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退去強制(たいきょきょうせい)とは、出入国管理及び難民認定法(入管法)に定められた行政処分の一つで、日本に滞在している外国人を強制的に日本から退去させることをいう。退去強制の処分に至るまでの調査・審理手続を含めて言うときは「退去強制手続」という。関係官庁内では「退去強制令書」を縮めて「退令(たいれい)」と略され、報道等では「強制送還(きょうせいそうかん)」、「国外退去処分(こくがいたいきょしょぶん)」などの表現もある。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
なお、同法には日本国外の領域から日本に入国(正確には上陸)しようとする外国人に対する上陸拒否の処分として退去命令(通称・退命)があるが、退去強制とは趣旨・条項・罰則等が全く異なる別概念ものとされている。報道等ではこちらも「強制送還」[1]、「国外退去」と表現することがあり、両者を混同して認識する例が少なくない。
本項目は日本の法令についての解説であるが、海外を含む一般的な項目については国外退去を参照。
強制退去処分を受け、送還に応じる人は2018年~2020年の平均で、年間約1万人。出入国管理庁によれば、強制退去処分が決まっても送還を拒んでいる人は2021年12月末現在で、3224人、うち難民認定を申請している人は1629人で、彼らは申請中は一律に送還が停止される。また3224人のうち、仮放免された人は2546人、仮放免され逃亡した人は599人、収容された人は79人[2]。
出入国管理及び難民認定法第24条各号所定の退去強制事由を要約して列記。この場合「本邦」とは日本国を指す。正確な退去強制事由は条文[3]参照。
出国命令対象者(対象の範囲については出国命令を参照のこと)は、第1次的には出国命令手続で出国することとなる。もっとも、出国期限内に出国しなかった場合、出国命令の際に付された条件に違反したため出国命令を取り消された場合には、退去強制手続によることになる。
一方、退去強制手続の途中で出国命令対象者であることが判明した場合には、出国命令手続に移行する(47条2項、48条7項、49条5項、55条の3)。
退去強制の手続は、違反調査→収容→審査→口頭審理→異議の申出→退去強制令書の発付→退去強制令書の執行の流れで行われる。以下概説する。
違反調査とは、退去強制事由の存否について入国警備官により行われる調査である。入国警備官は、容疑者・証人を取り調べ、地方裁判所又は簡易裁判所の裁判官の令状により臨検、捜索及び押収をすることができる。
入国警備官が、容疑者に退去強制事由に該当すると疑うに足りる相当な理由があり、またその外国人が出国命令対象者に該当しない場合には、主任審査官に収容令書の発付を請求する。主任審査官がこれを認めて収容令書を発付した場合、入国警備官は、容疑者に収容令書を示して容疑者を収容場等に収容することができる。収容の期間は30日以内であるが、やむを得ない事由があるときには30日を限り延長することができる。
実務上は、退去強制事由に該当する場合であっても、帰国の意思をもって自ら地方入国管理局等へ出頭し、自力で帰国できる見込みがある者に対しては、入管法違反以外に犯罪の嫌疑がなければ、身柄の拘束は行わず在宅での取調べとなることも多い。
入国警備官は、容疑者の収容後48時間以内に、調書及び証拠物とともに,当該容疑者を入国審査官に引き渡す。引渡しを受けた入国審査官は、受け取った調書及び証拠物を精査し、容疑者から事情を聴取するなどして、容疑者が退去強制事由に該当するかについて審査を行う。審査の結果、退去強制事由がないと認定された場合には、直ちに容疑者は放免される。出国命令対象者であると認定された場合には出国命令手続に移行し、容疑者は出国命令を受けたら直ちに放免される。容疑者が退去強制対象者に該当すると認定された場合には、その旨と口頭審理を受ける権利を告知される。容疑者が認定に服した場合には、主任審査官により退去強制令書が発付される。
容疑者が認定に異議があるときは、認定通知の日から3日以内(日数は通知の翌日から起算)に特別審理官に対し、口頭審理の請求をすることができる。特別審理官は、関係書類を精査し、容疑者から事情を聴取するなどして、入国審査官の認定に誤りがないかの口頭審理を行う。入国審査官の認定に誤りがあり、退去強制事由がないと判定された場合には、直ちに容疑者は放免される。出国命令対象者であると判定された場合には出国命令手続に移行し、容疑者は出国命令を受けたら直ちに放免される。容疑者が退去強制対象者に該当するとの認定に誤りがないと判定された場合には、その旨と異議の申出の権利を告知される。容疑者が判定に服した場合には、主任審査官により退去強制令書が発付される。
容疑者が判定に異議があるときは、判定通知の日から3日以内(日数は通知の翌日から起算)に法務大臣に対し、異議の申出をすることができる。法務大臣又はその権限の委任を受けた地方入国管理局長は、関係書類を精査し、異議の申出に理由があるかを書面審理する。異議の申出に理由があり、退去強制事由がないと裁決された場合には、直ちに容疑者は放免される。出国命令対象者であると裁決された場合には出国命令手続に移行し、容疑者は出国命令を受けたら直ちに放免される。異議の申出に理由がなく、在留特別許可をしないと裁決された場合には、主任審査官により退去強制令書が発付される。法務大臣等は、異議の申出に理由がない場合であっても、永住許可を受けているとき、かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき、人身取引等の被害者であるときその他法務大臣等が特別に在留を許可すべき事情があると認めるときには、その者の在留を特別に許可し、直ちにその者を放免する。
ただし、「日本人との婚姻関係がある」と偽装結婚する、在留特別許可の悪用が、在日中国人社会で黒転白(ヘイ・ジャン・パイ)として流行。それを手助けする日本人業者も少なくない。
主任審査官により発付された退去強制令書は入国警備官(又は警察官若しくは海上保安官)が執行する。退去強制令書の発付を受けた者は、入国者収容所長又は主任審査官の許可を得て、自費で本邦を退去することもできる。退去強制を受ける者は原則として本国に送還される。
実務上の取扱いとして、退去強制の費用(主に航空運賃)を自分で支弁できたり、差入れを受けることが可能な者は、身柄が拘束(収容)されていても10日から14日程度で出国ができるが、費用を支弁できない場合は、種々の手続・決裁を経て国家予算で送還されるため、収容状態が長期に及ぶこともある。退去者が、退去を拒んで暴れるケースもあるため、1人の退去のために数人の警備員を付ける必要があるなど、費用が嵩むことも多い。国家予算を使用することへは批判も根強く、あくまで自費で退去させるようにすべきだとの批判がある。国費送還は2014~16年は約200人ずつ、2017年308人、2018年385人実施している[4]。
定期運航便の一部座席を借り上げて複数の被送還者を一度に送還する、小口集団送還も実施している。2017年度は2回で12人、2018年度は6月までに3回13人の実績がある[4]。
退去費用の抑制のため、2013年より、退去先の国が同じ数十人の不法滞在者を、チャーター機で集団退去させる手法が導入された[5]。機長から搭乗を拒否されることなく送還できる。
チャーター機で祖国に強制送還した記録。( )内は職員等の人数[6]
2018年に強制退去の手続きをとった外国人は前年比19%増の16,269人で、国別ではベトナム4,395人、中国4,185人、タイ2,101人だった[12]。
退去強制令書が発行され直ちに送還されるべき者のうち、諸般の事情(難民申請中、国籍国政府が身柄の引き取りを拒否、など)により送還できないことから、一定の条件のもと一時的に収用を解かれている者。退去強制令書の効力は失われないため、送還されるべき(帰国するべき)立場にある。仮放免制度は出入国管理及び難民認定法により定められている。被退去仮放免者数は年々増加し2015年に3,606人とピークに達し、その後減少傾向に転じたが、2018年6月時点で2,796人となっている[4]。送還忌避者とも表現される[4]。
退去強制令書及び難民認定に関する裁判所の判例(裁判所ウェブサイト掲載判例のみ)は1980年代は7件のみであるが、1999年(平成11年)から2022年(令和4年)までの24年間では160件作成された[13][注釈 1]。
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