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中期朝鮮語(ちゅうきちょうせんご)は、朝鮮語の時代区分において、おおよそ15世紀中葉から16世紀末までの朝鮮語を指す。ハングルが開発されて朝鮮語の全体像を詳しく研究できるようになった時期であり、またそれ以前の古代朝鮮語やそれ以降の近世朝鮮語を研究する上でも不可欠であるので、中期朝鮮語は朝鮮語史において重要である。
朝鮮語の時代区分についてはいくつかの見解があるが、日本においては河野六郎による以下の区分が広く用いられている。
また、韓国においては李基文による以下の区分が一般的である。
なお、韓国においては近年「近代国語」の研究が進むにつれてこれを細分化する傾向にあり、18世紀中葉を境にして「前期近代国語」と「後期近代国語」に分けることがしばしば行われる。
河野六郎の「中期朝鮮語」と李基文の「後期中世国語」の時代区分はほぼ一致しているが、河野は訓民正音(諺文)創製をもって中期朝鮮語の始めとしている。これは訓民正音の創製によって初めて朝鮮語が明示的に示されたことを受けている。
中期朝鮮語の子音体系は、おおよそ以下のようなものであったと考えられる(以下の表では、ハングル、福井玲方式によるハングルの翻字、音声記号の順に示す)。
中期朝鮮語の子音の特徴を挙げると、以下の通りである。
中期朝鮮語では、音節初頭に複合子音が立ちえた。複合子音はㅅ系複合子音ㅺㅻㅼㅽとㅂ系複合子音ㅳㅄㅶㅷㅴㅵの2系列がある。ただし、これらのうちㅻを除くㅅ系複合子音と、ㅂ系複合子音のうちㅴㅵの2つについては、ㅅが表記通りに[s]を表したとする説と、ㅅが濃音を表したとする説があり、いまだ決着していない。
中期朝鮮語において終声に立ちうる子音はㄱㆁㄷㄴㄹㅂㅁㅅの8つである。現代朝鮮語とは異なり、ㅅが終声として独自の音価を有していたのが特徴である。ただし、この終声ㅅの音価については、ㅅが表記通りに[s]を表したとする説と、濃音に類する音であったとする説があり、いまだ決着していない。
中期朝鮮語の母音体系は、おおよそ以下のようなものであったと考えられる。
陽母音 | ㅏ a [a] | ㅗ o [o] | ㆍ @ [ʌ] | ㅣ i [i] |
---|---|---|---|---|
陰母音 | ㅓ e [ə] | ㅜ u [u] | ㅡ y [ɯ] |
母音は陽母音と陰母音の母音調和の対立があり、体言および用言の語形変化の際に母音が交替した。ㅣは中性母音である。
中期朝鮮語には、現代朝鮮語にも存在する上昇二重母音ㅑia[ja]、ㅕie[jə]、ㅛio[jo]、ㅠiu[ju]以外に、下降二重母音があった。ㅐai、ㅔeiは現代朝鮮語ではそれぞれ単母音[ɛ][e]であるが、中期朝鮮語においてはその文字の構成(ㅐはㅏ+ㅣ、ㅔはㅓ+ㅣ)通りに[ai]、[əi]と発音されたと見られる。同様にして、ㅚoi[oi]、ㅟui[ui]、ㆎ@i[ʌi]、ㅢyi[ɯi]が存在した。また、三重母音ㅒiai[jai]、ㅖiei[jəi]、ㆉioi[joi]、ㆌiui[jui]もあった。
中期朝鮮語は日本語に類する高低アクセントの体系を有しており、音の高低によって単語の意味を区別しえた。アクセント核は昇り核であり、アクセント核以前のモーラは音韻論的に低調、アクセント核以降のモーラは音韻論的に高調である。ただし、高調モーラが3つ以上続く場合には、音声的には一定のパターンで低調モーラが現れる(一般に去声不連三や律動規則と呼ばれる)。 音の高低は文献ではハングルの左に点を附することによって表される。この点を傍点と呼ぶ。傍点がないものは平声と呼ばれ低調を表し、傍点が1つあるものは去声と呼ばれ高調を表す。傍点が2つあるものは上声と呼ばれ低高調を表すが、これは低調モーラと高調モーラの複合である(従って上声は1音節2モーラである)。 中期朝鮮語のアクセントは、音韻学の用語を用い「声調」と呼び習わされてきており、韓国の研究者は一般に中期朝鮮語のアクセントと現代朝鮮語の方言におけるアクセントを「声調」と呼ぶ。しかしながら、中期朝鮮語のアクセントと現代朝鮮語の方言におけるアクセントは、モーラ内部で音の上昇や下降を伴わないので、質的には中国語の声調とは異なる。
現代朝鮮語の体言の曲用は、体言に語尾(韓国では主に助詞と、北朝鮮では토と称する)が後接することによって表され、中期朝鮮語においても基本的な様相はこれと同一である。ただし、現代朝鮮語の体言語幹は形態が自動的に交替するのに対し、中期朝鮮語では非自動的な交替(変則曲用)も見られ、現代朝鮮語に比べて、より屈折的である。 自動的交替のうち、現代朝鮮語に見られないものは以下の通りである。
語幹の形態が非自動的に交替する体言は(1)2音節、(2)アクセントがともに平声、(3)語幹末音がㆍ/ㅡ(一部に母音が変化してㅗ/ㅜとなっているものもある)であるという特徴を持つ。この種の体言では、語尾が後接すると語幹末母音ㆍ/ㅡが脱落し、語幹末に子音ㄱ、ㅇ、ㄹが現れる。
曲用語尾について特徴的なものを以下に挙げる。
中期朝鮮語の活用体系は現代朝鮮語と基本的に同一である。違いは語根と語尾の間に挿入される媒介母音-으-が、中期朝鮮語では母音調和に従い-@-/-y-という異形態を取るくらいである。しかしながら、現代朝鮮語には見られない語幹の非自動的交替(変則活用)が見られる。 自動的交替のうち、現代朝鮮語と異なる点は以下の通りである。
非自動的交替は以下のようなものがある。
また、語幹に後接する語尾の音韻変化に以下のようなものがある。
中期朝鮮語は現代朝鮮語とは異なり、時制(テンス)・相(アスペクト)(およびムード)が未分化であり、渾然一体とした体系をなしている。これらは時相接尾辞(韓国では先語末語尾、北朝鮮では토と称する)によって表される。なお、時相接尾辞は後述する敬語の諸接尾辞や語尾などと組み合わさり、終止形において複雑な形を作る。
また、完了を表すものとして、接続形-a/-eに動詞'is-が続いた-a/-e 'is-という形がある。この形は融合して-ais-/-eis-としても現れ、さらにiが脱落した-as-/-es-という形でも現れる。「…している」といった意味を表すが、この形は現代朝鮮語の過去形-았-/-었-につながる形である。この変遷は日本語の過去形「タ」が「テアリ」から発達したのと同様である。
中期朝鮮語の敬語には尊敬・謙譲・丁寧の3種類がある。
現代朝鮮語の疑問形は-습니까、-는가、-느냐など、形態の末音がaであるが、中期朝鮮語では末音がaであるものとoであるものとがあり、両者は文法的な役割を異としていた。すなわち、a系の疑問形は判断疑問文に用いられ、o系の疑問形は疑問詞疑問文に用いられた。例:h@sin@nga(なさるのか)―'esdiei h@sin@ngo(なぜなさるのか)。a系疑問形とo系疑問形の区別は、現代朝鮮語の東南方言に残っている。
用言語幹に-o-/-u-が後接した形は、韓国でしばしば「意図法」と称される。主に終止形において1人称主語とともに用いられ、話し手の主観的な意図などを表す形とされる。ただし、連体形においては人称との関係が希薄であり、むしろ修飾用言と被修飾体言の文法的関係の違いによって-o-/-u-が現れるようであり、このようなことを総合すると「意図法」という名称は必ずしも適切ではないと思われる。
態の転換は接尾辞-gi-、-hi-、-i-によって表される。これらの接尾辞は現代朝鮮語と同様に、態の転換のみならず自動詞の他動詞化や形容詞の動詞化の際にも用いられる。例:'ormgi-(移す)< 'orm-(移る)、japi-(捉えられる)< jab-(捉える)、siei-(立てる)< sie-(立つ)。また、ㄹ語幹に付く態転換接尾辞に-@-/-y-がある。例:sar@-(生かす)< sar-(生きる)。
接続形(連結形)は現代朝鮮語と同じく非常に多様である。以下に中期朝鮮語に特徴的なものをいくつか例示する。
中期朝鮮語の連体形(冠形詞形)は現代朝鮮語と同様にn系とr系の2系列がある。n系・r系ともに「意図法」-o-/-u-を伴いえ、n系連体形はまた時相接尾辞-n@-、-de-、-ge-、-a-/-e-を伴いうる。また、中期朝鮮語の連体形は体言相当語句としても機能することができ、連体形に直接格語尾が付きえた。例:h@sin@ro(したことで)< h@sin+@ro。
名詞形あるいは体言形とも称される動名詞形は-om/-umによって表される。現代朝鮮語と同形の-@m/-ymは用言派生の体言を作り、両者の機能は異なる。また、一部の語彙には-am/-em形も見られるが、これは生産的なものではなく中期朝鮮語の段階ですでに化石化していたものと推測される。例:mudem(墓)< mud-(埋める)。現代朝鮮語において生産的な-giは、中期朝鮮語において散見されはするが生産的ではない。
中期朝鮮語の合成語の特徴としては、用言語根に直接他の語根が付く合成語が広く見られることである。例:'or@n@ri-(昇り降りする)< 'or@-(登る)+ n@ri-(降りる)、birmeg-(物乞いする)< bir-(乞う)+ meg-(食う)。中には用言語根に体言語根が付いた例も見られる。例:bsusdor(砥石)< bsuc-(擦る)+ dor(石)。
造語に関与する接尾辞には、以下のようなものがある。
訓民正音の創製後、ハングルによる書籍が盛んに刊行された。主なジャンルと代表的な文献は以下の通りである。
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