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ピコプランクトン(picoplankton)とは、細胞径が0.2-2 μmのプランクトンである。水圏生態系においては体サイズが生態学的地位を規定する重要な要素であるため、このような区分がなされる。この場合の“ピコ”は、先んじて用いられていた用語であるナノプランクトン(細胞径2-20 μm)よりも小さいプランクトンという意味合いで用いられており、国際単位系のもの(10-12)とは直接関係がない。ピコプランクトンは酸素発生型光合成を行う植物プランクトン(藻類)、すなわちピコ植物プランクトン(picophytoplankton)と、それ以外の栄養形式の細菌類に分けられる。この項においては海洋生態系において特徴的な前者に重点を置いて解説する。
この大きさの生物は、旧来のプランクトン採集の道具であるプランクトンネットでは採集されないため、長らく無視されてきた。1980年代以降急速に研究が進み、外洋域を中心に一次生産に多大に寄与することがわかってきた。
ピコプランクトンはその小ささゆえに、光学顕微鏡観察のような旧来の方法では研究を進めるのが困難であった。以下のような、より洗練された手法が必要となる。
海洋におけるピコプランクトンは現在のところシネココッカス(Synechococcus)、プロクロロコッカス(Prochlorococcus)、ピコ真核プランクトン、従属栄養性細菌の4群に大別される。また、近年古細菌(アーキア)についての報告も増えている。
また、海水などの環境サンプルから直接DNAを抽出し、系統解析を行う手法(メタゲノム解析)により、培養が困難な真核ピコプランクトンの存在が認識されるようになった。この場合の分子種としては、真核生物特異的である18S rRNA配列がよく用いられる。これにより、未知のピコプランクトンを系統樹上にマッピングする事が可能となった。このような手法は、1990年代以降にバクテリアに対して用いられてきたものであり、真核生物に応用されるようになったのはほんの10年ほど前の事である。明らかにされたピコ真核プランクトンの多様性は、未だその全体像の一端に過ぎない。
それぞれのピコプランクトンは、海洋環境中で独自の生態的地位を占める。
1980年代頃までは、海洋におけるピコプランクトンの増殖速度は非常に低い(1週間から1ヶ月に1分裂)と見積もられていた。これは外洋のバイオマスが安定であるという事実に基づいていたが、後にこの仮説は否定され、ピコプランクトンの動態は従来考えられていたものよりも非常にダイナミックである事が明らかとなった。体長数μmの小さな捕食者が、増殖するピコプランクトンを増えた傍から摂食していくのである(→ 微生物環)。この洗練された捕食者-被食者の関係が、ピコプランクトンの生物量をほぼ一定に保っている。しかしながらこの生産と消費の関係は、そのターンオーバーを測定する事が非常に困難であった。1988年、アメリカの研究者である Carpenter と Chang が、DNAの複製過程に着目してプランクトンの増殖速度を見積もる方法を提唱した。これはフローサイトメーターを用い、細胞中のDNA量の変化を追跡するものである。これにより、ピコプランクトンの分裂は一日一回ほどであり、しかも高度に同期している事が明らかとなった。
2000年代以降、生物の全ゲノムを網羅的に解析する研究計画、いわゆるゲノムプロジェクトが世界各国で進められてきた。全ゲノム配列を明らかにする事によって、生物の全代謝系や、あるいは生物がその環境にどのように適応しているのか、といった事象を包括的に理解する事も可能となりつつある。現在までに、数種類の Prochlorococcus や Synechococcus、それに一種類の Ostreococcus の全ゲノムが決定されている。他にも幾つかのシアノバクテリアや真核のピコプランクトン(Bathycoccus、Micromonas)のゲノムプロジェクトが進行中である。
属 | 株番号 | プロジェクトの主体 |
---|---|---|
Prochlorococcus | MED4 | JGI |
SS120 | Genoscope | |
MIT9312 | JGI | |
MIT9313 | JGI | |
NATL2A | JGI | |
CC9605 | JGI | |
CC9901 | JGI | |
Synechococcus | WH8102 | JGI |
WH7803 | Genoscope | |
RCC307 | Genoscope | |
CC9311 | TIGR | |
Ostreococcus | OTTH95 | Genoscope |
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