マレーガビアル

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マレーガビアル

マレーガビアルTomistoma schlegelii)はインドガビアル科に分類されるワニの一種。マレーガビアル属では唯一の現生種である。かつてはクロコダイル科に分類され、真のガビアルと遠縁であるとされていたことからガビアルモドキの別名を持つ[3]マレー半島ボルネオ島スマトラ島スラウェシ島ジャワ島に分布する。成熟個体の数は推定2,500 - 10,000頭であり、IUCNレッドリストでは絶滅危惧種に指定されている[2]

概要 マレーガビアル, 保全状況評価 ...
マレーガビアル
生息年代: 更新世 - 現世, 0.1 - 0 Ma[1]
マレーガビアル
保全状況評価[2]
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 EN.svg
Status iucn3.1 EN.svg
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: ワニ目 Crocodilia
: インドガビアル科 Gavialidae
: マレーガビアル属 Tomistoma
: マレーガビアル T. schlegelii
学名
Tomistoma schlegelii (Müller, 1838)
シノニム
  • Crocodilus schlegelii Müller, 1838
英名
False gharial
Malayan gharial
Sunda gharial
分布
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分類と系統

要約
視点

Crocodilus (Gavialis) schlegelii という学名は、ボルネオ島から得られた標本を元にサロモン・ミューラーによって1838年に記載された[4]。種小名 schlegeliiヘルマン・シュレーゲルへの献名[5]。1846年にミューラーは、Tomistoma schlegelii という学名を使用することを提案した[6]

マレーガビアル属には、T. cairenseT. lusitanicumT. taiwanicusT. coppensi などの絶滅種も含まれる。ただし、マレーガビアル属は側系統群であり、絶滅種は別の属に再分類される可能性がある[7][8]

マレーガビアルの吻部は基部に向かって広がっており、インドガビアルよりもクロコダイル科に似ている。インドガビアルの骨格は、現生する他のすべてのワニとは異なる系統を示している[9]。マレーガビアルは骨格の特徴に基づくとクロコダイル科には形態学的に似ているものの、 DNA配列を使用した研究では、実際にはガビアル科に分類されることが一貫して示されている[10][11][12][13][14][15][7][16]

"Tomistoma" calaritanus の鱗の化石

絶滅したマレーガビアル属の化石は、台湾、ウガンダ、イタリア、ポルトガル、エジプト、インドの古第三紀、新第三紀、第四紀の地層から発見されているが、マレーガビアルに比べて古い年代のため、そのほとんどが別の属に分類される可能性が高い[17]

以下に現存する主要なワニ類の系統図を示すが、これは分子学的研究に基づいており、マレーガビアルの近縁関係を示している[11][14][15][7][16]

ワニ目
アリゲーター科
カイマン亜科

カイマン属

クロカイマン属

コビトカイマン属

アリゲーター亜科

アリゲーター属

ロンギロストレス類
クロコダイル科

クロコダイル属

クチナガワニ属

コビトワニ属

ガビアル科

インドガビアル属

マレーガビアル属

以下の系統樹は、ガビアル科におけるマレーガビアルの位置を示している。形態学的データ、DNA配列、地層学的データを用いた研究に基づく[7]

ガビアル上科
ガビアル科

インドガビアル

Gavialis bengawanicus

Gavialis browni

Gryposuchus colombianus グリポスクス

Ikanogavialis イカノガビアリス

Gryposuchus pachakamue

Piscogavialis ピスコガビアリス

Harpacochampsa

Toyotamaphimeia マチカネワニ

Penghusuchus ペンフースクス

Gavialosuchus ガビアロスクス

Tomistoma lusitanicum

マレーガビアル

(クラウングループ)

Tomistoma cairense

Dollosuchoides ドロスコイデス

Maroccosuchus マロッコスクス

Paratomistoma パラトミストマ

Kentisuchus ケンティスクス

(ステムグループ)

分布と生息地

マレー半島ボルネオ島スマトラ島に分布し、シンガポールベトナムタイでは局地的に絶滅している[2]。泥炭湿地や低地の湿地林[18]河川湖沼などに生息する[19]。1950年代以前、マレーガビアルはバリサーン山脈の東のスマトラ島全域にわたる淡水生態系に生息していた。現在、スマトラ島東部では狩猟、伐採、火災、農業の影響で分布域が30 - 40%減少している[20]。2010年時点での成体の個体数は2,500頭未満と推定されている[18]

形態

Thumb
頭部
Thumb
頭蓋骨
Thumb
インドガビアルとの比較

体色は背面が暗赤褐色で、背中と尾に暗褐色または黒色の斑点と横縞がある。腹面は灰白色で、側面に若干の暗色のまだら模様がある。幼体では、顎、体、尾の側面に黒いまだら模様がある。極めて細長い吻部は滑らかで隆起などは無く、側面が平行で、長さは基部の幅の 3.0 - 3.5 倍である。歯は全て長く針状で、顎の内側で噛み合い、顎にはそれぞれの歯が収まる窪みがある。背鱗板は体の中央部で幅広く、体の側面まで伸びている[21]。水かきは後肢の趾全体に発達する[22]。頭部と体の鱗板には感覚器官がある。後頭鱗板は、わずかに大きな1対の鱗であることが多い。個体によっては、小さな竜骨状の鱗がいくつか隣接している場合もある。鱗は柔らかい顆粒状の皮膚によって中央で分割されている。頸鱗板では3列の横列に2枚の鱗があり、これが背鱗板と連続している。背鱗板では6 - 8枚の横列が22列あり、体中央部では幅広く、体の側面まで伸びている。頸鱗板と背鱗板を合わせると、合計22 - 23列になる。尾部では二重尾櫛が18枚、尾櫛が17枚ある。側鱗板では、体の両側に6 - 8枚の大きな鱗が1列または2列縦に並んでいる[21]

マレーガビアルは現生のワニの中でも細い吻を持ち、クチナガワニ属オーストラリアワニに匹敵する。ただしインドガビアルはこれらの種よりも著しく細い[9]。飼育下の成熟した雄3頭の全長は3.6 - 3.9 m、体重は190 - 210 kg、雌は3.27 m、体重は93 kgであった[23]。雌は最大で全長4 mに成長する[24]。雄は最大で全長5 m、体重600 kgに達する[25]。その長い吻のため、マレーガビアルは現存するワニの中で最も頭蓋骨が大きい。世界中の博物館で発見された最も長いワニの頭蓋骨8つのうち、6つはマレーガビアルのものである。最も大きいものでは長さ84 cm、下顎の長さは104 cmであった。全長が記録されたものはほぼ無いが、頭蓋骨と全長の比率に基づくと、全長は約5.5 - 6.1mと推定される[26]。全長2.9 - 4.05 m、体重79 - 255 kgの3個体の咬合力は1,704 - 6,450 ニュートンであった[27]

生態

最近まで、野生のマレーガビアルの食性や行動についてはほとんど知られていなかった。かつてマレーガビアルは魚類と小型の脊椎動物を食べると考えられていたが、最近では雑食であることが示唆されている。魚類や小型水生動物に加えて、成体はテングザルカニクイザルシカ水鳥爬虫類などの大型脊椎動物も捕食する[28]東カリマンタン州でマレーガビアルが牛を襲ったという目撃情報がある[18]。マレーガビアルは、オリノコワニアメリカワニなどと生態的同位種であると考えられており、どちらも吻が細く、食性は幅広い[9]

川辺の木陰に枯葉などで作った高さ60 cmまでの塚状の巣を作る[19]。雌は巣ごとに13 - 35個の卵を産み、現生のワニの中では最大の卵を産む[20]。卵は75-90日で孵化する[19]。全長2.5 - 3 mで性成熟し、他のワニ類に比べて大きい[20]。求愛行動は11月から2月、4月から6月の雨期と重なる[23]。20年で性成熟し、寿命は50年以上とされる[3]

人間との関係

2008年、カリマンタンで全長4 mの雌が漁師を襲って食べ、その遺体が胃の中から発見された。これはマレーガビアルによる人間の捕食として初めて確認された事例である[28]。しかし2012年までにマレーガビアルによる人間への被害が少なくとも2回確認されており、人間とマレーガビアルの衝突が増加しており、生息地や餌の減少による可能性がある[29]。2019年までには少なくとも10件の被害が発生している[3]

湿地の減少とアブラヤシプランテーションへの転換による生息地の喪失の脅威にさらされている[2]。革や肉のために狩猟され、卵は人間の食用として採取されることも多い[28]。2000年代半ばに実施された個体群調査では、個体の分布が不均一で断片的であり、遺伝的隔離があることが示された[30]。保護されていない地域の個体群の中には、繁殖ができない個体もいる[31]

ワシントン条約付属書Iに記載されている[2]。マレーシア政府とインドネシア政府は野生絶滅を防ぐための措置を講じている。インドネシアでは個体数が回復しつつあるとの報告もあるが、このわずかな回復により、地元住民の間では襲撃への懸念がある[28]

画像

脚注

外部リンク

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