動態保存中の蒸気機関車(どうたいほぞんちゅうのじょうききかんしゃ)とは、動作可能な状態で保存(動態保存)されている蒸気機関車(SL)のこと。
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1976年(昭和51年)の大井川鉄道(現・大井川鐵道)での保存運転より始まった。現在でも走行可能な状態のSLを代表的な牽引列車とともにまとめた。
近年では産業遺産としての価値が見直されるほか、観光資源としての活用が望めるなど、動態保存のニーズも多くなっている。東日本旅客鉄道(JR東日本)ではSLが足りなくなることが出てきたため、日本各地で静態保存されている国鉄制式のSLの調査に2009年(平成21年)から乗り出し2011年(平成23年)に3両目、2014年(平成26年)に4両目のSLを動態復元させた。またSLの維持保守、さらにSLの運転が可能な乗務員の更新育成など、課題も多くなっている。一方でCO2排出抑制の観点から、大井川鐵道が代替燃料による試験運転を実施するなど、燃料や環境に対する問題への取り組みも始まっている。
JR北海道
JR北海道におけるSLの動態保存は、1988年(昭和63年)に復元されたC62 3(後述)が嚆矢である。同機による列車は民間有志によるボランティア事業として運行されていたが、不祥事や資金難により1995年(平成7年)に運行を終了。代わりにJR北海道が1999年(平成11年)から2000年(平成12年)にかけて自社でC11形を2両動態復元することとなった。その後整備や資金の難から1両が長期にわたって運用を離脱し、最終的には東武鉄道に貸し出されることになった。現在JR北海道で運用されているSLは、事実上C11 171の1両のみである。
JR西日本
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C57 1 |
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D51 200 |
梅小路蒸気機関車館(現・京都鉄道博物館)の所属機関車を継承したことからSLの在籍数は5両とJR他社に比較して多い。いずれも動態保存状態で、このうち本線運転可能なSLは下記の2両である。うち1両は製造時から車籍を保持しており、日本で唯一の存在である。
- C57 1 - 「SLやまぐち号」
- 1979年(昭和54年)に「SLやまぐち号」の牽引機として、保存運転を開始した、国鉄・JRにおけるSL保存運転の嚆矢。2017年(平成19年)で竣工・動態運転80周年。2009年(平成21年)に、炭水車を新たに製作し取り替えた。その後も2010年(平成22年)にはボイラーの大規模改修、2014年(平成26年)には主台枠とシリンダーの一部[1]・ピストンを新たに製作して取り替えている。
- D51 200 - 「SLやまぐち号」
- 梅小路蒸気機関車館での構内運転用であったが、2014年(平成26年)秋より本線復帰のための全般検査と各種改造が行われた。2017年(平成29年)に整備が完了し、同年11月25日に「SLやまぐち号」の牽引で営業運転開始[2]。2018年(平成30年)5月に、それまでの役割を担っていたC56 160と交代し、本格的に運用を開始。なお、車籍は一度抹消されているが、静態保存機になったことはない。
JR九州
当初はSLは保有していなかったが、発足後まもなく1両を復元した。1909年(明治42年)の旧式形式称号を使用したSLの動態保存はJR九州が唯一である。
- 58654 - 「SL人吉」
- 1988年(昭和63年)に動態復元。同年8月28日には「SLあそBOY」として、同10月9日には「SL人吉号」として保存運転開始。老朽化により2005年(平成17年)8月28日をもっていったん保存運転を終了したが、修繕されて2009年(平成21年)4月25日に「SL人吉」として保存運転が再開された。車籍を有するSLとしては日本でもっとも製造が古いが、新規動態復元時にボイラーや台枠などを新製しており、テセウスの船に近い状態で復元されている。老朽化のため、2024年(令和6年)3月24日に引退。
大井川鐵道
先述のとおり日本のSL動態保存のパイオニアであり、最盛期には8両の動態保存機を有していた。その後運用の都合や資金難から3両が静態保存に移行し、2両が長期休車となっている。しかし、2022年9月から、兵庫県の播磨中央公園に静態保存されていた、C56 135を現在修復中で、2025年の春までに運行を開始する予定。また、他社が現役時代そのままの外観を維持している中、SLに対しアニメーション作品とコラボした派手な装飾を行っていることも特筆される。
真岡鐵道
1990年代にJR東日本の協力で2両のSLを復元した。しかし資金難により1両は競売によって東武鉄道に譲渡され、在籍するのは1両となっている。なお全般検査はJR東日本に委託している。
秩父鉄道
国鉄末期に復元されたC58 363をJR東日本から譲受して運行している。当初は貸出運転にも積極的であったが、保有者の移行にともないほとんど行われなくなっている。真岡鐵道と同様に、全般検査はJR東日本に委託している。
東武鉄道
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C11 207 |
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C11 325 |
2010年代に運行を開始した、日本で最も新しい動態保存事業者である。最初の2両は他社で動態復元されながら資金難で運行されていなかった車両だった。3両目となるC11 123は自社復元機となった。
- C11 207 - 「SL大樹」
- 2000年(平成12年)にJR北海道で動態復元されたが、その後整備上の都合から運行されなくなっていた。2016年(平成28年)に東武鉄道(所有は東武博物館)がJR北海道から借り受け、2017年(平成29年)8月10日より「SL大樹」として運行している[4]。
- C11 325 - 「SL大樹」
- 1998年(平成10年)に真岡鐵道で動態復元されたが、資金難から売却されることになった。2019年(平成31年)に行われた一般公募入札[5]の結果、東武鉄道が1億2500万円で落札し、2020年(令和2年)7月30日に引き渡された[6]。その後同年12月26日に運行を開始した。
- C11 123 - 「SL大樹」
- 2018年(平成30年)から2022年(令和4年)にかけて動態復元が行われ、同年7月18日より運行されている[7]。江若鉄道が新製導入した際の車番は「C111」(国鉄の1号機とは別車両)であったが、東武鉄道の創立123周年や同社3両目のSLを記念し、123号機に改めて運行されている。
動態から静態保存に変更されたSL
日本国有鉄道
JR北海道
- C62 3 - 「C62ニセコ号」
- C11 171動態復元前の動態保存機。資金難のため、1995年(平成7年)11月3日をもって保存運転を終了。現在はJR北海道苗穂工場にて静態保存。JR東日本の動態復元候補に挙がっていたが、JR北海道は譲渡を認めず、動態保存機はC61 20に決定したため、動態復元は幻となった。2010年(平成22年)に準鉄道記念物に指定された。
西武鉄道
- 2形
- こちらは井笠鉄道より1号機を借り入れたもの。こちらも1977年(昭和52年)に返却。
- 5形
- 台湾の台糖公司が保有していたものを譲り受けたもの。1977年(昭和52年)に1形・2形と交代し、運転を開始した。
- 527は西武園ゆうえんち内でレストランとして使用されていたが、2011年(平成23年)6月に台湾に里帰りし高雄市にある陳中和記念博物館に保存されることになった[8]。
- 532は西武山口線の運転休止後、元ユネスコ村駅跡地で保存されていたが、北海道の丸瀬布町(現・遠軽町)にある「丸瀬布いこいの森」に移動した。
大井川鐵道
- 1号 - ミニSL
- 1977年(昭和52年)に住友セメント(現・住友大阪セメント)から購入。同年10月7日に千頭 - 川根両国間のミニSL列車の牽引機として保存運転を開始。1275形と同様に、1989年(平成元年)11月26日をもって保存運転を終了。その後、「プラザロコ」へ移された。
- C11 312 - 「かわね路号」
- 1988年(昭和63年)に動態復元。老朽化により、2007年(平成19年)9月8日のさよなら運転をもって保存運転を終了。翌9日付で除籍の上、静態保存機となった。それ以降は新金谷駅構外側線に留置され、他のSLの部品取り機として活用されていた。しかし、2019年(令和元年)10月ごろより修復工事を受け、現在は交流施設「KADODE OOIGAWA」で静態保存展示されている。
- C12 164 - 「トラストトレイン」
- 所属会社は大井川鐵道だが、所有は日本ナショナルトラストである。ATS未設置により、2005年(平成17年)4月23日の「トラストトレイン」をもって保存運転を終了。翌24日以降は休車となったが、資金の目処がつかず静態保存に移行した(長期休車となり車籍は残存)。2011年(平成23年)10月7日以降は新金谷駅構内の転車台上で展示されている。その後、運転再開に向けた整備を行う方針であることが2016年(平成28年)9月に発表された。
施設内動態保存のSL
テーマパークや博物館などの施設内で運転されているSLについては、以下にまとめる(現在までに運転を終了し静態保存に移行するなどしているものも含む)。
新造蒸機
以下は、施設開設時に新造されたもので、動態のSLではあるが、「保存運転」とは定義し難い。
- やながわ希望の森公園「さくら1号」(福島県伊達市) - 1985年(昭和60年)に当時の伊達郡梁川町が開園した公園。SL列車の運行が始まったのは2年後の1987年(昭和62年)で、阿武隈急行のやながわ希望の森公園前駅近くの西口駅から東口駅までを結ぶ、800 mの路線である。機関車は1987年(昭和62年)に協三工業で製造された「B62418」で、3両のボギー客車を牽引する。番号は動軸2軸を示す「B」と列車運転開始日の「昭和62年4月18日」にちなむ。
- スカイピアあだたら(福島県二本松市) - 1988年(昭和63年)に国の公益法人年金福祉事業団が建設した大規模リゾート施設(当初はグリーンピア二本松)で、2004年(平成16年)に年金福祉事業団から二本松市に譲渡され「スカイピアあだたら」として再開業。軌間は762 mmで、一周1.3 kmの周回線であった。1987年(昭和62年)に運行開始し、赤字により2008年(平成20年)に終了。機関車は1987年(昭和62年)に協三工業で製造された「B621014」が4両の客車を牽引していた。番号は動軸2軸を示す「B」と列車運転開始日の「昭和62年10月14日」にちなむ。
- むさしの村「むさしの村鉄道」(埼玉県加須市) - 軌間610 mmの一周800 mの周回線上を走行する。初代のSL形蓄電池機関車を1985年(昭和60年)に新造蒸機に置き換えた珍しい例だが、2004年(平成16年)にSL形蓄電池機関車に再度置き換えられた。蒸気機関車は1985年(昭和60年)に協三工業で製造された「B600720」。番号は動軸2軸を示す「B」と列車運転開始日の「昭和60年7月20日」にちなむ。引退後は那珂川清流鉄道保存会で保存。
- 東京ディズニーランド「ウエスタンリバー鉄道」(千葉県浦安市) - 同園に1983年(昭和58年)の開園当初から存在するアトラクションの一つで、1.61 kmの周回線上を協三工業製の4編成が走行する。
- 碓氷峠鉄道文化むら「あぷとくん」(群馬県安中市) - 軌間610 mmの一周0.8 kmの周回線上を走行する。1998年(平成10年)イギリス・Winson(英語版)社で製造された。「グリーンブリーズ」号の愛称がある。アプト式機関車の3950形を模している。土休日の昼以外はEC40(10000)形を模したディーゼル機関車で運行される。
- 愛知こどもの国「こども汽車」(愛知県西尾市) - 1974年(昭和49年)に県政100周年記念事業の一環として開園した公園。同年に軌間762 mmで機関車2両 (B11, B12) が協三工業で新製された。5両編成の客車を牽引して1.135 kmの周回線上を走行する。
1997年(平成9年)にCK101が整備されて以来、観光列車用に以下の動態保存機があり、台湾糖業鉄道では短距離ながらも定期的に運行されている。
台湾糖業鉄道
- 346 - ベルギーのアングロ・フランコ・ヴェルジ製。渓湖糖廠(彰化県)
- 370 - ベルギーのテュビズ製。烏樹林糖廠(台南市)
- 650 - ドイツのKoppel製。蒜頭糖廠(嘉義縣)
N&W 611号機
NKP 765号機
SP 4449号機
UP 844号機
UP 3985号機
UP 4014号機
以上の大型機は各鉄道の本線上を走行可能なものだが、アメリカ合衆国内にはこの他にも各地の博物館や観光鉄道・保存鉄道で動態保存されている蒸気機関車が多数存在する。
主台枠のモーションプレート・缶膨張受・台枠横控、シリンダーのプッシュ(「日本の蒸気機関車2014」(鉄道ジャーナル 2014年7月号別冊) pp.71 - 72)、左右主台枠までの記述はない。シリンダーは戦後製作(同誌)。
“大鉄車両図鑑”. 大井川鐵道. 2024年4月11日閲覧。 “蒸気機関車C11形227号機 ※ ただいま運行しておりません。”