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鉄道による貨物輸送 ウィキペディアから
鉄道貨物輸送(てつどうかもつゆそう、Rail freight transport)とは、鉄道列車を人の乗客ではなく、貨物を輸送するために使用すること。鉄道旅客輸送と対義され、両者を共に行うことは貨客混載と呼ばれる。
貨物列車とは、1台以上の機関車によって牽引される貨車編成をさし、荷主と配送先の間の全行程または一部において、貨物輸送を担う物流チェーンの一部として目的地に届けられる。貨車には、ばら積み車、インターモーダル貨物コンテナ、一般貨物車、特殊貨物輸送のための専用車などが用いられる[1]。鉄道貨物の慣行と経済状況は国や地域によって異なる。
輸送重量当たりのエネルギー消費量を考慮すると、鉄道輸送は他の輸送手段よりも効率的である場合が多い。一般的に最も経済性が高いのは、ばら積み貨物(石炭など)を積載し、長距離を輸送する場合である。しかし、鉄道による輸送は高速道路ほど柔軟ではないため、現状では長距離であっても多くの貨物がトラックで輸送されている。しかし荷送人が鉄道に直接アクセスできない場合、積替えコストが掛かることが多い。これらのコストは列車自体の運行コストを超える可能性があり、このコストを抑えるためにコンテナ化やピギーバック輸送などが試みられている。
鉄道が発明される前、人力や馬車より貨物を大量輸送できる交通機関としては船(水運)が使われたが、内陸部では流れが穏やかな河川の中下流部や運河、湖以外は運航できない制約があった。鉄道の実用化により、船が通れない地域でも輸送網を作り上げることが可能となり、産業革命後、大いに発展することとなった。
鉄道が陸上交通の主力であった時代は、貨物輸送を主目的として開業する鉄道会社・線区や、鉱山・工場・建設現場などへの専用鉄道も多かった。大手荷主は鉄道線路の近くに工場や倉庫を建て、自社敷地内に引き込み線と呼ばれる線路を通し、そこで商品を鉄道車両に積み降ろししていた(車扱貨物)。他の荷主は荷車やトラックによって、貨物ヤードに商品を搬入していた(ドレージ輸送)。貨車は引き込み貨物駅から貨物ヤードまで、小型機関車により移送された。その目的地に応じて、貨物車らは長距離列車のいずれかに連結された。長距離輸送となると貨物車は複数のヤードを渡り歩き、何度も連結先が変更された(ヤード継走式輸送)[2]。
こういった作業を踏むため、これまで鉄道輸送は遅くコストが増加していた。そのため貨物鉄道事業者はコンテナ化やブロックトレイン(直行型列車)などの技術を通じて、ヤード切離し作業をを削減・廃止することでコストの削減を進めており、日本を含めた一部の国ではこれらの方式が、ヤード継走式に完全に取って代わってきている[3][2]。
鉄道輸送の利点は、連結する貨車を増やせば大量輸送が可能となることであった。半面、貨物の出発地や最終目的地が鉄道沿線でない場合、自動車などと組み合わせる必要がある。同時に時間における柔軟性を欠くことでもあった。政策的な自動車道路網の整備によるモータリゼーションの発展とトラックの性能向上により、鉄道を利用する貨物輸送はきめの細かい貨物輸送の手段としては価値を減じた。近年は大気汚染や地球温暖化の深刻化などを受け、企業は環境保護の取り組みが社会的に要求されるようになったことから環境負荷の低い鉄道貨物輸送を見直すモーダルシフトの動きが出ている。
鉄道輸送は非常にエネルギー効率が高く、道路輸送よりもはるかに環境に優しい[4][5]。トラックによる道路輸送と比較して、鉄道輸送では複数トラックで輸送する商品量が 1回の輸送で確実に輸送される。これにより輸送にかかるコストを大幅に節約できる[6] 。さらに鉄道貨物輸送では外部コストも非常に低くなる[4]。したがって多くの政府は、環境上の利点を理由に、トラックから鉄道貨物への切り替えを促進している(モーダルシフト)[4][5]。鉄道輸送と内陸水運も同様に環境に優しい輸送手段であり、どちらも 2019年欧州グリーンディールの主要部分を占めている[4]。
大陸や国土が広い国では、重量が大きい貨物を遠方へ安く運ぶ陸送する手段として活用され続けており、技術改良も進められている。オーストラリアでは、資源企業リオ・ティント社が2018年、採掘した鉄鉱石を自律運行の無人貨物列車で鉱山から港まで運ぶ試みに成功した[7]。
ばら積み貨物は、ほとんどの貨物鉄道で輸送されるトン数の大部分を占めている。ばら積み貨物とは、梱包されていない状態で大量に輸送される商品・貨物である。これらの貨物は通常、注ぎ口やパワーシャベルによって、液体または固体として鉄道車両に投下・注入される。石油や化学薬品などの液体や圧縮ガスは、タンク車で運ばれる[8]。
ホッパ車は、石炭、鉱石、穀物、トラックバラストなどのドライバルク商品を輸送するために使用される貨車である。この種類の車両は、荷物を降ろすために下面または側面に開閉ドアがある(有蓋車)という点で、無蓋車と区別される。ホッパ車の開発は、自動積み下ろし設備を備えた、ばら積み品の自動取扱い方法の開発と並行して行われた。ホッパ車には主に二種類のタイプがあり、オープン型とカバー型である。カバー付きホッパ車は、穀物、砂糖、肥料などの要素(主に雨)から保護する必要がある貨物に使用される。オープン車は石炭などの商品の輸送に使用され、濡れや乾によるで影響が少ない商品を対象とする。ホッパ車は、貨物処理の自動化が求められるたびに、世界中の鉄道で使用されてきた。
コンテナ化とは、貨物を積み込んで密封し、コンテナ船、鉄道車両、トラックに載せることができる標準的な海上コンテナ(ISOコンテナ) を使用したインターモーダル輸送システムである。コンテナ化は貨物輸送に革命をもたらした。2009年の時点で、世界中の非バルク貨物の約90%は、コンテナ船によって輸送されている[9]。全コンテナ積み替えの26%は中国で行われている[10]。2005年の時点で、合計約 1,800 万個のコンテナが年間2億回以上輸送されている。
世界中で同じサイズのコンテナを使用することで、異なる軌間における列車間積み替えが容易になり、国ごとに互換性のない鉄道軌間によって引き起こされる問題が軽減された[11]。
いくつかの種類の貨物は、コンテナ化やばら積みに適していないため、これらは貨物に合わせて特別に設計された特別な車で輸送される。
国 | 貨物輸送量 (百万トンキロ) |
---|---|
ロシア連邦 | 2544828 |
米国 | 2102084 |
インド | 707665 |
オーストラリア | 447435 |
カナダ | 444032 |
カザフスタン | 302156 |
ウクライナ | 175587 |
ドイツ | 108406 |
メキシコ | 86224 |
ポーランド | 51096 |
ベラルーシ | 42420 |
イラン | 35963 |
フランス | 31282 |
ウズベキスタン | 23632 |
スウェーデン | 22094 |
イタリア | 20750 |
オーストリア | 20498 |
モンゴル | 18972 |
日本 | 18340 |
リトアニア | 15865 |
トルコ | 15428 |
チェコ | 15251 |
イギリス | 15212 |
各国の貨物輸送に占める鉄道シェア:
米国において鉄道は、旅客運送よりも貨物運送が主力であり、業界団体としてアメリカ鉄道協会(AAR)が存在する。貨物鉄道網は総延長 140,000 マイルに及ぶ[20]。貨物の52%はばら積み貨物、48%はインターモーダル輸送である[14]。
鉄道輸送は長距離輸送において約40%を占める最大シェアを持つ(トンマイル換算)[20]。団体交渉に参加する鉄道労働者の平均報酬は、全産業の上位10%以内に入るという[20]。AARによれば、鉄道によってインターモーダル輸送される貨物は、アメリカ人1人あたりに換算すると年間約61トンになるという[21]。事業者は複層貨物鉄道輸送への投資を重ねてきた[21]。
英国の貨物鉄道会社は Direct Rail Services、Freightliner Group、DB Cargo UK、GB Railfreightの4社が主要事業者である。ほかに小規模事業者として Colas Rail、DCRail、Mendip Rail、Rail Delivery Groupが存在する[23]。2017年までに、英国に入国するコンテナの4個に1個は鉄道で輸送されている[24]。
ドイツにおいて鉄道貨物輸送は、貨物輸送全体の18.5%を占め1,292億トンキロ(2019年)となり、輸送システムの中では道路輸送に次いで2番目のシェアを持つ[25]。
事業者 | コンテナ輸送 | 車扱輸送 | 合計 |
---|---|---|---|
名古屋鉄道 | 0 | 1,280 | 1,280 |
大井川鐵道 | 0 | 28,518 | 28,518 |
秋田臨海鉄道 | 250,965 | 0 | 250,965 |
黒部峡谷鉄道 | 0 | 406,153 | 406,153 |
西濃鉄道 | 0 | 706,492 | 706,492 |
福島臨海鉄道 | 334,997 | 740,131 | 1,075,128 |
八戸臨海鉄道 | 1,666,981 | 0 | 1,666,981 |
衣浦臨海鉄道 | 130,040 | 1,793,047 | 1,923,087 |
鹿島臨海鉄道 | 2,770,307 | 0 | 2,770,307 |
仙台臨海鉄道 | 1,199,269 | 2,862,789 | 4,062,058 |
水島臨海鉄道 | 4,175,834 | 0 | 4,175,834 |
神奈川臨海鉄道 | 939,495 | 5,196,528 | 6,136,023 |
名古屋臨海鉄道 | 6,687,000 | 6,512,000 | 13,199,000 |
京葉臨海鉄道 | 4,069,996 | 16,273,788 | 20,343,784 |
三岐鉄道 | 0 | 23,766,065 | 23,766,065 |
岩手開発鉄道 | 0 | 24,499,278 | 24,499,278 |
秩父鉄道 | 0 | 67,221,201 | 67,221,201 |
民鉄・公営合計 | 22,224,884 | 150,007,271 | 172,232,155 |
日本貨物鉄道 | 16,815,660,182 | 1,229,238,455 | 18,044,898,637 |
日本では、貨物鉄道事業者は22社が存在する[27]。
日本ではJR貨物がJR旅客鉄道各社、および整備新幹線開業による並行在来線を転換した第三セクター鉄道会社の保有する線路(路線)の多くを借受ける形で第二種鉄道事業者として営業している。また一部区間での特殊な事例として、JR貨物が輸送する路線と接続するごく少数の私鉄(秩父鉄道、三岐鉄道、西濃鉄道のほか、工場地帯の臨海鉄道各社など)や大井川鐵道井川線、化学工場・製紙工場などに引き込まれている専用鉄道が、末端部の輸送を受け持っている。なお、奈良県・和歌山県・島根県・徳島県・高知県・長崎県・沖縄県の7県に貨物列車は走っていない。
かつて鉄道は旅客と貨物をともに営業し、駅の貨物扱いも通常業務であった。中小私鉄はもとより、大手私鉄でも狭軌線で、明治・大正時代に未電化(蒸気機関車)で開業した歴史を有す東武鉄道、西武鉄道、名古屋鉄道、南海電気鉄道などの会社は、旅客列車の合間に貨物列車を多く運行した。戦後はモータリゼーションの進展に伴うトラック輸送の普及、前述の1984年の貨物列車の方式変更および中小私鉄の路線自体の廃止によって多くの会社で貨物列車が廃止・縮小された。大手私鉄で最後まで貨物営業した東武も2003年に貨物列車が全廃され、大手私鉄で自社または乗り入れ先事業者関連の車両輸送を除いて貨物列車を運行している会社は存在しない。
かつての国鉄においては、貨物輸送は以下に分類されていた[29]。
1974年(昭和49年)からは、小口扱貨物について普通扱小荷物に吸収する「荷貨一元化」が行われ、小量物品輸送が一本化された[38]。1986年(昭和61年)には、小量物品輸送サービスも終了となった。
交通渋滞の悪化に繋がり環境負荷も高いが柔軟な輸送対応が可能で多くの場合において速達性に優れるトラック輸送、速達性は低いが大量輸送とコストに優れ環境負荷も低い内航貨物船、とはっきりした利点と欠点があり棲み分けが行われている両者に比べると、その両者の中間に位置する鉄道貨物には制限が多い。
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