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『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』(しょうせつばんドラえもん のびたとてつじんへいだん)は、2011年2月25日に出版された瀬名秀明による原作漫画版『ドラえもん のび太と鉄人兵団』を元にしたノベライズ作品[1][2][3]。ドラえもん初の小説となる[2]。2022年3月4日に文庫判が発売。解説は辻村深月[注 1]。
小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団 | |
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作者 | 瀬名秀明 |
国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
ジャンル | 長編小説、SF小説 |
発表形態 | (単行本)書き下ろし |
刊本情報 | |
出版元 | 小学館 |
出版年月日 | 2011年3月2日 |
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地球を支配し人間を奴隷化しようと企むロボットの軍勢「鉄人兵団」と、それを阻止すべく立ち向かうドラえもんたち5人の物語。
本書は、リメイク版映画『ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜』の公開にあわせて発表・出版された[4][1][2][3]。 原作を忠実にノベライズしつつも独自の解釈や設定の追加・改変を行い[1][5]、特に後半に向けては、鉄人兵団と戦うのび太たちの恐怖心をむき出しに描くことで読者の感情を揺さぶる作品になっている[6]。今までは一切触れられてこなかったのび太たちが長い間家を留守にして冒険している間ののび太たちの親の心情に触れていることも特徴。
また、小説だけに登場するキャラクターとして星野スミレやエスパー魔美に登場する任紀高志がおり、原作にもリメイク版映画にもない切り口がある[7]ほか、原作などの大長編に備わっている主題歌にこだわりを見せており、本書にも歌を使用している[7][8]。
北極で偶然見つけた謎の部品を、不思議な鏡面世界で組み立て出来上がった巨大ロボット・ザンダクロスに喜ぶのび太たちだったが、しかしそれは、実は恐るべき破壊力を秘めた兵器だった。そんな時、落ち込むのび太の前に謎の美少女リルルが現れる。ザンダクロスの持ち主を主張する彼女に、のび太は鏡面世界を教えるが、彼女の正体は鉄人兵団を迎えるべく送り込まれた尖兵であり、鏡面世界に着々と基地を作り上げていた。絶望的な事実を知ったのび太とドラえもんは何とか大人たちへと伝えようとするが、信じたのはジャイアンとスネ夫の2人だけ。しかしザンダクロスの頭脳を改造し味方に付ける方法を思いつく。一方しずかは、傷付き倒れたリルルを発見する。そして鉄人兵団の魔の手は明晩にまで迫っていた。
※メインキャラクターの詳細は各個別記事を参照。
ドラえもんのTVアニメが、スタッフと声優を一新したシリーズに変わりつつあるころ、小学館の編集者が瀬名秀明の下へ映画脚本の話を持ってくる[19]。瀬名は『鉄人兵団』を希望した[注 5]が、具体化には至らず話は流れる[19]。その後、リメイク版映画の公開が決まり、以前の話を覚えていた小学館の編集部が改めて藤子プロに打診し、2010年の夏、ノベライズ企画がスタートする[19]。
本作を執筆するにあたり瀬名は、小学生向けのジュニアシネマ文庫でという依頼のところ「中学生向け」へと変更を提案した[5][20]。瀬名は自身の経験から、原作のテーマである「他人への思いやり」をより深く理解できる年齢が14歳ごろとして、その理由を挙げている[5]。「自分と君とは違うけど、でも友達」という「社会性のある思いやり」を描き、読者に伝えたかったという[13]。ただし、本書で使用される漢字には、ほとんどにおいてルビが記されるなど若い読者に向けた配慮もなされている[9]。
原作からの変更点に関して、瀬名は「ストーリーを変えるつもりはなかった」と語り、媒体が変われば表現方法も違うため、ドラえもんらしさが損なわれることを危惧し、原作の台詞回しもあえてそのまま残すなど工夫したと明かす[5][20]。
一方で、原作をそのままノベライズすることについても懸念があり、小説としての面白さを感じてもらうため、漫画のコマとコマの間を補完するようディテールの積み重ねにこだわった[5][20]。その一例として挙がった「現実世界で大人たちがのび太たちを心配している様子」には、「日常と非日常をつなぐ設定」「冒険中の時間の流れ」など、原作にあった要素を再現する意味が込められている[5]。また、ラストに追加された、のび太たちが家に帰り家族と会うシーンでは、想定した14歳の読者なら大人の視点からも読み取れると考え、「思いやりの心は相対的な視点に立ったとき深く発揮できる」と述べている[11]。
書評家の杉江松恋は、登場文物の内面描写こそ小説の独自性と評し、襲来する鉄人兵団に向けてのび太たちが感じる恐怖心を描くことで、読者を強く揺さぶると述べている[6]。
また、本作では科学的考証が徹底されており、瀬名は執筆の折に情報理工学博士を持つロボット研究家の杉原知道と5時間を超える議論を重ねている[4][14]。
瀬名は著書の『ロボット・オペラ』での縁と、ドラえもんファンでもある杉原に仁義を通す意味もあり、彼に対談を依頼[16]。2人は「鏡面世界の食べ物は食べられないだろう[注 6]」「鏡面世界の機械は動くのか」[21]「ロボットが鏡面世界に入っても人間と同じように左右逆に見えるだろうか」など、ロボットの設定や鏡面世界の設定について延々と語ったという[16]。この議論により瀬名は「全体の科学描写のめどが立った」と手応えを感じたが、杉原は「原作どおりにやって欲しい」「下手に変えると必ず失敗する」と心配していた[21]。瀬名は杉原に本の完成品を送ったが感想は聞いておらず(2011年時点)、「まあいいじゃないかといってくれるといいなあ」と述べている[21]。
瀬名によれば、本作は2部構成になっており、裏山でリルルとのび太が対決する第1部まではなるべく原作に忠実にし、その後の第2部を変えていったという[22]。
小説には主題歌として岩渕まことの曲『God Bless You』が使用されており、原作に登場する宗教的なモチーフにゴスペルが合うと感じた瀬名が、元々映画ドラえもんを通して岩渕の曲が好きだったこともあり、クライマックスに用いている[7][8]。
本作はリメイク版映画と連動した企画だが、瀬名によればそれに関しての打ち合わせはまったくなかったという[23][注 7]。リメイク版映画公開の前日である2011年3月4日に行われたイベント「大人だけのドラえもんオールナイト2011」での寺本幸代監督との対談で「似ている部分」として挙がった1つが歌の要素であり、映画を見た際、瀬名はその共通点に驚いた[23]。ただし、映画はリルルやピッポをしずかやのび太など、友達同士の心を繋げるための歌だが、小説はロボットや人間と神様の心を繋げる歌として両作の違いを挙げている[8]。
さらに瀬名は「男が燃えるところと女性が燃えるところは違う」と語り、ロボットに襲われるしずかをのび太が助けるシーンを、後にメカトピアに行くしずかと鏡面世界で戦うのび太を繋ぐフックとして機能するよう重要なものとして描いたが、映画版ではさほど重要視されていなかったことを意外に感じたという[8]。
原作を「コマにまったく無駄がない。」として、すべての本の中でベスト1に挙げる瀬名は[24]、本書の執筆において「このコマからなぜ次のコマになったか」という漫画の流れを特に重要視し、文章化することに苦心したが同時に面白くも感じたと答えている[8][注 8]。
ジュンク堂書店は「これぞ瀬名秀明作品」「藤子・F・不二雄作品の素晴らしさを伝えている」「大人が泣ける」と評している[25]。
書評家の杉江松恋は、本作最大の美点を「読者に、世界との向き合い方を伝えようとしていること」とし、使用されている漢字へのルビや、ひみつ道具などへの科学的考証に基づいた設定などを例に挙げ、高く評価している[9]。また、媒体が小説であることへも言及し、「もし小学生が本書を手に取ったとしたら、彼もしくは彼女は、小説を読むという行為の大きな可能性を知ることになるだろう。」と述べている[12]。
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