写本には王侯を含む各宮廷詩人を描いた137枚の細密画が含まれ、貴族・騎士の場合は馬上槍試合(トーナメント)に参加した際の紋章をあしらった完全武装(従って顔は見えない)の姿で描かれていることが多い。詩人の名前をモチーフとしたり、その詩のイメージで描かれている図案も少なくない。両方のモチーフを含む顕著な例がヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデの細密画で、画面の上方、楯の表面と兜飾りに詩人の名前フォーゲルヴァイデ(鳥の餌場)にちなむ鳥籠(とりかご)があしらわれ、画面中央には、彼の最も有名な格言詩の冒頭部分そのままの詩人の姿が描かれている[3]。これらの挿絵は、美術史の観点からも、「ドイツ・ミンネゼンガーの宝物殿」(Schatzkammer des deutschen Minnesängers)との讃辞をうけ、ゴチック世俗絵画の最重要作品とされている。全137点の挿画の大部分(110点)は一人の画家の手になり、残りの27点が3人の画家の手によって制作された[4]。
写本成立後200年間、その存在場所を示すものは知られていないが、1594年にハイデルベルクの選帝侯の宮廷顧問官 (Hofrat des Kurfürsten von Heidelberg) Johann Philipp von Hohensaxが城主となっていたスイス・ライン渓谷のForstegg城にそれは現れる。Johann Philippが戦死すると、ネーデルランドの男爵家出身の妻は写本をザンクトガレンの法学者Bartholomäus Schobinger に委ねた。彼は博学のMelchior Goldastとともに、その一部を書き写した。1607年にはハイデルベルクの選帝侯家の所有するところになり、その後1657年パリに移管され、フランス王立図書館(現在のフランス国立図書館)に保管されていた。1831年ドイツから亡命しパリに到着したハインリヒ・ハイネが真っ先に訪れた先は王立図書館であるが、それは「何年も前からの念願」である「ドイツ最大の抒情詩人ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデの詩」を見るためだった[7]。1690年にデンマーク人Frederik Rostgaardが写本の全部を書き写した。その後Johann Jakob Bodmer とJohann Jakob Breitingerがこの写本とRüdiger Manesseを結び付け、この写本を「マネッセ写本」と称した。
19世紀に入ると、これをドイツに取り戻そうとする、または買い戻そうとする交渉が幾度となく試みられたが、いずれも失敗に終わった。1888年に、ハイデルベルク出身の書店主が、フランス国立図書館の探し求めていた写本166編を国費の援助をえてイギリスから購入し、これらとの交換の交渉に成功した。以来この写本はハイデルベルク大学図書館に収蔵され、 "Codex Palatinus Germanicus 848 "(Cpg 848)という番号をつけられている (ミンネザングの写本としては Hs. C)[8]。onlineでは、 http://www.handschriftencensus.de/4957.やhttps://digi.ub.uni-heidelberg.de/diglit/cpg848で見ることができる[9]。
なお、同図書館は'小ハイデルベルク歌謡写本' (Die Kleine Heidelberger Liederhandschrift; Hs. A) をも所蔵している。後者は前者よりも古く、1270-1280年頃の制作とされる。両写本成立の間に完成したのがシュトゥットガルト州立図書館蔵の『ヴァインガルテン写本(英語版)』(Die Weingartner Liederhandschrift; Hs. B)であり、古い写本から順にHs. A, Hs. B, Hs. Cと略号が付されている。
リューディガー・マネッセ(Rüdiger Manesse;1252年に成人、1304年死去)は有力なチューリヒ市参事会員。息子のヨハネス(Johannes Manesse;1297年死去)も重要な地位にあった。ハートラウプの詩は、Claudia Brinker-von der Heyde: Die literarische Welt des Mittelalters. Darmstadt: Wissenschaftliche Buchgesellschaft 2007. S. 91.によるが、ここでは大意を記した。なお、高津春久編訳『ミンネザング(ドイツ中世叙情詩集)』郁文堂1978. 350頁上には、ヨハネス・ハートラウプはリューディガー・マネッセの書庫に「博物館の資料のように整然と過去の歌謡資料がたくわえられているのを」見た、と記されている。
立川希代子「「橋」としてのハイネ」〔内田イレーネ・神谷裕子・神田和恵・立川希代子・山田やす子『異文化理解の諸相』近代文芸社2007 (ISBN 978-4-7733-7452-0) 所収 125-185頁の中、178頁。- Gedichte fürs Gedächtnis zum Inwendig-Lernen und Auswendig-Sagen. Ausgewählt und kommentiert von Ulla Hahn. Mit einem Nachwort von Klaus von Dohnanyi. Stuttgart: Deutsche Verlags-Anstalt 1999, 15. Auflage 2005. ISBN 3-421-05147-X. S. 38; "Der erste Weg, den Heine in Paris einschlägt, gilt [...] der Königlichen Bibliothek, in der er das Original der 'Manessischen Liederhandschrift' aus dem Mittelalter besichtigt" (Josef Rattner: Heinrich Heine oder ein Sänger der Freiheit, in: Gerhard Danzer [Hg.]: Dichtung ist ein Akt der Revolte. Literaturpsychologische Essays über Heine, Ibsen, Shaw, Brecht Und Camus. Würzburg: Königshausen & Neumann 1996, S.30)。
de: Peter Wapnewski: Das schönste Buch der Welt. Zur Faksimile-Ausgabe des Manesse-Codex durch den Insel-Verlag. In: Frankfurter Allgemeine Zeitung. Samstag, 21. Dezember 1974 / Nummer 296
国松孝二「Codex Manesse素描」(クロノス 1974. 再録:同著『浮塵抄』同学社1988. ISBN4-8102-0078-7 C 1098, 220-225頁)
ヴェルナー・ホフマン・石井道子・岸谷敞子・柳井尚子訳著『ミンネザング(ドイツ中世恋愛抒情詩撰集)』大学書林 2001. ISBN4-475-00919-7. C 0084.
Claudia Brinker-von der Heyde: Die literarische Welt des Mittelalters. Darmstadt: Wissenschaftliche Buchgesellschaft 2007. S. 81-94.
Manessische Liederhandschrift. Vierzig Miniaturen und Gedichte. Vorwort: Wieland Schmidt; Textedition, Übertragung, Nachbemerkung und biographische Anmerkungen: Joachim Kuolt. Edition Stuttgart im VS Verlagshaus Stuttgart GmbH 1985
G. Kornrumpf: Liederbücher, Liederhandschriften. In: Lexikon des Mittelalters. Bd. V. München/Zürich: Artemis & Winkler 1991 (ISBN3-8508-8905-X), Sp. 1971-1974
R. Gamper: Manesse, Familie. In: Lexikon des Mittelalters. Bd. VI. München/Zürich: Artemis & Winkler 1992-1993, Sp. 190-191
P. Schmitt: Hadlaub, Johannes. In: Lexikon des Mittelalters. Bd. IV. München/Zürich: Artemis & Winkler 1989 (ISBN3-7608-8904-2), Sp. 1821