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遺伝子疾患(いでんししっかん、英: Genetic disease)は、遺伝物質であるDNAの変化(突然変異)によって起こる病態である[1]。遺伝子疾患は親から子へ遺伝する場合としない場合がある[1]。 狭義に遺伝病とも称されるが、現在では次世代に遺伝しない場合も含めた概念となっている。
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遺伝性疾患(英: hereditary disease)もDNA変化によって引き起こされる[1]。重要な特徴は、病気が親から子へ伝播する、すなわち遺伝するという事実である[1]。
常染色体劣性遺伝または伴性遺伝の疾患(または形質)に関連するゲノムの変異(対立遺伝子)を子孫に受け継ぐ可能性があり、その疾患の症状(またはその形質の特徴)がない個人は、遺伝的保因者(または単に保因者)と呼ばれる[2]。
遺伝性疾患は染色体異常症、単一遺伝子疾患、多因子遺伝の3種類に分類される。
染色体異常症は染色体全体あるいは染色体の一部分に含まれる複数の遺伝子の過剰あるいは不足が原因である。21番染色体トリソミーによるダウン症候群などが有名である。
単一遺伝子疾患は1つの遺伝子の変異により発症する。単一遺伝子疾患はメンデル遺伝形式に従うという大きな特徴がある。これまで知られている単一遺伝子疾患は、Vector A.McKusickによる著書である「Mendelian Inheritance in Man」に記載されており[注 1]、殆どの単一遺伝子疾患は稀なものである。しかし単一遺伝子疾患群としてみると、およそ2%の人が生涯のいずれかの時期で単一遺伝子疾患に罹患していることに気がつくという報告もある。小児期に発症する重篤な単一遺伝子疾患の頻度は0.36%であり、入院している小児疾患の6~8%は単一遺伝子疾患に罹患していると推定されている。小児疾患が多いが単一遺伝子疾患の10%以下だが思春期以降に症状が発現し、1%は生殖期間が終わった後に発症するものもある。単一遺伝子疾患は診断が家系構成員の健康に大きく影響する点が非常に重要となる。 DNA配列の変異による疾患として初めて明らかにされたのは1983年ハンチントン舞踏病のHTT遺伝子のCAGリピート伸長である。[3]
単一遺伝子疾患が従うメンデル遺伝学では常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖性優性遺伝、X連鎖性劣性遺伝の4つが基本形式になる。いくつかの例外も知られており、ゲノムインプリンティングによる特異的な遺伝形式を示す偽性副甲状腺機能低下症や母系遺伝などを示すミトコンドリア病などがあげられる。
劣性遺伝の古典的定義はホモ接合体でのみ発現し、ヘテロ接合体では発現しない表現型のことである。劣性遺伝疾患の多くは、遺伝性産物の機能を減じるか消失させる変異、いわゆる機能喪失型(loss-of-function)が原因である。常染色体劣性遺伝疾患の罹患者の両親は通常は変異アレルの無症候性保因者である。近親婚がある場合は常染色体劣性遺伝疾患の発症リスクが高くなる。インドや中東諸国、アジアの一部では未だに血族婚があふれている地域もある。血族婚ではないにもかかわらず偶然に無症候性保因者同士で結婚したことが劣性遺伝性疾患では一番多い原因になる。特に白人では嚢胞性線維症という常染色体劣性遺伝性疾患の原因遺伝子であるCFTR遺伝子の変異アレル保因者が多く、血族婚でなくとも嚢胞性線維症を発症しうる。このように、劣性遺伝形式が集団において高頻度に保持されている場合もある。家族歴を聴取する場合は血族婚の有無の他にカップルが似通った民族もしくは地理的起源がないかに関しても聴取する必要がある。新生突然変異で常染色体劣性遺伝性疾患を発症する可能性は極めて低い。この点は他の優性遺伝性疾患とX連鎖性疾患の状況と大きく異なる点である。以下に常染色体劣性遺伝の特徴をまとめる。
変異アレルがホモ接合体でもヘテロ接合体でも発現する場合を優性遺伝という。完全優性では変異アレルがホモ接合体でもヘテロ接合体でも同様の症状を示す。しかし完全優性は実際の医療においては稀である。多くの優性遺伝疾患では通常はヘテロ接合体よりもホモ接合体の方が症状は重篤になる。ホモ接合がヘテロ接合体より重篤になる場合を不完全優性という。常染色体優性遺伝疾患の罹患率は少なくとも特定の地域では高い。ヨーロッパ系集団もしくは日本人集団では家族性高コレステロール血症が500人に1人であり、北ヨーロッパ系の集団ではハンチントン病、神経線維腫症、多発性嚢胞腎が2500人から3000人に1人である。常染色体優性遺伝疾患は子に遺伝するという点が大きな特徴である。また医学的重要性をもつ多くの優性遺伝の多くは、親から変異アレルを受け継ぐことで罹患するのみではなく、変異アレルを持たない親からも自然発生の新生突然変異が生じることで罹患する。常染色体優性遺伝の特徴を下記にまとめる。浸透率(ある遺伝子が何らかの表現型を発現する確率)の低下や表現型が軽度で気づかれていない場合などもあり、家系図が常染色体優性遺伝らしかぬように見えることもある。ポリグルタミン病の多くは常染色体優性遺伝である。
男性はX染色体は1本しか持たないが、女性は2本持つ。男性は野生型アレルのヘミ接合か、変異型アレルのヘミ結合の2つの可能性がある。女性は野生型アレルのホモ結合、変異型アレルのホモ結合、野生型アレルと変異型アレルのヘテロ結合の3つの可能性がある。正常な女性の体細胞ではどちらか1本のX染色体が不活化されるため、男性でも女性でもX連鎖遺伝子の発現は同等である。このX遺伝子の不活化のため、X連鎖遺伝疾患の女性ヘテロ体では組織ごとに異常アレルが発現される細胞の割合が異なり、臨床症状が異なる場合がある。X連鎖性遺伝の優性と劣性は遺伝形式は、ヘテロ接合体の女性の表現型に基いて区別される。ヘテロ接合体の女性が表現型を示せば優性であり、示さなければ劣性である。しかしX染色体の不活化によって表現型を示さないこともあり、優性、劣性という表現を用いない方がよいという意見もある。
よく知られたX連鎖疾患の40%近くは、女性ヘテロ接合体のほとんどが発症しない(浸透率数%未満)ため劣性と分類される。30%は女性ヘテロ接合体の大多数(>85%)が発症するため優性と分類される。残り30%はいくらか(15 - 85%)の女性ヘテロ接合体で発症するため優性、劣性のいずれにも分類できない。このような実情であるが、慣習上X連鎖性疾患でも優性、劣性という分類が使われ続けている。
X連鎖劣性遺伝の表現型の遺伝は特徴的である。X連鎖劣性の変異は典型的には、変異を受け継いだすべての男性に症状が出現するが、女性ではホモ接合体を受け継いだ場合のみ症状が出現する。そのためX連鎖劣性遺伝疾患は男性に限定され、女性で認められることは稀になる。ただしホモ接合体の女性、不均等なX遺伝子の不活化により症状を発現するヘテロ接合体の女性で、症状が認められることがある。歴史的にはヴィクトリア女王の子孫に認められた王家の血友病である血友病Aや血友病Bが重要である。神経内科ではデュシェンヌ型筋ジストロフィーが有名である。呼吸管理の進歩やステロイド治療で近年は平均寿命が延長したが、かつてはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの男性は20歳以前に死亡し、生殖不可能であった。女性の保因者しか生殖は不可能であった。それにもかかわらずこの疾患が一定の割合で推移したのは、罹患男性が生殖できないことで失われた変異アレルが、新生突然変異で絶えず置き換えられてきたためと考えられている。以下にX連鎖性劣性遺伝の特徴をまとめる。
X連鎖性優性遺伝は男性から男性の伝達を認めないため、常染色体優性遺伝と区別できる。完全浸透のX連鎖優性の家系では罹患男性のすべての娘が罹患し、すべての息子が罹患しないのが特徴となる。女性を介しての遺伝形式は、常染色体優性遺伝と違いはない。ほとんどのX連鎖性優性遺伝疾患は不完全優性であり、罹患女性のほとんどがヘテロ接合体で症状は軽度である。X連鎖性優性遺伝を示す疾患は稀であり、ビタミンD抵抗性くる病(X連鎖低リン血症性くる病)、アルポート症候群の一部、レット症候群の一部などが分類される。X連鎖性優性遺伝の特徴を以下にまとめる。
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多因子遺伝はほとんどの疾患の原因に関与している。多因子遺伝は単一遺伝子疾患で認められる特徴的な遺伝形式を示さなくとも、罹患者の血縁者における再発率が高いことや一卵性双生児において同じ疾患に罹患する頻度や高いことにより示される。多因子遺伝疾患にはヒルシュスプルング病、口唇口蓋裂、あるいは先天性心疾患などの先天性奇形の他、アルツハイマー型認知症、糖尿病、高血圧などの成人になってから発症する多くの疾患が含まれ、「よくある病気」(コモンディジーズ)[4]とも呼ばれる。
これらは環境因子と遺伝因子の両方から影響を受けて発症するため、「遺伝子が中に弾を込め、環境は引き金を引く」[5]と言われている。多くの場合、予防的な生活をすれば発症を抑制することができるが、一部のがんといった疾患の中には遺伝因子の特に強いものが存在する。例として、BRCA1遺伝子によりおよそ80%の確率で発症する乳がん、同じくおよそ50%の確率で発症する卵巣がんが挙げられる[6]。
遺伝子疾患の分類法には、ここで行う、発現する疾患の性格から分類するやり方のほか、「種類」の項で示されたように遺伝子異常のパターンから分類するやり方もある。
先天性代謝異常症は、人体にとって重要な役割を果たす酵素の量あるいは質の異常によって発生する。酵素の異常から原因遺伝子が判明することよりも、ある症候群の患者に共通する遺伝子異常から、酵素が発見されて病態が解明されるケースがむしろ多い。
遺伝子異常によりホルモンの異常分泌、または欠損を来し、内分泌疾患として発現する場合がある。
原発性免疫不全症候群(げんぱつせいめんえきふぜんしょうこうぐん)とは、免疫担当細胞の機能異常や抗体・補体など免疫にかかわる生体物質の質あるいは量の異常のため、易感染性(感染症にかかりやすいこと)を示す疾患。別名、先天性免疫不全症。いくつかの原発性免疫不全症候群では、責任遺伝子が明らかになっている。詳しくは原発性免疫不全症候群の内部リンクを参照のこと。
このほか、いくつかの重症複合型免疫不全症も、責任遺伝子が明らかになっている。
先天性乏毛症
原因は、常染色体8番q12.1にあるCHD7遺伝子の新生突然変異。
病態は、コロボーマ(目の組織の部分欠損)や高度難聴、後鼻孔の閉鎖、嚥下障害、ホルモンの異常、発達の遅れなど頭頚部を始め全身多岐にわたる。種類や程度は個体により様々。外見の特徴としては、折り重なったような耳介など。
かつてCHARGE Assosiation(チャージ連合;チャージれんごう)と呼ばれていたものと同一。責任遺伝子の解明等で近年症候群と呼ばれるようになった。
生命予後はよく、ゆっくりだが発達を続ける。
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