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西王母(せいおうぼ、さいおうぼ)は、中国で古くから信仰された女仙、女神。姓は緱(あるいは楊[1])、名は回、字は婉姈、一字は太虚[2]。
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「王母」は祖母や女王のような聖母といった意味合いであり、「西王母」とは西方にある崑崙山上の天界を統べる母なる女王の尊称である。天界にある瑶池と蟠桃園の女主人でもあり、すべての女仙を支配する最上位の女神。東王父に対応する。
歴史家の陳夢家によれば、殷墟から発掘された甲骨文字の卜辞に「西母」という神が見られ、それが西王母の前身であるという[32]。
東周時代に書かれたとされる『山海経』の大荒西経によると、西王母は「西王母の山」または「玉山」と呼ばれる山を擁する崑崙の丘に住んでおり、西山経には
という半人半神の姿で描写されている[33]。また、海内北経には
とあり、基本的には人間に近い存在として描写されている[32]。
また、三羽の鳥が西王母のために食事を運んでくるともいい(『海内北経』)、これらの鳥の名は大鶩、小鶩、青鳥であるという(『大荒西経』)。
春秋時代に形成され、戦国時代に流布された『穆天子伝』によれば、周の穆王が西に巡符して「西王母の邦」で最高の礼を尽くして彼女に会い、3年間逗留して帰国したという。この物語での西王母は完全に人間の姿で描かれている。なお、西王母の邦は洛陽から西に1000キロメートルの位置にあったという。
漢代になると西王母は神仙思想と結びついて変容していった。両性具有から男性的な要素が対となる男神の東王父として分離し[32]、ともに不老不死の支配者という性格が与えられていった。三青鳥をはじめ、九尾の狐、玉兎、蟾蜍(ヒキガエル)などとともに当時のレリーフに彫られている。
『荘子』によれば、西王母を得道の真人としているし、『淮南子』では、西王母が持していた不死の薬を、姮娥(恒娥)が盗んで月へと逃げたと記している。
人間の非業の永生を司る女神であった西王母であったが、「死と生命を司る存在を崇め祭れば、非業の死を免れられる」という、恐れから発生する信仰によって、徐々に「不老不死の力を与える神女」というイメージに変化していった。
東王父と西王母は、元始天王と太元玉女(太元聖母とも呼ばれている)との間に生まれた双生の神であり、陽の気と陰の気の神格化と考えられる。
班固の『漢武内伝』によれば、前漢の武帝が長生を願っていた際、西王母は墉宮玉女たち(西王母の侍女)とともに天上から降り、三千年に一度咲くという仙桃七顆を与えたという[34]。『漢武内伝』に登場する西王母の侍女の名前は、王子登、董双成、石公子、許飛瓊、阮凌華、范成君、段安香、安法嬰、郭密香、田四飛、李慶孫、宋霊賓である[34]。漢末の建平4年(紀元前3年)、華北地方一帯に西王母のお告げを記したお札が拡散し、騒擾をもたらしたという記述が、『漢書』の「哀帝紀」や「五行志」に見える。
陶弘景の『洞玄霊宝真霊位業図』では、元始天王は「西王母の師」と言及される[35]。道教の上清経派が西王母信仰を吸収し、元始天王の弟子に列している。
張君房の『雲笈七籤』によれば、西王母は配下である戦の女神・九天玄女を派遣し、黄帝が蚩尤に勝つための兵法と神符を授けたとされる[36]。
丹波康頼の『医心方』では、『玉房秘訣』によれば、西王母は陰を養って得道した者で、彼女には夫がなく、童男(男の子)と性交するのが好きだったが、西王母と関係を持った人間の男はすぐ病にかかったという[37]。
西王母はかつての「人頭獣身の女神」から「天界の美しき最高仙女」へと完全に変化し、不老不死の仙桃(蟠桃)を管理する、艶やかにして麗しい天の女主人として、絶大な信仰を集めるにいたった。王母へ生贄を運ぶ役目だった青鳥も、「西王母が宴を開くときに出す使い鳥」という役どころに姿を変え、やがては「青鳥」といえば「知らせ、手紙」という意味に用いられるほどになったのである。中国民間では旧暦三月三日の「桃の節句」が西王母の誕辰で、この日には神々が彼女の瑶池に集まって蟠桃会を行なうと伝えている[30][38][39][40]。
『封神演義』では「瑶池金母」という名前で登場し、昊天上帝の妻であり、竜吉公主はその娘ということになっている。『西遊記』では無数の珍しい宝物を持つ天界一の貴婦人である。現在の伝説では玉皇大帝の妻として傍らに座しているとされ、七人の娘(七仙女)がいるとされる。道教の文献に記載された西王母の娘の名前は、四番目の娘・南極王夫人(林)[41]、十三番目の娘・右英王夫人(媚蘭)[41]、二十番目の娘・紫微王夫人(清娥)[41]、二十三番目の娘・雲華夫人(瑤姫)[42][43]、そして末娘の太真王夫人(婉羅[44]あるいは玉巵[45])である[41]。『東遊記』には華林、媚嫻、青娥、瑤姫、王扈という五人の名前が出ている[46]。
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