ピロストラトスまたはフィロストラトス古希: Φιλόστρατος, Philostratos ; : Philostratus ; 170年頃 - 240年代[1])は、ローマ帝国期のレムノス島出身のギリシア語著述家・弁論家第二次ソフィスト

主な著作として、「第二次ソフィスト」の由来になった伝記集『ソフィスト列伝』[2][3]ナザレのイエスと同時代の奇跡行者の伝記『テュアナのアポロニオス伝[4]トロイア戦争の異説物語『英雄が語るトロイア戦争』(『へーローイコス』)[5]、などがある。

フルネームフラウィウス・ピロストラトゥス: Flavius Philostratus)またはプラビオス・ピロストラトス古希: Φλάβιος Φιλόστρατος, Phlabios Philostratos[注釈 1]。彼の親族には、同業・同出身地のピロストラトスが複数いる[7][8]。1人目は本項のピロストラトス(通称アテナイのピロストラトス[注釈 2])、2人目はその父親のピロストラトス(ベロス・ピロストラトス[8])、3人目は義理の息子かつ甥のピロストラトス(レムノスのピロストラトス)、4人目は孫のピロストラトス(小ピロストラトス)。以上4人のうち、最も著名なのは本項のピロストラトスである[8]

人物

ピロストラトスの人物像には不明な点が多く、断片的な資料を繋げ合わせることで推測される。

おそらく170年頃にレムノスで生まれた。青年期にアテナイに赴き、ナウクラティスのプロクロス英語版のもとで弁論術を修得した。その後ローマに移り住み、セウェルス帝妃ユリア・ドムナの主宰する知的サロンに参加した。彼女との縁によりカラカラ帝にも仕え、各地の遠征にも随行した。『スーダ』によれば、軍人皇帝ピリップス・アラブスの在位時(244年 - 249年)まで活動した 。[10][11]

彼がレムノス人だと分かるのは、後世のエウナピオスシュネシオスの記述による。その一方で、フォティオスは彼をテュロス人だとしており[12]、他方で彼自身の書簡ではアテナイ人と称される[注釈 2]

彼のプラエノーメンが「フラウィウス」だと分かるのは、『ソフィスト列伝』やヨハネス・ツェツェス英語版の記述による。

作品

親族のピロストラトスと混同されやすい等の理由から、作品の帰属にも諸説ある[5]。いずれも古代ギリシア語で書かれている。

英雄が語るトロイア戦争

『へーローイコス』(邦題:『英雄が語るトロイア戦争』『英雄論』[5]古代ギリシア語: Ἡρωικός ; ラテン語: Heroicus ; 213-214年ごろ成立)は、トロイア戦争を題材にした物語作品で、ホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』の異説にあたる。

枠物語として、現代(3世紀)のトラキア・ケルソネソストロイア遺跡の対岸)に住むぶどう園主が、トロイア戦争の英雄プロテシラオス幽霊(英雄神[13])と交流して、その交流内容をフェニキア人旅人対話形式で聴かせる、という形式をとる。作中では、ホメロスへの賛辞と批判修正が入り交じる。

テュアナのアポロニオス伝

テュアナのアポロニオス伝[4]古希: Τὰ ἐς τὸν Τυανέα Ἀπολλώνιον ; : Vita Apollonii, 217-238年ごろ成立)は、テュアナのアポロニオス伝記の形をとった物語作品で、ユリア・ドムナの依頼により書かれた。

テュアナのアポロニオスは、1世紀テュアナ出身の新ピタゴラス学派哲学者であり、ナザレのイエスと同時代に活動した奇跡行者でもある。本書では、そのアポロニオスが、西はヒスパニア東はインドまで世界各地を旅する様子を描く。そのなかで、彼の奇跡や哲学の描写だけでなく、地誌伝説上の生物など雑多な内容が描かれる。

本書によって伝えられたアポロニオスは、後世、キリスト教批判者などに注目された。また、本書におけるラミアーの描写は、17世紀ロバート・バートン英語版に受容され、さらにそのバートンを経由して19世紀ジョン・キーツにも受容された[14]

ソフィスト列伝

『ソフィスト列伝』[3]古希: Βίοι Σοφιστῶν ; : Vitae Sophistarum ; : Lives of the Sophists, 231年-237年ごろ成立)は、ソフィスト達の伝記で、執政官ゴルディアヌス1世への献呈作品[15]

全2巻からなり、第1巻ではゴルギアス古代ギリシアのソフィストを、第2巻ではローマ帝国期のソフィスト(第二次ソフィスト)を扱う。内容は、史実に即した伝記というよりは、ピロストラトスの視点に基づく評伝として書かれている。ピロストラトスのいう「ソフィスト」は、蔑称ではなくむしろ「哲学者」と並ぶ尊称だった。

エイコネス

その他

現代語訳

日本語

  • ピロストラトス 著 / 内田次信 訳『英雄が語るトロイア戦争』平凡社ライブラリー、2008年。ISBN 978-4582766523(『へーローイコス』の全訳)
  • ピロストラトス 著 / 秦剛平 訳『テュアナのアポロニオス伝1』京都大学学術出版会西洋古典叢書〉、2010年。ISBN 978-4876981854(2巻未刊)
  • ピロストラトス、エウナピオス 著 / 戸塚七郎、金子佳司 訳『哲学者・ソフィスト列伝』京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2001年。ISBN 978-4876981311(戸塚七郎 解説)

英語

いずれもローブ・クラシカルライブラリー

  • Alciphron, Aelian, and Philostratus, The Letters. Translated by A. R. Benner, F. H. Fobes. 1949. Loeb Classical Library. ISBN 978-0-674-99421-8
  • Philostratus, Lives of the Sophists. Eunapius, Lives of the Philosophers and Sophists. Translated by Wilmer C. Wright. 1921. Loeb Classical Library. ISBN 978-0-674-99149-1
  • Philostratus, Apollonius of Tyana. 3 volumes. Translated by Christopher P. Jones. 2005-6. Loeb Classical Library. ISBN 978-0-674-99613-7, 978-0-674-99614-4, 978-0-674-99617-5
  • Philostratus, Heroicus; Gymnasticus; Discourses 1 and 2. Edited and translated by Jeffrey Rusten and Jason König. Loeb Classical Library. (Cambridge, Massachusetts and London, England, 2014).

ドイツ語

脚注

参考文献

関連文献

外部リンク

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