分化全能性
全能性(英: totipotency)は、単一の細胞が分裂し、器官内の、胚体外の組織も含むすべての細胞に分化し一個体を形成することができる能力である[2][3]。全能性細胞には、胞子および受精卵がある[4]。受精卵に繋がる生殖系細胞も分化全能性をもつとみなされる[5]。ある生物、特に植物細胞では、古くから脱分化し全能性を再獲得することが知られている[6]。例えば、挿し木やカルスはその植物全体に成長させるために用いることができる。
ヒトの発生は、精子が卵子と受精して、一つの全能性細胞(受精卵)を作ることで始まる。受精から最初の一時間で、この細胞は一卵性の全能性細胞に分割する。これは後にヒトの三つの胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)すべてへ、さらに胎盤の細胞栄養芽層または合胞体性栄養膜層の細胞へと発達する。16細胞の段階に到達した後、桑実胚の全能性細胞は、最終的に胚盤胞の内部細胞塊または外部栄養膜のいずれかになる細胞へと分化する。受精から約四日後、そして細胞分裂周期の何サイクルか経た後、これらの全能性細胞は特殊化していく。胚性幹細胞の原材料となる内部細胞塊は多能性(英: pluripotent)細胞であり、全能性ではない。
C. elegansの研究から、RNA調節を含む複数の機構が、ある生物種の発生の異なる段階での全能性の維持に役割を果たしているであろうことがわかってきている[7]。
分化多能性 (pluripotency)
多能性[8](英: pluripotency; ラテン語 「plurimus "非常に多い"+ posse "能力"」、分化万能性とも[9])は、三胚葉(内胚葉(胃の内膜、消化管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、および外胚葉(表皮組織および神経系))のどの系統にも分化できる能力である[10]。多能性幹細胞はあらゆる細胞運命や成熟細胞型を生じることができる。一つの個体とはならないという点で全能性と区別する。
哺乳類においては、胚盤胞の内部細胞塊がこの能力を持つ。この能力は3つの転写因子 (Oct4、Sox2、Nanog)が中心となって維持される。 内部細胞塊では、全能性を有する段階の細胞では互いに抑制していたOct4とCdx2のうちCdx2の転写が、周囲の細胞からのHippo経路によるYapのリン酸化を通して阻止されることにより全能性を失う[11]。
人工多能性幹細胞
人工多能性幹細胞(英: induced pluripotent stem cells、一般的にiPS細胞と略される)は、多能性幹細胞の一種で、典型的には成体体細胞などの非多能性細胞から、"強制的に"ある遺伝子を発現させることなどによって人工的に作成される。
分化多能性 (multipotency)
多能性(または複能性、multipotency)は、複数のしかし限定的な数の系統の細胞へと分化できる能力である。このような細胞を多能性前駆細胞 (multipotent progenitor cell) という。多能性幹細胞の例は造血細胞である。この血液幹細胞は、いくつかの型の血液細胞へと成長することができるが脳細胞や他の型の細胞へは成長できない。一連の細胞分裂の最後に、胚を形成するのは最終分化した細胞、または恒久的に特定の機能を担うようになった細胞である。
分化した細胞はその特化された細胞機能以外を担うことはできないと考えられてきた。しかしながら、近年の研究ではその考えに疑問が投げかけられている[12]。近年の幹細胞の実験では、血液幹細胞を神経や脳細胞のように振る舞わせることができる。これは分化転換として知られている。このような幹細胞の性質の研究は、生体に関する重要な情報をもたらす。また、多能性 (multipotent) 細胞を多能性 (pluripotent) 細胞へ変質させる研究も続けられている。
人工多能性を持つように誘導された体細胞である未分化のiPS細胞は、生殖細胞を用いるES細胞の倫理的な議論を解決するものとして当初は賞賛されていた。しかしながら、iPS細胞は、非常に発癌性が高く[12]、アメリカでは未だ臨床応用が承認されていない。最近の研究で、体細胞におけるある組み合わせの転写因子の発現は他の確定した体細胞運命を直接誘導することが示された。研究者たちはマウスの線維芽細胞(皮膚細胞)を完全に機能的な神経へと直接変換することができる三つの神経系統特異的な発現因子を同定した[12]。この結果は細胞分化に終点があり細胞系統は変えることができないという性質を覆すものである。そして、適切な方法を用いることで、すべての細胞は全能性を持ち、すべての組織を形成できうることを示唆している。
間葉幹細胞の非常に豊富な原材料は発達途上の下顎の親知らずの歯芽である。幹細胞は最終的にエナメル質(外胚葉)、象牙質、歯髄、血管、および神経組織など少なくとも29の異なる末端器官を形成することができる[要出典]。石灰化し稼働性が失われる前の8–10歳児の収集の極端な容易さのため、個人バンク、研究および複数の治療法の主要な素材となるであろう。これらの幹細胞は肝細胞を生成する能力を示している[要出典]。
寡能性
寡能性[13](英: oligopotency)は、前駆細胞が数種類の細胞型にのみ分化できる能力である。このような細胞を少能性前駆細胞 (oligopotent progenitor cell) という。少能性幹細胞の例としては、リンパ芽球や骨髄系前駆細胞が挙げられる[1]。前駆細胞の例としては、血管内皮と平滑筋細胞のどちらにもなることのできる血管幹細胞が挙げられる。
単能性
単能性(英: unipotency)は、ただ一つの細胞/組織の型へと分化・発達できる能力である。ヒトにおいて最も一般的なものは皮膚細胞である。この細胞は自己再生という固有の性質を持つ。この性質は他の最終分化したほとんどの非幹細胞とは異なっている。ヒト肝臓の細胞質塊のほとんどを構成している肝細胞は単能性である。肝臓の、少ない場合、元の質量の4分の1からの再生能力はこの単能性に起因している[14]。「単能性細胞 (unipotent cell)」のほぼ同義語は「前駆細胞 (単能) (precursor cell)」である。
脚注
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