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巻貝の一種 ウィキペディアから
ヘナタリ(甲香)、学名 Pirenella nipponica Ozawa & Reid in Reid & Ozawa, 2016[1]は、キバウミニナ科に分類される巻貝の一種。東アジアの暖海域の砂泥干潟に生息する塔形の貝である。類似種とともにいわゆる「ウミニナ類」に含まれることが多い。和名末尾に「貝」をつけ、ヘナタリガイと呼ばれることもある。従来本種の学名とされきた "C." cingulata は日本に分布しない別種。
ヘナタリ | ||||||||||||||||||||||||
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左ヘナタリ・右カワアイ。成貝は殻口の形で区別できる | ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Pirenella nipponica Ozawa & Reid in Reid & Ozawa, 2016[1] |
かつてはインド西太平洋の温帯から熱帯域にかけての広い範囲に分布する全てがヘナタリ "C." cingulata という同一種だと考えられていたが、分子系統解析により、それらには外見が酷似した複数の種が含まれていることが判明した[1][2]。それら”旧ヘナタリ”のうち、日本には本州以南に分布するヘナタリの他に、ヤエヤマヘナタリ Pirenella asiatica とスエヒロヘナタリ Pirenella microptera の2種が八重山群島に分布する。
本項はそのうちの一種ヘナタリについて説明する。
成貝の貝殻は殻高32.6mmほどになり、塔形・堅質である。巻きの各層は膨らまず、全体の形は円錐形に近い。各層には3本の螺肋(巻きに沿って走るレール状の凸帯)と、螺肋を区切る黒っぽい螺溝が走る。特に一番上の螺肋は強く、その下にある一番目の螺溝も深くなり、それより下の2本の螺溝よりも強く明瞭になるのが本種の特徴とされる。なお3本の螺肋の最下部には4本目の螺肋の一部が縫合(巻きの繋ぎ目)の上に僅かにはみ出して見えることもあるが、これは本数には数えない。上層部には強い縦肋もあり、螺肋と交わってタイル状や顆粒状になるが、これらの彫刻は下層部では弱まる。成貝では殻口がラッパ状に外反し、水管が背中側に曲がり、殻口の左側面には縦の盛り上がりができる。殻の色は黄白色から橙色だが、黒褐色のものもいる[3][1]。
日本産”ウミニナ類”の中では、殻に膨らみがなく円錐形に近いこと・黄色っぽく横しま模様が強いこと・殻口が独特の形になることで区別できる。ただし若い個体で黒みが強いものはカワアイとの区別がつけにくい場合がある。
河口など汽水域の干潟に群れをなして生息し、干潟を好む生物群落の構成種となる。本種は淡水の影響がやや強く、澪筋や水たまりのある砂質か砂泥質の区域を好む。転石帯・岩礁地や、乾燥するほど高所の砂地には出現しない。本種より低所にカワアイ・ヤマトオサガニ・ヒメヤマトオサガニ、同所的にチゴガニ・アシハラガニ、高所にハクセンシオマネキ・ウミニナ・フトヘナタリなどが観察される。
干潮時に干潟を這いデトリタスを摂食する。摂餌後は砂泥上でじっとしているが、満潮時には砂泥の中に潜る。産卵期は夏で、泥地に紐状卵塊を産みつける。子供は幼生で孵化し、しばらく海中でプランクトン生活を送る。
ヘナタリ類は21世紀初頭まではフトヘナタリ属 Cerithidea Swainson, 1840内のヘナタリ亜属 Cerithidea (Cerithideopsilla) として扱われて来た。しかしその後の分子系統解析により、亜属から独立のヘナタリ属 Cerithideopsilla Thiele, 1929に昇格されるとともに、他のヘナタリ類と外見や分布域がやや異なることから別属として扱われていたセイヨウヘナタリ Pirenella conica (地中海東部からインド洋西部に分布)も同属に分類すべきことが判明した[4]。更にこのセイヨウヘナタリをタイプとする属名 Pirenella J.E. Gray, 1847の記載年が、1929年に記載されたヘナタリ属 Cerithideopsilla よりも早いため、国際動物命名規約の先取権のルール(早い者勝ち)に従ってヘナタリ類の属名は全て Pirenella に改められることになった[1]。
20世紀までは殻の外見のみによる種の分類がなされていたが、21世紀になって分子系統解析が行われた結果、この属には外見での識別が難しい隠蔽種が複数含まれていることが明らかとなり[2]、種名の整理と名前のない種についての新種記載がなされるなどして、2016年時点での本属の分類は下記のとおりになっている[1]。このうち日本には5種が分布するとされ、古くから干潟の貝として知られてきたヘナタリやカワアイなども含む4種が2016年に改めて新種として記載された。
和名の由来は不明だが、日本ではかつて本種の角質の蓋をいぶして香に利用しており、漢字表記も「甲香」が充てられる。「へなたり」の名は鎌倉期の随筆『徒然草』第34段にも登場している。
人や地域によっては他のウミニナ類と同様に漁獲され、塩茹でなどで食用にされる。なお本種は異形吸虫 Heterophyes heterophyes の第1中間宿主として報告されている。ヘナタリの体内で成長したものが第2中間宿主のボラ・メナダ・ハゼ類などの汽水魚に入り、魚を生食したヒトの腸に寄生する。
河口域の砂泥干潟を生息地としているが、埋立・干拓・浚渫などで生息地が減少している。
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