GABAA受容体

イオンチャネル型受容体およびイオンチャネル内蔵型受容体の一つ ウィキペディアから

GABAA受容体

GABAA受容体 (GABAAR;ギャバ・エーレセプター或いはギャバ・エーじゅようたい) は、イオンチャネル型受容体およびイオンチャネル内蔵型受容体の一つである。リガンドは主要な中枢神経系の抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)である。活性化されると、GABAA受容体はClを選択的にイオンチャネルを透過させることにより、神経細胞に過分極が生じる。これにより、活動電位が生じにくくなり神経伝達の阻害効果を引き起こす。規定液中のGABAA-介在IPSP(抑制性シナプス後電位)の逆転電位は−70 mVで、GABABIPSPとは対照的である。

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ニコチン性アセチルコリン受容体 (nAchR: PDB: 2BG9)の構造。GABAA受容体に非常によく似ている。[1][2][3] 上図細胞膜に埋め込まれたnAchRの側面。下図:細胞外面から見た受容体。GABAとベンゾジアゼピン(BZ)の結合部位のおおよその位置はそれぞれα-およびβ-サブユニットの間とα-およびγ-サブユニットの間である。
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GABAA受容体の概略構造。: GABAA単量体サブユニットは脂質二重層(青い球に薄黄色のラインが結合したもの)に埋め込まれている。4つの膜貫通のα-ヘリックス(1–4)は円柱で描かれている。Cys-ループ受容体(GABAA受容体を含む)のファミリーの受容体の特徴であるN末端細胞外ドメイン中のジスルフィド結合は黄色の線で描かれている。:5つのサブユニットは塩化物アニオン透過孔を中心に対称的に配列している。細胞外ループは便宜上表示していない。

GABAA活性部位は、GABAならびにムッシモールガボキサドール、およびビククリンなどいくつかの薬物との結合部位である。また、タンパク質には間接的に受容体の活性を調節するアロステリック結合部位がいくつかある。これらのアロステリック部位は特に、ベンゾジアゼピン系非ベンゾジアゼピン系バルビツール酸系エタノール(アルコール)[4]神経活性ステロイド吸入麻酔薬、およびピクロトキシンを含む様々な薬物の標的である[5]

GABAA受容体

GABAA受容体はイオンチャンネル型受容体であり、GABABGタンパク質結合型受容体である[6]。このうち、本項で解説するGABAA受容体が、長らく睡眠薬の主な標的であった[6]。(以前GABAC受容体は別の種類とされていたが、ρサブユニットから構成されるGABAA受容体の一種と再分類された。そのため「GABAC受容体」という名称を単独で使用することは推奨されていない[7]。)

GABAA受容体は、隣接した様々な結合部位からも、アロステリックに調節されている[8]。GABAA受容体は、GABAに占有されるとClチャネルを開口し、塩素イオンの透過性を高めることで、神経細胞の活動電位を抑制する[8]

ベンゾジアゼピンの標的

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GABAA受容体は、αが2個、βが2個、γが1個(図ではα1が2個、β2が2個、γ2が1個)の5個のサブユニットから成る5量体であり、GABAの結合部位や、アロステリック調節部位としてのベンゾジアゼピン結合部位が存在する[6]

受容体のサブユニニットには、α、β、γ、δ、ε、π、θ、ρが存在する[6]。GABAA受容体は、αが2個、βが2個、γが1個のサブユニットからなる[6]

ベンゾジアゼピン結合部位には、脳などの中枢型のω1、ω2と、臓器など末梢型のω3の3種のサブタイプ が存在する[6]。この用語について、国際薬理学連合英語版(IUPHAR)は、もはや使われていない「BZ受容体」や「GABA/BZ受容体」ではなく、また「ベンゾジアゼピン受容体」の用語を「ベンゾジアゼピン部位」(benzodiazepine site)に置き換えることを推奨している[9]

ベンゾジアゼピン系薬は、ベンゾジアゼピン結合部位に結合することで、クロライドイオンの透過性を高めるGABAの作用を増加させる[8]。Clチャネルの開口回数が増えることで、GABAの薬理作用が増強されることになる[6]

バルビツール酸系薬では、低濃度ではベンゾジアゼピン系薬と同様であるが、高濃度では直接Clチャネルの開口時間を延長する[6]。またバルビツール酸系薬は、脳全体を抑制するという作用部位の違いがあり、このことが安全性の違いに反映されている[6]。(しかしながらベンゾジアゼピンによる死亡も国際的な問題とはなっている[10]。)

リガンド

要約
視点
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GABAA受容体と様々なリガンドが結合する場所。

GABAA受容体複合体上の様々な部位に結合し、GABAそのもの以外にも変調を与えるリガンドが多数発見されている[どれ?]。リガンドは以下のタイプの1つ以上の特性を持つ。残念ながら文献ではこれらのタイプを適切に区別していないことが多い。

リガンドのタイプ

  • オルソステリックな(Orthosteric、内因性基質と同一部位に結合する)作動薬阻害薬 - 主な受容体部位(GABAが通常結合する部位、「活性」または「オルソステリック」部位とも呼ばれる)に結合する。作動薬は受容体を活性化し、その結果、Clコンダクタンスが増加する(チャネルを開口する)。阻害薬は、それ自体では何の効果もないが、GABAとの結合を競合してその作用を阻害し、結果としてCl-コンダクタンスを減少させる。
  • 一次アロステリック調節因子 - 受容体複合体上のアロステリック部位に結合し、ポジティブ(PAM)、ネガティブ(NAM)、ニュートラル/サイレント(SAM)のいずれかの方法で影響を与え、主な部位の効率を高めたり下げたりして、間接的にCl-コンダクタンスを増減させる。SAMはコンダクタンスには影響を与えず、結合部位を占有する。
  • 二次調節因子 - 受容体複合体上のアロステリック部位に結合し、一次調節因子の効果を調節する。
  • オープンチャネルブロッカー - サブユニットの構成に依存し、増感状態に依存して、リガンド―受容体占有率、活性化速度、Clイオンフラックスを延長する[11]
  • 非競合的チャネル遮断剤 - 受容体複合体の中心孔またはその近傍に結合し、イオンチャネルを介してCl-のコンダクタンスを直接遮断する。

リガンドの例

効果

受容体の活性化に寄与するリガンドは、通常、抗不安薬抗てんかん薬健忘症鎮静薬睡眠薬多幸感筋弛緩剤などがある。受容体の活性化を低下させるリガンドは、通常、不安神経症痙攣などの反対の作用を有する[要出典] 。α5IAのようなサブタイプ選択的な陰性アロステリック調節因子のいくつかは、他のGABA作動性薬剤の望ましくない副作用の治療法としてだけでなく、向知性の効果のために研究されている[22]

新規薬剤

多くのベンゾジアゼピン系部位アロステリック調節因子の有用な特性は、特定のサブユニットからなる受容体の特定のサブセットに選択的な結合を示すことである。これにより、特定の脳領域でどのようなGABAA受容体サブユニットの組み合わせが多いかを知ることができ、GABAA受容体に作用する薬物の行動学的効果がどのサブユニットの組み合わせによるものかを知る手がかりとなる。このような選択的リガンドは、望ましい治療効果と望ましくない副作用とを分離することができるという点で、薬理学的に優れていると考えられる[23]。α1に適度に選択的なゾルピデムを除いて、まだ臨床使用に至っていないサブタイプ選択的リガンドはほとんどないが,α3選択的な薬剤アジプロン英語版など、より選択的な化合物がいくつか開発されている。サブタイプ選択性化合物の例としては、以下のようなものがあり、科学的研究に広く用いられている。

  • CL-218,872英語版(高α1選択性作動薬)
  • ブレタゼニル英語版(サブタイプ選択的部分作動薬)
  • イミダゼニル英語版L-838,417英語版(いずれも一部のサブタイプで部分的に作動するが、他のサブタイプでは弱い拮抗作用を有する)
  • QH-ii-066英語版(α5サブタイプに高い選択性を持つ完全作動薬
  • α5IA英語版(α5サブタイプに選択的な逆作動薬
  • SL-651,498英語版(α2およびα3サブタイプに完全作動薬、α1およびα5に部分作動薬
  • 3-アシル-4-キノロン:α3よりもα1に選択的[24]

奇異反応

ベンゾジアゼピン系薬剤、バルビツール酸系薬剤、吸入麻酔薬プロポフォール神経活性ステロイドアルコールなどによる奇異反応(パラドキシカルな反応)は、GABAA受容体の構造的な異常と関連していることが複数示唆されている。受容体を構成する5つのサブユニット(上図参照)の組み合わせが変化することで、例えば、GABAに対する受容体の反応は変わらないが、名前の付いた物質の一つに対する反応は通常のものとは大きく異なる。

このような受容体の異常によって、一般人口の約2〜3%が深刻な情緒障害に陥り、最大で20%がこの種の中等度の障害に陥ると推定されている。一般に、受容体の変化は、少なくとも部分的には、遺伝的およびエピジェネティクスな変化に起因すると考えられている。後者は、特に社会的ストレスや燃え尽き症候群によって引き起こされる可能性が示唆されている[25][26][27][28]

参考文献

関連項目

外部リンク

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