WRAP53

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WRAP53

WRAP53(WD40-encoding RNA antisense to p53)は、がんの発生への関与が示唆されている遺伝子である。この遺伝子はp53がん抑制遺伝子を調節するアンチセンスRNAをコードするとともに、DNA修復テロメアの伸長、カハール体の維持に関与するタンパク質をコードする、という二重の役割を持つ[5][6][7][8]

概要 識別子, 記号 ...
WRAP53
識別子
記号WRAP53, DKCB3, TCAB1, WDR79, WD repeat containing antisense to TP53
外部IDOMIM: 612661 MGI: 2384933 HomoloGene: 9995 GeneCards: WRAP53
遺伝子の位置 (ヒト)
17番染色体 (ヒト)
染色体17番染色体 (ヒト)[1]
17番染色体 (ヒト)
WRAP53遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点7,686,071 bp[1]
終点7,703,502 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
11番染色体 (マウス)
染色体11番染色体 (マウス)[2]
11番染色体 (マウス)
WRAP53遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点69,452,584 bp[2]
終点69,471,081 bp[2]
遺伝子オントロジー
分子機能 シャペロン結合
血漿タンパク結合
telomerase RNA binding
RNA結合
identical protein binding
protein-containing complex binding
細胞の構成要素 カハール体
telomerase holoenzyme complex
細胞核
核質
細胞質
細胞質基質
核内構造体
生物学的プロセス telomerase RNA localization to Cajal body
positive regulation of establishment of protein localization to telomere
scaRNA localization to Cajal body
protein localization to Cajal body
positive regulation of telomerase activity
establishment of protein localization to telomere
telomere formation via telomerase
telomere maintenance via telomerase
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_001143990
NM_001143991
NM_001143992
NM_018081

NM_144824
NM_001364769

RefSeq
(タンパク質)

NP_001137462
NP_001137463
NP_001137464
NP_060551

NP_659073
NP_001351698

場所
(UCSC)
Chr 17: 7.69 – 7.7 MbChr 17: 69.45 – 69.47 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
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遺伝子

WRAP53遺伝子は17番染色体英語版の17p13.1に位置し、13個のエクソンを含む。3つの選択的エクソン(1α、1β、1γ)が存在し、少なくとも3種類の遺伝子産物が産生される。WRAP53遺伝子はp53遺伝子と向かい合い、両遺伝子の一部の領域は重複している。

機能

Thumb
WRAP53p53遺伝子と遺伝子産物。矢印は転写の方向、点線は両遺伝子で重複しているエクソンを示している。
Thumb
WRAP53βの機能

p53の最初のエクソンと重複するWRAP53の転写産物(WRAP53α)は、p53のmRNAとタンパク質のレベルを調節する[5][9]。WRAP53γ転写産物はp53の最初のイントロンと重複しており、このイントロンに位置するHp53int1転写産物のアンチセンス鎖である。しかしながら、WRAP53γの機能は不明である。

WRAP53遺伝子はWRAP53β(WRAP53、WDR79、TCAB1)と呼ばれるタンパク質もコードし、このタンパク質はWD40タンパク質ファミリーに属する。WRAP53βはタンパク質間、タンパク質-RNA間の相互作用を促進し、相互作用因子をカハール体や、テロメア、DNA二本鎖切断部位へリクルートする[7][8][10][11]。WRAP53βの助けを借りてカハール体に局在する因子には、SMNタンパク質英語版scaRNA英語版テロメラーゼなどがある[7]。また、WRAP53βはユビキチンリガーゼRNF8をDNA二本鎖切断部位へ標的化する[11]

因子を適切な部位へ局在させる役割に加えて、WRAP53βはカハール体の構造的完全性の維持にも関与しており、WRAP53βがなければカハール体は崩壊し、再形成されることはない[10]

ドメイン

Thumb
WRAP53βの構造。数字はアミノ酸残基を示している。

WRAP53βタンパク質は進化的に高度に保存されており、ホモログ(WD40リピートに限定される)は脊椎動物、無脊椎動物、植物、酵母に存在する[5][12][13]。WRAP53βはN末端のプロリンリッチ領域、中心部のWD40ドメイン、C末端のグリシンリッチ領域から構成され、幅広い分子間の複数の相互作用の足場として機能する。

臨床的意義

先天性角化不全症

WRAP53βの生殖細胞系列変異は、先天性角化不全症英語版と呼ばれる疾患を引き起こす。この疾患は骨髄不全、早老がんの素因となるほか、口腔白板症、皮膚色素沈着の異常、爪の変形という皮膚粘膜に関する3つの特徴を持つ[13]。WRAP53βの変異は常染色体劣性形式で遺伝し、WD40ドメインの高度保存領域の変異はより重症となる[14][15]

こうした変異によってWRAP53βの核内レベルは低下し、テロメラーゼのテロメアへの輸送が異常となってテロメア短縮の進行が引き起こされる[13]。WRAP53βが正しくフォールディングするためには、シャペロニン英語版CCT/TRiC英語版が重要であり、この疾患ではこのフォールディングの異常がみられる[16]

脊髄性筋萎縮症

脊髄性筋萎縮症の最も重症型(I型、ウェルドニッヒ・ホフマン病)の患者では、WRAP53βを介したSMNの輸送の欠陥がみられる[17][18]。この疾患は脊髄の前角のα運動ニューロンの進行性変性によって特徴づけられる。乳児死亡率の主要な遺伝的要因であり、6000出生につき1件の割合で生じる[19]

がん

WRAP53βは由来の異なるさまざまながん細胞株で過剰発現している。こうした過剰発現は発がん性形質転換を促進することから、このタンパク質が発がん性を有することが示唆される[20]。WRAP53βは原発性鼻咽頭癌英語版[21]、食道扁平上皮癌[22]直腸がん[23]で過剰発現している。さらに、がん細胞でWRAP53βをノックダウンすることでマウスに移植した際に形成される腫瘍のサイズは低下し[21]、またがん細胞ではミトコンドリア依存的なアポトーシスが引き起こされる[20]

反対にWRAP53βの双方のアレルを不活性化する変異が先天性角化不全症の原因となることは、このタンパク質が発がん性因子ではなくむしろがん抑制因子として作用することを示唆している。また頭頸部がんでは、核内におけるWRAP53βの喪失は患者の生存期間の短縮や放射線治療に対する抵抗性とも相関している[24]。WRAP53βは多数の細胞過程において複雑な役割を果たしており、特定の条件下ではがん抑制因子として、そして他の条件下ではがん遺伝子として作用している可能性がある。

WRAP53遺伝子の一塩基多型(SNP)は、乳がん卵巣がんのリスクの増加と関連付けられている[25][26][27]。これらのSNPの1つは、ベンゼン曝露作業者におけるDNA修復の欠陥や血液毒性とも関係している[28]

脚注

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