初等解析学における函数 cis とは、実数 x複素数 cos(x) + i sin(x) に対応させる関数のことである[1][2][3][4]。ここで cos余弦関数sin正弦関数i虚数単位である。

cis(x) ≔ cos(x) + i sin(x)

"cis" は "cos + i sin" の省略形である。

この函数 cis: RS1(⊂ C*) は、複素指数函数 ez を用いれば、オイラーの公式より

cis(x) = eix

と表せる。すなわち純虚変数 ix の指数函数(じゅんきょへんすうのしすうかんすう、: imaginary exponential function)として書くことができる。複素指数函数とは別にこのような表記を設けることは、一見冗長であるように思われるが、偏角 x の関数であることを強調する上で有用となる。

概観

初めて造語 cis が用いられたのはウィリアム・ローワン・ハミルトンの著書 Elements of Quaternions (1866)[5]であり、引き続いてアーヴィング・ストリンガム英語版Uniplanar Algebra (1893)[6][7]などで、あるいはジェームズ・ハークネス英語版フランク・モーリーIntroduction to the Theory of Analytic Functions (1898)[7][8]で用いた。

cis関数は、複素数平面においてオイラーの公式を通じて三角関数複素指数函数とを結びつけるもので、極形式を簡素化したいが、複素指数函数が教育課程で未習の場合、または何らかの理由で用いたくない場合に使用する[5][6][1]

情報技術において、様々な高度数学ライブラリ(例えばインテルMath Kernel Library (MKL)[9])でサポートされており、多くのコンパイラやプログラミング言語(例えば C, C++,[10] Common Lisp,[11][12] D,[13] Fortran,[14] Haskell[15])およびオペレーティングシステム(例えば Windows, Linux,[14] macOSHP-UX[16])で利用できる。プラットホームによっては、正弦函数と余弦函数を個別に呼び出すよりも二倍ほど速い[13][17]

第二次世界大戦後、数式記述にタイプライターが用いられるようになったころから、この記法はより広まった。上付き添え字は 'cis' や 'exp' よりも小さく、また上に偏っているから、手書きの場合でさえ困ることがある。eix2, cis(x2), exp(ix2) を比較してみると、読み手には cis(x2) が見易く読み取り易い[要出典]

cos(x) + i sin(x)cis(x) と表記する cis 記法は、ある種の記憶術 (c,i,s → cos + i sin) であり、cis函数について議論する数学者や技術者にとって、本質を強調するために有用となることがある。

性質

複素数 z = x + iyx, y は実数)に対して、複素指数函数は次の式で表せる:

  • exp(z) = exp(x)cis(y)

cis(x) = cos(x) + i sin(x)[18]と、

cis(x) = cos(x) + i sin(x) = cos(x) i sin(x)

を連立することにより、cos(x), sin(x) は cis関数で表せる:

  • 微分:[19]
  • 積分:[18]

以下はオイラーの公式から直ちに従う:

  • [20]

これらの等式は x, y が任意の複素数として成り立つ。x, y がともに実ならば

[20]

と評価することができる。

関連項目

参考文献

外部リンク

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