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日本の化学・工業に関する国家資格 ウィキペディアから
危険物取扱者(きけんぶつとりあつかいしゃ、Hazardous Materials Engineer[1][2])は、消防法に基づく危険物を取り扱ったり、その取扱いに立ち会うために必要となる日本の国家資格である。また、一般にこの資格を持つ者のことも「危険物取扱者」と呼ぶ。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
危険物取扱者 | |
---|---|
英名 | Hazardous Materials Engineer |
実施国 | 日本ほか |
資格種類 | 国家資格 |
分野 | 工業 |
試験形式 | マークシート |
認定団体 | 都道府県知事 |
認定開始年月日 | 1948年(昭和23年) |
等級・称号 | 甲種・乙種(1類 - 6類)・丙種 |
根拠法令 | 消防法 |
公式サイト | https://www.shoubo-shiken.or.jp/ |
特記事項 | 実施は消防試験研究センターが担当 |
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日本以外の多くの国にも、同様の制度・資格・規制が存在する。本項目では日本の制度について記述する。
消防法及びその下位法令では、火災の危険性が高い物質をまとめて「危険物」として指定されている[注 1](詳細は危険物を参照)。この資格を持つ者は、その取り扱いを行うことができる。
危険物取扱者の資格保有を証明するため都道府県知事から「危険物取扱者免状」が交付される。資格取得のための試験は、原則として都道府県知事が行うことになっているが、総務大臣の指定する者に行わせることもできるとされている(都道府県知事が指定試験機関に試験を行わせる場合、当該都道府県において知事による試験は行われない)。現在、すべての都道府県で指定試験機関の一般財団法人消防試験研究センターが試験を行っている。
甲種か乙種の該当する類の有資格者が作業に立ち会えば、無資格者も危険物の取扱いができる。セルフ式ガソリンスタンドの運用はこれを利用して成立している。そのため、セルフスタンドでは、たとえ深夜帯などで一見無人に見える状態であったとしても、実際には事務所内のモニターカメラなどを用いて甲種か乙種第4類の危険物取扱者の有資格者による遠隔監視が常時行われている。これにより、危険が発生すれば遠隔操作でバルブ閉鎖などの措置を取ることを可能とするシステムが構築されている。丙種の有資格者は自身による取扱いのみが認められており、無資格者による取扱いへの立会いはできない。
危険物取扱者の中でも、乙種第4類(俗に「乙4(おつよん)」と通称される)は取得者数が突出して多い。これは乙種第4類がガソリンスタンドの運用やガソリンスタンドにガソリンなどを移送するタンクローリー(移動タンク貯蔵所)の乗務、製造工場で広範に利用される有機溶剤・燃料・潤滑油などの取り扱いに不可欠な資格の1つであることから社会的需要が高い一方で、学歴や実務経験なども問われずに誰でも受験・取得可能なことが関係している。丙種でもガソリンスタンドの店員レベルの業務や、ガソリンや軽油など、ごく一部の危険物を積載したタンクローリー乗務は可能だが、企業が求人の際、乙種第4類取得者であることを条件とすることが多い。
試験は消防法に基づく国家試験として、都道府県知事から委託を受けた各都道府県の消防試験研究センター支部(東京都は中央試験センター)が実施している。都道府県毎に日程は異なるが年間2-6回程度の試験機会が設定されており、受験者の多い乙種第4類だけは東京都でほぼ毎週行われている。
受験地の制限はなく、居住地以外の都道府県で受験することも可能である。このため、実施回数の少ない県の住民が、資格取得を急いで実施回数の多い、あるいは直近の日程で試験が開催される他の都道府県で受験するということもごく当たり前に見られる。ただし、合格した場合の免状申請先は受験地の都道府県知事となり、手数料として貼付する道府県収入証紙[注 2]も受験地のものが必要になるので注意が必要である[注 3]。受験会場には主に大学・高校の教室、会館・ホール・商工会議所や消防本部の会議室・講堂などが利用されるが、場所によっては上履きを持参する必要がある。
甲種は受験資格の制限があるが、乙種・丙種は誰でも受験できる。乙種第1類から第6類まで全ての試験に合格すれば、甲種取扱者と同様に全ての危険物を取り扱えるため、甲種の受験資格を持たない者が乙種全類取得を目指すケースもある(甲種と乙種全類は扱える危険物の範囲は同じであるが、それ以外の点では違いがある)。
また、甲種合格を目指す前のステップとして乙種全類合格を目指す者も見られる。
試験は3科目あり、所定の時間内に全ての科目を受験する(受験者が自由に時間配分できる)。乙種および丙種の試験では、既所持資格などにより一部科目の免除制度がある(後述)。
乙種の試験において特徴的なこととしては、乙種第4類について、受験者数と資格取得者数がいずれも突出して多い一方、合格率が約3割前後とこれも突出した低さであることが挙げられ、パーセンテージだけを単純に一見した場合、むしろ甲種試験にも近い様相を呈している(詳細は合格率の節を参照)。地域によっては受験者数の多さや受験会場の規模の都合などから乙種第4類のみの試験日を設けることや、同一日であっても午前・午後などで時間帯を分けたり、乙種第4類のみ別枠で時間を設定することがある。
甲種の試験は乙種全6類の試験内容が横断的・複合的に出題される。また、「物理学及び化学」の難易度も乙種の試験より高い。
試験の合格基準は、甲種危険物取扱者試験については前条第一項各号の試験科目ごとの成績が、乙種危険物取扱者試験については同条第二項各号の試験科目(同条第五項又は第六項の規定により試験科目の一部が免除された者については、当該免除された試験科目を除く。)ごとの成績が、丙種危険物取扱者試験については同条第三項各号の試験科目(同条第七項の規定により試験科目の一部が免除された者については、当該免除された試験科目を除く。)ごとの成績が、それぞれ六十パーセント以上であることとする。 — <危険物の規制に関する規則第55条の2>
合格点は、科目免除の有無に関わらず受験する全ての科目それぞれの正解が60%以上あることである。この場合、免除された科目・問題は正解率算出の分母・分子には含まれず、実際に解答範囲となった部分のみで正解率が計算される[3][4]。
このうち「4種類」の受験資格は、2008年4月の消防法令改正により新設されたものである。改正前は学歴要件(「大学等卒」、「15単位」または「学位」)もしくは「実務2年」しか存在せず、特殊な事例[注 4]を除いて高校生以下が受験することは不可能であったが、2008年4月に「4種類」の受験資格が加えられたことにより、高校生以下も受験することが可能になった。実際に、法令改正施行後4か月間(2008年4月から7月末まで)に実施された甲種の試験で高校生14名が合格している[5]ほか、2012年10月に史上最年少で乙種全類に合格したことで「4種類」の条件を満たした東京都の小学2年生(当時)が同年12月に史上最年少で甲種にも合格している[6]。
誰でも受験できる。既に取得している資格によって一部科目の免除がある。
史上最年少での全類合格者としては、2012年、東京都千代田区に住む小学2年生の男児が乙種の1類から6類までに合格したとしてその記録を持っている[7]。なお、女性最年少記録者として愛知県に住む当時小学3年の女児が2012年に乙種全類を取得している[8]。受験者数が最も多い乙種4類においては、2020年に岡山県倉敷市に住む小学1年生の女児が合格し、最年少記録となっている[9]。
誰でも受験できる。消防団員として一定の条件を満たした者については一部科目の免除がある。
危険物取扱者試験手数料の額は、地方公共団体の手数料の標準に関する政令(平成12年政令第16号)により規定されているため、いずれの都道府県知事が施行する試験かにかかわらず同一である。以下の額は2024年5月1日以降の受験申請時について適用。
甲種、乙種、丙種ともマークシート方式で試験が行われる。いずれの種の試験においても、一定時間が経過したら、試験官に問題用紙と解答マークシートを渡し、途中退室が可能。なお、途中退室しなかった場合でも、問題用紙は回収される。
また、問題用紙を持ち出したり、抜き取ったりするなどの行為はできない。持ち出した場合は、失格となる。不正行為とみなされ、合格発表後でも、無効となる。
5肢択一で、試験時間は150分
5肢択一で、試験時間は120分
4肢択一で、試験時間は75分
なお、甲種には科目・問題の一部免除の制度はなく、またどの様な受験資格で受験しても同じ量の問題が出題される。
乙種の一部の類の免状所持者が他類の受験を希望する場合は、都道府県によっては同一試験日に最大5つの類までを同時受験できる(東京都、山口県等では4類を除いて2種類まで、北海道、群馬県、神奈川県、京都府、大阪府等では4類を除いて3種類まで、鳥取県では自分の所持する類を除いた4種類まで、高知県では自分の所持する類以外を最大5種類まで同時受験が可能)。しかし複数類同時受験ができない県もある(福岡県など)。
詳細については「一般財団法人 消防試験研究センター」の各都道府県支部の受験案内を参照されたい。
試験の受験者・合格者の人数及び合格率は、一般財団法人消防試験研究センターが公式ウェブサイト内の「最新の試験実施状況[10]」の項目で公開している。
これによれば、数字は多少前後するが、甲種と乙種第4類は約3割前後、乙種第1・2・3・5・6類は約6割台の合格率となっている。
合格率の数字で見る限り、乙種の中では第4類のみ合格率が突出して低いことが常態化している。これは第4類は需要が突出して多い資格であり、乙種第4類単体での取得を希望する者が多く、その中には、不合格のために複数回にわたり受験を繰り返す者も多く、そのために生じる数字上のカラクリで、別に乙種の中で第4類の試験内容だけが甲種並みに難しいというわけではない。また、乙種の危険物取扱者試験を取り扱う問題集が、一般財団法人全国危険物安全協会が販売している例題集も含めて、「乙種第4類」向けと「乙種第1・2・3・5・6類(一部科目免除対象者)」向けという形で分割されているものが大半であることから、乙種の複数類取得や「4種類」での甲種受験を志すにしても、最初にまず乙種第4類で全科目を受験し、これを合格後に後述の一部科目免除を利用して他の類を受験するという“攻略法”が一般的で、科目一部免除の特典がなく全科目を受験する者がほとんどを占めているためである。また、他の類がまず必要という場合でも、第4類は一般的に需要が高い資格であるため、とりあえずついでに取っておいて損はないという考え方も幅広く存在する。逆に、乙種1・2・3・5・6類では多くの受験者が第4類を先に合格し上述の科目一部免除を受けて受験しており、第4類よりも合格率が高くなる傾向がある。
危険物取扱作業に従事している有資格者(後述の保安監督者も含む)は、都道府県知事、あるいは「総務大臣が指定する講習機関」が行う保安講習を3年に1回受ける必要がある。但し大臣指定講習機関がこれまで実在しておらず、いずれの都道府県においても知事が施行している(東京都は内部機関である東京消防庁が実施しているが、それ以外は講習事務の一部を道府県単位の危険物安全協会等へ委託する形式)。実務に就いていない場合は受講の義務はないが受講することは可能。
実務に就いていなかった者が従事することになった場合は、その日から1年以内に受講する必要がある。ただし、以前に保安講習を受けたことがある場合は、受講日以降最初の4月1日から間隔が3年を超えないように受講すればよい。また、新たに免状の交付を受けて従事することになった場合も、交付日以降最初の4月1日から3年以内に最初の保安講習を受ければよい。
講習開催時期は都道府県ごとに年2回から毎月まで大きく異なるが、基本は給油取扱所従業者とその他の従事者の2種類のうち、どちらか該当するほうを受講する。石油コンビナート等災害防止法における特别防災区域を有する道府県ではその種別の講習を加えている事が多く、さらに大阪府は化学工場、タンクローリーといった種別も設けている。また石油コンビナート等特别防災区域がない東京都は給油取扱所以外の講習を貯蔵形式などにより4種類に細分し開催。講習は3時間、知事が行う講習の受講料は、試験手数料と同じ政令に規定があり全国一律の4,700円と定めている。
なお、講習義務のある者が保安講習を怠ると免状の返納命令の対象となる。
甲種・乙種(1類~6類)・丙種に分かれ、消防試験研究センターが実施する試験に合格した者に、申請により都道府県知事から交付される。申請に関する窓口事務については、消防試験研究センターの道府県支部および中央試験センター(東京都)に委託されている。
運転免許証やクレジットカードと同じ、縦5.4cm×横8.5cmのカード型で、表面には氏名、生年月日、本籍地の都道府県(危険物取扱者資格は外国籍の者も取得可能であり、この場合は本籍欄は「外国籍」となる)、顔写真および写真書換期限、交付した都道府県知事の公印、種類ごとの交付年月日・交付番号・交付知事欄が設けられている。裏面には、危険物取扱者講習の受講状況記入欄が設けられている。
危険物保安監督者に選任された者で甲種危険物取扱者免状の交付を受けている者は、防火管理講習・防災管理講習を受けなくても甲種防火管理者および防災管理者の資格を有するものとして認められる[12]。また、一定規模以上の特定防火対象物の甲種防火管理者における甲種防火管理再講習および防災管理者における防災管理再講習を受講する義務もない[13]。
甲種危険物取扱者の資格を持つ者で、現役の陸上自衛隊・航空自衛隊の自衛官は、指定された特技に限り技術陸曹・空曹(2等陸曹・空曹)の任用資格がある。
かつて甲種危険物取扱者の資格を持つ者は、技術士一次試験の一部科目が免除された[14]が、2012年以降は共通科目が廃止となった[15]ため、現在はこの特典は存在しない。
上記の措置の対象はいずれも甲種危険物取扱者のみであり、乙種および丙種危険物取扱者に対するこのような措置はない。乙種全類の有資格者であることをもって甲種有資格者に代えることもできない。
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