ヤクバター(Yak butter)は、飼育されたヤクから作るバターである。南中央アジアチベット高原牧畜民にとっての食糧、貿易品である。中国、インド、モンゴル、ネパール、チベット等[1]、多くの地域で、ヤクの乳はチーズやバター等の乳製品製造に用いられている。

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ラサ市のストリートマーケットで販売されるヤクバター

ヤクの全乳は、牛乳の約2倍の脂肪を含んでおり、チーズに近い風味のバターができる[2][3]

製造

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博物館で展示されるバターの攪拌機

ヤクは、燃料としての糞、運搬力、肉、繊維、乳等の様々な便益を牧畜民に提供する。全ての牧畜民が伝統的にヤク乳を利用したりバターを作ったりしている訳ではないが、山岳地域では一般的である。ヤクは少量の乳しか生産しないため、大きな群れの場合にのみ、十分な量の乳を得ることができる[1]。夏の方が冬よりも乳の生産が多く、乳からバターやチーズを作るのは、後の利用のためにカロリーを保存する手段となっている[4]

西チベットでは、ヤク乳はまず一晩発酵させられる。夏場には、得られたヨーグルト様の物質を背の高い木製の攪拌機の中で1時間程度撹拌する[4]。冬場には、このヨーグルトを数日間濃縮し、その後膨張したヒツジの胃に注ぎ、バターができるまで振る[4]

新鮮なヤクバターは様々な方法で保存され、空気に晒さず、冷たく乾燥した場所に置けば1年間は保存できる[4]。ヒツジの胃袋に入れたり[4]、ヤクの皮や大きなツツジの葉で包んだりして[2][3]保存される。一度開封すると、ブルーチーズのようなアオカビの筋が生じる[2][3]

利用

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ラサ市のヤクバター市場(1993年)

バター茶はヒマラヤ地域で日常的に食され、ヤクバター、茶、塩、水を泡立つように撹拌して作る。「チベットの国民的飲料」で、寒冷高地に必要な水分と栄養を補給するために、チベット人は1日に小さなカップで60杯分は飲む[5]。痛んだバターが用いられることもあり、その場合は異なった風味になる[2]

溶かしたヤクバターをトーストした大麦粉(ツァンパ)とほぼ等量混ぜ、これにナツメヤシかゴマの種子を混ぜたものは、客に振る舞われる。また保存されたものは、湯に溶かして塩か砂糖を加えて食する[1]

ヤクバターは、皮をなめすのにも用いられる。古く悪臭のするものの方が新鮮なものよりも好まれる[6]

他の非食用用途としては、ランプの燃料[7]や皮膚の保湿[2]、またロサル(チベットの新年)用のバター彫刻等がある[8]。ヤクバター彫刻は、高さが10mに達するものもある[9]

ネパール、特にカトマンズでは、ヤクチーズやヤクバターは工場で生産され、流通、販売されている。1997年から1998年の期間に、ネパールでは26トンのバターが製造、販売された[10]

関連項目

  • バターの一覧

出典

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