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日本の政治的談話 ウィキペディアから
慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話(いあんふかんけいちょうさけっかはっぴょうにかんするこうのないかくかんぼうちょうかんだんわ)とは、1993年(平成5年)8月4日、内閣官房長官河野洋平が発表した談話である。河野談話として知られる。この談話の中で日本軍の関与を認め、「おわびと反省」を表明した。
河野談話の原案は、日本政府関係省庁における関連文書、米国国立公文書館の文書、軍関係者や慰安所経営者等各方面への聞き取り調査に基づく(慰安婦証言が根拠になって作成されたものでない)[1]。
この談話は、同日に内閣官房内閣外政審議室から発表された文書「いわゆる従軍慰安婦問題について」[2]を受けて発表された。原案は、当時の内閣外政審議室長である谷野作太郎が「言葉遣いも含めて中心になって作成した」[3]。
談話では、慰安所の設置は日本軍が要請し、直接・間接に関与したこと、慰安婦の募集については軍の要請を受けた業者(日本人・朝鮮人)が主としてこれに当たったが、その場合も甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に官憲等が直接これに加担したこともあったこと、慰安所の生活は強制的な状況の下で痛ましいものであったとしている。なお、日本軍や官憲が、業者によって本人たちの意思に反して集められた事例に加担したことや、日本軍や官憲が本人の意思に反して慰安婦を集めたことを示す資料は発見されていない[4]。
日本政府による調査結果と談話が発表される前年の1992年(平成4年)7月6日には、宮澤内閣の加藤紘一内閣官房長官が、「朝鮮半島出身者のいわゆる従軍慰安婦問題に関する加藤内閣官房長官発表」[5]を発表している。当時の慰安婦問題は、韓国挺身隊問題対策協議会などが主張する慰安婦が強制連行されたという主張について、韓国政府が日本政府に真相の究明を求め[6][7]、日本政府は強制を裏付ける資料が発見できずに対応に苦慮する状態だった[8]。河野は事態を打開するため、7月26日から30日にかけて、韓国の太平洋戦争遺族会から紹介された16人の慰安婦に聞き取り調査を実施し[9][10]、慰安婦の強制性を認め謝罪する「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」の発表に至った。産経新聞は、証拠資料がないのにもかかわらず、信憑性の低い証言によって談話が作成された経緯から、河野談話は事実を追求したものではなく、政治的妥協の産物だと批判した[11]。
2014年(平成26年)6月20日に、日本政府によって公開された検証結果報告書「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯〜河野談話作成からアジア女性基金まで〜」(河野談話作成過程等に関する検討チーム)では、事前に韓国側との文言調整があったこと、慰安婦証言の裏付け調査を行っていなかった[12][13]。また、韓国との文言調整があったことは、日韓両国にて非公開とされた[13]。
いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。 今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。 なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。 いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。 われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。 なお、本問題については、本邦において訴訟が提起されており、また、国際的にも関心が寄せられており、政府としても、今後とも、民間の研究を含め、十分に関心を払って参りたい。
— 河野洋平、慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話外務省
1992年(平成4年)7月、内閣官房長官の加藤紘一は、慰安所に日本政府が関与していた事を認め、「継続して調査」を約束した。その3週間後に、金泳三大統領は「募集を含めて強制があった」と発表した[14]。1993年3月、金泳三大統領は「従軍慰安婦問題に対し日本に物質的な補償は求めない方針だ」と言明した[注釈 1][15]。
これについて読売新聞は「韓国政府は・・・金銭的支援は独自にやるので日本は強制連行を認めればよいという姿勢が鮮明になってきた」「政府は強制連行を認めないままでは事態の打開は困難と判断した」と書いているが[16]、河野洋平は「密約」を否定している[注釈 1]。当時、内閣官房副長官を務めていた石原信雄は「文章で強制を立証するものは出てこなかった」が「明らかに彼女たちは自分の過去について真実を話した」として「本人の意に反した強制があったと確信が得られた」「いかなる意味でも、日本政府の指揮命令系統のもとに強制したことを認めたわけではない」と述べている[18]。日本政府が行った河野談話作成過程の検証でも、韓国側の文言調整の要求に対して、内閣外政審議室と外務省が協議しながら「それまでに行った調査を踏まえた事実関係を歪めることのない範囲で,韓国政府の意向・要望について受け入れられるものは受け入れ,受け入れられないものは拒否」しており、韓国側に要求された「軍の指示」などの言葉は使っていない[19]。これに対して産経新聞記者の阿比留瑠比は「世界に日本政府が公式に強制連行を認めたと誤解され、既成事実化してしまった」[20]、「事実判断ではなく、政治判断だった」と批判している[21]。
日本政府が実施した調査では、「日本軍が慰安婦の強制連行を行なっていた」とする公文書類資料は発見されなかった[16]。河野は「組織として強制連行を行っていても、無理にでも連れてこいという命令書や無理に連れてきましたという報告書は作成されることはないだろう」という見方を示し、強制を認めた根拠として「募集・移送・管理等の過程全体をみてであり、自由行動の制限があったこと」を挙げている[22]。日本政策研究センターによれば、河野は談話発表後の記者クラブでの説明で、「官憲等が直接これに加担したこともあったこと」とは白馬事件を指しており、白馬事件以外には官憲等が直接これに加担した事実はなかった、と説明している。また、同時におこなわれた韓国人元慰安婦への聞き取り調査では、慰安婦の証言を記録するのみで、事実関係の検証はおこなわれなかった[23]。聞き取り資料は現在も非公開である[23]。
韓国では、安秉直ソウル大学教授や韓国挺身隊問題対策協議会が前述の元慰安婦と指摘されている女性たちに聞き取り調査を実施し、「証言者が意図的に事実を歪曲していると感じられるケース(は)調査を中断する」という原則に基づき、元慰安婦証言の半数を却下している[23]。さらに、一部の慰安婦を除いて元慰安婦が強制連行されたとは主張していない[23]。また、元慰安婦の証言には慰安所ではなく、民間の売春施設のあった富山県や釜山に連行されたとしているものもある[23][24]。
2013年(平成25年)10月16日付の産経新聞は、“「河野洋平官房長官談話」の根拠となった、韓国での元慰安婦16人の聞き取り調査報告書を入手したところ、証言の事実関係はあいまいで別の機会での発言との食い違いも目立つほか、氏名や生年すら不正確な例もあり、歴史資料としては通用しない内容だった。軍や官憲による強制連行を示す政府資料は一切見つかっておらず、決め手の元慰安婦への聞き取り調査もずさんだったと判明したことで、河野談話の正当性は根底から崩れたといえる。”元慰安婦報告書そのものが、ずさん調査が浮き彫りとなり、慰安所の無い場所で「働いた」など証言が曖昧であることにより、河野談話の根拠は崩れると報じた[25]。
2013年12月2日付の夕刊フジは、河野自身が慰安婦募集の強制性(強制連行)を裏付ける「紙の証拠がない」と証言したと報じた[26][27]。
産経新聞は2014年(平成26年)1月1日付の、"河野談話の欺瞞性さらに 事実上の日韓「合作」証言"という記事で、根拠となった韓国での元慰安婦16人への聞き取り調査も極めてずさんだっただけでなく、“談話の文案にまで韓国側が直接関与した事実上の日韓合作だったことが明らかになり、談話の欺瞞(ぎまん)性はもう隠しようがなくなった。”と報じた[28]。同年1月8日付の記事では、"韓国側は河野談話や調査結果報告作成に大きく介入しておきながら、その後は談話の趣旨を拡大解釈して利用し、世界で日本たたきの材料としている。"と報じた[29]。
同年2月20日、談話発表当時に内閣官房副長官を務めていた石原信雄が衆院予算委員会で「アメリカの図書館にまで行って調べたが、女性達を強制的に集めるといったようなことを裏付ける客観的なデータは見つからなかった」と証言。これを受け、報道機関の世論調査では河野談話の検証への賛成が6割を超えている報道もなされた[30]。同月25日には、日本維新の会が河野談話の内容を検証する機関の設置を各党に提案し[31]、同年4月18日に河野談話の見直し要求を要求する約16万署名を菅義偉官房長官に手渡した[32]。
同年5月25日、村山富市元首相は都内で講演し、「元慰安婦の証言を全部信じるか信じないは別にして、(慰安婦募集の強制も)あったのではないかと想定できる。事実はないとか記録はないというが、そんなことを記録に残すわけがない。わざわざ自民党政権がやってきたことを自民党政権が掘り起こしたあげく、『そんな事実はなかった』と言って問題にしている。やる必要がないじゃないかというのが私の言い分だ」と述べ、河野談話の検証を行うべきではないと主張した[33]。
同年6月20日に、日本政府は、河野談話作成過程について、但木敬一、秋月弘子、有馬真喜子、河野真理子、秦郁彦の5人からなる検討チームの報告書「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯 ~河野談話作成からアジア女性基金まで~」を公表した[34]。
読売新聞が2013年(平成25年)7月22日から23日に行った世論調査では、河野談話を「見直すべき」とする意見が42%、「見直す必要はない」とする意見は35%であった[35]。
産経新聞とFNNが2014年(平成26年)2月22日から23日に行った世論調査では、河野談話を「見直すべきだ」との回答が58.6%、「見直すべきだと思わない」との回答は23.8%であった[36]。この世論調査では、談話検証について安倍内閣の支持層では「検証すべきだ」は支持層で70.3%、不支持層でも65.5%だった[37]。2014年6月28日から29日にかけて、産経新聞とFNNが行った世論調査では、河野談話を見直すべきとの意見は、自民党支持層では55.6%、日本維新の会支持層では7割前後と、保守層では5割を超えた。左派政党の社民党支持層でも、過半数の55.6%が見直すべきと答えている。他、公明党支持層が47.9%、民主党支持層が41.9%、共産党支持層では35.3%が見直すべきと回答した[38]。
テレビ朝日の報道ステーションが2014年(平成26年)3月29日から30日に行った世論調査では、河野談話を安倍内閣が検証し直す動きについて、「評価する」が48%、「評価しない」が28%であった[39]。
河野談話では軍の関与を認め「おわびと反省」を表明したが、これにより「日本政府が旧日本軍による慰安婦の強制連行を認めた」という理解が広まった[40]。
河野談話を受けて、1994年(平成6年)8月31日に、内閣総理大臣の村山富市が「「平和友好交流計画」に関する村山内閣総理大臣の談話」[41]の中で、「いわゆる従軍慰安婦問題」に関して「心からの深い反省とお詫びの気持ち」を表し、平和友好交流計画の実施を表明している。この計画のひとつとして、1995年(平成7年)7月には、女性のためのアジア平和国民基金が発足し、元「慰安婦」に対する償い事業を行っている。その後、歴代首相は、韓国に対し謝罪を行っている。
2007年、アメリカ合衆国下院において、慰安婦問題に関する対日非難決議案を提出した民主党議員のマイク・ホンダは、強制連行の根拠のひとつとして『官憲等が直接これに加担したこともあったこと』と述べており、「河野談話で日本政府が認めた」こととしている[42](実際は前に記すように韓国人慰安婦のことではなく白馬事件のこと)。
なお上述したように、談話発表の際に「補償は不要」としていた韓国側は、直接的な請求については行っていないものの、元慰安婦が起こす賠償訴訟については間接的な支援を行っている[43]。また、現在では、国会議員が日本政府に対して慰安婦に対する謝罪・賠償を要求するといった事例も見られるようになっている。
第1次安倍内閣発足直後の2006年10月5日、安倍晋三首相は、河野談話を「私の内閣で変更するものではない」とし、踏襲し引き継いでいくことを明言したが、下村博文内閣官房副長官が「河野談話はもう少し事実関係をよく研究しあって、その結果どうなのか、時間をかけて客観的、科学的知識を収集して考えるべきではないか」と事実関係についてのさらなる解明が必要という考えを述べた[47]。
安倍は2007年3月5日の参議院予算委員会で、小川敏夫から河野談話についてどう考えるかとの質問に「基本的に継承していく」としつつ、「狭義の意味においての強制性について言えば、これはそれを裏付ける証言はなかった」「官憲が家に押し入っていって人を人さらいのごとく連れて行くという、そういう強制性はなかった」とし[48]、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」とする政府答弁書を閣議決定した[40]。
これに対し、元自由民主党副総裁の山崎拓は、「従軍慰安婦はあったのは事実であり、狭義か広義かなんて弁解がましい態度はとるべきではない」と、安倍を批判した。河野元長官はアジア女性基金のインタビューを通じて、慰安婦の募集に軍政府が直接関与した資料が確認されていないことを踏まえた上で、「だから従軍慰安婦がなかったという議論をするのは、知的に誠実ではない」、政府の加担を認める上で慰安婦の聞き取り結果[注釈 2]を理由にあげ、「明らかに厳しい目にあった人でなければできないような状況説明が次から次へ出てくる」と振り返り、官憲が慰安婦の募集に加担したこともあったと認定した点に問題はないと述べた[49]。
朝日新聞の社説では、証拠がなかった発言が海外で日本の責任逃れと受け止められ、特にワシントン・ポストが「拉致で国際的支援を求めるならば、日本の犯した罪を率直に認めるべきだ」と批判した、とされている[50]。
ニューヨークタイムズは社説で「安倍首相は、かの恥ずべき行為が民間の営利活動だったと主張する自民党内右派にアピールすることほど、日本の国際的な名声を修復することを重要とは考えていないようだ」「真実を歪めるそのような努力は日本の名誉を失うだけ」と批判した[51]。
一方、『産経新聞』は社説「主張」にて、「日本の名誉を傷つけ、日米関係にまで影を落としている」「明確な裏付けもなく慰安所の設置に『軍の関与』があったと認めたために、慰安婦が日本軍の『性の奴隷』であったとの誤った認識を広げた」と河野談話を非難し、安倍が参議院で行った答弁については「事実に誠実に向き合った結果」と評価した[52]。また、安倍発言に関するアメリカ側の報道については、「中国寄りの『ニューヨーク・タイムズ』などが首相の発言を歪曲して報じている」と批判した[52]。
4月17日には月末の訪米を控え、米『ニューズウィーク』と『ウォール・ストリート・ジャーナル』の取材に答えて、慰安婦問題について「人間として心から同情する。首相として大変申し訳なく思っている」と改めて陳謝したうえで「彼女たちが慰安婦として存在しなければならなかった状況につき、我々は責任がある」と述べ、日本側に責任があるとの認識を示した[53]。
2007年4月末のCNNによる異例の訪米前インタビューで、安倍は慰安婦について「人間として日本の首相として過去に本当に苦労を経験をされた慰安婦の方々に心から同情する。20世紀は数々の人権侵害が行われた時代で、日本も無関係ではなかった。慰安婦の方々に謝罪したい気持ちを抱いている。21世紀は人権が侵害されないよう努力する必要があると信じている。そのために私も日本も適切な役割を果たす必要がある」と述べた。同席した安倍昭恵は「女性として慰安婦の方々に同情する。胸が痛みます」と述べ、安倍が強制連行の証拠はなかったと発言して批判されていることについては「彼の発言を聞いていないので分からない。しかし、私の理解では彼はそのような状況に置かれた方々に申し訳ないと言い続けている」と述べた[54]。
河野洋平の参考人招致要求は野田内閣の頃から存在した。2012年8月、国民の生活が第一所属の外山斎(後に希望の党に参加。現在は無所属)が「私は、この河野談話が歴史を歪め、そしてさらに言えば、今日の日韓の関係を間違った方向に導いたのではないかというふうに感じております。」「どうして証拠も無いのに、この河野談話というものを野田内閣は踏襲されるのか」「無いけど、まあ、韓国側の従軍慰安婦と言われる方々の証言だけを元に日本政府はこの河野談話を発表した。私はこれは大変問題だというふうに思っています。」「この談話の中には、『甘言、強圧によるなど本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、さらに官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった』っていうふうに書かれているんです。要はこれは強制連行を示しているというふうに思いますが、この文言だけで、もう私は否定するべきだと思います」と述べて、河野洋平の参考人招致を要求した[55]。これに対して、予算委員長は「後刻理事会で協議を致します。」と回答、理事会で同じ党の森裕子(現・国民民主党)が改めて参考人招致を主張した[56]。
安倍晋三は第1次政権時の2007年3月、談話の前提となる事実関係について再調査を実施する意向を示し、歴史学者などによる有識者機関へ再調査を委ねる案などが浮上していた[57]。
安倍は河野談話の見直しを主張していたが、2012年12月の第46回衆議院議員総選挙の自民党の公約には河野談話に関する記載はない。安倍の総理就任後には「官房長官が判断すべきこと」とし、2013年5月に内閣官房長官の菅義偉は河野談話の見直しを否定している[58]。2013年5月7日、第2次安倍内閣は日本共産党の紙智子が提出した、「東京裁判関係文書(国立公文書館)の中に、強制連行の証拠書類が残されていることが判明しており、戦争犯罪の事実を重く受け止めるべきだ」という質問主意書[59]に対し、慰安婦問題で「新しい資料が発見される可能性はある」とする答弁書を閣議決定した[58]。2014年3月14日、安倍首相は河野談話を見直さないと述べ、韓国政府はこの対応を評価した[60]。
2014年2月、菅義偉官房長官は、談話の根拠となった元慰安婦による証言内容を検証する意向を示し[61]、同年4月、政府は有識者による検証チームを設置して同年6月22日までに検証結果を取りまとめるとした[62]。
2014年3月14日、日本共産党の志位和夫委員長は、は記者会見を開き、「河野談話」と日本軍「慰安婦」問題について歴史の偽造は許されないという見解を発表。慰安婦問題は日本軍による強制連行や性的暴行の被害者が存在したことを認めるべきであり、河野談話はその事実を認めたものであると述べ、日本政府が「河野談話」を否定する姿勢を改め、真実を認め、被害者に対する賠償や謝罪を行うべきであると主張を行った[63]。
日本政府は2014年6月20日、「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯~河野談話作成からアジア女性基金まで~」を公表。共同通信社の報道によれば、報告書には談話作成に際した日韓両国間で文言調整した経緯が明記され、また談話の土台となった[要出典]元慰安婦証言に関する裏付け調査を実施していなかったと記された[64]。ただし、実際の報告書では聞き取り調査について、日本政府の真摯な姿勢を示す為に実施されたものであり、実際には聞き取り調査が行われる前から関係省庁や米国国立公文書館での関連文書の調査、軍関係者や慰安所経営者等の証言と聞き取り調査、挺対協の証言集の分析等の一連の調査によって既に結果は決まっており、談話の原案は聞き取り調査が終了する以前に作成されていた、と報告されている[34]。
2014年になって産経新聞は、談話内容は原案段階より韓国側に提示され、韓国側の指摘に沿って強制性の認定をはじめ内容、字句、表現などの細部に至るまで韓国の意向を反映させたものであると報じた[65]。なお、談話発表当時、日本政府は韓国側へは発表直前に趣旨を通知したとのみ説明しており[65]、河野洋平官房長官(当時)も「調査した結果を淡々とまとめた」[66]、「談話の発表は、事前に韓国外務省に通告したかもしれない。その際、趣旨も伝えたかもしれない。しかし、この問題は韓国とすり合わせるような性格のものではありません」[67]と語っていた。また、こうした日韓の文言のすり合わせについては両政府によって一般には非公開とされていた[13]。こうして日韓のすり合わせが終わり、河野談話がほぼ固まった1993年8月2日、日本政府は韓国の閣僚にも案文を伝えた。韓国閣僚はこれに一定の評価をくだしつつも「韓国民に、一部の女性は自発的に慰安婦になったという印象を与えるわけにはいかない」と強調したという[65]。
韓国側との案分のすり合わせの際には、慰安所の設置および慰安婦募集への日本軍の関与、慰安婦募集に際しての「強制性」が論点となった。前者について韓国側は、軍による「指示」または「指図」があったとの表現を要求したが、日本側は、慰安婦の募集は軍の意向を受けた業者がおこなったものとして、「軍」を募集の主体とすることは受け入れられないとし、業者に対する軍の「指示」は確認できないとして、軍の「要望」を受けた業者との表現を提案した。最終的には韓国側主張に配慮し、慰安所の設置については「軍当局の『要請』により設営された」、慰安婦の募集者については「軍の『要請』を受けた業者」との表現を用いることで決着した[68][69]。後者については、日本側が「(業者の)甘言、強圧による等本人の意思に反して集められた事例が数多くあり」との表現を提示し、韓国側は、「事例が数多くあり」の部分の削除を要求した。これに対し日本側はすべてが意思に反していた事例であると認定することは困難であるとして拒否した。最終的には、当時の朝鮮半島が日本の統治下にあったことを踏まえ、慰安婦の「募集」「移送、管理等」の段階を通じてみた場合、いかなる経緯であったにせよ、全体として個人の意思に反して行われたことが多かったとの趣旨で「甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して」という文言で調整された[68][69]。この報告書はまた、日本政府の調査によっても「強制連行」は確認できなかったと指摘した[68][69]。
日本側原案 | 韓国側の要望 | 談話 | |
---|---|---|---|
慰安所の設置に 関する軍の関与 |
軍当局の「意向」 | 軍当局の「指示」 | 軍当局の「要請」 |
慰安婦募集に際 しての「強制性」 |
「本人の意思に反 して集められた事 例が数多くあり」 |
「事例が数多く あり」の削除 |
拒否 |
元慰安婦への おわびと反省 |
おわび | 「反省の気持ち」 の追加 |
「おわびと反省 の気持ち」 |
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