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RPE65(retinal pigment epithelium-specific 65 kDa protein)またはレチノイドイソメロヒドロラーゼ(英: retinoid isomerohydrolase)は、脊椎動物の視覚サイクルの酵素であり、ヒトではRPE65遺伝子によってコードされる[5][6]。RPE65は、網膜色素上皮(RPE、光受容細胞に栄養を供給する上皮細胞層)で発現しており、光シグナル伝達の過程でall-trans-レチニルエステルから11-cis-レチノールへの変換を担う[7]。その後、11-cis-レチノールは光受容細胞での視色素の再生に利用される[8][9]。RPE65は、カロテノイドオキシゲナーゼファミリーに属する[8]。
RPE65は脊椎動物の視覚サイクルに重要な酵素であり、網膜色素上皮に存在する。また、桿体細胞と錐体細胞にも存在する[10]。11-cis-レチナールからall-trans-レチナールへの光異性化は光シグナル伝達経路を開始し、脳はこの経路を介して光を検知する。All-trans-レチノールは光活性を持たないため、オプシンと再び結合して活性型の視色素を形成するまでに、11-cis-レチナールへ再変換される必要がある[8][11]。RPE65はall-trans-レチニルエステルを11-cis-レチノールへ変換することで、光異性化を逆転させる。RPE65の最も一般的なエステル基質は、パルミチン酸レチノールである。視覚サイクルを完結するためには、All-trans-レチノールからレチニルエステル(RPE65の基質)への酸化とエステル化、そして11-cis-レチノールから11-cis-レチナール(光活性のある視色素の構成要素)への酸化を行う、他の酵素も必要である[8][9]。
RPE65は、酵素の基質やエステルの加水分解に関与しているかどうかに関する過去の議論のため、レチノールイソメラーゼやレチノイドイソメラーゼと呼ばれることもある。
RPE65は2つの対称的な、酵素反応的には独立したサブユニットからなる二量体である。各サブユニットの活性部位は7枚の羽根を持つβプロペラ構造を持ち、4つのヒスチジンが補因子として鉄(II)イオンを結合している[9][12]。この構造モチーフは、研究が行われているカロテノイドオキシゲナーゼファミリーの酵素の間で共通している。RPE65は網膜上皮細胞で滑面小胞体の膜に強固に結合している[8]。
RPE65の活性部位には、4つのヒスチジン(His180、His241、His313、His527)に結合したFe(II)の補因子が存在する。4つのヒスチジンはそれぞれβプロペラ構造の異なる羽根に位置している。4つのヒスチジンのうち3つの近傍にはグルタミン酸残基(Glu148、Glu417、Glu469)が配位しており、補因子の鉄に対するヒスチジンの八面体型配置での結合を補助していると考えられている[13]。活性部位を囲むPhe103、Thr147、Glu148はカルボカチオン中間体の安定化を助け、13-cis-レチノールと比較して11-cis-レチノールに対する立体選択性を高めている[9]。
反応物や生成物は、疎水性のトンネルを通って活性部位に出入りしていると考えられる。このトンネルは、基質となる脂質を直接吸収するために脂質膜に向かって開いていると考えられる。もう1つのより小さなトンネルも活性部位に達しているが、レチノイドの反応物や生成物を輸送するには狭すぎるため、水分子の経路となっていると考えられる[9][13]。
RPE65は、滑面小胞体の膜に強固に結合している。滑面小胞体は脂質であるレチノイドのプロセシングに関与するため、網膜色素上皮の細胞には非常に豊富に存在する。構造研究からは、RPE65はその疎水性表面と脂質膜内部との相互作用によって、滑面小胞体の膜に部分的に埋め込まれていることが示されている。このことは、RPE65の可溶化に界面活性剤が必要であることからも支持される。RPE65の疎水性表面の大部分(109–126番残基)は両親媒性のαヘリックスを形成しており、タンパク質の膜に対する親和性に寄与していると考えられる。また、内在性のRPE65ではCys112はパルミトイル化されており、RPE65の疎水性表面が膜に埋め込まれていることのさらなる裏付けとなっている[13]。
RPE65の疎水性表面には、酵素の活性部位へつながる大きなトンネルの入り口が存在する。このチャネルが疎水性表面に存在することと、RPE65は脂質二重層から基質を直接吸収する能力が実証されていることも、RPE65は膜に部分的に埋め込まれていることを支持している[8]。
RPE65は、ゼブラフィッシュ、ニワトリ、マウス、カエル、ヒトなど幅広い脊椎動物から単離されている[8][14][15]。その構造は種間で高度に保存されており、特にβプロペラと推定膜結合領域で保存性が高い。ヒトとウシのRPE65のアミノ酸配列の差異は1%未満である[13]。βプロペラ構造のヒスチジン残基とそこに結合するFe(II)補酵素は、研究が行われているRPE65のオルソログやカロテノイドオキシゲナーゼファミリーの他のメンバーで100%保存されている[9]。
以前、RPE65には膜結合型のmRPE65と可溶型のsRPE65という2つの互換可能な形態が存在することが提唱されていた。この仮説では、Cys231、Cys329、Cys330のパルミトイル化によるsRPE65からmRPE65への可逆的な変換が、視覚サイクルの調節やmRPE65に対する膜親和性の付与に関与していることが示唆されていた[16]。しかしRPE65の結晶構造解析により、これらの残基はパルミトイル化されておらず、分子表面にも露出していないことが示された。また新たな研究では、可溶性RPE65の豊富な存在も確認できなかった。そのため、現在ではこの仮説はほぼ放棄されている[8][13]。
RPE65によるall-trans-レチニルエステルから11-cis-レチノールへの変換は、SN1反応によるO-アルキル結合の開裂によって触媒される。RPE65によるO-アルキルエステルの開裂、幾何異性化、そして水の付加という組み合わせは、現在の生物学では唯一のものであると考えられている。しかしながら、同様に安定化されたカルボカチオン中間体によるO-アルキルエステルの開裂は有機化学者によって利用されている[9][17]。
Fe(II)補因子の助けを借りたエステル結合のO-アルキル開裂は、共役ポリエン鎖によって安定化されたカルボカチオン中間体を生成する。カルボカチオンの非局在化によりポリエン鎖の結合次数は低下し、トランスからシスへの異性化の活性化エネルギーが低下する。Phe103とThr178は異性化したカルボカチオンをさらに安定化し、酵素の立体選択性を担っていると考えられている。異性化後、C15に対する水分子の求核攻撃によってポリエン鎖の共役が回復し、エステル結合の開裂が完了する[9][13]。
他の生化学的なエステル加水分解反応のほぼすべては、アシル炭素でのSN2反応によって行われる。しかし同位体標識研究により、RPE65の最終的な11-cis-レチノール産物の酸素は反応するエステルではなく溶媒に由来するものであることが示されており、O-アルキル開裂機構が支持される[13]。さらにSN2エステル加水分解反応機構では、反応の異性化部分を完了させるために、何らかの求核剤(おそらくシスチン残基)による電子豊富なC11に対する不利なSN2攻撃が必要となる。アルケンに対する求核攻撃はエネルギー的に不利であるだけでなく、活性部位には求核剤として働くシスチン残基は存在しない[8][9]。
RPE65遺伝子の変異は、レーバー先天性黒内障2型(LCA2)や網膜色素変性症(RP)と関係している[6][18]。デンマークのLCA患者で最も一般的に検出される変異は、RPE65の変異である[19]。LCA2とRPの患者におけるRPE65の変異の大部分はβプロペラ部分に生じており、タンパク質の適切なフォールディングと補因子の鉄の結合を阻害すると考えられている。プロペラ部分の変異部位として特に一般的なのは、Tyr368とHis182である。また、Arg91の置換も一般的であり、RPE65の膜との相互作用や基質の取り込みに影響を与えることが示されている[13]。
RPE65の機能の完全な喪失はLCAやRPなどの疾患と関係しているが、RPE65の部分的な阻害は加齢黄斑変性(AMD)の治療法として提唱されている。All-trans-レチニルアミン(Ret-NH2)とエミクススタットは、いずれもRPE65を競合的に阻害することが示されている[9]。エミクススタットは現在、AMDの治療薬としてFDAの第3相臨床試験が行われている[9][20]。また、Jean BennettとKatherine A. HighによるRPE65の変異に関する研究によって遺伝性の失明から回復が可能となり、遺伝子疾患に対する遺伝子治療として初めてFDAの承認を受けた(ボレチジーンネパルボベック)。
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