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『大聖堂-果てしなき世界』(だいせいどう はてしなきせかい、World Without End)は、ケン・フォレットによる歴史小説。『大聖堂』(The Pillars of the Earth)の続編にあたる。2007年に発表され、日本では2009年にソフトバンク文庫から戸田裕之訳により出版されている。
前作から約150年後の14世紀の前半、前作の舞台であるキングズブリッジを中心とした歴史小説。前作同様に王位継承から英仏百年戦争の開始、そしてペストの流行といった史実を背景に、架空の人物に歴史上の人物を絡ませる、前作と同様の群像劇であるが、前作よりもより主人公であるマーティンに焦点をあてている。
登場人物の多くは前作の人物の子孫で、ジャックとアリエナの子孫と、トム・ビルダーの娘の子孫である。また地理的な位置なども同様であるため、前作を全く読まなくても楽しめる作品であるが、前作を読んでいると2世紀が経過したキングズブリッジを前作と対比することが出来る。
マーティンとラルフの兄弟の父親はシャーリング伯爵の従兄弟にあたり騎士叙勲を受けていた。しかし2人が少年の頃に、修道院からの借金が返せず、土地を引き渡す代わりに修道院に生活の保護を受けることになってしまう。彼らの両親が土地を失ったちょうどその日、2人はマーティンの作った弓を試しに町の子供たちと森へ向かい、騎士トマスが2人の兵士に追われているところへ出くわしてしまう。体の大きな弟のラルフは弓で1人の兵士を射ち、トマスは残りの1人を返り討ちにした。トマスは極秘文書を持っており、それを埋めて、マーティンと秘密を共有する。その後、ラルフは希望通りシャーリング伯爵の従士となることができたが、マーティンは自身も従士となりたかったものの、体格が貧弱であるために建築職人の徒弟となるように言われてしまった。
前作から約150年、シャーリング伯爵位はジャックとアリエナの子孫が受け継いでおり、またトム・ビルダーの娘であるマーサの子孫エドマンドは町の有力派となっていた。修道士のゴドウィンはエドマンドの姉のペトラニッラの一人息子であった。オックスフォード大学で上級教育を受けたい野望があったが、修道院長、女子修道院長、そして叔父のエドマンドからも学資を出すことを拒否された為、母親のペトラニッラは家と家財を売り払って自身は妻を亡くした弟のエドマンドと同居することで学資を捻出した。
キングズブリッジ中興の祖であるフィリップ院長の時代から150年経ち、キングズブリッジの修道院はすっかり退嬰していた。羊毛市は寂れはじめ、その要因の一つとして橋の容量不足があった。町に入るまでに渋滞が起こり、町の外で取引をされてしまうばかりか、近くのシャーリングの羊毛市を選ぶ商人が多くなってしまう始末であった。そのため、エドマンドはギルド(組合)の意図としてアントニー修道院長に橋の架け替えを進言するが、修道院は資金難を原因に拒否した。改善策をもたないと町が衰退すると考えるギルド側に対し、修道院長は現状から踏み出す意図は全くなく、衰退も外的要因の変化で何とかなると願っていた。
マーティンは建築職人の徒弟として親方のエルフリックを凌ぐ腕と観察眼と持っていたが、徒弟として決してよいとはいえない待遇を受けていた。親方はマーティンの腕に嫉妬しており、革新的な手法を打ち出すマーティンが気に食わない。年季明けが半年になった頃、いつもは歯牙にもかけない親方の娘のグリセルダがマーティンを誘ったため、つい寝てしまった。グリセルダは恋人と別れたのだが妊娠しており、マーティンを父親に仕立てようとしたのであった。マーティンにはエドマンドの娘のカリスという幼馴染で両思いの相手がおり、またグリセルダの腹の中の子供が自分でないことを知って結婚を拒否した。そのために親方はマーティンを破門にした。マーティンは腕があるために何とか生計をたてていたが、ギルドに入れずに大きな仕事はできなかった。
カリスの友人である貧しい家庭の娘のグウェンダは、小さな頃は父親に盗みなどをさせられていた。グウェンダはウルフリックという青年が好きであったが、ウルフリックはアネットと婚約していた。ある時、マーティンの弟で従士となっているラルフがアネットに乱暴を働こうとしたが、ウルフリックはそれを守り、逆にラルフに傷をつけた。
ある時、グウェンダは父親に売られてしまった。何とか逃げ出すことができたグウェンダはキングズブリッジの町に逃げ込もうとしたところで追っ手に捕まりそうになった。羊毛市で混雑する橋を渡ろうとした時、橋が崩壊してしまった。グウェンダは溺れている追っ手を溺死させて逃れた。一方でちょうど伯爵と共に橋にいたラルフは何とか伯爵を助け出した。
ウルフリックは家族を全てこの崩壊で失った。そのために土地の相続を願い出たが、村の新しい領主はかつて彼が傷つけたラルフであった。ラルフはウルフリックを憎んでおり、相続を拒否した。アネットから見捨てられたウルフリックをグウェンダは支え、そしてラルフに体を捧げたが、ラルフは約束を守らなかった。そしてグウェンダは妊娠したが、実はそれはラルフの子供であった。
一方でマーティンは橋が崩れる前からその兆候と原因を突き止めていた。そしてギルドで自分の考えを述べ、競争相手であるかつての親方のエルフリックに打ち勝って橋の再建を請け負った。しかしその製法を全て明らかにしていたため、建築途中でエルフリックに取って代わられてしまった。マーティンは打ちひしがれ、また恋人のカリスは結婚して妻に納まるという形を嫌っていたため、絶望してキングズブリッジを出ようとした。それを知り、カリスは結婚に同意した。
ゴドウィンは修道院長が死ぬと、自身が後継者になる野望を持っていた。母のペトラニッラの作戦も有り、また修道士になりたがっているグウェンダの兄のフィルモンの働きもあって、まんまと自らが修道院長となることに成功した。ゴドウィンは当初は革新的な意思をもっていた。しかし次第に保守化し、後には自己の欲しか考えない男になっていってしまう。フィルモンは修道士となることが認められ、やがて副修道院長になる。
橋の崩壊からエドマンドは気力を失ってしまった。そのために娘のカリスは布生地を染料で染めて売り出すことを考えた。ミョウバンを使うことを知り、自分で色々と試してついには成功する。しかし様々なギルド側の要望は保守化したゴドウィンに拒絶されてしまった。そこでカリスを中心としたギルドはキングズブリッジの町を王の直轄地とすることを願い出た。王はフランスとの戦争を始めており、町の衰退は願うところではなかった。そのため、ゴドウィンはカリスとマーティンの競争相手としてエルフリックと組み、カリスを魔女として告発した。マーティンを巡る恋敵で女子修道院に入ったエリザベスの証言もあり、カリスは危うく魔女とされるところであったが、以前からカリスを女子修道院に入れたがっていたセシリア女子修道院長がカリスを修道院に入れてそれを防ぐ。それはマーティンとカリスの結婚式の直前であり、マーティンは絶望してフィレンツェへ去った。
ラルフは騎士見習いとして奔放に生活していた。シャーリング伯爵の長男ウィリアムの妻フィリッパの美貌に憧れていたが、本人からは嫌われており、そのためもあってまだ騎士叙勲をされていなかった。遠乗りをしている時に、ラルフは人妻となったアネットが洗濯中に一人でいるところをみつけ、強姦してしまう。そのために訴えられると、縛り首になる寸前に伯爵の手助けによって逃走できた。森で無法者たちの仲間となって掠奪を繰り返しているが、とうとう捕まってしまう。今度こそ縛り首になるかと思われたが、伯爵が恩赦を告げた。フランスとの戦争のために参戦するならば罪が赦されるというのである。
かつてのフィリップ院長の頃にはなかった女子修道院は、放漫なキングズブリッジ修道院と異なり健全な財政をもっていた。ゴドウィンは一策を持って遺言で寄贈された大金を奪い修道院長館をエルフリックに建築させていた。セシリアはそれを知り、王に訴えることにした。カリスがその使いとなったが、イングランド王エドワード3世はフランスへ向かっていた。フランスでイングランド軍の凄惨な略奪暴行の後を追う。イギリス軍はフランス王とその連合軍のために追い詰められていた。ラルフは土地の農民を尋問して渡河点の浅瀬を知るという手柄を挙げたが、その渡河点にはフランスの守備隊がおり、追撃してくるフランス軍と挟み撃ちの形になってしまった。しかし渡河点の守備軍は不手際から渡河を許してしまい、イングランド軍は待ち受けに有利な地形を得て防戦に出た。これがいわゆる百年戦争におけるクレシーの戦いで、イングランド軍は騎士の突撃を避け長弓部隊の射撃を中心にした守勢作戦により勝利を収めた。兵力では大きく劣ったものの、フランス軍側の指揮系統の不統一や地形の不利、そして長弓の速射能力が原動力となった。ラルフは激戦の中でプリンス・オブ・ウェールズ(エドワード黒太子)の命を救い、それによって騎士叙勲を受けた。一方でカリス達は王に謁見することが出来たが、目的は果たせなかった。
マーティンは当時の西洋世界で最も発展していたフィレンツェの有力者の娘と結婚し、重要な仕事を手がけていた。しかし、ペストが町を襲い、自らは一命を取り留めたものの、妻も義父もペストで死んでしまい、また仕事の依頼主たちも死ぬか致命的な損害を蒙っており、仕事が続けられる状態ではないことを知った。マーティンは身辺を整理すると、ペストに耐性があったためかペストにかからなかった幼い一人娘を連れてキングズブリッジへ戻ることを決心した。
キングズブリッジに戻ったマーティンはカリスと再会し、愛人関係となる。また、エルフリックの橋の建築に不備があったことを示し、信用を得た。だが、キングズブリッジは国際的な商取引を行う羊毛市を行っているために、ペストが入り込んできた。町で死者が次々に出ると、女子修道院は修道院と協同して手当てを行った。カリスは様々な経験や情報から清潔や隔離、そしてマスクの重要さを感じ取る。女子修道院長のセシリアがなくなると、女子修道院を完全に傘下に収めたいゴドウィンはエリザベスと組んでカリスが女子修道院長となることを防ごうとする。しかしエリザベス派であった修道女がペストにかかると、雰囲気が一変し、カリスが女子修道院長に選ばれた。町のペスト渦がひどくなると、ゴドウィンは修道士と財産を持って森の分院へ逃げ込んだ。カリスはアンリ司教の後押しの下で様々な改革を行う。特にマーティンと共に大聖堂を建て直し、そしてゴドウィンたちの逃走場所を知ると宝物の返還のために分院へ向かった。分院でもペストが猛威を振るっており、ゴドウィンはペストで死んだ。しかし副修道院長のフィルモンが戻ってくると、自らが修道院長になろうとした。アンリ司教はカリスの優越を認めながら条件付でフィルモンの院長就任を認めた。
ラルフはシャーリング伯爵の死後、その息子たちもペストで死亡したことを知る。ラルフはプリンス・オブ・ウェールズのお気に入りとなっているために、シャーリング伯爵位を狙う。その条件として寡婦となったフィリッパとの結婚が必要であったが、フィリッパは断固としてラルフとの結婚を拒んだ。しかし代わりにラルフとまだ14歳の娘との結婚を示唆されると、仕方なくラルフとの結婚に同意し、ラルフは伯爵となった。しかしすぐに結婚はうまく行かなくなり、フィリッパはキングズブリッジの女子修道院に篭る。一方でマーティンとの半ば公然とした愛人関係を責められたカリスはマーティンとの関係を解消せざるを得なくなり、マーティンはフィリッパと愛人関係となる。しかしフィリッパは妊娠してしまい、ラルフの子にするためにラルフの元に戻って関係を持ち、それ以後は愛人関係を解消せざるを得なくなった。
カリスはフィルモンと治療院について主導権争いを行っていたが、敗れてしまう。しかし逆に民間治療施設をマーティンの支援の下に作り、ここの責任者が女子修道院に対して大きな影響力をもつようにした。カリスはアンリ司教の弱みを握っており、カリスが還俗してその責任者になり、マーティンと結婚した。
ウルフリックとグウェンダは土地を持てずに貧窮の中で懸命に働いており、村人の同情を買っていた。ウルフリックとグウェンダは女子修道院の土地を新天地として生活を始めたが、ラルフに見つかってしまい連れ戻された。村々はペストで働き手を失っており、領主は逃げ出した農民を連れ戻せる法令が出ていたのである。しかしウルフリックはとうとう土地を得た。ラルフも働き手が不足する中で村人の支持を得ているウルフリックに土地を与えることを認めるしかなかった。グウェンダの2人の息子のうち、兄のサムは実はラルフの息子であった。サムはラルフに連れ戻される時に人を殺してしまっていた。そのために死刑の判決を受けたが、グウェンダはラルフにサムはラルフの子供だと告げたため、サムはラルフの従士となった。ラルフは決して美人とはいえないグウェンダに惹かれるものがあった。そのためにサムを訪ねてきたグウェンダに森の小屋で待たせ、関係を持っているところをサムに見られてしまった。サムは逆上して父とは知らずにラルフを殺してしまった。
アンリ司教の出世に伴い、キングズブリッジ司教の座をフィルモンが狙った。そこでカリスはアンリの男色の愛人であるクロード司教座聖堂参事を司教にするように運動をする。しかし運動はうまくいかなかった。フィルモンはペストが再び町を襲うとまたもや分院に逃げ込んだのであるが、王に教会に対する課税の譲歩を認める提案を行ったため、王はフィルモンの任命を決めたのであった。そこでマーティンはかつてトマスが埋めた秘密の文書の存在を使い、国王の使者に取引を試みた。フィルモンがこの文書を入手していたが、マーティンはフィルモンの隠し場所を知っており、文書を奪取したのである。これが成功し、穏健なクロードが任命され、フィルモンの野望は封じられてしまった。
(主要人物は、名前の後ろに※を付けている)
町がペストに襲われると、恐怖から聖遺物などを持ち去り修道士を連れて分院の森の聖ヨハネ修道院に逃げ込むが、修道士の中にはすでにペストにかかっていたものがおり、結局ほぼ全滅する。ゴドウィンもペストでそこで死んだ。
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