色彩設定(しきさいせってい)とは、アニメーションにおいて重要な役職の一つで、着色の際にどの色を使うかに関しての決定権を持つ色の総合責任者。関係する仕事は「色彩設計」「色指定」「仕上」の3つのセクションに分かれる。英語ではcolour planning。
色彩設定の仕事は、アニメーションの登場人物や画面に現れる物体の色(人なら服・靴の色)など、作画によって表現される全てのものについて、何に対してどの色をつけるかをあらかじめ設定しルール化する仕事である。登場人物・場面ごとに細かく決める[1]。監督・演出家の意向を具体化させ、作品の世界観やイメージを作っていくので重要である[2]。
当初は美術監督の領域の仕事であったが、分業化に伴い設けられるようになった役職である。またキャラクターが集合した場合など色によるそれぞれの識別を考えるため、支援ソフトウェアの研究が東京工科大学と首都大学東京で進んでいる[3]。
色指定・検査
色彩設計者[4]から色のデータをもらい、各話のシーンそれぞれの色を指定していくのがこの色指定という役職。基本的に複数人が分担して担当する。
これはシリーズを通じてではなく、主に特定の話数だけに登場する人物や小物(サブ・ゲストキャラクター)の指定など、色彩設計の補佐的な仕事をする。あらかじめ話数ごとに会議で決められた色を、彩色単位でどのカットに対してどの色を用いて彩色するか指示を出す作業[1]をする。どの色を塗ればいいかという指示は原画を数枚ピックアップして、それに直接描き入れる。
一方、検査とは仕上検査を略したものであり、アニメでは色指定担当者が仕上検査も兼ねて仕事するのが通例である。別名で「セル検」とも呼ばれる。
あがってきたペイントデータを色パカ[5]が無いか(動画にした際につけ間違えた色がパカパカと点滅して見える現象)検査し、問題があればリテイクを出す。
仕上
実際に動いて絵に色を塗る役職。別名で「色トレス」、東映アニメーションでは「デジタル彩色」、トムス・エンタテインメントでは「デジタルペイント」と呼ぶ。
鉛筆で描かれた動画をトレスマシンでセル画に輪郭を写して設定通りに色を塗る。デジタルに移行してからはスキャナーで取り込んで色を塗る。
本来、色彩の仕事に関わる人全てを総じて仕上と呼んでいたが、現在は主に狭義で「実際にペイント作業をしている人」を仕上と呼ぶことが多い。
スタッフクレジットではセルアニメとの区別のために「デジタルペイント」と表記されることが多い。
特殊効果
セル画を用いてアニメが制作された頃には、エアブラシや筆などを用いて、色々な技法で加工を加え、透明感や立体感、質感を出す仕事。特効とも呼ばれる。また、画面が光る透過光も特殊効果の1つではあるが、仕上の特殊効果と、撮影の特殊効果はアニメの作業では区別されており、仕上の特殊効果は絵に対する作業のことを指す[6][7][8][9][10]。デジタル時代になり[11][12][13]撮影の守備範囲が大きく広がったことから、今までは仕上げ側が行っていたブラシ作業やグラデーション処理などを撮影で担当するようなことも多くなっている。
劇場版映画
色彩設定と表示する作品の例を挙げると、『旋風(かぜ)の用心棒~黒澤明監督作品「用心棒」より』シリーズ[14]など。表示が色彩設計の例は、『海獣の子供』[2][15]など。
テレビアニメ
基本的に色彩設計だが、いまだに「色彩設定」とクレジットする会社[16]もある。また、ディオメディアでは「カラーコーディネイト」[17]とクレジットされる。
主に動画を引き受けている制作会社が動画と共に仕上・着色を引き受ける場合が多いが、まだスタッフの要員が足りず動画・原画を引き受けられない場合、スタッフが揃うまでの間、仕上/着色のみを引き受けている場合もある[21][22]。以下には、主に仕上・着色の事業内容が多い会社を示す(または一部門)。
【ア】
【カ】
【サ】
【タ】
【ナ】
- NARA ANIMATION
- 年代動画 (NIAN DAI ANIMATION)
【ハ】
- PAK PRODUCTION (朴プロダクション)
- ハミングバードアニメーション
- 韓鎮アニメーション (HANJIN ANIMATION)
- 火鳥動画製作有限公司 (Phoenix Animation)
- 孝仁動画 (HYOIN ANIMATION)
- ファンアウト
- 武遊
- フロントライン (FRONTLINE)
- 緋和
- 星山企画 (SONSAN 企画、星山企劃)
- WHITE LINE (White Line、ホワイトライン)
【マ】
- ミゾ企画 (ミゾ企劃)
- 無錫駱王動画有限公司 (駱王アニメ)
- 木花
【ヤ】
【ラ】
- ライジングフォース
- ライトフット
- R.I.C. (リバース・イメージ・クリエイション)
- LEE PRODUCTION (李プロダクション)
出典
“キャラクターデザイン・総作画監督・演出 小西賢一さん”. FUN'S PROJECT COLLEGE. 大日本印刷株式会社. 2019年12月16日閲覧。 “――そしてもうひとつ印象的だったのは、作品の後半に登場する“祭りの本番”です。
小西 (前略) 監督のイメージに沿うよう何度もやり取りをしましたね。作画だけでも大変なのですが、色彩、画面設計なしには成立しないのです。(以下略)
『海獣の子供』 ©2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会【スタッフ】監督/渡辺 歩 音楽/久石 譲 キャラクターデザイン・総作画監督・演出/小西賢一 美術監督/木村真二 CGI監督/秋本賢一郎 色彩設計/伊東美由樹 音響監督/笠松広司 プロデューサー/田中栄子” 土井章男、青野雅樹、浦野直樹、宇野栄「3-Dアニメーションシステム : 物体記述、動き指定、補間」『全国大会講演論文集』第33巻、1986年10月、2071-2072頁。
井口光隆「新製品評価室 特殊効果を多数加えて、表現力アップ、ポーズスライダによるアニメ付けも可能に--アニメーションマスターVer.6日本版」『日経CG』第148号、日経BP社、1999年1月、96-98頁、ISSN 0912-1609。 伊東大介、四倉達夫、森島繁生「生理学的手法を用いた顔面筋肉モデルの構築」『電子情報通信学会技術研究報告. HCSヒューマンコミュニケーション基礎』第99巻第122号、一般社団法人電子情報通信学会、17-24頁、ISSN 0913-5685。 星昌人、西岡範浩、星野准一、山本正信「ディジタルクローン俳優のための動画像解析と動作生成」『電子情報通信学会技術研究報告. PRMUパターン認識・メディア理解』第100巻第134号、一般社団法人電子情報通信学会、2000年6月、1-8頁、ISSN 0913-5685。 「デジタルペイントの達人!」『ディー・ティー・ピー・ワールド』第5巻第2号、ワークスコーポレーション、2000年4月、56-71頁、2019年12月15日閲覧。 梅田大樹、熊谷一樹、高橋時市郎「3次元空間認識を容易にするペイントツール Dynamic 3D Drawing Tool の開発」『画像電子学会研究会講演予稿』第10巻、一般社団法人 画像電子学会、2011年、37-40頁、doi:10.11371/wiieej.10.06.0_37、2019年12月15日閲覧。 プロデューサー:山下洋/渡辺哲也/布川ゆうじ、監督:伊達勇登、シリーズ構成:隅沢克之、キャラクターデザイン:伊藤岳史、ストーリーアドバイザー:鳥海永行、企画協力:中山圭史、アニメーションプロデューサー:萩原賢/朴谷直治、美術:一色美緒、色彩設定:川見拓也、オフライン編集:森田清次、ほか。声の出演:平田広明/辻親八/小林沙苗/篠原恵美/大塚芳忠/宗矢樹頼/廣田行夫/塚田正昭/千田光男/長克巳/横島。『旋風(かぜ)の用心棒~黒澤明監督作品「用心棒」より』(ビデオディスク 1枚 : DVD、スタンダード、116分、ステレオ)Scene:01、キングレコード、東京、2002年2月。 四分一節子 (総監督)、色彩設定:西川裕子. “『男はつらいよ ~寅次郎忘れな草~』”. テレビ版アニメ製作:エイケン、TBS。原著作:松竹株式会社、製作:エイケン. 2019年12月15日閲覧。 “「スタッフクレジット(オープニング)」原作:山田洋次、脚本:林律雄、作画:高井研一郎、製作総指揮:村田英憲、製作協力:荒井雅樹(大船撮影所)、林律雄、高井研一郎、プロデューサー:小野辰雄、山村俊史(TBS)、アニメーションプロデューサー:出崎哲、コーディネーター:鷲巣政安、キャラクターデザイン/総作画監督:小林ゆかり、音響監督:加藤敏、美術監督:阿部幸次、撮影監督:岡崎英夫、音楽:山本直純(主題歌:「男はつらいよ」作詩:星野哲郎、作曲:山本直純、唄:渥美清、(日本クラウン))”学研刊 コミック寅さん第6巻「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」によるアニメ化。 “『悪魔のリドル』”. アニメスタッフデータベース. 2019年12月15日閲覧。 “「スタッフクレジット(オープニング)」草川啓造 (監督)、製作:「悪魔のリドル」製作委員会、MBS。カラーコーディネイト:中田亮大。” 山本健太「アニメーション産業の国際分業と企業間取引関係の構造:―日韓,日中の国際分業関係に注目して―」『日本地理学会発表要旨集』、公益社団法人 日本地理学会、2009年、51頁。 昼間行雄「映像編集ソフトを用いたビジュアル・エフェクツの研究」『文化学園大学紀要 = Journal of Bunka Gakuen University』第47号、文化学園大学、2016年1月、63-68頁、ISSN 2187-3372。
各分類の出版年の古い順。
色彩設計
- 近藤恒夫「色彩設計上の問題提起」(pdf)『日本色彩学会誌』第2巻、1976年、43-47頁、2019年12月16日閲覧。 - 国立国会図書館デジタルコレクション
- 「美術・色彩設計・CG スタッフ座談会 こうして舞台は用意された! (アニメーション映画特集 ; 総力特集 ONE PIECE FILM GOLD(ワンピース フィルム ゴールド) 『ワンピース』 史上最大のエンターテインメントへ)」、小倉一男、須江信人、永井留美子、能沢諭、稲越一『キネマ旬報』第1723号(通号 増刊) 、2016年8月7日、60-65頁。
- 柴田亜紀子『アニメーションの色彩設計から学ぶ色彩&配色テクニック = Color and Color Scheme Techniques』、玄光社、2019年。
色指定
デジタルペイント