コハク酸デヒドロゲナーゼ

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コハク酸デヒドロゲナーゼ

コハク酸デヒドロゲナーゼ succinate dehydrogenase, SDH)は、コハク酸フマル酸へ酸化する酸化還元酵素である。コハク酸脱水素酵素とも。このとき同時にユビキノンなどのキノンを還元することから、コハク酸キノンレダクターゼ(succinate-quinone reductase, SQR)とも呼ばれる。クエン酸回路の8段階目の反応を担い、また呼吸鎖においては複合体II(Complex II)と呼ばれている。真核生物ではミトコンドリア内膜に、原核生物では細胞膜に固定されている酵素複合体である。[1]

概要 コハク酸デヒドロゲナーゼ, 識別子 ...
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反応

触媒する化学反応は次の通りである。

コハク酸 + キノン フマル酸 + キノール

この反応は可逆であるが好気的条件では通常右向きに進む。嫌気的条件では逆反応のフマル酸レダクターゼとして働くこともできるが、普通は逆反応を担う専門の複合体が存在する(大腸菌など)か、豚回虫のように一部のサブユニットを入れ替えることが知られている[2]

構造

サブユニット構成

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ニワトリ由来複合体IIの構造と内部での電子伝達。個々のサブユニットが色分けされており、SdhAは緑、SdhBは水色、SdhCは紫、SdhDは黄色である。

一般的に4つのサブユニットから構成されており、親水性の2つがSdhAとSdhB、疎水性の2つがSdhCとSdhDである[3]

SdhA
フラボタンパク質(Fp)サブユニットとも呼ばれる。補因子としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)が共有結合しており、その近傍にコハク酸結合部位(後述)が存在している。
SdhB
鉄硫黄タンパク質(Ip)サブユニットとも呼ばれる。[2Fe-2S], [4Fe-4S], および[3Fe-4S]の3種の鉄・硫黄クラスターが含まれている。
SdhC・SdhD
疎水性サブユニット2つで6個の膜貫通ヘリックスとヘムbを含むシトクロムbを構成する。リン脂質であるカルジオリピンホスファチジルエタノールアミンが結合している。

ヒトの場合、Fpサブユニットに2種類のアイソタイプ(FpI, FpII)が存在している。豚回虫およびシノラブディス・エレガンス(線虫の一種)でもFpサブユニットのアイソタイプが見付かっている[2]

基質結合部位

コハク酸の結合部位はサブユニットAのThr254, His354, およびArg399の側鎖で構成され、そこでFADによる酸化と最初の鉄硫黄クラスター[2Fe-2S]への電子伝達が起きる[4]

ユビキノンの結合部位はSdhB, SdhC, およびSdhDで構成される間隙に位置している。ユビキノンはサブユニットBのHis207、サブユニットCのSer27とArg31、そしてサブユニットDのTyr83のそれぞれの側鎖で安定化されている。キノン環はサブユニットCのIle28とサブユニットBのPro160に取り囲まれている。これらの残基はサブユニットBのIle209, Trp163およびTrp164と、サブユニットCのSer27(炭素原子)と共にキノン結合ポケットの疎水的環境を形成している[5]

酸化還元中心

コハク酸結合部位とユビキノン結合部位の間には、FADと鉄硫黄クラスターから成る酸化還元中心が連なっている。これは複合体をほぼ縦断し総距離は40 Åに達するが、それぞれの酸化還元中心間の距離は、生理的電子移動の限界として提案されている14 Åよりも短い[3]

反応機構

要約
視点

コハク酸酸化:正確なコハク酸の酸化機構はほとんど分かっていない。しかし、結晶構造からサブユニットAのFAD, Glu255, Arg286, およびHis242が最初の脱プロトン過程の候補として挙がっている。したがって、E2もしくはE1cbの2種の可能な脱離機構が考えられる。E2脱離では、塩基性残基または補因子によるα炭素からの脱プロトンが起こり、FADがβ炭素からのヒドリドの受容体として作用することによりコハク酸がフマル酸に酸化される(image 6)。E1cbではFADがヒドリドを受ける前にエノラート中間体が形成する(image 7)。

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Image 6: E2コハク酸酸化機構
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Image 7: E1cbコハク酸酸化機構

電子トンネル効果:電子はFADを経由してコハク酸から派生したのち、トンネル効果によって[Fe-S]から[3Fe-4S]クラスターに中継される。この電子はその後、活性部位のユビキノン分子まで移動する。鉄硫黄電子トンネル系は図参照。

ユビキノンの還元:ユビキノンのO1カルボニル酸素は、サブユニットDのTyr83との水素結合相互作用によって活性部位において正しい位置に置かれる。さらに[3Fe-4S]鉄硫黄クラスター中の電子の存在により、ユビキノンは2番目の位置に動く。これはユビキノンのO4カルボニル酸素とサブユニットCのSer27との間の2番目の水素結合相互作用により容易となる。まず、一個の電子を受けセミキノンラジカルが形成され、二個目の電子を[3Fe-4S]クラスターから受けることによりユビキノールに完全に還元される(image 8)。

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Image 8: ユビキノン還元機構

ヘムの機能:コハク酸デヒドロゲナーゼにおけるヘムの機能はまだ研究段階である。いくつかの研究では、最初に[3Fe-4S]を用いて電子をユビキノンへ伝える逆のトンネル効果が主張されている。この経路ではヘムは電子を受容する補因子として作用する。これは反応中間体として酸素分子からできる活性酸素(ROS)との相互作用を防ぐ効果がある。ヘムはimage 4のようにユビキノンと関連している。

また、電子が[3Fe-4S]クラスターからヘムへ直接トンネリングするのを防ぐ開閉機構も提唱されている。電位の候補はHis207残基で、ヘムとクラスターの間に位置している。サブユニットBのHis207は[3Fe-4S]クラスターに近く、ユビキノンおよびヘムに結合しており、酸化還元中心として電子の流れを調節することが可能である[7]

プロトン移動:SQRでキノンを完全に還元するには2個の電子と2個のプロトンが必要である。水分子(HOH39)が活性部位に付き、それがサブユニットBのHis207、サブユニットCのArg31、そしてサブユニットDのAsp82に配位されると主張されている。セミキノンはHOH39から誘導されたプロトンによりプロトン化され、ユビキノールへの還元が完了する。おそらく、His207とAsp82がこの機構を容易にしていると考えられる。他の研究では、サブユニットDのTyr83が隣のヒスチジンとユビキノンのO1カルボニル酸素に配位していると提唱されている。これは、ヒスチジン残基はチロシンのpKaを減少させ、そのプロトンをユビキノン中間体に提供するというものである。

分類

複合体IIは膜結合サブユニットに注目して以下の5種類に分類されている[8]

さらに見る タイプ, サブユニット ...
タイプサブユニット結合様式ヘムb分布
AC+D膜貫通2ほとんどの古細菌
BC膜貫通2ほとんどの真正細菌
CC+D膜貫通1真核生物プロテオバクテリア(α・β・γ)
DC+D膜貫通0γプロテオバクテリアフマル酸レダクターゼ
EE+F膜表在0スルフォロブス目古細菌
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この他に、種子植物の複合体IIは7~8サブユニットで[9]トリパノソーマでは12サブユニットで構成されている[10]

脚注

参考文献

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