Loading AI tools
ウィキペディアから
四畳半フォーク(よじょうはんフォーク)とは、フォークソングの中でも、恋人同士だけの貧しい暮らし(四畳半1室に同棲など)における純情的な内容を中心とした、主に1970年代の作品のことを指す[1][2][3]。代表例としては、あがた森魚の「赤色エレジー」[4]、かぐや姫の「神田川」[5]や「赤ちょうちん」[3]などがある。命名者はしばしば松任谷由実とされるが[1][2][5]、松任谷以前の用例が存在する。
社会への意見や体制への反抗を表現するものであった社会派フォークが、安保闘争の挫折などを経て、政治とは関係ない私的生活や個人の心情を扱うものへと流れた[5][1][3][6]。四畳半フォークは、そうした流れの中で生まれた[1][3]。
武蔵野タンポポ団の『淋しい気持ちで』という曲(1972年1月発売のアルバム『武蔵野タンポポ団の伝説』に収録[注 1])には「せまい四畳半で 足腰たたねえ」[注 1](太字強調は引用者、以下同じ)という歌詞がある。音楽評論家の小川真一は、当初の「四畳半フォーク」とはこの武蔵野タンポポ団のメンバーたちを指す言葉だったのではないかと述べている[7]。
『週刊読売』1972年8月19日号の特集「夏、若ものたちはなぜ去勢された ロック・フォークーあの怒りの爆発はどこへ…」という記事では、1972年のヒット曲のあがた森魚の『赤色エレジー』と吉田拓郎の『旅の宿』の歌詞を取り上げて「二つとも四畳半ムードのいかにも男女のカッタるい感じの歌である」と評している[8]。
南こうせつとかぐや姫の『神田川』(1973年9月シングル発売)の歌詞に出てくるのは四畳半ではなく「三畳一間」[9][10]であるが、この曲は四畳半フォークの代表例とされる[5][9]。既に『週刊文春』1974年11月11日号の記事で、「”四畳半フォーク”のハシリとなった『神田川』」[11]と言及されている。
フリーランサーというフォークグループの『わたしたちの夢は』という曲(シングル発売1974年7月[注 2])には、「わたしたちの夢は (中略) 一発あてて 紅白に出て (中略) 外車を乗りまわし マンションに住み 四畳半フォークを 唄うことです」[注 2][注 3]という皮肉を利かせた歌詞がある。この曲はかぐや姫、よしだたくろう、岡林信康、井上陽水、小室等などを揶揄していると物議をかもし[注 4]、当時の複数の週刊誌に「四畳半フォーク」という歌詞とともに紹介された[14][12][13][15][16]。フリーランサーはその後、『四畳半フォーク』という題名の曲(シングル発売1974年12月[注 5])も発表している[注 5]。
四畳半フォークという呼称は、1970年代の中頃に松任谷由実(当時は荒井由実)が用いたのが初出であるとも言及され[5][1][2]、松任谷自身もそう主張している[17]。ただし松任谷の「四畳半」という発言は1975年1月で[18]、上述した用例よりも新しい。以下に詳しく述べる。
松任谷自身は著書『ルージュの伝言』で次のように主張している。これは1982年7月から9月にかけて松任谷のインタビュー速記を山川健一が原稿化したものである[17]。
速水健朗は松任谷の『ルージュの伝言』を出典として荒井(松任谷)の命名だとしている[1]。中川右介も、出典は挙げていないものの、松任谷が否定的な文脈で命名したものだと述べている[2]。
荒井(松任谷)は、『話の特集』誌の1975年1月号に「心の中の"オーブル街"を歩こう」というエッセイを発表していた[18]。そこで荒井は、自分の目指す音楽スタイルを「中産階級サウンド」[18]「ちょっと手をのばせば届くような優雅さを、歌にしたい」[18]と位置付けるとともに、既存の流行歌に対しては以下のような批判を述べていた。
自分の作った歌を、自分で歌う人達は特に、心の中に一つのユートピアを持っているはずだ。それがある人にとって、四畳半裸電球に対する郷愁かもしれないし、あるいは、過ぎ去った子供の頃の記憶かもしれない。 (中略) 現状より少しでも良い生活をしたいと望んでいるはずなのになぜみんな、貧しいみじめなもの、それを題材にした歌に、強く反応するのだろう。日本人特有のナルシシズムなのだろうか。私の前途は多難だ。 — 荒井由実「心の中の"オーブル街"を歩こう」、『話の特集』1975年1月号[18](太字強調は引用者)
上記引用のようにこのエッセイでは四畳半という言葉が使われ、これは後年の松任谷の著書『ルージュの伝言』[17]での「『話の特集』に原稿頼まれて、そのとき最初に書いたんだ」という主張とも整合する。ただしこの『話の特集』のエッセイの発表年月は1975年1月であり、前節で示した武蔵野タンポポ団の1972年の楽曲『淋しい気持ちで』、『週刊読売』1972年8月19日号の記事、フリーランサーの1974年の楽曲『わたしたちの夢は』・『四畳半フォーク』、『週刊文春』1974年11月11日号の記事などの用例よりも時期として後となる。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.