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メタン生成経路(-せいせいけいろ)とは、メタン菌の有する代謝系のひとつであり、水素、ギ酸、酢酸などの電子を用いて二酸化炭素をメタンまで還元する系である。メタン菌以外の生物はこの代謝系を持っていない。嫌気環境における有機物分解の最終段階の代謝系であり、特異な酵素および補酵素群を有する。
別名、メタン発酵、炭酸塩呼吸など。
メタン菌は種によっては以下のような基質からメタン生成することが可能である。
etc.
これらの基質がメタン発酵経路を通過することによってエネルギーが得られ、メタン菌は生育する。この中で最も普遍的に存在し、研究が進んでいるのが、水素と二酸化炭素を資化するメタン発酵である。
水素と二酸化炭素を用いたメタン生成の収支式は以下の通りである。
この値は、好気呼吸などに比べるときわめて低く、メタン菌の生息している環境にもよるが、水素分圧の低いところでは、更に効率が落ちると考えられている。この、効率の低い呼吸系からは、基質レベルのリン酸化によるATPの合成は不可能である。
したがって、メタン菌のATP合成機構はメタン生成によるプロトンおよびナトリウムイオンの濃度勾配形成による化学浸透圧によってATP合成酵素で合成されていることが証明されている。なお、メタン生成経路とは無関係だが、メタン菌はAoA1-ATP合成酵素とFoF1-ATP合成酵素の二種類を持っており、A型はプロトン駆動型、F型はナトリウムイオン駆動型であることが判っている。
メタン生成に用いられる6つの補酵素群は、他のいかなる代謝系にも見つかっていない特異なものであり、その多くは1980年代に見つかっている。以下には名称と特徴を述べるにとどまる。
メタン生成は、以下の7種類の反応経路からなる。なお、太字の部分が炭素のキャリアー(二酸化炭素の炭素原子を所持している分子)であることを表す。
この反応系では、1.の反応のみが標準自由エネルギー変化が正であり、エネルギーの投入を必要とするが、そのエネルギーは6.のナトリウムイオン濃度勾配(ΔμNa+)のエネルギーを用いて行なわれる。また、4.の反応だが、F420 を介さず、直接H2を付加する系も種によっては存在し、以下の式で表される。
標準自由エネルギー変化は同じである。
これらの反応を行なう、酵素群の名前は以下の通りである。
また、F420とH2を結合させる反応(4.、5.の反応)はヒドロゲナーゼという水素を活性化できる酵素がになっている。
また、F420に依存しない4.の反応(H2を直接メテニルH4MPTに付加する反応)は以下の酵素がになう。
これらの酵素系や補酵素は、メタノールや酢酸からのメタン生成系に共通するものも存在する。ただし、二酸化炭素を固定してしまう、炭酸固定反応を有するのは水素、二酸化炭素からのメタン生成系のみであり、他のメタン生成系では二酸化炭素を放出する。
メタン生成系の酵素は極めて酸素に弱く、空気に触れるだけで容易に失活する。そのため、酸素を全て除去してしまう嫌気チャンバー内でタンパク質を精製し活性を見るなどの工夫が必要である。アメリカやドイツなどではメタン生成系の酵素の研究は極めて進んでおり、内部を窒素で充満させた、嫌気ルームが存在する施設を有する。
メタン生成系の反応の中で、メタン生成に直接関わるメチルH4MPT:SH-CoMメチルトランスフェラーゼは、特に重要な酵素として最も研究が進んでおり、サブユニット組成から活性型を得る方法にわたって明らかになっている。また、メタン生成系の酵素として二番目にその立体構造が明らかになっている。アミノ酸立体構造をてがけとして、その反応機構のモデリングもなされている。
メタン生成系はエネルギー問題が訪れることが予想されるであろう昨今、古細菌研究の中では最も重要視されていると考えられる。事実、アメリカやドイツでは相当の設備と論文が発表されている。日本では、メタン菌研究は後れを取っているといわざるを得ない(他の古細菌研究については、欧米と比べても進んでいるといって良い)。水田環境などでは相当量のメタンが発生していると言われ、地球温暖化への影響が叫ばれているが、こうした事実からも、これから日本でのメタン生成系に関する研究は進んでいくと思われる。
炭酸固定を通じて、利用しやすいエネルギー源に変化させるメタン発酵は非常に魅力ある反応系であるが、個々の酵素の触媒機構などについて詳細に調べられた研究は無いといってよい。これは嫌気環境で実験を進めなければならないという、実験の困難さが影響しているものと思われる。
近年、メタン菌Methanosarcina属で機能するプラスミドおよび形質転換法が確立され、分子生物学的応用が可能になっている。これらの実験技術の向上などから、メタン生成に関する研究は進行していくことが予想される。
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