楽器であることから、唇を当てる強さや角度を調節し、開口部を開けたりわずかに塞いだりして吹くことで音程をある程度自在に変化させる事ができる[6]。
この性質を利用することで、合奏中の他の楽器との微妙な音程のズレを演奏中に修正できる他、表現技法としてのポルタメントをかけることも可能である。この調律の効果は短い管(高音)ほど顕著に現れ、マルタの高音部においては1/4音程度のピッチを奏法だけで調節することができる。一方、これは高音部ほど唇の当て方や角度の微妙な差で容易にピッチが変わるということであり、正確なピッチを保ちながらサンポーニャを演奏するには奏者の熟練を必要とする。
サンポーニャは、竹などで作られた板に管を当てて、紐で結んで固定しただけの単純な構造であることから、演奏する曲目や奏者の音楽的背景に合わせて管の配列を自由に変更することができる。管の本数も自由に増減可能であり、これにより一つのサンポーニャで対応可能な音域に幅を持たせることができる。ただし、重量や運搬にかさばるといった実用上の理由から、実際はある程度決まった管数および配列が取られることが多い。本項では、代表的な管の配列を述べる。
フォルクローレで演奏されることが多いG調/Em調(ト長調/ホ短調)のダイアトニックスケールに設定されたサンポーニャ。
管の本数は、奏者からみて手前側の列(イラと呼称される)が 7–9本、奥側の列(アルカと呼称される)が 8–10本 となっていることが多い。取り違え防止などの理由により、アルカ側の本数がイラ側の本数より1本多いデザインとなっているのが一般的である。
一人で演奏する場合、イラとアルカを重ねて使用する。イラとアルカを分けて二人一組で演奏することもあり、この場合は一方がイラを、他方がアルカを使用して一つの旋律を分担して演奏する。この奏法をコンテスタードと呼ぶ。コンテスタードを行う演奏上の利点は以下の通りである。
2列ダイアトニック管に、半音で構成された列(”半音管”と呼称される)を足したもの。一人で演奏するのに用いられることがほとんどであり、前述のコンテスタードで使われることはまず無い。
1973年から1985年ごろに生まれた配列と言われており、ボリビアのサンポーニャ奏者 フェルナンドヒメネス (Fernando Jimenez) や、当時同国にて営業していたペーニャであるペーニャナイラ (Peña Nayra) に出入りしていた演奏者たちが発明に関わったと考えられている。従来のサンポーニャは、前述した2列ダイアトニック管しかなかったため、曲中の転調への素早い対応や、半音を多用する複雑な旋律の演奏が困難であったが、本配列の発明により対応可能となった[7]。
2列管を半音単位の配列で組んだサンポーニャ。発明者はボリビアのチャランゴ奏者および楽器発明家のエルネスト・カブールである[7]。
前述の3列クロマティック管と大きく異なる点として、本配列では転調による管の移動軌跡のパターンが変わらないことが挙げられる。そのため、転調が発生する曲目の演奏に有効である。また、ブルー・ノート・スケールや陰旋法のペンタトニック・スケール、ガムラン音階など、フォルクローレ以外の音楽ジャンルで使用されるスケールにも比較的容易に対応できる。
一方、ダイアトニック管とは基本となる管の移動軌跡が大きく異なるから、本配列のサンポーニャの習熟には2列クロマティック管専用の練習が必要となる。また、本配列では演奏中の調性に関係ない音程の管が多く含まれることから、誤って他の管を演奏してしまった時にミスが際立ちやすいというリスクがあるため、演奏には一層の集中力を必要とする。例えば、ダイアトニック管の場合は演奏中に誤って目的とする管の一つ隣の管を吹いてしまった場合でも、その調の構成音から大きく逸脱することが少ないため、即興でアレンジに変えることができるが、2列クロマティックで目的の隣の管を吹いた場合は、和声から大きく逸脱するため、単純なミスとして聴衆に認識されやすい。
ピアノと同様の配列で組んだサンポーニャ。鍵盤楽器奏者にとって配列が覚えやすいよう開発された。白鍵に当たる部分がイラ側、黒鍵に当たる部分がアルカ側となる。
陰旋法のペンタトニック・スケールの配列で組んだ一列管サンポーニャ。一列であることからグリッサンドの音色が流麗であり、管をスライドさせながら演奏するのに向く。3列クロマティックの半音管もアンタラと同様の配列である(この場合はA♭m/B調)。
厳密には、配列の名称というよりもサンポーニャの一種としての名称の方が正しいが、本項にて解説する。サンファニートなどのエクアドルのフォルクローレ演奏に主に用いられる配列であり、オクターブ違いのペンタトニックスケール2種を低音-高音のハーモニーとなるよう互い違いに並べた1列管である。マルタよりも高い音域を多く含む。隣接する2つの管を同時に吹く奏法やグリッサンドをした際の独特な旋律は通常のサンポーニャと明瞭な差異がある。
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