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光を照射することにより触媒作用を示す物質の総称 ウィキペディアから
光触媒(ひかりしょくばい、英: photocatalyst)は、光を照射することにより触媒作用を示す物質の総称である。また、光触媒作用は光化学反応の一種と定義される。
通常の触媒プロセスでは困難な化学反応を常温で引き起こしたり、また化学物質の自由エネルギーを増加させる反応を起こす場合がある。天然の光触媒反応として光合成が挙げられるが、人工の化学物質を指すことが多い。英語で光触媒の作用は photocatalysis と呼ばれる。
大谷文章は『光を照射したときに起こる反応において,光を吸収する物質が反応前後で変化しない場合』を広義の光触媒反応と定義している[1]。
歴史的に日本で光触媒という用語が最初に用いられたのは飯盛里安のフェリシアン化カリウムの光反応に関する二つの論文(1915年)である[2][3]。二つ目の論文で述べられている反応機構は広義の光触媒反応に相当する。
光触媒効果について述べられた最初期の記述は1911年に遡る。ドイツの化学者アレクサンダー・アイブナー(ドイツ語: Alexander Eibner)博士が、酸化亜鉛 (ZnO) に照光すると濃青色の色素プロイセン・ブルー (Prussian blue) の漂白が起こる現象についての研究において、光触媒の概念を用いた[4][5]。同年にBruner and Kozakはウラニル塩の存在下で光を照射すると起こるシュウ酸の劣化について議論した論文を発表した[5][6]。1913年には、Landauは光触媒現象を説明する論文を発表した。この理論は光化学反応における光量子束を決定する基礎となる感光計測法の開発につながった。[5][7]。1921年には、Baly et. al は可視光線の下で水酸化鉄とコロイド状ウランを触媒とするホルムアルデヒドの生成についての論文を発表した[5][8]。1938年になって、Doodeve and Kitchenerが安定性が高く毒性のない酸化物TiO2が、酸素の存在下で染料を漂白するための光増感剤として働くことを発見した。これは、TiO2によって吸収された紫外線がその表面で活性酸素種の生成を導き、光酸化を通じて有機化学的なしみを生じる現象である。これは不均一系光触媒(反応物と触媒の相が異なる)の根源的な性質が観察された最初の事例である[5][9]。
その後25年以上、実用性のある応用が見つからなかったことから、研究者の関心は薄れ光触媒の研究は停滞した。1964年になって、V.N. FilimonovはZnOおよびTiO2からのイソプロパノールの光酸化に関して研究成果を発表した[5][10]。また同時期に、Kato and Mashio (1964)、Doerffler and Hauffe (1964)、そしてIkekawa et al. (1965) は、ZnO発光からの二酸化炭素と有機溶媒の酸化/光酸化の研究成果を発表した[5][11][12][13]。1970年、Formenti et. alおよびTanaka and Blyholdeは、様々なアルケンの酸化と亜酸化窒素 (N2O) の光触媒による腐食を観察した[5][14][15]。
1972年、本多健一と藤嶋昭は酸化チタンTiO2と白金の電極の間で水の電気化学的光分解が発生していることを発見した。この現象では、紫外線が電極に吸収され白金電極(陰極:酸化側)から酸化チタン電極(陽極:還元側)へ電子が流れ、水素の生成が陽極で発生する。これは、有用な物質である水素を効率的に生成することができるため、大きな成果となった。この研究結果は、さらなる光触媒の発展を促した。1977年、Nozikは電気化学的光分解の過程で貴金属(白金や金など)を組み込むと感光性が増大し、外部は必要としないことを発見した[5][16]。さらに、Wagner and Somorjai (1980)およびSakata and Kawai (1981) はチタン酸ストロンチウム (SrTiO3) の表面で光生産を通じて水素の生成が起こること、そしてTiO2とPtO2の照光からエタノール中で水素とメタンの生成が起こることを発見した[5][17][18]。
代表的な光触媒活性物質として、酸化チタンが知られている。現在、実用化されている光触媒はこれと酸化タングステン[19]だけである。
酸化チタン光触媒は紫外光を吸収したとき、大きく分けて2つの機能を発現する。
酸化チタンに似た電子構造[注 3]を持つ物質が他にも数多く存在するなかで、なぜ酸化チタンに顕著な光触媒活性が見られるかは未知の部分が多く、この解明に向けて多くの研究が行われている。特に表面活性種としてのスーパーオキシドアニオン・ヒドロキシルラジカルの関与、表面酸素欠陥の役割などが議論されている。しかし、いずれも断片的な実験事実からの推測の域を得ず、いまだに統一的なシナリオは描かれていない。超親水作用についても、酸化チタンの酸化作用によって表面に吸着した疎水性有機物が分解された影響なのか、それとも酸化チタン表面自体に何らかの化学変化が起こっているのか、研究者の見解は分かれたままである。
特に純粋な酸化チタンは無色透明な粉末であり、ルチル型二酸化チタンの場合吸収する光の波長のピークは380 nm以下の紫外領域にある。そのため太陽光や白熱灯・蛍光灯など通常の生活空間における光源では、そのごく一部しか光触媒反応に寄与していない。しかしこれは酸化チタンが可視光を吸収するようにすれば[注 4]、飛躍的に性能向上が期待できることも意味している。可視光応答化の技法の代表的なものは、少量の不純物を加えるもので、ドープ(ドーピング)と呼ばれる。さまざまな物質がこれまでにドープされている。その中には可視光での光触媒活性を持つものも報告されている。しかし同じ物質のドーピングでも生成手法によって特性が大きく変化するなど、その機構は不明な点が多い。
藤嶋昭は大学院生の頃、コピー機用の新たな感光材料の基礎研究を行っていた。硫酸ナトリウム(Na2SO4)水溶液中で酸化亜鉛(ZnO)や硫化カドミウム(CdS)などの酸化物半導体や硫化物半導体を一方の電極とし、もう一方を白金電極とした回路を作製し、そこに光を当てると電流が流れる現象が知られていた。この現象は酸化亜鉛が溶解することで電流が流れるのだろうと予測されていた。他の酸化物半導体ではどうだろうかと考えていた時に、偶然入手できた酸化チタンの単結晶を一方の電極とし、もう一方を白金としてキセノンランプの光を当てる実験を試みた。すると両方の電極から泡が生じており、酸化チタンからは酸素が、白金からは水素が出ていた。その後数日光を当て続けても酸化チタンは一向に溶解していないことが判明し、このときはじめて光によって水を酸素と水素に分解出来ていることが判った[20]。
この実験を元に、1972年(昭和47年)、東京大学の本多健一と藤嶋昭は、酸化チタンを用いた水の光分解に関する論文をネイチャー誌に発表した[21]。これは粉末状の酸化チタンを水中に入れ、光[注 5]を当てると、水素と酸素に分解され、それぞれの気泡が発生するというものだった。この現象は、発見者の名前を取って「本多-藤嶋効果」と呼ばれる。
光触媒機能を外面に付加した(光超親水化機能)極めて汚れにくいセルフクリーニングガラス。降雨への暴露や外(そと)水道などを用いた散水を行うと、ただちにワイパーをかけるだけで洗剤を使うことなく、ガラス表面の汚れを簡単に落とすことができる。水が全面に行きわたり、散水後に水滴を残しにくいので、窓ガラスの塩害に悩む海辺の建物の窓にも向く。散水だけで洗剤を必要としないので環境にも優しい。水の接触角がほぼ0°の時に散水すると虹色現象が観測できる。光触媒のガラスシーリング剤やサッシビードには親水性を阻害しないウレタンゴムを推奨する。光触媒の膜厚を調整することで光分解活性や光超親水化作用を適宜調整することができる。光分解活性が高い設定では、散水だけで汚れが落ちる場合がある。[22]反応の起動力は太陽からの紫外線なので現象を確認するには晴天時に時間を置くなど、ガラス表面の積算紫外線照射量に配慮する必要がある。
エアコンのフィルターに光触媒をつけて光を照射することにより自動的にフィルターのほこりの汚れを落とす製品が開発されている。
2019年7月4日、消費者庁は、光触媒を利用して花粉の除去や分解する機能を謳うマスクを製造していた製薬会社など4社に対し、根拠がなく不当景品類及び不当表示防止法に違として再発防止措置や対策を講じるよう措置命令を出した[23]。これに対し、同年10月1日、大正製薬は処分を不服として消費者庁に審査請求を行っている[24]。
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